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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
103/125

修学旅行11日目 午後8時17分

 

 午後8時17分……


 何とかして食糧を手に入れたとは言え、あまり量は無いため、祝う事とか一切なしで昨日と同じ量だけ配られた。

 雅宗と真沙美も先日と変わない量を貰い、ちまちまと食べていた。雅宗は腹をさすりながら文句を垂れる。


「ここ一週間、あんまり食べてないから、これだけじゃあより腹が減るよ……」

「本当は頑張った雅宗にもいっぱい食べさせてあげたいけど、これもみんなの為だと思って我慢するしかないわ」

「……うん」


 雅宗のぐっと堪えている顔を見て、真沙美は自分の菓子を少し雅宗に分け与え、少しでも雅宗の腹の足しにしようとした。

 だが、雅宗はすぐにそれを拒否した。


「真沙美の分まで貰うなんてダメだ。お前が食え。お前も心身共に疲れてる筈だ」

「少しでも雅宗が腹を満たせるなら、あげるわよ」

「……」

「遠慮しなくていいわよ。男の子なんだから、お腹減るもんね」


 無理やり押し付ける真沙美に雅宗はしょうがなく一度頭を下げて菓子を口に運んだ。


「……すまんな」

「いいのよ。それくらいの事してくれたんだから」

「本当にありがとう」


 そして食い終わると真沙美は幸久と由美の様子を見に行くと、女子室へと向かった。

 少しは腹を満たせて満足した分、真沙美に気を遣わせている事に心苦しくなる雅宗は気分転換に由弘の元へと向かった。

 由弘は蒼一郎や龍樹と共にいた。


「雅宗、疲れは取れたか?」

「あぁ、少しはね。でも、ここで三人揃って何やってんだ?」

「後でお前や幸久も呼びに行くつもりだったが、何でもいい物を下から取ってきたからお前らにプレゼントするだとよ」

「へぇ……幸久は後で持って行くか」


 蒼一郎は一人でライトを当てながら100ピースを超えるパズルを攻略していた。


「お前も何してんだ。こんな時に」

「やる事ねぇからパズルでも攻略するんだよ。俺一人でやるから手出し無用だぞ」

「あっそ……」


 そこに元太が何かを両手で持ちながら四人の前に現れた。


「雅宗君も来たか」

「元太さんも無事でホント良かったよ」

「お前達もな。だから頑張ったお前達に景気づけとして持ってきたぜ」

「それって?」


 元太が由弘らの前に置いたのは一升瓶であり、全員見た瞬間に酒だと気づいた。

 全員が驚き、由弘は思わずに二度見してしまった。


「お酒ですか!?」

「そうだぞ。元気づけに飲もうぜ」

「俺達みんな未成年ですよ!飲めるわけ──」


 慌てて拒否する由弘に対して、元太は笑いながら語った。


「俺が高校の頃は友達の殆どが酒もタバコも何でもヤリまくりだったけどな。まっ、その度に先生にゲンコツ何発も貰ったがな。はっはっは!!」

「ですがね……」

「それも青春なんだよ」


 酒を勧めてくる元太に躊躇する由弘だったが──


「俺、昔から酒を飲んでみたかったんだよなぁ」

「酒を飲んだら大人の仲間入りっていうもんな」

「そうそう」


 由弘と違って、雅宗と蒼一郎はノリノリで酒を見つめて話していた。

 龍樹まで──


「結構いい酒じゃないか」

「おっ、龍樹君だっけ?分かるかぁ?」


 龍樹までが興味を示して流れは飲む流れへとどんどん進んでいった。だが、真面目な由弘は雅宗らに注意を促す。


「お前らなぁ。酒は未成年はダメだって言われてるだろ」

「いつかは飲んでみたいって意味で言ったんだよ。本当は今すぐにでも飲んでみたいがな。腹の足しになるかもしれんし」

「欲望丸出しじゃんか」


 元太さんがコップまで何個か用意して瓶を開けようとした。

 蒼一郎と雅宗はドキドキして、開ける瞬間が待ち遠しくなる。


「さぁご開帳だ!!」

「大人の階段のぼ──」


 その時、二人の後ろから西河先生がのっそりと現れて二人の肩を握った。そして小声で語りかけた。


「酒でも飲む気かお前ら」

「え?いや、それは……」


 全員身構えたが、西河先生はゆっくりと雅宗らの前に座りこんだ。

 でもその顔は怒ってはおらず、穏やかで優しい表情であった。


「先生……あのぉ……」

「前なら叩いてでも止めただろうが、もうこんな状態だ。好き勝手にやってくれ。先生も少しだけ飲ませてもらうぞ」


 その言葉に蒼一郎と雅宗はお互いの顔を見つめ合って、喜びを共に分かち合った。まさか先生から、そんな言葉を貰えるなんて思ってもおらず、驚きのあまり先生の肩を何度も叩いた。


「さっすが先生!!話が分かってくれてありがたいぜ!」

「ストレスが溜まっては物事が捗らん。なら、頭を空っぽにするのも偶には良いもんだよ。酒は頭を空っぽにするには丁度いい」

「へぇ」


 そして元太からコップを渡されて最初は西河先生に酒を注がれた。


「さぁ先生!!子供達に模範的な飲み方を!」

「は、はい」


 西河先生はみんなが見つめる中、ゴクッと一気に飲み込んだ。そしてテレビとか見る、気持ちよさそうな声を上げた。


「ふぅ〜」

「流石先生だ!!」


 元太は大きく拍手し、先生を褒め称えた。

 そして別のコップにも酒を少量だけ注いで、雅宗ら三人に配った。


「最初はこれくらいで我慢しろ。さぁ、飲んでみろ」

「う、うん……」

「本当は初めてならサワーとか酎ハイの方がいいだろうけど、取ってくるのを忘れてな」


 雅宗と蒼一郎がコップを見つめて戸惑っていると、龍樹がゴクッと躊躇わずに飲み込んだ。

 それには雅宗らもびっくりした。


「の、飲みやがった……」

「それも一気に……」


 龍樹はコップを力強く地面に置いて、頬を赤らめて腕を組んだ。


「こんなもんにビビってたまるか」

「お、大人だな……なら、俺らも」


 雅宗と蒼一郎はお互いの顔を見合って、覚悟して軽く一口だけ飲み込んだ。


「……」


 初めて飲んで思った事はとても不思議な味だった。独特な風味と臭いで、辛いと言うか甘いというか、何とも言えない味であった。これが大人の階段を登る味なのか?それとも歳を取ればもっと美味く感じるのか?と思いながら雅宗は絶妙な表情で飲み込んだ。

 喉の奥まで飲み込んだ二人は再びお互いの顔を見つめた。


「まぁ……」

「美味しい……かな」


 そんな答えに元太は大声で笑った。


「はぁ〜はっは!!俺も高校で初めて飲んだ時、同じ感想だったよ!どんどん飲めば分かるよ!」

「本当かなぁ」


 どんどん飲んでいる雅宗達の前に秀光まで現れて、酒を見て舌舐めずりをする。


「あんたらいいもん飲んでるやん。俺にも飲ませて」

「堂々と来るなぁお前は。あのおチビちゃんはどうした?」

「もうぐっすりや。お子様の時間は終了。今は大人の時間やから、酒飲ませてもらうわ」


 雅宗が持つ酒が入ったコップを奪って飲み込み、思いっきり息を吐いた。


「ぷへぇ……」

「いつも飲んでるように飲むなよ……」

「初めてやけど、身体に効くなぁ……」


 雅宗らが飲んでいる最中、西河先生と由弘に話していた。


「やっぱり先生も大変ですね。こんな馬鹿達の面倒を見て」

「規律ある大人を演じるのもキツいもんだよ。毎日生徒達に正しき大人を見せ続けるのは」

「大人ってそんなにキツいんですか?」

「あぁ、子供の頃ほど失敗は許されない。お前達は失敗しても立ち直る時間があるし、簡単に忘れてしまう事だって出来る。でも、大人になるとその一度の失敗はずっとずっと長い間頭にへばりつく」

「……でも、先生は取り乱さずにここまで俺らを導いたじゃないですか」

「いや、お前や幸久や雅宗らのような生徒達を見て、自分を無理矢理奮い立たせただけだ。お前らの行動力溢れる姿に負けてられないと思っただけだ。皆には感謝している。こんな先生について来てくれて」


 そんな事を話していると後ろから雪菜が顔をのぞかせていた。

 その姿に元太が一升瓶片手に上げて、雪菜を呼び込んだ。


「雪菜、お前も飲むかい?」

「あ、あたしは理沙さんが。別に……いや、やっぱり飲んでみる」

「無理はすんなよ。大人の飲みもんだからよ」

「大丈夫だよ!あたしはもう大人だ!」


 雪菜は元太の酒の入ったコップを奪い取り、勇ましく一気に飲み干して、コップを地面に強く置いた。

 流石に元太も予想以上の行動力に驚きを隠せなかった。


「お、おい。流石に一気の飲むのは……」

「ふへっ……これでも大人じゃないと言う気か……」

「そうゆう問題じゃあ」

「あたしぃは、まぁだ……飲めるぅんだよ……まだぁ……」


 もう酔ったのか顔が真っ赤になり、ふらふらと揺れ始め呂律が回らない雪菜。そのまま座り込み、ボーッと虚空を見つめていた。

 そこに理沙が現れ、倒れそうになる雪菜をとっさに支えた。


「あんた何飲ませてんのよ!」

「いや、だってコイツが勝手に!」

「あんたが挑発するから雪菜ちゃん飲んじゃうんでしょ!このバカ!」


 理沙は元太の頭にゲンコツをお見舞いし、ヘロヘロになった雪菜を担いで女子部屋へと連れて帰った。

 たんこぶが出来てないか頭をさする元太に対して、何杯も飲んでテンションが大分上がっている雅宗は言う。


「やっぱり女性は勇ましくて、強いですねぇ!俺も真沙沙美には敵いませんよど」

「アイツは酒にめっぽう強いから、全然酔わないんだよなぁ」


 龍樹も結構飲んで、顔真っ赤になって由弘に肩を組んで酒を勧めた。


「お前は飲んでみないのか?」

「俺は……パスだ」

「優等生らしい答えだなぁ、おい」


 普段のクールな龍樹とは違って、酔ってしまっているのか口調が崩れている。そんな状態に由弘も戸惑いを隠せなかった。


「お前酔ってるんじゃねぇのか?」

「俺は全然酔って──」


 龍樹はぶっ倒れてそのまま寝てしまった。

 その後も雅宗らは酒を飲んだらしてどんちゃん騒ぎしながら、気の抜けた雰囲気のまま夜が明けた。


 *


 朝──寒さに思わず目が覚めた元太は頭がズキズキしながら起き上がった。目覚まし時計を見ると6時30分であった。


「うっ……頭がちっとばかりズキズキ来るなぁ。飲み過ぎたなぁ……トイレいこ」


 周りを見ると酒臭くなっており、みんないつも以上に熟睡していた。生徒らは特に爆睡しており、龍樹は一升瓶を握りながら寝ていた。


「よく寝ているなぁ……」


 トイレは臭いの関係上外へ出てする事になり、屋上へと出た。

 雪は降っていないが、相変わらず寒風が吹き肌寒い状態は続いていた。


「さ、寒い……とっとと済ませよう」


 屋上の端から外へと小便をして、静まり返った外を見渡した。雪は少しばかり溶けたようだが、それでも歩くにはまだ困難な状況ではあった。

 どのみちまだ、ここから離れる事は出来ないだろうなと思いながら、小便を気分良く終えた。

 すると静まり返った街に何処からかプロペラ音が聞こえてきて、徐々に接近して来た。その正体は──


「あ、あれは!?ヘリ!?」


 この時、午前6時35分……

*お酒類は法律によって未成年は飲むことが禁じられています。未成年の方は絶対に飲まないで下さい。

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