3月5日 修学旅行13日目 午前7時32分 伸二グループ
午前7時32分……
ヘリは街の上空を飛び、目的地の仮の避難所へと向かっている。
伸二は里彦の様子を見ており、雪菜は窓から外を眺めていた。
「飛行機に乗った時は外なんて見てなかったけど、こんなにも街って広くて大きいんだな……」
街は雪が溶けて、いつもの街が広がっている……空から見れば。
だが、目を凝らしてみると車はあちらこちらで電柱やガードレールに衝突し、あらゆる建物で煙が上がっていた。
感染者も豆粒のように見えるが、大量に徘徊しており現実とはかけ離れていた。
「やっぱりどこも変わんねえな」
綾音も外を見て地上の光景に唖然としていた。
そして何十分も経ち、片方のヘリは別の方向へと曲がって行き、伸二らのヘリは徐々にビルへと向かって行く。
ヘリが向かう場所へと雪菜が目を凝らすと、そこには屋上にヘリポートのマークが描かれた場所であった。
「ビル?こんな街中が避難所かよ……マジでか」
「び、ビル!?不安だなぁ……」
『もうそろそろビルに着陸します!!』
ヘリはヘリポートのマークがあったビルへと着陸して、皆は隊員の指示を受けてヘリから降りた。
里彦を用意されたストレッチャーに乗せた。
「皆さん、今現在各所に設置された検査所には大量の検査待ちの人々が大勢います。だから、検査の順番が回って来るまでここの避難所に居てもらいます!」
「食糧とかは大丈夫ですか?」
「食糧もここにはまだ十分に備えてあります。それに10階より下はバリケードを作ってあり、感染者の侵入は食い止めています。だから安全性も大丈夫です」
「……は、はい」
「我々は次の場所に行かないといけないので、これで失礼します。後の事は中にいる職員へと聞いて下さい」
不安でしょうがない。色々と質問したいが、隊員はヘリへと乗り込んですぐにヘリは飛んでいった。
降りた人々は飛んでいくヘリを見つめて、姿が見えなくなるまで見つめ続けた。
「行っちゃった……」
「行っちまったもんはしょうがねぇ。とにかく職員とやらに聞きに行こうぜ。里彦は伸二に任せるぞ」
「え?僕一人!?」
思わず大声を上げてしまった伸二。
「当たり前だろ?男だろ?」
「こんな時ばっかり……」
伸二が里彦のストレッチャーを運び、他の人々と共に建物内へと入る。
そこで職員に話を聞き、空いている部屋を使ってと言われた。
「食料とかは?」
「救助隊の方々のお陰で十分に備えられています。一ヶ月分はあります」
「それは良かったぁ……」
「それと寝たきりの友達はどうすればよろしいのでしょうか?」
「話は聞いております。ですが、医療器具は簡易的な物しか揃ってはおりません。だから、一旦部屋へとお連れください。すぐに器具を持って参ります」
「ありがとうございます」
取り敢えずは安心し、運ぶ事にした。
伸二達は里彦を担架に乗り換えて運び、空いている部屋を探し始めた。
誰かが使っている部屋には赤いテープが貼られており、使っていない部屋には黄色いテープが貼られている。
部屋はカードキーで開くが電気は止まっている為、停電などの緊急時用のロック解除システムが作動していた。
「空いてる部屋、空いてる部屋……っと」
「あった!」
部屋の端二つに黄色いテープが貼られていた。
「なら、伸二と里彦は一番端の部屋な。その隣はアタシと綾音な」
「え?あ、うん」
「まさかあたしらと一緒な部屋で寝るつもりか?」
「いや、そうじゃない……よ」
「なら、さっさと里彦を運ぶぞ」
「も、もちろんだよ。運ぼう」
ドアを開けて、伸二が背を向けて部屋に入ろうとした時、ドア床の段差に足が引っかかり、軽く体勢を崩し担架から手を離してしまった。
その時、担架から里彦が落ち、玄関のタイルと廊下の床の段差に頭から激突した。
「あっ!」
「何やったんだ馬鹿!!」
「躓いちゃって……里彦大丈夫!?」
「聞こえるわけ無いだろ!さっさと拾い上げろ!」
三人は慌てて里彦を拾い上げようとした時──
「あたたた……」
「え?」
三人は驚愕した。
今声を出したのは、地面に転げ落ちた里彦なのか?驚きのあまり、三人は互いの顔を見合った後、伸二が里彦へと話しかけた。
「里……彦?」
問いかけると、里彦はぶつけた頭を撫でながらこちらへと向いた。
「伸二か……てっ、ここは?」
「うそでしょ。里彦が起きた……」
「……足の痛みもない、それに何があったんだ?答えてくれよ!お前ら!」
「あ、あ、あ……」
「何か言ってくれよお前ら」
目の前で喋っているのは間違いなく里彦。
里彦は、いきなり死んだ者が甦ったかのような態度を取る全員に、疑問を抱く。
伸二は驚きのあまりぶっ倒れてしまった。
「あ、綾音……こんな事って医学的にありえるのか……?」
「普通ならあり得ない……医療機器だってない状態で何日も居たのに……普通なら起きずに死んでしまってもおかしくないのに」
「じゃあ何でこいつ、こんなにもピンピンと生きてるんだよ?」
「わ、私にも分からない……よ」
雪菜も綾音も状況を飲み込めず、身体を激しく震わせていた。
「一体何が起きたんだよ?誰か教えてくれよ?」
「お前、大丈夫……なのかよ?」
「大丈夫って?足の痛みがなくなったから大丈夫だが、もう隔離されなくなったのか?」
「隔離?お前、何処か記憶がないんだ?」
「記憶……雅宗と由弘と一緒に汚い病院に運ばれて、部屋に入れらと思ったら変なおっさんに注射を打たれた。そこで意識が失った……」
里彦は九州にいた時に、国吉と言う変な中年男性に足を撃たれた。その後、九州から脱出して四国へと上陸しようとした時に、自衛隊に捕獲されて雅宗と由弘と共に隔離所という名の病院へと連れてかれて、注射を打たれた所で記憶がなくなっている。
三人の様子を見て、やっと今自分が置かれている状況。その時から何日も時間が経っている事に少しずつ気づき始め、身体や声が無意識に震え始めた。
「まさか……あ、あれから時間が経ったのと言うのか……?」
「あぁ、アタシらが九州を脱出したのが、2月27日の夜だ」
「……今は何日だ」
「3月4日だよ」
「一週間も俺は寝ていたと言うのか!?」
「あぁ、そうゆう事だ。自分の身体を見てみろ。痩せこけているのが分かるだろ」
自分の腕を見ると、少し白みが掛かっており、明らかに細くなっている。それには里彦は驚き、立ちあがると足の制御が効かず一歩も歩けずにフラフラと倒れてしまった。
すぐに綾音が駆け寄り、里彦を支えた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、足がうまく動かないんだ……」
「……身体の機能が停止して、ずっと足を動かさずに寝たきりの状態が続いたから身体の筋力が低下します。その影響です」
「マジかよ……」
「身体動かさないと言う事は筋肉など身体を動かす機能が低下していき、筋肉が機能せず、体力が落ち、関節などもうまく動かせなくなります。無理に動くと大怪我を負う事になりますから、今は無理に動かず安静に」
「難しいけど、何となく分かった。長い間寝てたって事だな」
「とにかく一旦担架に乗せましょう」
雪菜は倒れた伸二を蹴り、無理やり起こして全員で里彦を担架に乗せて、ベットの上に下ろした。
伸二も何とか落ち着き、無事な里彦を見て改めて喜びを露わにした。
「本当に良かったよ。里彦が起きて」
「まぁ、みんなの顔を見る限り、色々あったって感じだな。未だに頭の整理が追いつかねぇよ」
「取り敢えず、あれからの事を話すから分からなかった言ってね」
そう言って伸二は里彦に四国の出来事や大阪での出来事を話した。
この時、午前8時16分……




