修学旅行19日目 午前11時7分
午前11時7分……
「三人とも喧嘩なら、相当な自信があらだろうが。出会ったとしても簡単に……」
「銃相手では、スポーツ万能だろうが喧嘩が強いだろうと関係などあるか」
「……」
木田の言う通り、銃は人の動体視力よりも早く着弾する。
どれだけ、三人共が強く俊敏でも銃相手には未知数なのだ。
*
雅宗達が心配している中、由弘らは雅宗とは逆の方面へと進み、避難所指定されている学校などを探索していた。
「こっちは何も無さそうだぜ。人の気配すらない」
蒼一郎が教室の中を調べるも何処にも誰もいなかった。人の気配もなければ、誰かいた形跡すらない。
最初からここは避難所としても機能していなかったのだ。
「うぬ。避難所指定されている保育園も小学校もどこもかしこも間抜けの空とはな」
「避難所として準備する前にパニックで逃げたんだろ」
いないと分かるとやる気がすぐになくなる蒼一郎と、同じくいないと分かると気が抜けたように力が抜けた由弘。
「どっか行っちゃったんだろうさ。みんな、きっと」
ため息を吐きながら小石を蹴り、ブツクサと愚痴をこぼす蒼一郎に龍樹が言う。
「いないと分かれば戻るだけだ。それが任務だろ」
「ごもっともだ。さっさと退散しようぜ。生存者がいなければ、すぐにでも避難したいもんだぜ」
「大将の考えは?」
龍樹が大将こと由弘に目を向けると、由弘は重い腰を上げて両脚を叩いて立ち上がり、二人に告げる。
「この付近の状況も十分に調べたんだ。戻ろう。生存者らしき人もいなければ、食料や避難指示の張り紙などもないなら、戻るしかあるまい」
「なら、さっさと帰ろうぜ。任務完了、これにて帰還するってね」
「帰るまで任務だ。気を抜くなよ」
「へいへい、分かってやすよ」
さっさと帰ろうとする蒼一郎に龍樹が待ったをかけた。
「待て」
「あ?」
「一つだけ持って帰りたいモノがある」
「モノ?」
二人は龍樹に着いていき、職員室へと向かった。
龍樹は職員室内を探し、とあるモノを発見した。
「それって刺股と盾?」
「学校では不審者対策に刺股と透明な盾が置いてあるもんだ。感染者や暴徒らには有効的だろう」
学校での刺股や盾の役割は龍樹の言う通り、対不審者用の武器であり、ナイフや包丁を持っていたとしても盾で防御しつつ、2メートル以上ある刺股で攻撃を届かせる前に敵の身体を捕まえて壁に挟んで無力化する事が可能だ。
今の状況ならば感染者にも有効的な武器である。
「さすが不良優等生!」
「あ?」
と睨みつけられた蒼一郎はすぐさま撤回した。
「うそうそごめんて」
龍樹は学校に置いてある計三つの刺股と盾を全員に渡して、三人は学校を後にしてデパートに戻る事にした。
道中、蒼一郎は刺股を振り回しながら歩く。
「まぁ、これがあれば感染者だろうと暴徒だろうと何とかなるだろうさ」
「相手が銃を持っていなければな」
「そんなのいる訳──」
と笑いながら言うと、どこからともなく銃声が聞こえてきた。
「じゅ、銃声!?何だ!?」
「伏せろ二人共!」
由弘の一声に龍樹は咄嗟に伏せて車の陰に隠れ、蒼一郎は武器を手放して両手を頭に乗せて伏せた。
由弘もしゃがみ込んで、状況を把握する。
「デパート方面から聞こえて来たぞ」
蒼一郎も何か分かったかのように立ち上がった。
「って事は木田さん達が言っていた音じゃないか?何か起きた時のってやつ」
「その可能性が高そうだが、何かあったとするならば慎重に戻らざるを得ない」
「なーんか超絶嫌な予感がするけどね」
3人は再び歩き出して、武器を構えながらデパート戻っていく。
銃声は何発も聞こえ、その音はアパート側の様々な場所から聞こえてくる。何人も銃を撃っている
龍樹が後方を確認し、由弘と蒼一郎は前方を確認しながら進む。
すると、由弘が小声で二人に語りかけて動きを止めた。
「止まれ、人の音がする」
「人の音?」
由弘は耳を澄ませて、音が近づいて来ている事を確認する。
「歩いている音だ。大勢の音だ」
「木田さんが来たとか?」
「いや、木田さんとは言え、こんな良い加減に撃つことはないはずだ」
「おいおい、マジで嫌な予感がするんだけど、もしかして暴徒?九州のクソジジイみたいなやつ……」
蒼一郎は顔面蒼白になって九州の銃撃してきた老人の事を思い出した。
だが、龍樹と由弘は冷静に周りを見て行動を起こす。
「暴徒だとするなら、こちらは明らかに分が悪い。銃なんて持たれたら、こんな武器じゃ役に立たんだろう」
「あぁ、しかも敵は複数人いるだろう。銃を持っているのがどれくらいいるのか分からん」
そう話していると、付近から激しい銃撃音が聞こえてきて、近くにいる事に3人は焦りが見えてきた。
3人は近くのマンションへと入り、高い階へと移動して通路から銃撃の正体を探る。
蒼一郎が双眼鏡で辺りを見て、デパートの方角を見つめるも、何も異変はなかった。
「デパートの方は異変がなさそうだ」
「……見ろ、あそこの方角を」
龍樹も双眼鏡で見ていた時、何かを発見した。
二人は言われるがまま、その方角へと双眼鏡を覗く。
「あれは自衛隊か?」
「服装からして木田さんと同じようだが……」
3人が見つけたのは、自衛隊員であった。大勢を引き連れており、銃を良い加減に構えたり、へらへらとした雰囲気。
金髪の隊員もいたり、ヘルメットや服装が雑だったりと、気になる事が多い。
「自衛隊……って事はさっきの音は自衛隊が?」
「……まさか」
「でも、銃を持っているぜ。アイツら。とにかく助けが来たかもだぜ。行こうぜ」
蒼一郎が自衛隊の元へと行こうとした時、龍樹が服を掴んで、その歩みを強引に止めた。
「待て」
「何だよ、また待てか?俺は犬じゃねぇんだぜ」
「やけに様子がおかしい……本当の自衛隊だったとしてもだ。あんなヤンキーみたい奴らか?よく、テレビなどで見るのはキリッとした姿だぞ」
「あぁ?」
蒼一郎はもう一度、双眼鏡で覗くと先頭を歩くヒョロイ男。銃を振り回し、目先にいる感染者に容赦なく銃を撃ち放っている。
慈悲などなく、むしろ楽しんで感染者を撃ち殺したいる。
「確かに、これは色々とやばそうだな。自衛隊とは思えないが……まさかストライキ的な?」
「そんなんでこんなに暴れ回るかよ」
「流石にそうだよね」
龍樹に言われて納得するが、その正体が気になってしょうがない蒼一郎はもう一度、双眼鏡で男らを覗き込んだ。
どう見ても木田達と同じ自衛隊とは思えないくらい、狂っているような雰囲気に何処か恐怖を感じる。出会ったら殺されるのではないかと、寒気までして来た。
早くこの付近から立ち去ってくれないかと思いながら監視していると──
「はぁ!見つけた!!」
先頭を歩く男がこちらを向いて、なんと目が合った。
その瞬間、その男は迷いなくアサルトライフルを向けてマンションへと銃撃を放ってきた。
「やばい!!」
「伏せろ!!」
龍樹が蒼一郎の頭を掴んで地面に伏せた。
付近の部屋の窓は割れ、通路の壁に激しく銃弾が命中する。
「うわぁぁぁ!!」
「くっ!!伏せて端まで逃げろ!!」
3人は伏せて歩きながら通路の手すり壁を盾にして階段へと逃げ、銃声が響くながら、蒼一郎は由弘に大声で聞く。
「どうすんだよ!!」
「逃げるぞ!!」
「どうやって!!」
「分からん!!」
男は一度銃撃を終え、静まり返った。
そこで他の男らに指示を出した。
「お前ら、さっきの逃げた奴らかもしれんぞ!!生きたまま仕留めろ!!」
その場いる殆どの男がマンションへと向かい、男はクイッとヘルメットを上げて、その顔を見せた。
それは飛悠雅の手下の一人である日吉であった。
「発見発見!!」
この時、午後11時39分……