修学旅行13日目 午後5時11分 伸二グループ
午後5時11分……
空も暗くなり始め、タワー内も真っ暗になった。
各部屋には懐中電灯が配られ、少ない食料が配られた。
雪菜は貰ったパンと水を綾音と分けながら、愚痴をこぼす。
「これだけ持たねぇよ。ったく」
「でも、貰えるだけ良いと思わなきゃ」
「そうだけど、これじゃあ……」
そう言いながらも雪菜はさっさと食べ終えり、ソファーに寝転んだ。
「綾音はベッドで寝ろよ。アタシはソファーで十分だ」
「あ、ありがとう。雪菜ちゃんは大丈夫?」
「大丈夫だ。これくらい慣れてるから。お前こそゆっくり休めよ。と言ってもやる事がないし、ゆっくりしろって無理な状態だけどな」
雪菜は毛布を被ってそのまま眠りについた。
綾音もベッドに入り、眠りについた。
そして雪菜はボソリと言った。
「明日も生きような」
「うん……」
綾音は布団をギュッと握りしめた。ここ最近ずっと思う。明日生きられるか分からない。でも生きたい。その想いだけは絶対にぶれなかった。
まだ7時にもなってない中、二人はもう就寝をした。
*
同じ頃、伸二達の部屋──
里彦は未だ寝ているも、伸二もまだ窓の外を見つめていた。
伸二が見つめる外はやはり暗闇。ビルが立ち並ぶ都市とは思えないほど暗く、静かな風景。だが、付近のビル街ではちらほらと光が点滅しているのが見える。多分そこには人がいるのだろう。それにカーテンには"SOS"と赤くペンが何かで粗く書かれている。
でも、自分たちではどうにも出来ないと、諦めをつけて窓から離れよう振り返ると、里彦が目を擦りながら欠伸をしていた。
「里彦……起きたの?」
「あぁ、今何時だ?部屋が真っ暗だが」
伸二が部屋の隅に掛けてある時計をライトを当てて見ると5時を指していた。
「もう夕方の5時を過ぎた所だよ」
「そうか……はぁ」
起きてもまだテンションが低い里彦。
でも、伸二は何も言わずにまた窓を見ようとした。
「それよりもお前、ずっと外見てんのかよ」
「やる事も無ければ、今考える事もないよ」
「……そうだよな。伸二、少し廊下を歩きたいんだ。肩を貸してくれや」
「こんな夜なのに?」
「今の方が良いんだよ……」
そう言って里彦が体がまだ本調子でもないのに、無理やり起き上がり、ベッドから降りようとした。だが、身体のバランスが崩れて頭から地面に倒れそうになった所を伸二が正面から受け止めた。
「大丈夫!?」
「お、俺は少しでも歩く訓練をしたい。いつここが危険に晒されるか分からんからな。それに足手纏いはもう懲り懲りだ」
「やっぱり明日でも、いいんじゃない?夜だし暗いから危ないよ」
「少しでも早く動きたいんだよ。動ける時に動く訓練をしないと行けない気がする。俺が寝ていた間にも予測不可能の事が起きていた。ここでも起きると考えると怖いんだよ。お前も分かるだろ、下を見れば感染者。上を見ればこれでもかと言うくらいの量の飛行機やヘリ──」
「……」
無言で見つめる伸二に里彦は何かを察して口を止めた。
「すまない、また暗い話をしてしまったな。暗い話ばかりで飽きちゃうし、気が滅入るよな」
「大丈夫だよ。ここまでにみんな、暗い話も暗い事をいっぱい体験したし、聞き慣れたよ。それぐらいの話じゃあじゃあ僕はビビらないし、怖がらないよ。前のビビりの僕じゃないからね。里彦の怖い話なんて屁でもないよ」
伸二は優しく笑いながら言い、重苦しい話題を変えた。それには里彦もクスッと笑う。
「へへ、言ってくれるじゃんか。ならとびっきりの隠し玉級の怖い話して、またビビらしてやろうか」
「怖い話より、ずっと怖い体験したから並大抵の話じゃあ叫ばないよ」
「またも言うなぁ。とりあえず、入り口までいいや。歩く手伝いをお願いする」
「うん」
里彦の肩を組み、息を合わせて同時に足を踏み込むが、足の先に力が入らず、崩れるように倒れてしまった。
伸二が咄嗟に支えようとしたが、間に合わず頭を地面にぶつけた?」
「うっ……」
「大丈夫!?」
すぐに立ち上がらせて一度布団に座らせる。
「くっ……」
「足、痛いの?」
「足が痛い訳じゃないんだ。なんて言えばいいんだろう。足に動けと命令しても、足が遅れて動くからタイミングが合わないんだ。足に力を入れようとしているんだが、何故か反応が鈍い」
「……あまり歩くのは危険だよ。まだ起きて1日も経ってないんだし、今は身体を落ち着かせるのが一番だよ」
「そうだが、今は1日でも待っている暇はない。お前なら分かるだろ、ここまで逃げて来たんだから。突然何が起きる分からないんだからよ」
「でも、無理すると身体が余計に動かなくなる可能性もあるんだよ。ゆっくりと──」
心配する伸二に対して里彦は伸二の腕を弱々しい力で握りしめた。伸二が里彦の目を見た。暗闇の中からでも分かった。月の光に照らされて目から流れ落ちている涙が反射していた。里彦は震えた声で伸二に伝えた。
「俺はあの時に撃たれてから、みんなの足を引っ張って来たと思うとムカついてしょうがない。みんな内心邪魔だと思っていただろうな」
「……そんな事ないよ。僕は君の友達だし、他のみんなも一生懸命里彦の意識が戻るのを待っていたさ」
「なら俺が足手纏いになった時は、お前は俺を助けるか?」
その質問に伸二の口は動きを止めた。
「いきなり……何」
「またまた暗い話になるが、俺がこのまま上手く歩く事が出来なかったり、また怪我したりして、俺が感染者に襲われそうになったらどうする」
「どうゆう……」
「そのままだよ。俺を放っておいて自分が助かる可能性を上げるか、助けて自分の命を賭けて助けるか」
「……」
はっきり言って何を答えればいいのか伸二の中で揺らいだ。助けるという一つの答えが本心から出なかった。
自分の命も大事だし、友達である里彦を助ける事も勿論大事だ。だが、命を賭けて助けるかと言われると、答えが不透明になっていく。
まだ上手く歩けない里彦を助けるとなるとどうしても肩を貸して歩く事になる。そうなると走ってくる感染者にどうしても追いつかれてしまう。生存の可能性は低い。その考えが伸二の頭の中を駆け巡った。
だが、里彦は伸二の詰まった答えに対して怒りでも悲しみでもない真面目な顔で言う。
「それで良いと思う。邪魔になったら俺を見捨てれば良い。お前を巻き込んでまで生きたいとは思わない。この先の未来に微かな希望があるなら──」
話の途中で伸二は里彦へ手を突きつけて話を止めた。
「まるで死ぬみたいな言い方はやめてよ。君も一緒に見るんだよ。今生きている皆んなで、元気な日本を」
「なんでそんな恥ずい言葉を迷いもなく言えるんだよ」
「そ、そりゃあ、僕だって言う時は言うからね」
里彦はその遮った手を力がない中、本人なりに強く握りしめて意思表示をした。
「少しずつ足の感覚が戻ったら練習しよう。絶対に歩く」
「うん。そうしよう」
この時、午後5時30分……場面は変わる。