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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
111/125

修学旅行19日目 午前8時49分

 

 午前8時49分……

 2チームに別れて、近くの避難場所に指定されている学校へと出発する事になった。

 全員噛まれても大丈夫なように厚着で、ヘルメットを片手に持つ。ヘルメットを被らない理由は敵の接近が、住宅街の為広々としており、デパート内よりも分かりづらい為、感染者が接近して来た時のみに被って防御体制を取るためだ。

 それに優佳以外は食料や便利な物を入れるバックパックを背負う。優佳は女の子な為リュックサックで対応する。

 幸久は5人に色々と説明していた。


「感染者に囲まれた場合は音の鳴るおもちゃを遠くへと投げ飛ばして感染者の気を引かせる。デパートと同じ要領で行けば良い」

「危険な状況なら、これ捨てればいいの?」


 優佳の質問に対して、幸久は答えた。


「最悪の場合は捨てれば良い。命の方が大事だ。ここは住宅街だ。角曲がったら鉢合わせなんて事もある。だから、家に逃げ込むのもありだ。そして感染者がいなくなるまで待つのも手だ」

「なるほどね」


 また雅宗も話に割り込んで、説明を始める。


「一応、作戦のおさらいをするが、避難場所へと行き、救助の要請や、そこで避難する人数の空きの確認だ。またはその他の情報の収集」

「コンビニやスーパーがあったら、食料の確保もOKって事だな」

「その通り。ただし、店の中も外もしっかりと確認する事」

「了解だ」


 由弘も納得して、龍樹や蒼一郎も含めて全員が準備を進める。

 真沙美や先生らは不安になりながらも、雅宗のやる気から誰も止める事はなかった。それに内心、色んな危険を潜り抜けた雅宗達なら大丈夫と思っている部分もあるだろう。

 秀光は準備を進めている雅宗に話しかけてきた。


「本当に行く気なん?」

「当たり前だ。行かんと俺らが今後生きれるかが決まるからな。それにここには悪魔がいる。少しでも早く見つけないと、もっと地獄になる」

「何回も言わせてもらうけど、死ぬかもしれないのによぉ行けるな」


 その問いに雅宗は手を止めて答えた。


「死ぬ思いは十分にした。だから、慣れただけ。それだけだよ」

「おー怖っ。慣れるなんて、俺にはムリだわ。こんなん」

「お前も感染者がいる場所を走れば、いやでも慣れるぞ」

「そんなんパスや!」

「恐るのも一つの策略だ。正解なんて分かんないもんさ」


 準備を終えた雅宗はバックパックを担いで再び5人の元へと戻る。

 秀正は何も言えずに、雅宗の背中を見つめるだけだった。

 雅宗はポケットから小ちゃな棒状のおもちゃをを取り出して説明する。


「もしも、進む方向に感染者がいる場合、この棒のボタンを押して遠くに投げろ。ボタンを押すと光って、音が鳴る。これで感染者の気を引かせて、そのうちに進める」


 とボタンを押すと、七色に光り、ギュィン!とビームソードを振る音が何回もなり、約30秒間ほど音と光りが鳴る。


「そして自分たちが感染者じゃない事を表す為にも、発煙筒で知らせたり、周りから自分達の居場所を教える為にも、持っていく。ポケットには感染者用の道具などを入れておけ」

「おう!」


 全員で息を合わせている間、元太や西河先生らが従業員用の階段に感染者がいない事を確認してくれた。

 そしてごにん木田達にも行く事を伝えた。


「行って来ます。もしも、俺らが行っている間に何か起きたら」

「その時は、打ち上げ花火だろうと、何かで大きな音で知らせる。危険が迫っている場合は、銃声を鳴らす。静かなこの街なら多分聞こえるはずだ」

「分かりました」


 木田達はあえて残ることにした。

 救助の際、自衛隊員がいた方が何かと都合が良いからだ。

 本来なら木田や林も雅宗らと共に行き、救助を要請するのも確実だが、幸久が念の為に二人は残って欲しいと告げた。ここでもしも二人を失ったら、残っている人達が危険に晒される可能性がある。

 なら、二人を残した方が残った他の人々が安心出来るだろうと。


「よし!行くぞ!」

「おう!」


 誰もビビってはいない。むしろやる気に満ちていた。ここから脱出出来るかもしれない嬉しさもあれば、ずっとこの狭い空間に閉じ込められて、少しだけその憂さ晴らしが出来るからかもしれない。

 六人は外にある非常用の階段から地上に降りた。

 感染者は付近にはおらず、今の所は安全。周りを確認しながら、駐車場内を進んでいく。

 手慣れたのか、見えたすぐ車に隠れ、気配を消す。


「よし、行くぞ」


 この調子で車という障害物で塞がれた駐車場を着々と抜けていく。

 デパートの駐車場入り口付近に到着すると、雅宗らは由弘達と別れる。


「そっちは任せたぞ」

「雅宗達も頑張れよ」

「おう」


 全員で生存を誓い合い、それぞれ二つに別れて目的地へと向かう。


 *


 避難所へと向かう雅宗ら一行。道路のど真ん中を歩くが、人影もなければ、車の音や人が住んでいるような音が聞こえない。本当にゴーストタウンのようだ。

 優佳が周りを見渡しながら雅宗へと言う。


「人がいないわね。みんなどこ行ったんだろう」

「九州でも家の中にいろだの、避難所に行けだのと言ってたから、その二択だろうな。それにあのデパートに到着した時点で、この街はかなり感染に犯されていた。住民は外を歩いている感染者が多いだろうさ」

「やっぱりそうなの──」


 その時、突然近くの家の窓が激しく叩かれた。


「何!?」


 優佳がびっくりすると、雅宗と幸久が咄嗟に優佳の前に出て、周りを警戒しつつ、音の鳴る方へと目を向ける。


「……行こう」

「その方が良いな。これ以上は危険だ」


 音の正体を知った二人はすぐに、目を背けてその場から離れようとした。

 そそくさと離れようとくる二人に優佳は小走りでついて行く。


「何を見たの?」

「家の中から窓を叩く人の手が見えた。でも、窓が血か何かで赤くなっているし、その家の他の窓やドアが割れていた。つまり、感染者が家の中で発生したか、感染者の侵入を許したんだろう」

「じゃあ窓を叩いた人は……」

「感染者だろうさ。人の歩く音に気づいて威嚇してんだろ」

「そうね……」


 優佳はちょっとだけ怖かった。感染者ではなく雅宗が。九州の時も、同じように諦めようとか言っていたが、今回はさっぱりし過ぎだ。

 こんなにも慣れているのが、怖いと思う事はない。


「あの音に感染者が集まったら身も蓋もない。さっさと行こう」

「……そうだな」


 幸久も同じ事を考えていた。

 雅宗も自分も、感染者か分からない中、咄嗟に体が動いて、臨戦態勢に入っていた。前からこの状況を慣れる事はダメだとは思い続けたが、身体は正直だ。意思とは無関係に危険を回避しようと身体が動いている。


「どうした幸久?」

「いや、何でもない。行こう」


 聞きたくても、怖くて聞けない。

 答え次第では、雅宗を今までのように見れないかもしれない。その思いを心にギュッと閉じ込めて、それぞれ前に進んで行く。


 この時、午前9時04分……

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