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仮定の剣闘士  作者: 田園風景
中位ランク
19/40

19.対イヴァン再戦

 あの時は俺自身気が付いていなかったが、相当に怒っていたのだろう。自身の負傷の深さに気が付かないほどに。

 気が付くと、また個室の天井だ。


「もう。これでは迂闊に休みも取れないじゃないですか! 他のヒーラーの皆さんも優秀ですから、任せることはできますけど、見知った方の怪我は、やっぱり心配なんですよ!」


 っと、リンにも後で叱られる。今回は負傷箇所が多過ぎて大変だったようだ。とはいえ、奴隷剣闘士なんて、負傷するのも仕事みたいな感じもあるしな。ますます、ヒーラーには頭が上がらなくなる。そして、頭が上がらなく先がもう一つ。


「死なないのは良いとして、中位ランクでこうもやられるようでは、先が思いやられるの」


 治療期間が長引かないよう、ヒガンの治療魔法にも頼っている。俺の最終目標はこのコロシアムのトップになることではなく、買われて外に出て世界を見る事なので、実力が及ばないのは許して欲しい所だ。


 アックネンも運営側とはいえ、色々とやり過ぎたことが溜まっていたのだろう。釘を刺されたようで少し大人しくなったようだ。

 後は中位ランクナンバー1、イヴァンと再戦し勝つことだな。


「イヴァンに勝てる見込みはあるのか? 無策で再戦しても、次は死ぬかもしれぬぞ」

「そうだな……イヴァンは普段は気弱、それでも正確な圏の投擲技術があり、しかも守りは固い。怒ると怒涛の攻めを見せ、その最中でも粗のある行動はしない。圏は近距離は広い打撃、遠距離では大きい投擲武器で、避け辛い上に数を持ってるから連投すらできる」

「数を持っているとはいえ、無限でも大量という訳でもあるまい。数が尽きるまで捌くというのはどうじゃ?」

「いや、アイツは弾かれた圏も巧みに拾い上げて補充したり、そのまま投げたりしていた。数が尽きるというのは期待しないほうが良いだろうな」

「打つ手が無いではないか」


 確かに打つ手が無いように見える。だが、何か俺が出来る手があるはずだ。

 そう考える間に、とうとうイヴァンとの再戦の日となっってしまった。


 昼下がりの控室。以前と同じ熱気と歓声が決闘場からこの控室まで聞こえてくる。


「覚悟は大丈夫かの?」

「ああ。勝つ為の意気なら万全だ」

「そうでは無いのだが。まぁ良いじゃろ。勝ってくるが良い!」

「おうさ!」


 ヒガンとハイタッチを交し、中位ランク最後の決戦の場へと向かう。




 イヴァンは以前にも増して気弱になっていた。


「あ、あの。この前はごめんなさい……」

「前に殺されかけたのは気にしてねぇよ。勝負の結果だろ。」

「あ、あ……ご、ごめんなさぃ」


 イヴァンは、まともに俺の顔を見ていない。「上位ランクの審査にも、また落ちたし、僕なんて、どうしてこうなんだろぅ」と、落ち込みつぶやいている。

 ほう。上位ランクに上がるには審査があって、イヴァンでさえ通らないっと。勝ったとしても、楽に上位ランクになる訳でもなさそうだ。


「巡って再戦となったイヴァンとガイリトス! 前回はイヴァンの勝利でしたが、今回の勝利の銅鑼はどちらに響くのでしょうか!」


 対戦が始まりそうになり、ようやく立ち直った……いや、まだ気にしてるな、あれは。イヴァンと俺が対峙する。


「それでは、対戦開始です!」


 中位ランクの頂上決戦だがいつもと変わらない、開始の銅鑼が鳴り響いた。

 間合いをどうするか? 近距離だろうと遠距離だろうと攻撃が来るのであれば、こちらの攻撃が届く方が良いに決まっている! イヴァンに向けて全力で走り出したが、早速、圏が投げつけられた。

 相変わらず重い! なんとか捌くが、その度に手の骨身に響く。しかし行けるな。一つ一つ丁寧に出来るだけ遠くへ弾きながら間合いを詰める。こうすれば、圏を拾い集めるとしても手間が掛かるだろ。

 俺の間合いまで距離を詰めたが、前と同じように、身に纏う圏が俺の攻撃を防ぐ。


「どうにも通らないな。前と同じく不意を突かないと」

「あ、あの! 顔は殴らないで! 僕、怒っちゃうと見境が無くなっちゃうんです」


 確かに、あの苛烈な攻めを防ぐのは難しいだろうが……今回はそこで仕掛ける!


「お前の圏の弱点を一つ見つけたぞ!」


 イヴァンの攻撃を捌きながら、体当たりをかます。圏は打撃武器だ。圏が攻撃力を発揮するには、どうしても勢いを付ける必要がある。が、密着してしまうとその勢いは付け辛いだろう。


「そしてぇ!」


 剣の根元をイヴァンの首目掛けて、殴る様に振り上げる。イヴァンは咄嗟に背を逸らせることでこの攻撃を免れたが、躱しきれずに頬に切り傷と髪を一房散らすことになった。


「なぁ!?」


 イヴァンは背を逸らす勢いのまま後ろに倒れこみ体を振り回した。地面と圏に挟まれ、俺は堪らず離れる。

 ちっ。間合いを作られた。また組み付かないと……おや、想定通りイヴァンが怒っているな。


「ま、また私の顔に……またかよ、お前ぇ!」

「おー、まただぞ。さあコイコイ」


 こうなるとイヴァンは怒涛の攻めに入る。ただ、圏の手持ちが多い間は攻撃が通り難い。だから、攻めを凌いで補充されない様にしながら、手持ちの圏を減らす必要がある。無茶振りだが、方法は考えてある。


「死ねぇ! もう二度と私の顔を傷つけられない様にしてやる!」


 好都合に圏を大量に投げてきた。まぁ、そのために怒らせた訳だが。

 弾く! 弾く! 弾く!

 都合上、今回は攻撃を逸らさず、可能な限り上に弾いた。イヴァンから目を離すと、その瞬間に間合いを詰めてくるだろうから、目を離すわけにもいかない。

 手が痺れて感覚が殆ど無くなった頃には、奴の圏の手持ちは数個となっていた。大多数は弾いたが、いくらかは肩や足に食らい、その場から動けずにいた。

 俺の周りに転がっている圏は……数個のみ。


「なっ? 私の圏は?」

「上だよ、上」


 弾いた圏は俺の少し上の空中で止まっていた。弾いた圏に細長い盾を生成、通りて吊り下げているのである。


「お前の武器は奪わせて貰った。さあ、どうする?」


 これが俺の策だ。投げられた圏は流石に奪えないが、弾いて勢いを殺した後なら可能だ。奪ったと言っても盾の棒で掛けてあるだけだから簡単に取り戻せるだろうが、手の届かない空中なら、そう簡単にはいかないだろう。


「知るかぁ!」


 1つを残し、圏を投げてきた。これは後ろに逸らして、手の負担を減らす。

 イヴァンは圏を投げると同時に宙に留まっている圏に飛びつき、ぶら下がる。なんて跳躍力! これが、一気に間合いを詰める力か。


「私の武器を集めておいてくれて、ありがとう。さぁ、死ねぇ!」


 イヴァンが手に持った圏で盾を破壊。宙に留まっていた全ての圏が降り注いできた。その中に圏を持ったイヴァンも一緒に落ちてくる。

 跳躍力には驚いたが、想定していた流れだ。宙にあるとはいえ、武器が纏まってあるんだからな。これを使わない手は無いだろう。


「決着を付けるぞ、イヴァン!」

「おお!」


 盾をハの時に生成し、落下してきた圏をかき分ける。圏が分けられた後に残るは、圏を両手に持つイヴァンのみ。

 盾で階段を生成、駆け上がる勢いで剣を突き上げた!

 イヴァンは圏を交差して防御を固めたが、俺の突きはそれをすり抜ける。いや、少し狙いを逸らされたか?

 俺の剣はイヴァンを貫かず、肩を切り裂いたに留まった。深い傷ではあるが、イヴァンはまだ反撃するはずだ。


「まだ、負けて……」

「いや、俺の勝利だ!」


 上下は既に入れ替わっている。俺は落下の勢いも含めて、剣をイヴァンに叩きつけた!

 咄嗟に腕が動いて防御したのは流石だが、背中から落下し、激しく叩きつけられる。防御しきれなかった剣はイヴァンの体に追加の負傷を刻み込む。

 そして、イヴァンの首元に剣を置いた。


「そこまで! この勝負は、ガイリトスの勝利とします!」


 イヴァンは大きな負傷を負っているが、俺も結構危ない。圏を受けた所は酷く痛むし、弾き続けた手は逆に感覚が無い。剣を握ることが出来ているのが不思議なぐらいだ。


「ガイリトス……」

「お、気が付いたかイヴァン」


 表情から察するに、いつもの気弱な性格に戻ったようだ。


「僕に勝てたのはおめでとう」

「そりゃどうも」

「上位ランクに上がるつもり?」

「そのつもりだ」

「なら気を付けて……あそこは、華々しい見た目だけど、厳しい所でもあるから」

「分かった。お前の傷も深いんだ。そろそろ楽にしていろよ。後に響くぞ」


 イヴァンは微かに笑みを浮かべて目をつぶった。

 厳しい所か。これまでとはどう違うか見ものではあるな。


 いまだに続く熱気と勝利を讃える歓声を浴び、上位ランクへの道へと入った。

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