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異世界に特定外来生物《世界改変おじさん》が放出されました〜勝手に異世界に召喚されたから常識改変で世界をめちゃくちゃにしても問題ないよね?〜  作者: 黒海苔
倫理観崩壊レベル2

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第三十八話:皇帝から招待状が届いた件

 帝国に入って四日目。


 四人は《ミルヴァン》という小さな街で休んでいた。


 帝都まであと三日ほどの距離だった。


 宿の食堂で昼食を取っていると。


 扉が開いた。


 軍服を着た男が二人入ってきた。


 帝国の紋章が入った外套。


 腰に剣。


 兵士ではない。


 もう少し上の立場の人間だった。


「こちらに、白銀の剣聖エルシア・ルーンフェルトの一行がお泊まりでしょうか」


 食堂が少し静かになった。


 エルシアが立ち上がった。


「……私がエルシア・ルーンフェルトです」


「これをお届けするよう命じられました」


 男が封筒を差し出した。


 赤い封蝋。


 炎の紋章。


 エルシアは受け取った。


 封蝋を確認した。


 顔色が変わった。


「……これは」


「炎龍皇帝陛下からの招待状です。ご一行を帝都へ招待したいとのことです」


 食堂がさらに静かになった。


 男たちは一礼して、出ていった。


 エルシアはしばらく封筒を見ていた。


「……師匠」


「なんじゃ」


「これ、どういうことですか」


「招待状じゃろ。読めばわかる」


「読む前に聞いてるんです」


「ワシが知るか」


 エルシアは封を開けた。


 読んだ。


 もう一度読んだ。


「……帝都への招待です。丁重な文面ですが」


 恒一が聞いた。


「断れるのか」


「……皇帝陛下からの直接の招待ですから」


 エルシアは少し困った顔をした。


「実質的には断りづらいです。断れば帝国で活動しにくくなりますし、最悪、問題になる可能性も」


「つまり行くしかない」


「……そういうことになります」


 シュラが椀を置いた。


「フィアじゃな」


 全員の目が、シュラに向いた。


「フィア?」


 恒一が聞いた。


「炎龍フィア=ドラヴァニア」


 エルシアが説明した。


「帝国の皇帝です。真龍、という存在で」


「真龍?」


「竜の中でも、特別な存在です。この世界には炎龍、氷龍、光龍、闇龍の四体がいると言われていて。それぞれが圧倒的な力を持ち、人間とは違う時間を生きています」


「フィアはその一体なのか」


「はい。帝国は二百年ほど前に、フィア自身が建てた国です。今も皇帝として君臨しています」


 恒一はしばらく黙った。


 二百年前から皇帝。


 それが真龍というものか。


「……知ってるんですか」


 エルシアがシュラに向き直った。


「まあ、会ったことはある」


「は?」


「昔、少し戦った」


「少し、って」


「三日くらいじゃったか」


 エルシアが固まった。


「三日……百二十年前の記録にある、炎龍と渡り合った鬼人って」


「そうじゃろな」


「師匠のことじゃないですか!!」


「そうかもしれんのう」


「なんで今まで言わなかったんですか!!」


「聞かれなかったから」


 エルシアは額を押さえた。


「だから調査官が来たんですね……古い記録と一致したんですね……」


「そうじゃろな」


「招待の本当の理由は師匠ですよね」


「そうじゃろな」


「全部そうじゃろなで済ますのやめてください!!」


 シュラはくつくつ笑った。


「……そもそもなんで戦ったんですか」


 恒一が聞いた。


「向こうから来たんじゃ」


「フィアが?」


「強い奴を探して旅をしておった。あちこち歩き回って、色々倒して。まあ、そういう時期が誰にでもあるじゃろ」


「それでシュラを見つけたのか」


「ワシもその頃は暇をしておったからな。三日やって、引き分けた。お互い気に入って、それだけじゃ」


 恒一は少し考えた。


「引き分け、というのは」


「どちらも倒れなかった。それだけじゃ」


 エルシアが遠い目をした。


「百二十年前の帝国の記録に、その戦いのことが残っているんです。山が崩れたとか、川の流れが変わったとか」


「加減が難しかった、とフィアが言ってたな」


「難しいじゃないですよ……川の流れが変わるのは地形が変わったということで……」


「まあ、若かったんじゃろ」


 シュラはあっさり言った。


 ◇ ◇ ◇


「ところで師匠」


 恒一はもう一つ聞いた。


「フィアと戦った後は、何をしていたんですか」


「また旅じゃ」


「それでエルシアと出会ったのか」


「まあ、そうじゃな」


 エルシアが少し固まった。


「師匠、その話をするんですか」


「恒一が聞いた」


「聞き方の問題ですよ!」


 恒一はエルシアを見た。


「なにか問題がある話なのか」


「問題しかないんですよ」


 エルシアは深呼吸した。


「師匠が強いやつを求めての旅にも飽きた頃、私の故郷のエルフの集落に突然やってきて……族長を叩きのめして」


「なんで」


「聞かないでください。私も意味がわからなかったので」


 シュラが口を挟んだ。


「強そうなのがおるか確認しただけじゃ」


「それで族長を一撃ですよ!」


「話が早い方がいいじゃろ」


「早すぎるんですよ!」


 恒一は黙って聞いていた。


「それで、その小娘が素質がありそうだから連れていくと言い出して」


「素質があったじゃろ」


「あったかどうかより、なんで初対面でそれがわかるんですか!」


「わかる」


「わかる、じゃないですよ!」


 エルシアは頭を押さえた。


「族長は倒されるし、師匠は突然来て私を連れて行こうとするし、集落中が大混乱で……」


「懐かしいのう」


「懐かしくないですよ! あの時は本当にめちゃくちゃでした!」


 シュラはくつくつ笑った。


 恒一は少し笑いそうになるのを堪えた。


「でも、ついて行ったのか」


 エルシアは少し間を置いた。


「……師匠が族長を一撃で倒したのを見て、こんな強い人間がいるのかと思って。それで」


「それで?」


「気づいたらついて行っていました」


「自分で選んだんじゃないか」


「そうなんですが……」


 エルシアはため息をついた。


「あの時の師匠の行動は今でも理解できないですし、許してもいないんですが。でも後悔はしていないです」


 シュラは何も言わなかった。


 ただ、酒を飲んでいた。


 その横顔が、少しだけ穏やかだった。


 真龍が皇帝をやっている国。


 その皇帝と、師匠が百二十年前に三日間戦っていた。


 師匠はその前後、強い相手を探して放浪していて。


 途中でエルフの集落に殴り込んで、弟子を一人引き取った。


 そして今回、師匠と一緒に来た一行に招待状が届いた。


 ……規模が、おかしい。


 いろんな意味で。


 リリスが恒一の隣で、焼いた肉を食べていた。


「帝都、行く?」


「……行くことになりそうだな」


「フィアって強い?」


「シュラが三日戦ったくらいだから、相当だと思う」


「ふーん」


 リリスは興味なさそうに肉を食べた。


 ◇ ◇ ◇


「……どう思いますか」


 エルシアが恒一に聞いた。


「行くしかないだろ」


「コウイチさんは怖くないんですか」


「怖いな」


「でも行くんですか」


「逃げてもついてくるだろ、この規模なら」


 エルシアは少し考えてから頷いた。


「……そうですね。もう把握されているなら、逃げても意味がない」


「それに」


 恒一は封筒を見た。


「帝国の皇帝に会える機会は、そうそうない」


 エルシアが少し不思議そうな顔をした。


「何かするつもりですか」


「まだわからない」


 恒一は正直に答えた。


 何かするつもりが、なくはなかった。


 この国の実力至上主義が、弱者を搾取する仕組みが。


 頂点の人間を変えれば、違うのかもしれない。


 その考えが、頭の奥にあった。


 まだ輪郭が曖昧だった。


 でも、確かにあった。


「師匠はどうするんですか」


 エルシアがシュラに聞いた。


「行くに決まっておろう」


「なんで決まってるんですか」


「フィアと戦いたいじゃろ」


「ダメです!!」


「なんで」


「帝都で炎龍皇帝と戦ったら帝都が壊れます!!」


「まあ、挨拶程度ならそうでもないじゃろ」


「挨拶で百二十年前は山が崩れたんですよね!?」


「あれは本気じゃったから」


「だから!!」


 食堂の他の客が、そっと席を立ち始めていた。


 恒一は静かに椀の残りを飲んだ。


 帝都へ行く。


 炎龍皇帝に会う。


 ノートを持って。


 何ができるか、まだわからない。


 でも、やれることはあるはずだった。


 ◇ ◇ ◇


 その夜。


 恒一はノートを開いた。


 書かなかった。


 ただ、白いページを見ていた。


 真龍。


 エルシアから聞いた言葉が、まだ頭にある。


 炎龍、氷龍、光龍、闇龍。


 この世界に四体だけ存在する、別格の存在。


 その一体が帝国の皇帝で。


 その皇帝に、師匠は三日間戦いを挑んで引き分けた。


 そんな相手に会いに行く。


 実力至上主義の頂点。


 その人間を変えるとしたら。


 どう書けばいい。


 どう書けば、自然に溶け込む。


 どう書けば、誰も不思議に思わない。


 恒一はしばらく考えてから、ノートを閉じた。


 まだ、会っていない。


 会ってから、考える。


 窓の外に、帝国の星空が広がっていた。


 帝都まで、あと三日ぐらいだった。

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