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で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?  作者: Debby
本編

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7 裏庭の逢瀬

「あら」


ある日オリーブが徐に窓から外を見ると、エボニーが裏庭で見知らぬ男と話している姿が見えた。


男は中肉中背で、帽子の中から背中へと紺色のリボンで束ねた長い髪が覗いている。遠目にも仕立ての良い服を着ていたが、あえて帽子を目深に被って顔を隠しているように見え、とても怪しかった。

騎士──だろうか。しかし辺境伯軍にはあのように髪を伸ばしている者などいない。であれば、商人か裕福な平民といったところか。

このような場所でこそこそと会っているのだ。後ろめたい行為をしている自覚はあるらしい。

エボニーは年寄りに嫁ぐと思い込んでいる。きっとその結婚から逃れるために他の男を落とそうと、邸に出入りしている者に声を掛けているのだろう。

知らぬとはいえヴェルトとの婚約話がありながら他の男との逢瀬など・・・しかも、あんなに楽しそうに──。


「っ!」


男がエボニーの右手に触れた。

エボニーは抵抗もせず、それを受け入れているようだ。

仕事中であれば仕方がないこともあるが、通常婚約者でもない異性に身体に触れられることなど、考えられないオリーブは驚いてしまった。


しかしオリーブにとって、これは好機だ。貴族との婚姻のためにやって来た平民が不義を働く──このままエボニーを泳がせれば、ヴェルトとの縁談は必ず破談になるし、それは辺境から追い出す理由にもなる。

オリーブは考えなしの行動をしてくれたエボニーに感謝した。


「どうしたの?オリーブ。外に何かあるの?」


通りすがりの同僚に声を掛けられ、オリーブは驚き、振り返った。

どうやらオリーブは窓の外を見つめたまま立ち止まっていたらしい。


「今、エボニーが・・・いえ・・・」


オリーブは眼下で行われている不義を同僚に教えようとして口を噤んだ。

この単純な同僚はレィディアンスやヴェルトの思惑に気付いていない。そんな彼女に今この状況を知らせれば、最悪ここから声を掛けてしまうかもしれない。

そうなれば、確固たる不義の証拠を押さえる前にエボニーが警戒し、ターゲットや逢瀬の場を変える可能性があるのだ。


話すとしても彼女だけにではなく、使用人仲間が揃っているときに心配を装って伝えるべきだろう。

何度も同じ話をすると、オリーブが噂を広げようとしているかのように見えてしまう。それを防ぐためにも複数の耳に一度で入れるべきだ。


「ちょっとこの窓の埃が気になって・・・先に行っていて頂戴」


オリーブは同僚を先に行かせると、二人に気付かれないようにそっと窓を開けた。

男の声は聞こえないが、高く良く通るエボニーの声はオリーブのもとまで届いた。


「──今度の休みの日の朝、ここで、ですね」


辺境伯邸に勤める使用人には週に一度か二度、休日がある。

どうやらエボニーは次の休みの約束を、この男としたらしい。


このことをどうやって皆に伝えようか。


とりあえずレィディアンスには伝えた方が良いだろう。彼女にエボニーが男爵夫人として不適格であると判断してもらうのが一番手っ取り早い。


本当は直接ヴェルトの耳に入れたいところだが、エボニーを避けるため邸に来ないのだから仕方がない。

伴侶に平民など望んでいない彼にとって、この情報は婚約を断る重要な証拠になるだろうからきっと喜ばれるに違いないのだが──。

オリーブは手紙を送ることも考えたが、ヴェルトに告げ口ともとれる浅ましい行為と思われてはいけないため、今回は控えることにした。


エボニーの裏切りを伝えれば、ヴェルトはきっとオリーブに感謝してくれるに違いない。


口下手のヴェルト様も流石にお礼にと街に誘ってくれるのではないかしら。

流石に二人きりであれば歩き疲れて入った素敵な喫茶店で、学園を卒業して一年経つしそろそろ・・・という話をしてくれるかもしれない・・・。


「ふふっ」


ふと、オリーブは考える。

辺境という狭い場所で育ったオリーブが男性に話しかけるのが苦手なように、ヴェルトも女性に話しかけるのが苦手としている。


オリーブはこの辺境でレィディアンスの次に高貴な伯爵令嬢だ。そのため男性に積極的に話しかけるなどという、はしたない行いは、するものではないと思っていた。

しかしオリーブも今年で二十四歳。

寡黙なのはヴェルトの魅力だが、彼を信じていつまでもは待てない年齢になって来た。年齢差は縮まることはないが、オリーブが一つでも若い方が、お互いの両親も受け入れやすいだろう。

エボニーのことも、あまり悠長に構えている時間はないのだ。


たとえ奥手同士であろうとも、プロポーズは男性側からするのが当然であるし、して欲しいとオリーブは考えている。

しかし年上の自分が、ヴェルトが言葉を伝えやすい状況を整えてあげなければならないのかもしれないと考えた。

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