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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
119/125

修学旅行19日目 午前11時43分

 

 午前11時43分……


 同時刻──雅宗達がいるデパート。

 日吉が撃った銃撃音がデパートにも聞こえたのか、幸久が速足で雅宗に報告してきた。


「雅宗!!外が銃声が!!」

「何!?こっちに攻めて来たのか?」

「分からない!とにかく上に来い!」


 あんなに多くの銃声。

 普通では無いことは雅宗達でも分かった。

 二人は慌てて屋上に出ると、木田が塀に隠れながら双眼鏡で銃声がした方へと目を向けていた。


「木田さん!」

「伏せてろ、狙撃の場合はお前脳天ぶち抜かれてるぞ」


 木田の言葉に二人はすぐに伏せて、木田のそばまで小走りで向かった。


「銃声は何処から聞こえてますか?」


 幸久が聞くと、木田は双眼鏡を外して幸久へと渡した。


「さっき鳴り響いているが、どうやらこちらじゃないようだ」

「なら、何処に?」

「お前の友人らが向かった方向だ。それで見ろ」


 双眼鏡を覗くと付近の感染者が、その音が鳴っている方向へと歩いて行く姿があった。


「あっちは由弘らが向かった場所。そこに感染者が……」

「そのようだ。撃っている銃声が感染者を引き付けているようだ。銃声は複数聞こえてくる。三人以上は確定。つまり、アイツら以外の何者かがそこにいると言うことだ。それこそ、さっきお前達に襲いかかった奴の仲間の可能性が高いだろうな」

「何だと!?」


 雅宗らを襲ってきた自衛隊の格好をした人物達。

 彼らは雅宗を追ってこの付近まで足を運んで来た。

 それを知り、幸久は自分の責任でここまで大事になっているんだと、心の中で自分を責めた。あの時、バレなければ。あの時、もっと早く優佳の危機を察知できていれば、ここまでにはならなかったはずと。

 いても立ってもいられず、幸久は立ち上がった。


「俺、行くぞ!由弘らと合流する!!」 

「幸久!待てって!また、危険に飛び込む気か!」


 雅宗が止めようと手を掴むが、幸久は振り払ってでも行こうとしていた。


「もしも違ってたりしてたら、危険なら戻るまでだ!俺の責任でこうなったんだ!俺がアイツらを助けに行く!」


 その時に、木田が幸久へと声をあげた。


「行くなら好きにしろ。ただし、今の危険をここには持ち込むなよ。お前一人の死で済むならいいが、ここにはまだ救助を待つ大勢の市民がいる。それを巻き込みたくなければ、好きに行け」

「……」

「ダチを救いたい気持ちは分かるが、理性的になれ。お前の行動が他の者達にどこまで影響を及ぼすか。しっかり考えろ。ダチを助けても、この場所がバレたら元も子もない」


 まだここには大勢の市民が残り、救助を待っている。

 ヘリは定期的に来る。もしも、ここがあの銃を持っている奴らに攻められたりしたら、危険地帯と化し、人は死に救助ヘリも近づけなくなる。

 やるせない気持ちになるが、雅宗は幸久の肩を優しく叩いた。


「木田さんの言う通りだ。それに由弘を信じよう。俺らと同じくらいの困難は乗り切って来た奴らだ。龍樹もいるし、一応蒼一郎もいるんだ。何とかなるさ」

「……あぁ」


 雅宗は幸久を諭しながらデパート内に戻って行った。


 *


 日吉が弾倉を入れ替えているうちに、由弘らは端の階段がある方向まで一気に走り出した。


「くっそ!!こんな時に人間同士で何やってんだよ!!」


 3人は立ち上がって走り出すと、手慣れた手つきで装填した日吉は容赦なく銃を撃ち放った。


「逃がすかよ!」


 逃げる3人に銃弾が飛んできて、その一発が由弘の肩を掠って、龍樹が咄嗟に二人を地面に倒して銃弾を避けた。


「うっ!」


 龍樹は由弘の肩を見て怪我の具合を確認した。


「掠っただけだ、これくらいで泣くなよ」

「あぁ、泣く訳がなかろう」


 蒼一郎が伏せて階段側まで一足早く到達し、階段の床に耳を当てた。

 大勢の人間が走ってくる音が聞こえて来る。それもこちらに迫ってきている。


「やばいぞ!階段からこっちに来るぞ!大勢だ!!どうすんだよ!!」


 蒼一郎に告げられて由弘は瞬時に考えた。

 この状況下でどうするばいいか。敵は銃を持っている。

 それにここは4階、階の移動には右端の階段とエレベーターがある。電気がつかないのでエレベーターは使えない。つまり、階段のみでしか移動が出来ないし、出来る事は上の階に上がる事しかできない。

 こちらの武器は各自に持っている刺股と盾。

 これでは銃になんて勝ち目はない。だが、乗り切るには何か策を立てないといけない。

 悩んでいる由弘に龍樹が言う。


「俺たちに学生にはそれぞれの武器があるだろ」

「何だ?一体」

「学生ならではの体力と馬鹿な考えだ。この体力があるのは今だけだ。全員、タバコも吸わない馬鹿健康児だ。それに俺らは喧嘩には慣れている」


 龍樹は喧嘩と頭脳。

 蒼一郎はサッカー部のキャプテンの足。

 由弘自身は柔道部としてのパワー。


「三人の活かせるものを最大限に活かせば、ここを抜けれる」


 龍樹の言う通り、3人ともそれぞれの得意分野がある。それを活かせれば、乗り切れるかもしれない。


「蒼一郎!龍樹!!ここをなんとか脱出するぞ」

「飛び降りて死ぬ勇気もないだし、ここはもう地獄に乗り込むしかないのか……」


 蒼一郎は不安ながらもここはもう死ぬ気にならないと抜けられないと自分の身体を何度も叩いて覚悟を決めた。


「やるしかない!サッカーの意地を見せてやる!!」

「ならば、早速やるぞ!!」


 由弘が声を上げると、龍樹は上の階を指した。


「この階はドアが開いてる部屋がない。上の階に行って空いてる部屋を一つでも探すぞ」


 三人は狙われないように慎重に階段の壁に隠れながら五階へと進み、空いている部屋を探す。

 五階へと逃げられ、日吉は銃で狙えなくなると他の仲間らに声を上げて指示した。


「奴らは五階だ!!急げ!!完全包囲だ!」


 敵の足が徐々に迫る中、蒼一郎は見つけた。


「ここの部屋ドア開いてるぞ!」

「そこに逃げろ!」


 唯一開いていた部屋へと全員で逃げ込み、鍵を閉めた。

 ドア閉めるとすぐに龍樹が言う。


「ドアの前に物を置いてバリケードを作れ!作戦会議の時間稼ぎにしろ!」

「おう!」


 家の中を物色した。どうやら小さな子供がいたであろうおもちゃが部屋に散乱していた。もちろん住人はおらず、逃げるように出て行ったのか、部屋には貴重品などが落ちていた。

 そんな事はお構いなしに机や椅子。本棚などをドアの前に置き、雑な置き方ながらバリケードを作った。


「少しは時間を稼げる……だろうが、籠城するわけにもいかん」

「ここは5階だし、外を見ても脱出なんて不可能だぜ」


 蒼一郎が窓から外を見て遠くを見つめるが、降りれる方法なんぞ無かった。

 隣の部屋に行こうと思えば行けるかもしれない。だが、行ったところで変わりはないだろう。

 諦めたように外を静かに眺めている蒼一郎に対して、由弘と龍樹は状況を整理していた。


「敵の数は?」

「10人はいると思う。全員が銃を持っている」


 この部屋で10人を撃破する。または逃げ切る。

 難しいというより、無理ゲー過ぎるだろと考える蒼一郎。俺らはアクション映画のようなカンフーや軍のような武術も格闘技を備えていない。

 由弘が柔道部だが、銃を持っている敵には立ち向かえるのか。それも多人数相手に。


「ちっ、八方塞がりとはこの事か」

「龍樹も外見て、空気を吸っておけよ。最後かもしれないしよ」


 蒼一郎と入れ違うように龍樹もベランダに出て、付近を見渡すと──


「!?」


 *

 

 部屋の前に到着した部下達。ドアを撃ち、無理やり鍵を撃破ってドアを開けるが、棚やテーブル、布団などで入り口が塞がれており、簡単には入れない状態となっていた。


「ちっ、籠城戦か」


 物を退かそうにも、これでは時間が掛かってしまう。

 下で待っている日吉がイライラしてしまうと思うとその場にいる全員の気が下がってしまう。


「どうするよ、これ」

「ゆっくりやっていたら、日吉さん怒るぞ」

「そりゃ勘弁だな」


 部下達は下で待っている日吉に問う。


「籠城する気のようですが、どうします!!」

「爆弾使え!!爆弾!ドアぶっ壊せ!!」


 爆弾と聞き、その場にいる全員はポケットに入っている手榴弾の事を考えた。

 手榴弾も自衛隊から奪った物である。


「爆弾って……手榴弾を?勝手に使って良いんですか!爆発音でゾンビ共も近づいて来ますよ!」

「俺が許可する!来たら俺ら下の奴で仕留める!とにかく奴らを殺す事が第一だ!!やれ!」

「……分かりました!!」


 分かったとは言ったが、正直使ったことのない手榴弾の威力が分からず、使うのを躊躇う一同。


「本当に使うのか?通路そのものが消えるかもしれねぇぞ」

「日吉さんが怒るよりかはこれ使って要件をすぐに済ませた方がいいんだよ。壊れるかどうかは爆発したら分かる」

「……とにかく面倒事はごめんだな。さっさと事を済ませようぜ」


 もたついていると何言われて何されるか分からない。

 そう考えると部下達は躊躇わずに何個かの手榴弾を取り出して、安全ピンを抜き取ってドアの前に転がして全員が大急ぎで階段側に走って爆発を待った。

 何秒か待っていると手榴弾が爆発し、階全体が大きく揺れ動いた。


 この時、午後0時04分……

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