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で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?  作者: Debby
本編

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16 不義の真実

あの日、後輩であり友人でもある公爵令息からの手紙を持ち辺境伯邸にやって来たヴェルトは、レィディアンスの口から飛び出た不穏な単語に一抹の不安を覚えた。


「あぁ、あの娘か。平民にしては美しかったな。磨けば光るだろう。

それに自分の欲しいものを手に入れるために手段は選ばない。方法は間違っているがその心意気、嫌いではない──」


「へ?」


(『自分の欲しいものを手に入れるために手段は選ばない』?)


レィディアンスは王都からクルール男爵宛てに送られてきた手紙を受け取り簡単に目を通すと、確かにそう言ったのだ。


「うむ・・・。まぁ聞け。その女生徒の名は確かエボニーと言ったか。私とヤツが三学年の時に一学年だった平民の生徒だ。彼女は入学してすぐにヤツに惚れたらしくてな、よく二人で共に過ごしていた──」


ヴェルトは今年学園を卒業したレィディアンスと件の公爵令息の二つ上だ。一年だけ在籍期間が被り、在学中はよく彼と過ごしていたが、既に卒業していたため、すれ違いで入学してきたエボニーには学園では会ったことがなかった。


貴族令息が在学中に婚約者の目を盗んで恋人を作ることは多くはないが、よくある話だ。

しかし清廉潔白であるとは言わないが、あいつに限ってはそれだけはあり得ないと、ヴェルトは断言できた。

彼は何年もかけて色々画策し、やっとの思いで伯爵令嬢である現在の婚約者を手に入れた男なのだ。そのため彼が婚約者以外の女生徒と過ごしていたと言われてもピンとこない。

逆に婚約者がいるというのに諦めてくれない令嬢から、彼はいつも逃げていたのだ。中には婚約者がいようと構わずに釣書を送ってくる家もあり、かなり苛立っていたと記憶している。


だから、そんなことあり得ない・・・と思ったところでレィディアンスはとんでもないことを口にした。


「どうやらその娘は、いまだヤツに言い寄る令嬢たちの家の当主に『婿に迎える価値はない』と思わせる為に利用されてしまったようだな。それに、ヤツの婚約者もその状況を利用していたようだったぞ」


(利用・・・)


あいつが婚約者以外と恋に落ちたと言われるより、そっちの方がしっくりくるなと他人事のようにヴェルトは思った。




エボニーは公爵令息である彼との将来を夢見、自作自演をして『公爵令息の婚約者』を陥れて婚約破棄するように仕向けようとしたそうだ。

そしてヴェルトの友人である彼はエボニーの自作自演を信じた振りをし、『平民の策に嵌まる、使えない男』を演じた。

結果、彼の目論みは成功し、彼に婚約を打診していた家は手を引き、貴族に濡れ衣を着せてしまったエボニーは学園を去ることになってしまったのだという。


「え、それってその子だけが悪いわけではない気がするんですが?」


確かに平民が貴族に冤罪をかけるなどあり得ないことだが、あいつが故意に思わせぶりな態度をとっていたのであれば、エボニーが夢を見たのも仕方がないのではないか。ヴェルトにはそう思えてならなかった。


王都で人気のあるこの友人は、それくらいの──女性を狂わせ、一目で恋に落とす──暴力的な美しさと魅力を持っていた。


「確かにヤツに好意を持つなんて趣味は恐ろしく悪いのだろうが、それだけで悪人とは言えないな。

──いいだろう。辺境で過ごすにはそれくらいタフでないとな。ヴェルトさえ構わなければ、私が鍛え直してやる」


クルール家は男爵とはいえ辺境伯に直接仕えている。その為差しさわりのある令嬢を伴侶に迎えるわけにはいかない。

こと当主の妻ともなれば辺境伯の許可を得ねばならないのだ。

この場合次期男爵であるヴェルトの婚約・婚姻は、次期辺境伯であるレィディアンスに認めてもらう必要がある。


「・・・現実問題、嫁はいる。私がその娘の人となりを確認し、男爵夫人に足るか確かめてやる。お前、ちょっと王都に迎えに行ってこい。ついでに辺境伯領(こっち)に戻ってくるまでの間にお前の手練手管で落としとけ」


「いや、お嬢!そんな技持っていれば、今こんなに苦労はしていませんって」


本気か冗談かわからないレィディアンスの言葉に、ヴェルトはため息をついた。


ヴェルトは精悍な顔つきにしなやかな体躯を持つ快活で健康的な美丈夫だ。王都で人気のある後輩のように一目で女性を恋に落とすような美しさは持ち合わせていないが、モテないわけではない。

しかし、ヴェルトに近づいてくる令嬢は皆、辺境と知ると手のひらを返すのだ。

確かに辺境に娯楽はない。なかなか王都に出る機会もないため豪勢な夜会に出ることもない。豪奢なドレスも必要ない(そんな金もない)。

ナイナイ尽くしだ。


父は学園で贅沢を好まない、同じ男爵家の令嬢である母との出会いがあったが、ヴェルトにはそんな出会いはなかった。

それでもヴェルトだって入学して二年間は頑張ったのだ。しかし“結婚相手”ではなく、自分の未来の“娯楽と装飾品”のことしか見えていない令嬢たちに早い段階で辟易してしまった。

そして、三年になってレィディアンスが入学してきてからは彼女に何かと呼びつけられるようになり、そんな令嬢の相手をする暇もやる気もなくなってしまったのだ。

そんな時、自分と同じようにレィディアンスに振り回されている──というか、難癖をつけられている公爵令息の彼に出会った。

身分差はあったが、ヴェルトはレィディアンスの無茶ぶりから逃れるため、彼は群がる令嬢から逃れるためにヴェルトが卒業するまでの間、共に過ごしたのだ。


ヴェルトは在学中から嫁を迎えることは諦め、親戚から養子を迎えることも視野にいれていた。

公爵家に貸しを作る形にもなるため、レィディアンスが認めるのであればこの話を受けても問題はないのだが、ヴェルトとエボニーにとっては人生がかかっている。

いくら友人とはいえ──はっきり言って公爵令息のことがイマイチ信用できず、二つ返事でOKはしたくなかった。


幸いエボニー本人とその家族は、濡れ衣を着せられた張本人の侯爵令嬢──しかも人違いで、あいつの婚約者ではなかったらしい──によって、全く変わらずとはいかないものの、特に被害なく過ごせているのだという。どうやら公爵令息とその婚約者に利用されたことを気の毒に思ってのことのようだ。

しかし、二人の貴族に利用され、侯爵令嬢に罪を着せたエボニーが恋に破れ、今どんな思いでどんな状況に立たされているのかは想像に難くない。ならば見知らぬ男の婚約者としてでも、辺境に来た方が心穏やかに過ごせるかもしれないと思ったのだ。


あいつがなぜエボニーをヴェルトにと、考えたのかは全くの謎だが、どのみち自分はともかく公爵家からの話を平民が断る訳にはいかないだろう。

対外的に書面を整え、とりあえず辺境に連れてきてみるか。たとえこの婚約が無くなったとしても、エボニーが辺境に行ったという事実があればあいつも構わないだろう。

後はレィディアンスが何とかするはずだ。


久しぶりにあいつの顔も見たいし──


ヴェルトはそう考え、レィディアンスに言われた通り、エボニーを王都に迎えに行くことにしたのだった。

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