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僕らの終末旅行日記  作者: ワサオ
第3章 狂乱大阪編
101/125

修学旅行11日目 午前8時40分

 午前8時40分……


 雅宗達が無事に2階に戻って来た。雅宗と幸久の二人が疲れで寝転んでいる間に、林はすぐに木田の方面へと走って行った。


「僕は木田さん達の方に見に行くから君達は休んでいて!」

「はい、ありがとうございます」


 林が走り、雅宗達は蒼一郎から水を貰い、ヘルメットや防護のために着ていた服を脱ぎ散らして、水を一気にがぶ飲みをした。

 二人の飲みっぷりは凄まじく、ものの10秒程度で飲み干した。


「ふぅ、なんとか助かってよかった」

「あぁ、よく生きてるなって思うよ全く。感謝するぜ雅宗」

「こっちこそ」


 二人が水を飲み終えると、中央の吹き抜けの音が止み、真沙美が雅宗の元へと駆け寄って来た。すぐに真沙美は雅宗の顔を見て、怪我がないか体を隈なく確認し、怪我などがない事を確認すると、安心しきった表情で身体の力が抜け落ちていった。


「雅宗、大丈夫のようね……」

「あぁ、幸久のおかげで無事にな」

「良かったぁ……ふぅ、安心したわ」

「命を危機を感じたけど、今回も無事で良かったぜ


 由弘は雅宗に簡単に告げる。


「俺は元太さんらの方へと行ってくるわ」

「おう、無事だったか確かめてくれ」

「おう」


 疲れが取れた幸久はバッグから風邪薬や栄養剤などを取り出すと立ち上がり、雅宗に告げた。


「俺も由美の行く。お二人さんはそのまま一緒にいな」

「あぁ、今はそうさせてもらうよ。お前も早く由美の顔を見てくるんだな」

「あぁ、薬があるならすぐに治るはずだ。行ってくる!」


 そう言って嬉し顔の幸久は急足で由美の元へと走って行った。

 だけども、雅宗と真沙美は幸久が見なくなると不安な表情を浮かべた。


「あれで治ればいいんだがな……」

「えぇ。でも、由美は熱以外にも精神的にも疲弊しているから、熱が引いても、前のような元気のある由美が戻るのは時間がかかるわ」

「……俺達が少しでも力になってやるんだ。元気な由美に戻る為に」

「その通りね……少しでも由美の元気をね」


 そこへ西河先生と教頭が来て、雅宗達の安否を確認しに来た。


「先生、何とか無事に帰ってきましたよ」

「本当によかった……ずっと不安でしょうがなかった」


 安心し切った表情に雅宗も苦笑いをした。


「俺ぐらいで、そこまでならなくても先生」

「お前らだからこそだ。何か起きる度に先生は何も出来ずに慌ただしくしているが、お前や幸久は咄嗟に行動を起こして最適解を見つけていた。だから、今他のみんなにお前達は必要なんだ。俺なんかよりも」

「西河先生がそんな事言わないで下さいよ。俺らが出来るのは、単に何も考えず、生き残ろうとする本能で動いているだけです。つまり若いからですよ。恐れはあっても、恐れは死ぬと思う直前まで感じない。だからこそ、幸久も由弘もあんなに恐れ知らずなんですよ」

「でも……先生失格だ」


 何も出来ない自分に元気を無くす先生に雅宗も真沙美も何も言えなかった。

 教頭も何も言わず、浮かない顔で西河先生の肩を叩いた。


「西河先生は一度離れなさい。私も彼らと少しだけ話をしたい」

「……分かりました」


 先生は暗い顔のまま暗闇に歩き去って行った。その背中を見て、雅宗達は申し訳なくなった。先生の威厳がなくなっているこの現状に。

 二人の前に教頭がしゃがみ込み、照れ臭そうに話しかけて来た。


「何と言えばいいのか分からないが、よくやった。ありがとう」

「……は、はい」


 そう言うとすぐに立ち上がり、そそくさと小走りで走り去って行った。


「あの教頭素直じゃねぇな。もっと褒めたって良いだろうに」

「でも、三人には感謝している事には変わりないわよ。あんなんでも」

「そうだろうかね」


 その頃、幸久が由美の元へと向かっている中、由弘は同じく戻って来た元太の元へと駆け寄った。

 服を脱いで汗だくになった元太の背中には、大きなバックの中にパンパンに詰め込まれている食べ物の姿があった。


「元太さん大丈夫でしたか?」

「俺もみんなも無事だったぜ。音を出し続けてくれた2階のみんなのおかげだ。その顔だと、お前らも無事のようだな」

「はい!すこし、アクシデントがありましたが、何とか乗り切れました」

「そうか。良かった。お前らも俺らも無傷で生還したのは奇跡だと思うが、由美ちゃんの方はどうだい?」

「一応、幸久に向かっているかと思います。これで少しでも由美が元気になってくれれば良いんですがね」


 不安な顔になる由弘だが、元太は笑いながら由弘の頭を優しく叩いた。


「そう不安な顔になるなって!治るさ、由美ちゃんは。昔から薬を飲んだら治るって言うだろ。それに梨沙や南先生も隣にいて、友達もいて、何より幸久君もいる。こんな環境だけど、それを乗り越えられる仲間がいる。だから今は由美ちゃんの前だけでも、笑顔で接してやれ」

「……そうですよね。俺らが元気にならないとみんなは元気にならないですもんね。ありがとうございます」

「良いってことよ。一緒に由美ちゃんの元へと行こうぜ。幸久君もいるかもしれないし」

「はい」


 元太は木田に食糧を渡すと、由弘と二人で由美がいる女性用部屋まで行った。

 木田や林は店長や源次郎へと取ってきた食糧の分配について話し、念のために倉庫へと入れて鍵を閉めた。

 その頃──西河先生は一人、何も稼働していない静かなゲームセンターへと足を歩かせ、ベンチに腰を下ろした。そして俯きながら深くため息を吐いた。


「はぁ……先生失格だな」


 ここ最近の自分を考えると、何も出来ていないと思ってしまう。生徒達は独自で行動して生き残って来た。危険だとわかっていても、突っ走って危険地帯を潜り抜けてきた。

 南先生も生徒達へ親身になって接して、生徒達を安心させて来た。自分よりも頼りがいのある先生であると。

 それに比べて自分自身は何も出来ていない。言葉を言っても、説得力がないだろう。自分に比べて元太さんは凄い人だ。自分とは真逆で説得力のある事を言ってみんなに元気を分け与えている。

 今の自分なんかよりも先生をしている。

 西河先生は一人、静かに今の自分を考える事にした。


 *


 幸久は由美に薬を渡した。あまり意識がない状態であったが、南先生や医療知識がある綾音が手伝って飲ませた。優佳も見守る中、由美は落ち着いて、深い眠りについた。毛布などを掛けて暖かい状態を保ち、安静にさせる。


「これで、何とか治ればいいんですが」

「大丈夫よ。今は身体を休めて、温める。後は由美ちゃん次第……ね」

「……はい」

「幸久君も身体を休めるべきよ。ここ数日間で貴方も、体力的にも精神的にも疲れているはずだからね」

「はい、分かりました」

「何かあったら、連絡するからね」

「ありがとうございます」


 元太は梨沙と話しており、ある物を渡した。


「南先生と梨沙にこれを渡しておくよ」


 そう言って元太は懐から取り出して、二人に渡した。それは小型のスタンガンであった。


「スタンガン?」

「そうだ。スタンガンだ。威力は弱めだが、大人一人なら簡単に動きを止められるはずだ。俺も一つ、西川先生にも一つだ」

「もしもの時って事ね」

「あぁ、子供達には渡すな。感情が昂ったら、何をしでかすか分からん。だから、俺ら大人が持ち、もしもの時に使うんだ」

「分かった」

「俺は木田って奴のところに言ってくるから、由美ちゃんらを頼んだぞ」


 元太は軽く微笑むと、立ち上がって木田の元へと歩いて行った。


 *


 その頃──木田や林、デパートの店長、そして源次郎らが倉庫に集まり、残った食糧を見て話し合いをしていた。

 大きなバック10個にぎっしりと詰められた食糧。だが、中には飲料水の他にはお菓子などが詰め込まれていた。


「デカイバックに詰め込んだとはいえ、二階の残った食糧と一階から持ってきた分で半分はなくなるだろうな。昼や夜のことを考えると、この量は一日ももたんな」

「二階には何百人もの人がいて、食糧がないと大変なことに……」

「とは言え、毎日下に言って命懸けで食糧を取りに行っても、食べれる物は限られている。菓子系や保存食、飲み物全般。ガスコンロがあればもう少し増やせるが、水がもったいないからあまり使いたくはないな。どっちにしても、このデパートには一週間もいられるか分からんて訳だ」

「……」

「食事を1日に2度に減らせば、もう少しは生きながらえるかもしれんがな。皆の精神がどこまで持つかの問題があるけどな」


 源次郎は頭を悩めるも、これ以上の策が誰も浮かばないのである。源次郎自身もこの状況に頭を悩ませており、未知数な出来事に頭の整理が追いつかないのである。


「まだみんな助かると思っているから、精神的には大丈夫かもしれないが、一週間も助けが来なかったり、食糧が尽きたりしたらパニックに陥るかもな」

「……情報が入らないんじゃ、我々も下手には動けませんね」

「あぁ、情報がない事にはな──


 そこに元太が入ってきて、木田の前に立った。


「木田さんよ」

「何だ?」

「これを持ってきたが、少しは役に立つだろう」


 そう言って元太が出したのは、小型ラジオであった。


「ほぉ、ラジオなら今の状況だろうとも情報が手に入る。災害時にも使われているから、役に立つってわけか」

「そうゆう事だ。政府やら、誰かが情報を提供をしているかもしれんて事だ」


 元太がラジオをつけて、周波数を探ると音声が聞こえ始めた。


『この情報は随時放送され、毎日朝七時、昼十二時、夕方六時に情報更新をします。この情報は随時放送され、毎日朝七時、昼十二時、夕方七時に情報更新をします。3月3日現在の西日本全域において、感染者の数は専門家の発表によると100万人を超えていると思われます。また、アメリカやイギリスなどにてワクチンの研究が進められていますが、予想を超えた抗体を持ったウィルスの為、制作の進捗に目処が立っておらず、開発の困難を極めております。また、長野県や愛知県にて感染者数人が街を徘徊していると情報も入っています。付近の住民の方は身の安全を確保し、政府から発信される情報を必ずお聞きください。また、日本全域に発令されている緊急事態宣言は二週間の延長となり、特に九州、四国地方の人々は外出はせずに政府の情報と共に適切な行動を取ってください。必ず、助けは来るはずです』


 情報を聞くと木田はそっとラジオを消した。全員の顔が落胆して、暗くなる中、木田だけは平然な顔をして語り続けた。


「という訳だな。どのみち、ここも大阪全体も危険な状態には変わりない。この情報は全員には言わない方がいい。聞いたらパニックになる」


 源次郎が力ない声で言う。


「長野や愛知にまで……助けは来るか。ここですら、助けはないというのに」

「多分一週間後には日本全域が感染区域になるだろうな。それよりもここからどうするかの検討をしなくてはいけない。生き残りたければ、ここから出る事を考えるんだ」

「……」

「さもなくば、いずれば食糧による争いや、混乱やパニックから暴動が起きるかもしれない。俺だって死にたくはない。家族に会うまではな」


 木田の言葉に全員が静まり返った。

 この状況を打破する方法があるのか、全員が静かに考える事になった。だが、多くの問題があるこの空間で脱出する方法はあるのか?


 *


 場所は変わり、土佐湾付近を徘徊している輸送船おおすみとフェリー。

 四国や中国地方などに感染者が爆発的に増え、今や近畿地方にまで感染者が増え始めている。

 そんな中、フェリーや輸送船では大阪や四国などからの食糧支援がなくなり、食糧が底をついてしまっていた。海外からの支援が来ると言われているも、日数が掛かるため、近畿地方からの輸送船にて食糧が渡されて、何とか食い繋いでいる状態である。

 そして、数日前にヘリの事故で気絶したアディソンの体力が元に戻り、狭い個室でパソコンの画面を見つめながら服を着ていた。

 そこに三回のノックが鳴った。


「アディソンさん。体調の方は大丈夫でしょうか?」

「三日も休めば大丈夫よ。先生はもう来るかしら?」

「はい、5分後には到着します。もうしばらくお待ちください」

「いや、私直々に迎えに行くわ」


 そう言ってアディソンは顔を洗い、ささっと白衣を着ていままで通りに歩きドアを出た。廊下には三越がおり、三越は敬礼をした。そして二人はヘリポートへと早足で向かった。

 道中、アディソンは三越に尋ねる。


「先日救出された三名は?」

「今現在、何とか落ち着きを取り戻して、元気な状態でいます」

「良かったわ。先生が来たら、一気に情報を集めるわ」

「はい」


 ヘリポートに到着し、アディソンは腕を組んで空を見上げていた。

 三越も隣で待っているが、アディソンに一つ質問をした。


「海外でワクチン開発が進んでいると言われていますが、どう思いますか?」

「一見聞くと海外は日本の為にワクチンを急ぎで作ってくれて、好印象だと聞き取れるけど、そんなもん表向き。実際は自国を守る為に大急ぎで開発を進めているだけの事よ」

「え、それじゃあ日本を見捨てているって事ですか?」

「そう言っても過言ではないかもね。一週間ほどで西日本全域が感染者が蔓延した。はっきりとした感染人数すら把握出来てないほどに街は崩壊している。更に一週間経てば、日本全域に感染ウィルスが蔓延するわ」

「じゃあ、日本の土地に我々は降りれない……という事ですか」

「まだ日本だけで済めばいいけどね。もしも何かの拍子で中国や韓国、ロシアなどの近隣諸国に感染者が発生したら、それこそ世界の終わりよ。まぁ、感染者も脳は死んでいても体は生きている人間。食糧がなくなり、食らう肉が無ければいずれかは餓死するはず」

「そうすれば、日本は元に戻ると……」

「そこまでは断言は出来ないけど、空腹を感じないウィルスじゃない事を祈るだけだわ」

「……」

「あ、あれかしら?」


 アディソンの目つきが柔らかくなり、その目線の先にある四国の方角から一機のヘリの姿が見え、こちらへと向かってくる。


「あれかしら?」

「はい、あの中に教授が乗っています」

「やっと会えるわね」


 ヘリは綺麗に着地し、中から年老いた白衣を来た老人が降りてきた。その姿を見て、三越は敬礼をし、アディソンはニヤリと笑いながらその人物へと歩き始めた。


「来たわね先生。何年ぶりですかね。こうやって直接会うのは?」

「お前の歳を言えば分かるだろ?」

「女の子にそれ言わせる?船木先生」


 アディソンの目の前に現れたのは四国にいた九州から来た人々を隔離する病院にいた男、船木であった。


 この時、午前9時04分……


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