3月11日 修学旅行19日目 午前8時14分
午前8時14分……里彦らが離れて6日か経った。
今日の朝、一度だけヘリが何台か到着して、数十人ほどの老人や親子連れを救出していった。
木田と林はその人々を送り出して、飛んでいくヘリを見つめる。
「ヘリは来てくれてもこのままの救出頻度では……」
「あぁ。食料が尽きるな」
「大丈夫ですかね」
「今はまだ、ゆっくりだがと救出してくれている。だからこそ、今は希望を持って元気でいられる。だが逆にこのまま救出頻度が落ちたり、食料が尽き始めたら、ストレスや不安から変な行動を起こす奴が現れてもおかしくない」
「何とか食料は手に入れる事には成功してますが、棚に置かれている食料がかなり減っていき、このままでは倉庫まで行かないとダメですね……」
「ただでさえ、危険な一階でも倉庫となれば逃げ場はより狭く、より逃げづらくなる。せめて、救助隊の助けなしでも逃げれるようになればな」
そう言いながら二人は駐車場の端まで歩いて行き地面を見る。雪はここ数日で陽が差したり雨などが降り、少しは溶けたが、走れたとしても雪に水が含んでいる為、途中で雪にタイヤがとられてスタックしやすい状態になっている。
おまけに車がそこら中に止まっており、走行の邪魔となっている。
「戦車でもありゃ、こんな場所さっさと逃げれるんですけどね。そんな都合のいいことないですよね」
「そりゃそうだ」
楽観視はしていられない。
今はまだ助けが来る。だが、もしも、搬送される場所に感染者が現れたり、食料問題にも直面したら、ヘリが来る可能性は減っていく。
二人はそこの部分にも不安が募っている。
「それにしても、雅宗君達は毎日食料調達に付いてきますよね」
「そのおかげでここの全員が生き延びてるんだ。感謝するさ。あのガキ共くらい肝が据わっているなら、もう少し耐えられるだろうさ」
「そうですね……」
「こんな話はやめだ。今現在の残っている人数はどれくらいだ?」
木田の質問に林はメモ帳を取り出して答える。
「中には静止を振り切ったり、深夜にこっそりとデパートからいなくなった人もそこそこ居ますから、正確な人数は不明ですが、まだ200人近くはいます」
「やはり脱出も視野に入れんといかんな」
「脱出ですか……一応はデパートの西側の入り口付近に、市民バスが停まっています。無理やり乗れば三十人は乗れるかもですが、問題は場所や時間ですね」
「それに全員運ぶにも時間も掛かる。かなりの無理がある」
運ぶのには時間がかかり、更には避難場所もない為に、運ぶにも色々な障害がある。
それに市民の不満が募っていき、何が起きるか分からない。深夜、勝手に出ていった市民も増え始めて、限界が迫っているのは一番の問題だ。
「自衛隊のお二人さんに尋ねたい事が」
二人に話しかけて来たのはニヒルな笑みを浮かべる雅宗と、いやいや付いてきた幸久だった。
「なんだお前ら」
「二人の話を聞く限り、困ってますよね。今後の展開が」
「当たり前だ。それで何で気持ち悪い笑み浮かべてんだよ」
ゴマを擦りながら言う雅宗を気味悪がる木田。
すると雅宗は何やら紙を広げ始めた。
「これは、地図か。この印は」
「ラジオで放送されていた避難場所ですよ」
雅宗は二人の前に大阪の地図を広げた。いくつか赤丸が記されており、そこはラジオから定期的に放送されている避難場所であり、学校や公民館、病院などが主な避難場所となっている。
「つまりお前らはこの避難所に行くと言うのか?」
「一部正解ですね。俺らがそこへ行って確認しに行くんですよ。そこがまだ避難所として機能しているかを」
「だが──」
「他の避難所への連絡は取れてないんですよね? なら、確かめに行くしかないでしょ」
連絡を取る手段がない。と言うよりも用意が出来ていない。乗ってきたヘリは故障して無線すら使えなくなっている。
「お前ら、やる気なのは良いが、担任からの許可は」
「先生はもう止めなくなりましたよ。止めても行くだろうと」
「懸命な考えだな。死ぬのは怖くないのか?」
木田も西河先生と同じ考えだった。
こんな若い歳で、しかも九州からの生き伸びてきた。そりゃあ肝っ玉デカいよな。と。
「怖いけど、何度も感染者と共に走った仲ですよ」
「俺もこのままじゃ、色んな問題に直面するだろうから、今のうちに避難所を探すものありだと思います。雅宗のテンションは謎ですけど」
幸久も避難所を探す事を推しているが、雅宗は幸久の言葉に反論した。
「俺はあの源次郎さんの自称息子さんやら、暗い空間での生活に嫌気を指しているだけなんだよ。みんな救助が来ると思っているからこそ、ここにいられるだけで、来ないと分かった途端、暴動が起きるに違いない。だからこそ、ここは先陣を切って避難場所を探して、皆んなを安心させるのが一番だ。避難場所なら食料も救助のヘリの要請も出来て、場所を知ってもらえる」
「そうだけども……」
「なら、すぐにでも決行しよう」
*
話はとんとん拍子に進んで行き、探索チームが結成された。
雅宗と幸久と優佳。由弘と龍樹と蒼一郎の2チームに別れて行く事になった。
雅宗が地図を広げて由弘らに説明をしていた。
「みんなで付近の学校をしらみ潰しに探す。俺らは東に行くから、由弘らは西側に行ってくれ。その他にも道中、何か避難の事やら、救助関連の情報があるなら収集してくれ」
「分かったけど、何で俺らだけなんだ?」
由弘の疑問に雅宗は5人に指差して答える。
「少数精鋭だよ。大人数での移動は危険だし、ましてや元太さんのような運動神経悪そうな人がいたら、それこそ全滅だ」
「ひどい言われようだな……」
「なら、運動が出来て、体力もあって、感染者慣れしてる俺ら6人で行くべきだろうさ」
「納得っちゃ、納得だけど」
「なら行くぜ」
雅宗は楽しんでいる訳ではないものの、何故か気分というかテンションがやたら高い。
優佳はコソッと幸久に聞いた。
「雅宗のテンション高すぎじゃない?」
「不安を安心に変えたいんだろうな。正直、ここにいる全員の募った不安がいつ爆発するか分からない恐怖に駆られている。誰か一人でも不安が爆発したら、連鎖的に爆発する」
「それを雅宗は察知しているという訳ね」
「あぁ。でも、あのテンションが危険にならないと良いが」
不安になる幸久に対して優佳は幸久の額にデコピンをした。
「雅宗なら大丈夫だよきっと。どんな時でも危険な死線を潜り抜けたんだから。親友なら分かるでしょ、アイツなら大丈夫って」
「そうだけど……」
「私はまだ会ってそんなに立ってないけど信じるよ。雅宗と一緒なら大丈夫って」
雅宗は九州でも四国でも危険な場所を潜り抜けて来た。近くで見てきた幸久には分かる。
慣れているから大丈夫じゃない。慣れているから不安だと。ここ数日でも何回も一階へと行って、食料を取りに行っている。
それに幾度となく雅宗は危機を脱してここまで来た。だからこそ、人一倍に恐怖を感じないのだろう。
対して幸久は感情的になると周りが見えなくなる。自分でも分かっているけど、治せないのだ。だから怖い。また、何か皆んなを危険に合わせるんじゃないかと。それでも、行くと決意している。皆んなのために。
そして雅宗はこの状況に慣れているけど、それが一番の恐怖であり、どんな時でも慣れてた頃が一番、恐怖心が無くなるんだ。
何も起きなければいいが……
この時、午前8時49分……