30 レィディアンスの想い
レィディアンスは学園生であった頃、エボニーが濡れ衣を着せたという侯爵令嬢と、何度かお茶の席を共にしていた。
問題の卒業祝賀パーティーの後にも話をしたが、令嬢は自分がもう少し気にかけていたらエボニーには全く違った未来が待っていたのかもしれないと、話していた。
そもそもその令嬢はエボニーの恋した公爵令息の婚約者ではなかった。それなのに彼女は罪を犯したエボニーのことを守ったのだ。
正直自身の評価を犠牲にしてまで助ける価値があるのかとレィディアンスは思った。
公爵令息に婚約者がいると分かっていて取った一連の行動はエボニーの判断だ。
自身で判断したことには当然責任が生じる。侯爵令嬢が責任を感じることはないはずだ。
しかしレィディアンスは、マルーン伯爵からオリーブの処遇について相談をされたとき、除籍まではしなくてよいと言ってしまった。
公爵家からの依頼で辺境伯邸に受け入れた男爵家嫡子の婚約者を平民と蔑み、追い出そうとしたこと。
更にその過程で次期辺境伯であるレィディアンスに虚偽の報告をし、その信頼を失ったこと。
そして文家の当主であるモーブ男爵を陥めようとしたこと。
それらの行いは主の意志に背くものであり、使用人としての適正を欠いていると判断された。
しかし、その時点ではまだマルーン伯爵はオリーブを辺境伯領から出すことまで考えていなかった。
獣に襲われた際、恐怖のあまりとはいえヴェルトにしがみつき、その命を脅かしたこと。辺境に暮らす者としてあり得ないその行動が決定打となったのだ。
今回露見したオリーブの一連の行動は、全てにおいて稚拙で短絡的で、感情に任せたものだった。
しかし、レィディアンスは籍を抜きオリーブを修道院に送ると言ったマルーン伯爵に進言し、貴族籍に入れたまま王都に送ることを提案してしまったのだ。
「オリーブ。ここは辺境だ。武家文家に所属する、全ての者が『守る』側だ。お前は辺境で生きるのに向いていない。
ただ、守られたいだけであれば王都の方が住みやすいだろう」
ここ辺境と違い、周壁で守られた王都であれば騎士たちが守ってくれる。
オリーブだけを守ってくれる騎士にも出逢えるかもしれない。
ヴェルトがオリーブをそのような対象に見ていないのは一目瞭然だった。
伴侶の選択はその後の人生を決めるといっても過言ではない。いくらヤツに言われたからと言って、ヴェルトの選択肢を狭めることをしたくなかった。
ならば、エボニーとオリーブ、その二人同時に剣の訓練を行い、同じスタート地点に立てるようにと考えたのだ。
もちろん二人とも選ばれない可能性もあった。しかし、その過程でオリーブもヴェルトの視界に入るかもしれないと思ったのだ。
そんな風に試すようなことをせず、私がもっと早くオリーブの気持ちにケリをつけさせておけば、こんなことにはならなかったかもしれない・・・。
今なら、あの日の侯爵令嬢の気持ちが、今なら理解できそうな気がした。
レィディアンスも件の侯爵令嬢もまだ若い。こうやって反省を繰り返しながら、手探りでその地位に相応しい経験を積んでいくのだろう。
結果、ヴェルトとエボニーは上手くいったが、公爵令息が面倒ごとをこちらに押し付けたのには違いない。
お返しにオリーブを頼むと手紙を送った。もちろんヤツだけでは不安なので、エボニーの近況報告がてら侯爵令嬢にも同じ手紙を送っておいた。
現在王国騎士の宿舎が侍女を数名募集しているらしい。
オリーブならきっと採用になるだろう。




