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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
104/125

3月4日 修学旅行12日目 午前6時35分

 

 午前6時35分……


「ヘリ……」


 上空を飛んでいるヘリを見つけた元太。

 一台のみだが、赤いヘリであり救助のヘリだと気づいた元太はとっさにポケットに入れていたライトでパッシングをし、声を上げて人がいることを示した。


「おーい!!ここに人がいるぞ!!」


 手を振り、場所をアピールしているとヘリはこちらへと方向を変えて、デパート上空に止まった。

 すると何かを投下し屋上に落ちた。元太は真っ先にそれを取りに行った。それは大きめのバックであり、その中を開くと大量の食糧と飲料水。それに医療品や日用品などが詰まっていた。 

 するとヘリから紐が垂らされて1人の救助員が降りて来た。


「すいません。ここにいるのは貴方1人だけですか?」

「いや、何百人もの人がいる。食糧は枯渇している状況だ。2階はまだ安全だが、1階は感染者が徘徊している状態だ」

「そうですか……」

「自衛隊とかどうなっているんだ?」

「今現在、自衛隊も各地で救助活動を行なっているようですが、やはりこんな状況なので困難にを極めています。まだ感染者が出ていない地域への避難勧告や避難場所の設置や整備など全国的に総出動状態です」

「そうか……ここに人が大勢いるが助けられる事って出来るのか?」

「助けたい気持ちは重々あります。ですが一部の病院は感染者によって壊滅し、残った病院も医療が逼迫して薬品も足りない状態なのです。避難場所はまだまだ足りず、今も国民の脱出手段の検討をしている最中です」

「……つまり大勢は連れていけない訳か」

「はい……誠に申し訳ありませんが連れて行けるのは小さなお子様を連れた家族や、怪我人などが優先されています」


 怪我人や子供。何人かはいるが優先すべき人が元太の頭の中に過った。


「怪我人や子供連れの家族ならいる。乗せることは出来るか?」

「今はもう何名か乗せている為今日はもう定員オーバーですが、10名以上は乗せられます。明日以降なら乗せることは可能です」

「そうか……よかった」

「取り敢えず、現在ヘリにある食糧はここに置いていきます。明日必ず行きますので、希望を捨てずに今を生きて下さい。必ず打破する事が出来るはずです」

「あぁ、あんたも1人でも多く助けてやってくれ」

「はい」


 救助員は深々と頭を下げ、ヘリに残った食糧品などを下ろしてヘリへと戻り、ヘリは北方面へと飛んでいった。


「行ってしまったか……」

「ヘリに乗せるって、誰を乗せる気だ?」

「そりゃぁ──うわっ!?」


 隣に現れたのは木田だった。

 いきなり現れ、元太は驚いた。


「びっくりした……」

「プロペラの音が聞こえていれば、嫌でも来たくなるもんだ。で、何を話していたんだ?」


 元太は今の状況や何名か乗せれる話をした。


「子供連れの家族と怪我人か」

「1人は決まっている。里彦君って子だ」

「里彦君?」

「あぁ、あの高校生の中で1人だけずっと昏睡状態に陥っている子の事だよ。本当はみんなといた方がいいかもしれないが、現状いつ目覚めるか分からない状態で、それならまだ医療施設へと行った方がマシだ。それにあの状態じゃあいずれ、足を引っ張る可能性もある」

「確かに一律ある。だからと言って一人にするのは危険だな」

「だから何名か里彦君のクラスメイトや先生を連れて行く。大勢の人々に非難されるだろうが」

「そうなるだろうが、もしも起きた時の事を考えると連れて行くのがいいだろうな」


 二人が話していると、先程のヘリの音に気づいた大勢の人々が集まり始めた。


「大勢が起床したようだな。みんな起きたら説明するぞ」

「その方が良さそうだな」


 全員デパート内へと戻り、集まった人々に先程の出来事を説明した。


「──というわけで怪我人や子供連れなどを優先して大阪市内の避難所にヘリで運ぶ事になった。全員乗りたい気持ちは分かるが、そこは我慢してくれ」


 子供連れは10組程いて、小学生以下の子供を連れているのは結衣を含めて8組いた。その子供連れの親子に木田や林が話をして、なるべく親子全員で行くように決めた。

 結衣は自分から拒否した。幸久が行くまで自分も一緒にいると言って、祖父である源次郎は結衣の意思に従ってそれを許可した。

 そして木田は西河先生にも由美の様子を聞いた。


「熱が出た由美って奴は大丈夫なのか?」

「はい。昨日よりもだいぶんよくなってますし、本人も自分は治ったから他の人を連れてってと申しておりまして」

「あんたから見てその子は無理をしてるようには見えなかったか?」

「……はい。顔色は良くなっていますし、体温も平均にまで下がって大丈夫そうです。でも精神面の問題はまだ……」

「そうか。本人の希望なら乗せはしない。だが、しっかりと容態を確認してくれ」

「分かりました」


 南先生は軽く会釈して生徒らの元へと戻って行った。

 その頃、西河先生は伸二を呼び出して里彦の事を説明した。


「──そうゆう事だ」

「里彦を連れて行くんですか?」

「あぁ、ただ一人でとは言わせん。誰か付き添いで行って欲しいんだ。一人だと目覚ました時、パニック状態になる違いない。そいつの友がいるならそいつも一緒に付き添ってくれ。多少パニックにはなるだろうが、仲間がいれば少しは和らぐだろう」


 雅宗は伸二を呼び出し、西河先生が状況を説明した。


「──そうゆう事だ。辛いだろうが伸二君行ってくれか?」

「はい……でも、またみんなと合流は出来るのでしょうか?」


 その問いに西河先生は一呼吸置いて答えた。


「……正直言ってそれは分からない。救助次第では同じ場所に行けるはずだ。だが、絶対に合流する事を約束する。それに里彦が起きた時近くに居てあげられるのは友達であるお前だけだ。起きた時はサポートしてあげてくれ」

「分かりました……僕、行きます」

「私も一緒に行く。だから安心だ」

「……はい」


 声を震わせて言う伸二。

 里彦と一緒とは言え起きないし、そもそも起きるのかすら分からない。そんな状態でみんなと逸れて別の場所に移動する。それもみんなとまた合流出来るかもわからない。

 多くの感情が交差して黙り込んだ伸二。

 そこに綾音が現れて、声を絞った。


「わ、私も伸二君らと共に……い、行きます」

「綾音ちゃん?」

「先生達はみんなと共に居ないといけないし、少しは役に立てると思うし……」


 綾音が疲れ果てたように言い終わると、そこに雪菜も前に現れた。


「お前ら二人じゃ頼りなさそうだから、あたしも行ってやるよ」

「え?」

「綾音と言う通り、先生らは他の奴らの相手しなくちゃいけないんだろ?なら、医学の意識がある綾音と用心棒のあたし。そして里彦って奴のダチの伸二。これだけいれば安心だろ。先生らはそのままコイツらを連れて行けよ」


 雪菜の強気なセリフに伸二も西河先生も驚きを隠さなかった。


「な、何を言っている!生徒らだけで行っていいはずが──」

「何度も言わせんなよ先生。あたしらがヘリに乗って別行動するって事だよ」

「それがいけないと言ってるんだ。子供だけで行動はさせられないと言ってるんだ!」

「こんな時ばっかり子供って言ってよぉ。あたしは大人だぜ。大人」

「伸二の奴にも言ったんだろ、会えるって。それをあたしらは信じるだけだ。危険と隣り合わせなのは分かる。だけど、大丈夫だと信じるだけだ。一生会えない訳じゃないんだから、少しの間だけなんだから心配無用だ」

「……」


 そこにまた伸二と綾音が西河先生の前に出てきた。


「先生達の事を信じますから、僕達だけで行かせて下さい先生。絶対に会えると信じてますから」

「……私も信じていますから、お願いします」


 二人の言葉に西河先生も後から来た南先生も静かに頷いた。

 別の場所では元太が雪菜を聞く。


「お前も本当にいいんだな」

「もちろん、覚悟は出来るさ。だから心配は無用だ。それよりも二人が心配だ」


 雪菜は周りを見渡して人気が少ない場所へと向かった。


「はぁ……」


 一人でため息を吐く綾音。行くって言った事を少しばかり後悔しているのか、

 そこに雪菜が綾音の隣に座り込んだ。いきなりの雪菜にビビる綾音だが、雪菜は綾音の目を見つめた。


「綾音」

「……な、何?」

「凄えなお前」

「え?」

「他の奴らと離れる決意を……会えるかもって言われても、本当に会える可能性なんて低いんだろ。あたしらがここを離れても行き先が本当に安全なのかも分からないし、このデパートもいつまで持つかも分からない。残ってる奴らもを多いから、みんながあたしらが行く場所に来れるかも分からない」

「……自分がここに居ても足手纏いになるかもしれないし、少しでも何かの役に立てるならって思って……」

「あたしなんかよりもずっと役に立ってるさ。医療の知識があるだけでも十分過ぎる。自分に自信を持てよ」


 そう言って雪菜は軽く綾音の頭を撫ででその場から離れて行った。

 その姿を見た理沙は雪菜の後を追い、端で一人で佇む雪菜へと話しかけた。


「優しい事言うのね雪菜ちゃん」

「ふん。あたしはあのバカにに影響されただけ。人助けなんて柄でもない事をしちゃったよ」

「人助けなんて無意識にしてしまうのよ。あの人の言う通り、見た目に反して良い子じゃない」

「あのバカがあたしらを助けてくれたから、同じようにあたしらしくもない事をしてしちまったよ。それに綾音が一歩前に踏み込んで声を出した。誰よりも早く……それにも感化されたされたんだろな」

「それで良いのよ。人は人と触れ合って変われる。ヤンチャだった私もあの人と出会って変わる事が出来たんだから」


 理沙は笑いながら雪菜の頭を強めに撫でた。

 恥ずかしくなった雪菜はすぐに理沙の手を払って目線を逸らした。雪菜は目線を逸らしたまま話した。


「鹿児島で初めて感染者と出会った時に、感染者に襲われたダチ……いやダチとは思っていなかったか。自分の手下達を置いて行ってしまった。助けてとか待ってとか言ってたのに……自分だけを考えて逃げてしまった。そのあとはずっと後悔して、今でも時より奴らの助けを呼ぶ声が聞こえて来るんだ。そんなアタシが優しい人間な訳無いさ。綾音の事もうじうじしてるかって理由で虐めていた。今でこそ少しずつ後悔している……」

「……イジメは行った側は忘れてしまう人がいる。覚えていたとしても気にしない人もいる。でも中には貴方みたいに罪を認め、後悔する人も勿論いる。後悔すれば少しでも心を変えられる。俗に言う人生の分かれ道って奴よ」

「今からでも踏み外さない道を歩んでやるよ」


 力が篭った声。それが雪菜の決意だった。


「でも、本当に大丈夫?貴方がいるとは言え、三人もいるのよ」

「あのメンバーならもう慣れたから大丈夫だ。あいつらなら簡単には死にやしないさ」

「貴方が言うなら大丈夫ね」

「今度こそ守ってやる。仲間達も先生達との約束も……」


 雪菜は理沙と握手を交わした。理沙から見た雪菜の顔からキリッとした勇ましい目つきをしていた。元太のようなどんな時でもしっかりとした強い人間の目だった。

 この子なら大丈夫だと理沙は感じた。


 この時午前7時18分……

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