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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
121/125

修学旅行19日目 午後0時29分

 午後0時29分……


「やっと見えて来たぞ!!」


 時間を掛けて由弘達は遠回りして、デパートへと戻って来た。

 感染者を避けながら、非常階段へと到着して雅宗の元へと戻った。


「戻ったぞ!!」

「蒼一郎!?お前ら!」


 雅宗がいち早く気づいたが、幸久はそれよりも早く三人の元に駆けた。

 だが、三人の焦りの表情に戸惑いを隠さなかった。


「大丈夫か!」

「ガチで死ぬかと思ったぜ!もう勘弁してくれってんだよ!」

「何があったんだよ!?」

「銃や爆撃やら、もう散々な目にあったんだよ!」


 息切れの蒼一郎の説明を聞き、向こうで何が起きたか教えてもらった。


「変な奴らに銃撃され、爆弾ぶっ込まれて死ぬかと思ったんだぜ!」

「そいつらは自衛隊の格好していたか?」

「あぁ、自衛隊の格好していたさ。それも大勢さ。でも、自衛隊じゃないねありゃあ。無法者だよ!」


 やはり蒼一郎達も自衛隊の格好をした奴らに襲われた。

 彼らはこの付近一帯を何かを捜索しているのか?と話を聞いた幸久は思った。

 それにしても敵は銃に手榴弾。大勢の敵。

 幸久の苦い顔に蒼一郎は逆に聞き返した。


「お前達も襲われたって事か?」

「あぁ、雅宗が敵と取っ組み合いになっていたさ。俺も小学校で敵のリーダーを間近で見た。奴らの本丸は東にある小学校だ」

「おいおい、こんな所で人間同士の戦争は勘弁だぜ」

「知能はない痛覚のない感染者か、痛覚はあるが知能がある人間か。どっちもいやだがね」

「一致団結はする気はないのかね」


 ※


 屋上の外では雅宗が双眼鏡で一人蒼一郎らが戻ってきた方向を見ていた。


「あっちもこっちも感染者に危険集団に嫌になるよ」

「生きてるだけでも喜ばないとね雅宗」


 雅宗が後ろを振り向くと、そこには心配そうに見つめる真沙美の姿があった。


「真沙美……」

「ずっと険しい顔しているしているから心配になってね」

「こんな状況だ。険しくもなるさ」

「幸久も由弘も先生達もずっと怖い顔で、私も気が休まらないと言うか……」


 真沙美の言う通り、ここ最近気があまり休まってない気がすると雅宗は感じた。

 食料問題、救助ヘリの来る回数が徐々に減っている事、銃撃の件など多くのことが積み重なっており、自分自身でも見ず知らずに焦りが出始めている。


「……そうかもしれないな。幸久の事、言えねえな」

「でも、雅宗達のお陰でみんなが希望を持って今も生きようとしている」

「俺らが希望?んな訳ないだろう。俺らはただ生きようと必死なだけなんだよ」

「それが良いのよ。その必死なのがみんなの救いなのよ」

「……だと良いけどな。優佳も守りきれなかった俺が言える立場じゃない。幸久が俺らの希望だ」


 雅宗の中では幸久はリーダーシップが強く、率先して皆の事を考えている。

 悔しいけど自分よりも優れている友人だと自負している。


「そこまで自分を責めないでよ。幸久だってよく言っていたわ。あいつの勇気ある行動に尊敬する所があるって」

「それは俺が勇気があるんじゃなくて無謀なだけだよ。怖さを直前まで感じない鈍さが俺を動かしている。それがたまたま良い方向に役立っているんだよ。だからこそ、次はしくじらない様にしなくちゃな」

「つまり、また外に出るって事……」

「状況にもよる。危険を顧みないと皆を助けられないからな」

「そう……」


 雅宗は話終わると再び双眼鏡で遠くを見つめ始めた。

 すると、突然背中から真沙美がギュッと抱きついてきた。


「なっ!?何してんだよ!」


 雅宗もびっくりして双眼鏡を落として頬も赤くなった。


「心配している人間が近くにいる事を忘れないで、私を含めて……」

「なんか……嬉しいと言うか、アッタカイと……言うか」

「危険な事する度に胸がぎゅっとなるこっちの気持ちも考えて欲しいよ」

「そ、そうか……?」


 何か良いことを言いたい雅宗だが、この状況に頭が真っ白になって、何も言い返せなかった。

 それに恥ずかしくてギュッと抱きしめ返したいが、出来ずに軽く押し返した。


「わ、わかった!お前の気持ちはよく分かった……だから、心配しないでくれ。俺だぞ。困難を乗り切ってきた場数は誰よりも多いんだ!だから、だから気にするな!」


 雅宗は照れながら言い、目がキョロキョロと真沙美に合わせない顔に真沙美は笑った。


「ふふ、本当にまだ子供ね雅宗」

「子供ってどうゆう!」


 ムキになる雅宗の唇に真沙美は自分の指を引っ付けた。


「な、何を⁉︎」

「そうゆう所だよ」


 そう言って真沙美は笑いながら言い、雅宗も驚きのあまり何も言えずにその場に固まった。


「早く戻ってきてね。風邪引くから」

「お、おう……」


 真沙美は少しウキウキしながら屋上から去っていき、雅宗はそれをただ呆然と見つめ続けた。


「くっ……なんか馬鹿にされたような気分……でも、あったかかったな。真沙美って」


 雅宗は一人で手を何度も握り、真沙美の事を妄想していた。


 *


 デパート──トイレ。

 数時間が経ち、日が沈み始めた頃。

 男子トイレ個室に、幸久が捕まえた自衛隊の格好をした男を幽閉してたら、その男を今から尋問する事になった。

 幸久が尋問する係を立候補したが、絶対に殴ってしまって話にならんという事で、自衛隊員である木田と林の二人で尋問する事にした。

 そっちの方が学生らよりも威圧感があり、口も割りやすいだろうと考えたのだ。

 その反面林は尋問する事を怖がっていた。


「本当にこんな事する日が来るとは……」

「争いがある世界国々では良くやる事だ。慣れが必要だ」

「まぁ、そうですけど……脅せばいいんですか?」

「そこはその場のノリで行くしかない」


 男はまだ気絶して寝ている状態。

 まずは起こして、安心させる事にする。


「起きてもらわないと話は始まりませんね。まずは──」

「おい!起きろ!」

「ちょっと!?」


 木田いきなり男をビンタさせて、壁に叩きつけた。男の頬は赤く腫れあがり、叩きつけた衝撃で鼻血を垂れ流した。

 それでも、もう一撃加えようとしたところで林に手を掴まれた。


「木田さん!?何やってるんですか!?」

「こうでもして恐怖心を植え付けるんだよ!」

「これじゃあ、本当に死にますって!」

「人間そんな簡単には死なんわ!」


 そう言って林の静止を振り切って、何度も激しいビンタを食らわせた。


「さぁ!起きろ!」


 胸ぐらを掴んで顔に近づけるとようやく目を開けた。

 木田の鬼気迫る顔に男は目から涙を流して、必死に抵抗した。


「な、何ですか! あんたらは!!」

「落ちつけ!お前の話を聞きたいんだよ!もう一発殴るぞ!」

「な、何をするんだ!」


 トイレの中で二人は取っ組み合いになり、激しく壁やドアに当たる音が響き渡る。


「大丈夫ですか!?」 

「大丈夫だ!躾をしているだけだ!気にするな!」


 そう余裕そうに言っているが、鳴り響く殴る音に興味津々で聞きに来たトイレの外にいる幸久や蒼一郎は戦々恐々としていた。


「あの人に任せて大丈夫なのか?」

「幸久より酷い事になりそうだが……」

「まあ、二人に任せて俺らは次の作戦でも立てようぜ」

「そうだな。知らぬが仏だ」


 二人は今日はからその場からそそくさと去っていった。

 それから数分後、ようやく音が止み男の顔はボロボロになって何とか静かにする事に成功した。

 流石の具合に林もドン引きしていた。


「ようやく落ち着いたか」

「木田さんが乱暴過ぎるんですよ」

「尋問はこれくらいでなきゃダメだ。覚えておけ」


 そして木田はもう一度、男の胸ぐらを掴んで声を荒げて問う。


「貴様の事を問うが何をして、その自衛隊服を手に入れたんだ。言わないと歯を折るぞ」

「分かったから、俺達の事を話すから待ってくれ! だから、これ以上は!」


 手を挙げて無抵抗を示し、話す気になった男に木田も手を引っ込めてドヤ顔で林の肩を叩いた。


「な?世界ではこれくらいの尋問が当たり前だ」

「怖いっすって。それ」


 この時、午後0時47分……

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