修学旅行19日目 午前10時14分
午前10時14分……
飛悠雅は部屋から出た。
廊下も窓が段ボールや新聞記事で覆われているぎ、一定の感覚に新聞が貼られてない場所があるために太陽が差し込んでいる。
廊下には弾薬や銃火器などが無造作に置かれており、自衛隊用の服までもが置かれていた。
隅の教室、音楽室はと入る。
そこには寝転がっている男達がおり、武器を触ってたら、漫画を読んだり、女を横に置いていたりと好き放題な状態だった。
飛悠雅は壁を蹴ると全員が一斉に反応した。
「お前ら、仕事だ」
と言うと男らはやれやれと言わんばかり、疲れた様子で立ち上がり、飛悠雅の前に集合した。
一人の尖った金髪が特徴的で、鋭い目つきの細い身体の男が飛悠雅のガンを飛ばすように眼前に顔を突きつけてきた。
「さっきの銃声かぁ?」
「そうだ。ガキどもが敷地内に潜入して、逃げられたって訳だ」
「お前ともあろうお方が逃しただってぇ?」
「あぁ、逃ちまったよ。作戦通りにな」
「作戦通りぃ?」
飛悠雅はその男の肩を笑いながら叩いた。
「奴らのアジトを探すためだ。食料があるかもしれんからな」
「なるほどぉ。納得」
ふむふむと納得した男は無意味に拳を鳴らして、一人で雄叫びをあげた。
飛悠雅は男の奇行を無視して、他の男達に伝えた。
「逃げた奴らを追え!外にいる奴らにも伝えろ!!」
「おうよ!」
その一言で全員が一斉に動き出した。
「殺しても良いんやな」
「抵抗するならな」
「よしキタ。バトって来る!」
「雑魚ムーブ出しすぎんなよ日吉」
ヒョロイ男、日吉。
彼もまた、飛悠雅の言葉に喜びを隠さずに声を更に上げる。
そして飛悠雅はもう一人のメガネの男に話しかけた。
「お前は残ってろよ。刃留斗。頭脳を失う訳にはいかん」
「もとより、行く気なんてないね。好きで外出る奴の気がしれん」
「なら、よしだ。野郎ども出撃だ!」
刃留斗を除く全員が廊下の武器を取り、軍団を作って雅宗らがいる方角へと向かって行った。
軍団が向かっているのを廊下から出て、飛悠雅は嘲笑っていた。
「バカは助かる」
「奴はバカだが切り込み隊長としては良い役だ。戦闘能力はピカイチだ」
「それだけがあの駒の取り柄だ。にしても、こんな時にお前が本当にいて助かったぜ。今の状況下で最適解を見つけるなんてよく出来たぜ」
飛悠雅の言葉に刃留斗はメガネをクイっと得意げに指で押し上げる。
「長年勉強していたからな。それよりも、大勢の駒がいなくなった今、反乱が起きるやもしれん」
「確かに」
「そこでアイツの出番だ」
飛悠雅は少年の元に戻った。
少年は退屈そうにスナイパーライフルのスコープを除いて外を見ていた。
「待たせて悪かったな」
飛悠雅が戻ると少年が花が咲いたように笑顔になって寄ってきた。
「僕は?どうすればいい!」
「ここにいりゃあ良い。駒が少なくなったら、反逆されるやもしれん。そん時にはお前にも助けてもらうさ」
そう言うと少年は銃を飛悠雅の脳天へと向けた。
「僕が裏切る可能性もあるのに?」
「その為に特別扱いしてんだよ。後で楽しみがあるから、待ってろよ」
「楽しみ?」
銃を退かして飛悠雅は笑って少年に伝えた。
「動く的は好きか?」
「ゾンビ達よりも早ければ、早いほどにね」
「お前に最高のハンティングをさせてやるよ台莪」
飛悠雅のハンティングの言葉を徐々に理解していく少年台我。
戸惑いながらも笑みが少しずつ溢れていく。それが何かを。
「ハンティング……生きの良い獲物?」
「あぁ、生きの良い獲物だ」
「それって……」
その言葉の意味を知ったのか、台莪はニヤリと笑って銃を大事そうに握りしめた。
「ありがとう兄さん」
「それでこそ、我が弟だ。頼んだぞ」
飛悠雅も笑って部屋から出て行った。
一人残った台我は飛び跳ねて、いろんな方向に銃を向けて撃つ素振りを見れる。
「必要とされている。僕は今、ここに必要とされている!」
*
雅宗らは何十分と時間を掛けて、何とかデパートへと帰還した。
非常階段から、先生らと共に優佳や捕縛した男をデパート運び、応急処置を施した。
優佳は布団に寝かされ、真沙美らに見守られながら治療来る事になった。
「優佳ちゃん、大丈夫?」
「うん。雅宗君のお陰で無事に済んだ」
雅宗と幸久はすぐに、これまでに起きた事の経緯を木田達に報告した。
「狙撃手がいただと?」
「はい。それも何百メートルも離れた位置から優佳の腹部を狙撃しました」
「それに自衛隊に扮した男に襲撃され、自衛隊員らは飼育小屋に閉じ込められていると」
幸久はスケッチブックを持ってきて、大まかに学校付近の状況を絵にして、敵がいた位置。狙撃してきたと思われる位置。捕まっている自衛隊の位置。
全てを記憶を頼りに書いて、木田達に状況をより細かく説明をし、二人は互いに意見を出し合った。
「学校の占拠か。だが、奴らの目的が分からない以上検討がつかないな」
「こんな状況ですから、相手の考えも想像するしか出来ませんね」
「まぁ、混乱に乗じての占拠して、要塞のようにしていると考えるのが普通か……」
さらに幸久は敵の人数を詳しく教えた。
「確認できるだけでも、奴らは十人以上います。リーダー格に、狙撃手に」
「治安の低下は武装集団を生み出すとは言うが、本当にこうなるとはな」
木田は一つ幸久に聞いた。
「お前達、追跡されてないだろうな」
「追跡……ですか?」
「あぁ、物資がこうも遮断されている状況下だ。敵がこのデパートを発見したら、襲撃される可能性がある」
「追跡されているかは分かりません。優佳を運ぶ為に必死でしたから……すいません」
もしかして追跡されている可能性があるとして、幸久はもっと注意深く見ておけば良かったと自分自身を悔やんだ。
そこに雅宗と西河先生が、未だに気絶している捕まえてきた男を連れてきた。
「コイツが捕まえてきた奴です!色々と分かるやもしれません!」
木田と林でその男の装備などを確認した。
「この銃。M24SWSのようですね。それに服も我々と同じ。やはり何かしらの理由で襲撃された可能性があります」
「こんな状況下で、アホが銃を持つとは……感染者よりも生きている人間の方が怖いってもんだ」
そこに雅宗が口を開く。
「由弘達はまだ戻ってませんし、監視の目を強めた方がいいかもしれませんね……」
「もしも出会したら襲撃されるだろう。その為にも危険を知らせる為に銃を──」
早く戻って欲しい。由弘に銃声での合図を送れば──
「危険を知らせる合図は銃声……」
「!?」
そこにいる全員が固まった。
デパートに危険が迫った時に送る合図が銃声。それは敵に知られるリスクになる。だから下手に撃つのは危険。
それに敵が持っているのも木田達が持っている銃と同じ──
木田は悔しそうに歯を食いしばった。
「最悪な選択をしてしまったか」
「奴らがこの付近で銃を撃ったら──」
全員の脳裏に危険な想像が浮かんでいる。
早く戻って来てくれ。由弘達よ。
この時、午前11時07分……