第33話 決死の戦い!
本日2話目。
僕はネズミダンジョンの隠し部屋で、絶体絶命のピンチに陥っていた。
なんとか木箱に潜り込んでボックスハイドを発動させたものの、依然ピンチな状況は変わらない。
突然、空を切る音が響く。
僕はハッと息をのむと、木箱を出て別の木箱に飛び込んだ。
次の瞬間、近くの木箱がバラバラに鳴る音が響いた。
――やばいっ、やばい!
でも、まだ手はある!
レベルが上がっていたので、SPをボックスハイドに全部振った。
『消滅』が発動する!
近くにいた敵は、僕を見失ったようで、鼻先をひくひくさせながら徘徊を始めた。
僕は箱の隙間から外を見る。
金色の毛に覆われた大きなネズミ。
――ゴールデンキングラットだ。
ネズミ系の最上位モンスター。ランクで言えばAに相当する。
なんでこいつが? と一瞬思ったが、すぐに勘違いを理解する。
雑魚としてマジックリングラットが出る場合、ボスはジュエルラットだった。
上位のジュエルラットが雑魚として出たのだから、ボスはゴールデンキングラットが出て当然だった。
「どうしよう……」
僕は心細くなって呟く。
モンスターハウスは全部倒さないと出られない。
しかしゴールデンキングラットは、攻撃が『必中』だった。
回避率が90%ぐらいあっても、回避できない。
――詰んだかもしれない。欲張ったばっかりに。
もっと装備を調えてから挑戦すべきだった。
今更後悔しても、もう遅い。
木箱の中、落ち込みながらも考える。
――何か、何か方法があるはずだ。
とりあえずHPが減っているので、ポーションを飲んで全回復しておく。
そしてステータス画面を開いて、何かできないかと考える。
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名前:ユート(ユーティウス・プエル・コムス・ド・ラランティウム)
種族:人間 性別:男 年齢:15歳
職業:遊び人 Lv:26
筋力:F 敏捷:E 智慧:F 運:C
HP:260 MP:12
攻撃力:146 防御力:74
スキル+3(SP5)
攻撃スキル:
下級:『突きLv10』『投擲Lv10』
中級:『マジックスライスLv15』『ラッキーショットLv30』
補助スキル:
下級:『みかわしステップLv15』
中級:『ボックスハイドLv30』
その他スキル:
『鑑定:物』『毒抵抗10%』『回避58%』『風攻撃+5~15』『毒攻撃:毎秒96ダメージ』
『筋力+25』『敏捷+45』『運+67』
『運比率上昇×3(+78)』『筋力比率上昇×2(52)』『スキルレベル+3』
装備:
『毒竜の蛇剣』『エルフの礼服』『そよ風のローブ』『鱗ベルト』
『フォルトゥナリング』『バトルリング』『銀の指輪』
『ブロンズリング』『ゴールドリング』『シルバーリング』『アイアンリング』
称号:
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運は今、283か。
――いや、待てよ?
課金アイテムの『フォーチュンクッキー』の残り一個を食べれば、運が+777になる。
合計で、1001を超える。正確には1060になる。
命中率や回避率、スキル発動率にかなりの補正がかかる。
――だったら。
僕は残っていたSPを全部『マジックスライス』に振った。
そしてフォーチュンクッキーを取り出して食べた。陽気な気持ちが全身にみなぎる。
さらに毒竜の蛇剣を握りしめつつ、木箱から出た。
一つ、二つと呼吸して息を整えると、徘徊する金色のネズミを睨む。
「やあっ!」
気合いとともに、蛇剣を振るう。
するすると切っ先が伸びて、ゴールデンキングラットを襲った。
「ギャッ!?」
突然攻撃されたネズミは、疑うような悲鳴を上げた。
しかし、マジックスライスは発動しなかった。毒もなし。
ゴールデンキングラットが、もの凄い勢いで突進してくる。
僕は祈りながらもう一度、蛇剣を振った。
びゅうっと風を切って部屋いっぱいに剣が広がる。
同時に、ドガァンッと今までで最大の衝撃が走った。
「グハァッ!」
吹っ飛ばされた僕は、背中から壁に激突する。
視界が真っ赤に染まった。
――死ぬ。
だが、霞む目でゴールデンキングラットを見ると、体を上下で真っ二つにしていた。
マジックスライスが発動した!
「よっしゃあ!」
叫んだ僕は、ここぞとばかりに剣を振るいまくる。何度も振る。
上下に分かれたネズミは「ぎゅい!」と耳障りな声で叫ぶ。
でも容赦しない!
ザンッ、ザザンッ!
と僕が攻撃するたびに、斬撃の音が繰り返し響いた。
――そして。
「ぎゃわ――ッ!」
と、一際甲高い声が響いて、ゴールデンキングラットは倒れた。
その一瞬、闇のように暗く、でも眩しい黒い光が部屋を満たす。
でも僕は喜ぶ間もなく、その場にへたり込んだ。
震える手でポーションを出して飲む。
でもHPは全快しなかった。もっとポーション買っとくべきだった。
しばらく僕は「ふぅ、はぁ……」と荒い呼吸を繰り返して息を整えた。
――助かった。死ぬかと思った。
一息ついた僕は、立ち上がった。
そのとき、ズキッと右足が痛んだ。致命打を受けたらしい。
額から流れる赤い血も止まらない。
でももうポーションは無かった。
僕は壁に手を突きつつ、足を引き釣りながら木箱を回収した。
もちろん『消滅』を発動した後で。
隠し部屋を出る。
朦朧とする意識の中、荒い息をしながら来た道を戻っていく。
呼吸するたびに胸が痛い。肋骨が折れているのかも知れなかった。
それから僕はどうやって帰ったのかおぼろげだった。
ダンジョンを出れば、星空の広がる夜。
村がある方向へ苦しい息を吐きながら、ゆっくりと帰った。
どこをどう通って戻ってきたか記憶がない。
僕は村の入り口までたどり着いていた。
村に入って、通りを歩いていく。痛む足を引きずりながら。
――と。
宿屋傍まで来たとき、可愛らしい声が響いた。
「ユートお兄ちゃん!? ――お兄ちゃんっ!!」
慌てるソフィーが、黒髪を激しく乱しながら駆け寄ってきた。
心配そうな表情も可愛いな、と思った瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
そのまま道に倒れて意識を失った。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
ミッドランド王国の夜。
王城の離宮にある、豪華な調度の多い応接室。
ソファーに座っていたイーリスが、赤髪を乱したまま呆然と目を見開いていた。
「そんな……嘘よ」
対面に座る鎧を着た30代の男、騎士団長のヴァッシュが手紙をイーリスへ差し出しながら言う。
「このように。辺境伯からの返信では、ユート殿は魔物に襲われて崖から落ちて亡くなった、と書かれています」
「……どうしてユートが……っ」
イーリスが泣きそうな表情で顔をしかめた。
ヴァッシュも困ったように眉を寄せつつ、別の紙を取り出す。
「ユート殿はかなり、家族から虐げられて暮らしていたようですね」
「うん、そう。家に居場所がないって言ってた……」
「秘かに部下をやって調べたところ、事故ではないとの報告を受けています」
「え?」
「遊び人によって家名が傷つくことを恐れた辺境伯が、崖から突き落として殺したと」
イーリスがテーブルをガタガタッと揺らして立ち上がる。軍服の裾が揺れた。
「そんなッ! どういうこと!?」
「遊び人はギャンブルや女遊びで家を破産させる職業と伝わっておりますので……」
「だからって――ッ! なにも殺すことはないでしょっ」
イーリスは顔を両手で覆って嗚咽を漏らし始めた。赤紙が激しく乱れる。
「ユート……ユート――っ」
と、愛する人の名を呟くように呼びかけつつ。
それを見ながらヴァッシュは顎を撫でた。細面の顔をしかめる。
内心では『困ったな……』と考えていた。
――イーリス殿はこれから魔王討伐という過酷な旅をしてもらわなければいけない。
心が死んでいては乗り切れないだろう。
そこでヴァッシュは提案することにした。
しばらく泣いたイーリスが落ち着くのを待ってから、諭すように言葉を切り出す。
「イーリス殿。今後も辺境伯家の調査を進め、証拠を集めましょう。もしイーリス殿が魔王を退治したら、その時は報酬として国王直々に辺境伯家を裁いてもらいましょう。イーリス殿は平民ですが、魔王討伐と言う功績があれば、極刑も望みのままでしょう」
「……わかった。ユートを殺した人たちは許せない」
イーリスは緑の瞳に暗い決意を宿して言い切った。
ヴァッシュは静かに頷きつつ、イーリスに重いカセを背負わせてしまったなと自責した。
――せめて不自由なく過ごせるよう、気を配ろう。
そして、イーリスを守ろうと心に決めたのだった。




