修学旅行19日目 午前9時04分
午前9時04分……
道を進み、目的地の学校を目指す雅宗達一行。
本来なら数分で見える場所にあるのだが、10分以上の時間をかけて、慎重に進んでいく。
「おっ?」
目的地である避難所の学校が聳え立っていた。
やっと到着して、少しの安心感を感じるが──
「避難所……人がいる?」
「え?」
雅宗が屋上を指すと一人の大人らしき人物が屋上を外を見回しながら歩いるていのが見えた。
念の為に塀の陰に隠れて、学校側を警戒する。
「感染者の可能性もあるわよ」
もう一度雅宗が目視で確認するが正常に歩いており、感染者ではなさそうであった。
「感染者ではなさそうだな」
「ふぅ、なら安心……すぐにでも行こう」
だが、雅宗も幸久は一歩も動かずに考えていた。
幸久は学校に目を向けた。校舎の窓はダンボールで一面塞がれており、中が見えない。音一つ聞こえてこない。
本当に人がいるのかと疑いたくなるほどに。
雅宗は屋上にいる人が何を持っているか気になって更に凝視した。
「あれは……」
「感染者じゃないなら行こうよ」
と行こうとした優佳の腕を掴み止めた。
「優佳、何かおかしい」
「え?感染者じゃないでしょ?」
「あぁ、感染者じゃない。だが、はっきり見えるぞ。屋上の奴ら、木田さん達と同じような銃を持っているんだ」
はっきりと雅宗には見えたのだ。銃を握っているを。
雅宗の言葉に幸久も優佳も目を疑い、幸久が冷静に問う。
「本当か雅宗」
「あぁ、はっきりと見える。本物かどうかは専門外だがな」
「こんな状況で偽の銃を持つ事なんてないはずだ。威嚇以外では」
「かもな」
はっきりと断言する雅宗に優佳は少し懐疑的であった。
「あんな遠くなのに、よく見えたね?」
「視力が良いからな。双眼鏡で見てみれば分かる」
優佳は双眼鏡で屋上を覗くと、確かに小銃を持って外を見張っている人がいる。
それに自衛隊の迷彩服でもなければ、警察のような感じでもないただの一般人である。
「銃を持ってるってことは、あそこに自衛隊の人いるのかな?それとも貰ったのかしら?」
「国の危機とは言え、そう簡単に銃を渡すのはおかしいだろ。俺らだって木田さん達に散々注意を受けてようやく拳銃の許可を貰ったんだ」
「人によって違う考えもあると思うよ」
「それかもだけど……」
言葉が詰まる幸久に対して、雅宗が口を挟む。
「どの道、状況を調べない限りは銃を持っている理由なんて分からん。不用意に行くというよりは、外部から調べる方が大事だ」
そう言うと幸久が手を挙げて前に出た。
「なら、俺が見に行く」
「幸久が?」
「冷静な判断は出来る。雅宗は優佳ちゃんと一緒に安全な場所で待っててくれ。あそこが大丈夫なら、俺がここに戻る。約一時間後に戻ってこなかったら、先に行け」
「……分かった」
雅宗は幸久の覚悟を胸に留めて頷いた。
幸久なら戻ってくると、この二週間で嫌ってほど体感した。ここまで来たら、戻ってこない心配よりも、変な厄介ことを持ってこないかどうかの方が心配だ。
命を軽んじてるんじゃない。幸久が必ず戻って来ることを分かっているからの考えである。
「じゃあ行ってくる」
幸久は一人、物陰から出て見張らしき人物から見えないように学校へと近づく。
校庭側の道路へと移動し、物陰から周りを確認する。逃げて来た人達が乗っていたと思われる多くの車やバス。壁として建てられている机の山。
そこで学校の屋上を確認すると、とあるものを発見した。
「赤い旗……SOSの知らせのような物か?」
それは大きな赤い旗が屋上に設置されており、救助などの知らせを上空に知らせているのかと幸久は推測した。
それでも、銃を持っている人達の事が気になってもう少し情報を知りたいと、校門は避けて屋上の人からも見つかりずらそうな学校の裏入り口から敷地内に侵入を試みた。
学校と裏入り口までは駐車場や駐輪場を挟んでいる為に距離があり、侵入は難なく成功した。
駐車場を抜け、見張りがいない事を確認する。だが、その最中にとある車を見つけて足を止めた。
「これは……」
幸久が見つけたのは、自衛隊が人員や物資運搬に使用する高機動車であった。
ここには自衛隊が来た。または居る。そう思ったが、なら屋上にいる私服の人間は何故、小銃を持っていたのか。自衛隊の人間が私服にでも着替えたとも考えづらい。
外傷もない為、襲われた訳ではなさそうだ。だが何か不審に思い始めて、車を確認する。鍵は掛かっておらず、中に入り荷物を調べた。
銃もなければ、荷物や食料もない。グローブボックスやサンバイザーなども調べたが何も入っていない。内部も争った形跡もない。自衛隊がここにいる可能性があると、懇願ではあるが幸久はそう思った。
「自衛隊がいるのか。ここに」
やはり、ここにいるのか?と思いを募らせて、もう少し外部を探索する方へと舵を切った。
中を見ようにも、どの教室にもカーテンが閉められており、カーテンが掛かってない場所にはダンボールが壁一面に貼られて一つの隙間もない状態になっていた。
「内部から外部をシャットダウンしている」
確かに感染者は動いている人を見て、追いかけ回す。あまり、目にもよくない事だから、感染者を子どもなどに見せない為に、目隠ししているのかもしれないとも考えた。
とはいえ、ここまで閉鎖的にやる事だけが気掛かりである。
とにかくもう少し見回りをしようと、駐車場を後にする。
先に進み、体育館の裏を通っていると──
「んーー!!」
「!?」
何かが聞こえ、幸久は声のする方へと顔を向けた。
そこは小動物を飼育する小屋であるが、今のはどう聞いても動物の声ではない。少し気になってその小屋へと恐る恐る足を運ぶ。
感染者か?それとも感染どうぶつか?お色々と頭を過らせながら小屋の中に入り、意を決して檻の中を見た。
「!?」
それを見た途端に幸久はフェンスに背をぶつけた。
中にいたのはパンツ一丁で口がガムテープと布で塞がれており、手足が縛られている若い男性達だった。
「な、何だ一体!?」
この時、午前9時17分……