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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
114/125

修学旅行19日目 午前9時31分

 

 午前9時31分……


 呑気に話していた雅宗らの元にも銃声が聞こえた。


「銃声?学校から?どこから?」

「あぁ、これは学校からだな。幸久は銃を渡されてないはずだ。嫌な予感がする」


 あたふたする優佳に対して、雅宗は冷静に塀から顔を出して学校方面に目を向け、耳をすませた。


「どう?」

「分からん。学校の裏からの可能性もあるな」

「よく分かるわね」

「耳が良くなったからな」


 雅宗はバッグを下ろして、小さな鉄の棒を取り出して塀から身を乗り出す。


「ちょっと見てくる」

「え?行くの!?」

「大丈夫だ。そこまで遠くは行かないから。学校の様子が見える場所まで行くまでだよ」


 雅宗は感じている。あの学校からは何か異変が漂っている。

 幸久の身にも何か起きているんじゃないかと。


「お前は念の為にここにいろ」

「え?」

「もしもの何時間経っても帰ってこないなら、デパートまで帰って木田さんらに報告してくれ」


 と言い渡して雅宗は優佳の返事も聞かずに学校へと向かった。

 躊躇なく走り出した雅宗に、優佳は戸惑いを隠さなかった。


「無責任過ぎるよぉ!」


 雅宗は幸久の安否を気にかけながら、感染者がいないかをこまめに確認しながら走る。

 角を確認して、学校へと向かおうとした時──


「誰だ!」

「!?」


 背後からの声に咄嗟に鉄棒を声のする方へと突きつけた。

 そこにいたのは小銃を構えた自衛隊員であった。


「自衛隊の人?」

「……そうだ。自衛隊だ。助けに来たから安心しろ」


 雅宗は安心して肩の荷を下ろし、隊員に質問をした。


「俺の友達を見ませんでしたか?さっき、あの学校から銃声が聞こえて、気になって」

「……あ〜、友達なら多分大丈夫だよ。あの学校にいるから早く行こう」

「仲間の女の子がもう一人いるんです。そいつも──」

「その子は後で拾っていくから、早く行こう。感染者が来るかもしれない。君だけでも、まず助けるから急ごう」

「……分かりました」


 自衛隊員が学校に向けて歩き出すと、雅宗はその後を静かについていく。


「急ごう、大勢が待っているから」

「はい」


 だが、男の挙動がやけに怪しい事に気づく。

 先程から無理矢理に学校へと連れて行こうとしている気がする。急がせている雰囲気がやけに漂う。

 それにここまで挙動不審なのはやはり気になる。木田や林に比べて銃の持ち方も何処かおぼつかない。

 それに服装も木田達に比べて杜撰だ。着慣れていないのではないかと思うほど、ヘルメットがブカブカに被っていた。

 少し怪しみ、適当な質問をした。


「一つ尋ねますが、この辺りの状況とかはどうなってまふか?救助とかは来るんですか?」

「……来るよ。あの学校には毎日のようにヘリが来て、大勢の人が救助されてるんだ。だから安心していいよ」


 一度だけ言葉を詰まらせた。

 雅宗は続けて質問をする。


「救助されたら、何処に行くんですか?」

「……あ、安全を確保したエリアに連れてかれ……るんだ」

「おかしいですねぇ。俺のいた避難場所は数日に一度だけしか来ない。それに大勢は連れていくのは避難所の圧迫に繋がるから、一定数しか連れて行けないと言われましたけどなぁ」


 雅宗が惚けたように言うと、男の目線は左右に激しく動き、焦りの顔を見せ始めた。

 男は言葉を詰まらせると慌てて声を上げた。


「ば、場所によって違うんだよ──」


 やはり挙動のおかしさに疑惑は徐々に確信へと変わっていく。


「それに、救助を待つなら目立つ場所に大きな旗を立てるらしいんですが、ここはないんですか?」

「……朝だけ立てとくんだ。暴徒もいるから、こうしないとダメなルールが……」


 確信した。こいつは自衛隊ではない。

 あの学校に呼び込もうとしている。何らかの理由がある。あの学校に。

 そう確信した雅宗は足を止めた。


「どうしたんだい?」

「すいません、ちょっとお聞きしたい事が」

「何だい」

「貴方の自衛隊だと言う身分証明書を見せてほしいんですが」

「い、今見せるのかい?」


 男の顔に、またも焦りが出た。

 雅宗は男の表情が動揺した所を見ると、ビンゴと言わんばかりに続けて質問を繰り出す。


「身分証は常に携帯してるのが、規則ですよね。疑ってるわけじゃないけど、混乱めいた現状では人を信じるのも相当な覚悟が必要になりますからねぇ。考えが纏まっている感染者の方がマトモなくらいなほど、薄汚れた輩もいるみたいだし」

「……いや、今は持ってなくて……」


 男の目が泳いでいる。雅宗に目を合わせない。

 雅宗は更に追い詰める。


「自衛隊員の規則では職務を従事してる時は、常に携帯する。俺が出会った隊員さんは二人とも肌身離さず持っていたぜ」

「……う」

「あんたは何者だ。自衛隊員じゃないだろ!」

「くっ……!」


 雅宗が指差して男に追い詰めた。すると男は豹変し、目の色を変えて雅宗に小銃を向けた。

 その手は震えており、使い慣れてないのが分かる。

 雅宗は動揺はせず、むしろ男を嘲笑うように挑発を繰り出す。


「やっぱり怪しいと思ったぜ。腰のベルトもダボダボ、ヘルメットもブカブカ。俺の知ってる自衛隊員の人らはどっちもしっかりとサイズを合わせていたぜ。てか、それが基本だバカ!」

「黙れ!」


 男は激昂して雅宗目掛けて一発銃を撃った。

 雅宗の股下をすり抜けて塀に銃弾は当たった。銃撃の反動で男は尻餅をつき、その場に倒れた。


「自衛隊に銃を向けられるの慣れたけど、撃つのはどうかと思うぜ。慣れないと反動でバランスを崩す。使い慣れてない証拠だな」

「うるさい!」


 男は立ち上がるも未だ手は震えていた。


「自衛隊のおっさんは獲物から目を離さないし、撃つ時は手なんか震えるず肝がすわっている自衛隊員さんだ」

「くっ!舐めやがって!」


 再び銃を向けるが、男は先ほどの反動の事が頭に残っているのか、引き金を引こうと躊躇っている姿を見て雅宗は動いた。

 一気に距離を詰め、男の懐に飛び込んだ。


「はぁ!!」

「くっ!!」


 男は目を瞑り引き金を深く引き、小銃から三発の銃弾が撃ち放たれた。使い慣れていないからか、銃を撃った反動で銃弾は三発とも、あらぬ方向へと飛んでいった。

 一発目の銃弾は迫る雅宗の頬を掠り、二発目は雅宗の脇の間を抜けて、三発目は膝を貫通した。


「うっ!なんのぉ!!」


 貫通した部分から血が流れ、雅宗は痛みから足のバランスを崩すも、もう片方の足を強く踏み込んで無理やりバランスを保った。

 相手も反動で、バランスを崩して後ろへと身体が傾いていた。


「んにゃろぉ!」


 雅宗は男の顔面を至近距離で殴り飛ばして、地面に倒した。

 手から離れた小銃を蹴り飛ばして、男の上に馬乗りになって両手を膝で押さえて、懐から武器のナイフを取り出して、男の首元に突きつけた。


「おい!その銃は何処から手に入れたんだ!!それに俺達に銃を向けたのは何故だ!答えなければ、刺す!」

「お前は俺を殺す度胸があんのかよ!」

「あぁ?」


 まだ余裕のある言い方をする男に腹を立てた雅宗は、ナイフで男の頬に少しだけ切り、赤い血の細い線が浮かび上がった。


「もう少し本気で良いんだぞ」

「なら──」


 雅宗はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて、男の膝にナイフを浅く突き、ズボンから血が滲み出した。


「ぎゃあ!!」

「こっちだってな!生きる為に必死なんだよ!人間同士で争ってる場合じゃないのは分かってるだろ!」

「くっ……」


 敵は感染者はなのに、何故それに対峙する人間同士が争わなきゃいけないんだと、雅宗は男に訴えた。

 男は何も言えずに両手を挙げて降伏のようなポーズを取るが、すぐに雅宗の後方に指を差した。


「う、後ろ!」

「!?」


 男の慌てた言葉に反応して、感染者かと思い咄嗟に振り返った。


「……」


 だが、背後には、感染者はいなかった。


「い、いな──」


 と油断していた事に気づいた時にはもう遅かった。

 男は雅宗の腕を切りつけ、更にもう片方の拳で喉元を殴った。

 雅宗は男に倒され、声にならない悲痛な声を上げて喉を抑えて苦しみ悶えた。


「がっ……うっ……」

「くっ、本気で傷をつけやがって。こんな所で死んでたまるか」


 男は刺された足を抑えながら、雅宗はら離れて足を引き摺りながら銃の元へとゆっくりと歩いていく。


 この時、午前9時43分……

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