表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
102/125

修学旅行11日目 午前9時04分

 


 午前9時04分……


 船木がアディソンに軽く会釈をすると、すぐさま船内へと向かおうとした。


「教え子との再会はそんだけ?もうちょっと感動的なもんじゃないかしら?」

「こんな状況で呑気に話している場合じゃないじゃろう」

「もう」


 適当にあしらわれて呆れるアディソンをよそに、船木はさっさと船内へと入り、事務室へと向かう。

 道中、船木はアディソンの頭の包帯を見て言う。


「お前さんのヘリが墜落したと聞いたが、その様子じゃあ無事のようだな」

「えぇ。隊員の皆さんが助けてくれたお陰で軽傷で済んだわ。みんな別に場所に手伝いに行ったみたいだけど」

「そりゃあ良かった」


 二人は事務室へと入り、船木は真っ先に椅子へと座り、アディソンのパソコンを弄り始めた。


「女の子のパソコンを断りなく触る?」

「構わん構わん」

「全く、その性格は嫌われるわよ」

「生い先短いんじゃ、どうでもいいわ」


 パソコンで今現在の日本の状態や海外の動きを確認していた。


「世界的な感染はまだ起きてはいないわよ。まだ日本で止まってくれているわ」

「今はな」

「えぇ、世界はワクチンの開発をしているらしいけど、自衛目的だろうね」

「当たり前じゃ。滅ぶ未来が見える国に手を差し伸ばすより、自国や近隣の国内と手を組んで感染経路の遮断。又は協定を組むか」

「ちょっと退いて先生。今現在の日本の感染速度データを見せるわ」


 アディソンはパソコンを奪い返して、データを開き始めた。


「2月25日、今から一週間前に鹿児島県鹿児島市西千石町にて初めて感染が確認されて8時20分以降に複数の電話が警察に連絡が入ったわ。駅前や港付近、はたまた旅館付近まで発見された事から8時以前から感染者がいたことが分かる。警察によると最初の3件の電話の内2件が港の作業員である事が判明してるわ」

「やはりウィルスは遠くの国から来たか」

「一応港の情報を手に入れたけど、その日だけでも何十ヶ国の国から様々な物が輸送されていている」

「7時から8時に入港は分かるか?」

「えぇ、でもその時間帯に港に入港した記録はないわ。最後に来たのは5時20分頃に入港したインドネシアよ。荷物は野菜や果物などの食物よ。どれも違法性のない、正常な物ばかりね」


 調べてもよく分からず、資料も少ない。そんな状況に船木は顎をさすりながら見切りをつけた。


「う〜ん。こういうのはワシらの仕事じゃないな。もっと上の仕事じゃ、下手に深く調べて、身の危険を犯す真似はしたくはない」

「まっ、ごもっともな意見ですこと」


 そう言ってアディソンはパソコンを閉じて立ち上がり、コーヒーメーカーからコーヒーを取り、カップに注いで船木へと渡した。

 二人はコーヒーを少し飲み、船木が揺れるカップ内のコーヒーを見ながら口を開いた。


「もはや原因なんてどうでも良い。昔から人類は未知数のウィルスに対して無惨にも敗北をして来た。だが、時が経てばあの時のウィルスなんて今では簡単に解明され、対策法をすぐに打てる。だが、今回はどっちに傾けれるかの勝負じゃ」

「天然痘みたいに、その当時は対策法が見つからず、ただ死を待つだけの感染症。だけど、時が経つにつれて対策され、感染者の数も減り、そして1980年に根絶宣言された……」

「それと同じで人類は太刀打ち出来ないウィルスへの脅威と戦いを強いられている。天然痘と同じで、いつしかは根絶出来るか。それとも人類が根絶されるのか。正直言って、こんな事態巻き込まれているのに、何処かワクワクしている自分がとても怖いわい」

「研究者って変な思考の多いのかしらね。私も同感よ。助けたい気持ちもある。でも、このウィルスを根絶する方法を探りたいわ」

「名を残す発見をしたいのが研究者よ。それが、ワシの夢じゃ」


 船木がコーヒーを飲み終わると別の話を始めた。


「以前の中国のウィルスが流出した時、ワシは裏のコネを使ってそのウィルスのサンプルを貰い、厳重な施設でワクチンの開発を何年も行った。徹底的な管理を行い、外に漏れ出ないように研究をした。その時に我々の間でつけたウィルスの名は、"エクリプス"」

「エクリプス……」

「エクリプスは感染者の飛沫や体液が、人間の血液器官へと侵入した場合、血球をいとも簡単に自らの養分として吸収して、未知なる血球を作り始め、その血液を身体全体にものの数分で一気に広める。つまり侵食じゃ」

「侵食……」

「血液が脳にまで達した時、脳は神経麻痺を起こし身体の機能を停止して、一種の仮死状態へと陥る。すぐに停止した脳のみがウィルスに反応して稼働状態に入る。これに関してはまだ未解明だ。そして稼働状態の脳はまるで凶暴な肉食動物の本能そのものを写したように、人を襲い肉を喰らう。同じ感染者になり、新鮮な肉の匂いから腐臭に変わると興味を失い、また別の人間を探す」

「つまり生きてる時と同じ、食べ物を食い続けないといずれは死ぬって事?」

「そうじゃ。所詮形成は人間と同じ。いずれは食べ物を無くした感染者は何年かすれば、養分を賄う事が出来ず、また肉体の腐敗も進んで滅びる」

「……」

「まっ、これを見てくれないか?」


 船木が懐から取り出したのは、USBメモリであり、それをアディソンは受け取ってパソコンで調べ始めた。


「これは以前研究所で撮影したウィルス実験じゃ。今回の感染と類似してる部分が多い」

「流石教授。やるわね」


 一つの実験映像と名付けられた動画ファイルを開き、動画を見た。

 映像には真っ白い部屋の中で分厚い防護服を着た数人が小さなケージを囲み、紙に何かしらを書いていた。そのケージの中に入っているのは二匹のネズミで、ぐっすりと眠りについていた。

 そこにいる一匹のネズミに注射を打った。


「試しにウィルスをネズミへと投与し、様子を伺った。すると、ものの数十秒でネズミは白眼へと変わり、身体中の血管が浮き出て来た。そして一分後には、感染者と同じ症状に陥り、同じ感染していない仲間のネズミに飛びかかった」


 注射を打たれたネズミは普通に歩いていたが、1分後突如として倒れて口から泡を吐き出していた。すると、突如目が真っ白になった状態で起き、隣にいるネズミへと飛びかかり、食い始めた。

 通常ネズミとは違い、肉へと噛み付き、全身血まみれになるも食うのを辞めずに原型を止めてない程に食い荒らした。

 その凄惨な光景にアディソンは耐えきれず、目を逸らして映像のファイルを閉じた。


「もう十分よ。痛々しい光景ね」

「このウィルスは数年前に中国北東にある各地の山から、突然噴出した天然ガス。人は住んでいなかったが、ガスが地下深くから発生し、それに影響されて水質汚染された水がガスと共に地上に流れて、動物達へと感染を広げた。天然ガスの発生は何年も前から噴出していたらしいが、中国当局は発生源が山奥にあり、重機などが届かない場所にある為に道を整備した後に、掘削する事にしていた。だが、ここ最近でガスは突然的に変化し、エクリプスへと変貌を遂げた」

「でも天然ガスって人体の影響はないはずじゃない?」

「そう天然ガスは安全なのが特徴であり、毒性ガスが含まれている事はない。因みに毒ガスには塩素や亜硫酸ガス、一酸化炭素などがある。だがエクリプスは今確認されているガスの種類にどれも当てはまらない謎の性質がある。それが、体内に影響を及ぼしているとしか言いようがない。現場に行こうにも、とっくに中国側が山を封鎖し、手出しが不可能になった」


 船木は懐から筆箱サイズの箱を取り出した。中を開けるとそこには透明な液体が入っている試験管が2本入っていた。


「それは?」

「ワシが作った試験的なワクチン。名はまだ考え中じゃ」

「動きが早いわね」

「数日前、四国の病練にて試しに眠りについていた二人の高校生に仮のワクチンを打ったんだよ」


 二人の高校生とは雅宗と今も寝ている状態の里彦である。


「仮のワクチン?」

「うぬ。元気ある若者に打ってどこまで効き目があるか調べる為、大丈夫なのかを調べる為にな。だが、副作用がな……」


 何処か勿体ぶった言い方にアディソンは食い気味に聞く。


「その副作用は?何?」

「ちょっとやっちまったかなって」

「どんな?」

「根本的な効力は血球を強化して体内に侵入し、血球を吸収しようとするウィルスを逆に吸収し消滅させる。だが、副作用としてエクリプスに食い荒らすほど強固な血液へと進化させ、肉体も通常より力が向上してしまう作用がある」

「なにそれ?身体能力が上がるってこと?」

「そう。それくらいの薬を使わないとエクリプスに打ち勝つ事は出来ないと言うことだ。効けば今言ってように身体能力が上がる。逆に効かなければ、一種の昏睡状態へと陥る。私は二人の高校生にワクチンを打った。一人は起きて、街へと出ていった。だが、もう一人は昏睡状態へと陥った」

「二分の一の確率で生か死ってことね」

「そうかもしれんが、人間に打ったのは初めてで、どれくらい眠りにつくはまだ想像もつかん。すぐに起きるかもしれんが、ずっと寝ているかもしれん。だから、それを確かめる為に──」


 また懐から出したのは先程とは別のUSBメモリであった。


「それって?また、何か映像?」

「いやいや、これには追跡アプリが入っているんじゃ」


 先に刺していたUSBを抜いて、今出したUSBをパソコンに挿し、アプリを開こうとする。


「彼らの身体にはチップ状のGPSが体内に含んでいる。彼らが生存しているなら、体温に反応して赤色が丸が出る。死んでいる又は感染者になっているなら、体温が低いとして青色が出る。それを確かめるアプリなんじゃい」


 そう言ってアプリを開くと、そこには普通の日本地図が映し出され、二つの赤い斑点が大阪にて激しく点滅している。拡大すると、二つの赤い斑点は同じ大きな建物におり、一つは動く事は微動だにしないが、もう一つは小刻みに右往左往していた。


「赤色って事は」

「彼らは生きているか……場所は大阪府。堺の北区にある大型デパートにいる」

「生きているのは良いけど、それってワクチンのお陰?それとも彼らの生命力かしら?」

「どちらにせよまだまだ監視実験は続けれそうじゃ。いづれは彼らと合流したいもんじゃよ」

「その時は私もね。インタビューしたいもん」


 そうして二人の会話はまだまだ続いたのだ。


 この時、午前10時00分……

 時は流れ、午後8時17分……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ