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第一話「ニート、家を買う」

 教会で100万円ほどお金をおろしてからスシネさんと外に出た。


 シスターのスシネさんに漁村サーディンを案内して貰いながら歩く。

 時刻はもうすぐ正午だろうか。


 意識の中のUIを眺めてみる。

 UIの右上に時刻表示らしきものが見えた。

 900/04/01/11:53


 確かこの世界に着いたのが11時丁度だったか。

 地図上でクエストの次の目的地までのルートが出ていたので迷うことはなかった。

 今は次の目的地までのルート表示は出ていないようだ。

 そもそもクエストリストには何も表示されていない。


 教会につくまでほとんど誰にも出会わなかったが、

 漁に出ている間は皆あまり戻ってこないから、という理由だったらしい。

 スシネさんと一緒に町の中心に向かうに連れてちらほら他の人とすれ違った。

 皆人間だった。エルフっぽいのや猫っぽいのは見かけない。

 まさかこの世界にはそっち系のコがいないのだろうか。

 それは非常に困るのだが。


 思い切ってスシネさんに聞いてみる。


「エルフや猫族ですか?いますよー。首都の方では珍しくないかもしれませんが、このあたりに来ることはほとんどありませんね」


 いたのか。良かったー。

 そんなことより猫族とにゃんにゃんしたい。


 スシネさんと一緒に、わりと大きな建物に入る。

 よくある、酒場と宿屋が一緒になった施設だろうか。

 他の周囲の建物はほとんどが平屋の1階建てだった。

 このあたりは土地が余りまくってる印象がする。

 不人気なのだろうか。


 屋内は明るかった。

 コレだけ大きい建物なら屋内はある程度暗くなってもおかしくないはずだが。

 上を見ると普通に蛍光灯っぽい天井照明が光っている。

 異世界なのにね。

 もうそこらへん気にしない方が良いのだろうか。


 スシネさんが店員に向かって「食事、2名で」と伝えている。

 宿の方もあるからまず用件から伝えているようだ。


 店の中ほどのテーブル席に対面で座る。

 改めてスシネさんを眺めてみる。


 スシネさんはシスターさんである。

 その衣装もまさにシスター風。黒というよりはやや青、藍色の服だろうか。

 金髪碧眼、顔もそこそこ可愛い。

 胸は、すごく大きいということはないがまぁ普通にあるだろう。


 この世界の平均はわからないが、たぶん並。至って並。

 見られていることに気づいたのか、キラキラした目でこちらを見つめてくる。

 キラキラしてる。何かすごく狙われている気がする。


「改めまして、シスターのスシネです。気軽に名前で呼んでくださいね」

「はい、スシネさん」

「スシたんでもいいですよ。シスターのスシたんと町の皆には呼ばれています」

「えーっと?いや、スシネさんのままで」


 シスターのスシたん?

 何それ、ダジャレか。


 テーブルの上のメニューを取って開いてみる。「MENU」とアルファベットで書かれていた。

 読めなかったらどうしよう、とは一瞬考えた。

 逆に読めたらどうしよう、と悩んだ。

 開いてみた結果はある意味予測通り。

 そこにはやはり日本語でメニューが並んでいる。数字もアラビア数字だ。


「私はお昼のサービスランチでいいですよ。ヒロさんはどうしますか?ええと、文字は読めていますか?」

「ん?はい、読めています。それじゃ俺もサービスランチにしておきます」

「そうですか、わかりました。店員さーん」


 スシネさんが店員を呼んで注文を伝える。

 ふむ。そうだな、この世界の文字について少し尋ねてみるか。


 注文受けるついでに店員さんがお冷を置いていったので、軽く一口飲んでから聞いてみる。


「スシネさん、この世界の文字や言語って日本語なんですか?」

「ニホンゴ?ニホンゴって何でしょう?」


 なんだかすごく不思議そうな顔をされた。

 まぁそれもそうか。この世界に日本という国はないのかもしれないし。


「えーっと、このメニューに記されている文字とか、今話しているこの言語のことです。何か名称は無いのでしょうか?」

「名称ですか?それは、ひらがな、カタカナ、漢字などを指しているのでしょうか?」

「んんん?」


 何か話がかみ合わない。ひらがなやカタカナという概念はあるらしいが。


「この世界の言語は、文字に関してはひらがな、カタカナ、漢字、数字、アルファベットなどがあります。言葉に関しては基幹言語、補助言語の2つに分けられています。補助言語はアルファベットで表記されることが多いです。例えばコレです」


 そういって、メニューの表紙の文字を指差す。当然そこには「MENU」と書かれていた。


 もしやコレはアレか。この世界には日本語しか存在しないのだろうか。


「えーと、他の国でも同じ言葉なんでしょうか。何か違う言語を使ってる国は無いのでしょうか」

「はい、どこの国も同じですよ。ちょっとした方言や訛りはあるかもしれませんが、この大陸の別の国や他の大陸でも皆同じ言葉を話しています」


 なんかスゴイな。

 異世界といえば異世界の言語で、更に地域別に言語が分かれていて通じないのが基本だとばかり思っていた。

 そういえばこの世界は例の神様のデザイン世界なのだったか?

 あの神様も日本語を話していたし、アレは日本担当の神様だったのだろうか。

 その神様のデザインした世界だから日本語オンリーということなのか。


 スシネさんはこちらをニコニコ笑顔で見ている。

 うん、確かにニコニコしてる、

 狙われている感じはずっとしているが。


 店員さんが食事を運んできた。

 特に特徴の無い普通の女性店員である。

 出てきた料理は蒸し魚とライスだった、

 白米だ。


 コレまた異世界モノにはふさわしくないものが出てきた気がする。

 大抵パンが出てくるものじゃないのか。

 ライスはどこから出てくるのだろう。


 厨房の方を少し覗いてみる。

 なんだかご飯釜というか電気釜というか見覚えのあるソレが置いてある気がする。


 スシネさんと一緒に「いただきます」をしてからいただくことにする。

 こういう細かい習慣まで日本風なんだろうか。


 食事の合間にスシネさんが話しかけてくる。


「この町はお魚さんの生産地なので、おいしい魚料理がいつでも安く食べられるんですよー」

「ふむ、そうなんですか」

「そうなのです。外海(ソトウミ)から離れれば離れるほど魚は手に入りにくくなりますからね。内海(ウチウミ)ではイカしか取れませんし」


 また何やら重要ワードが出てきた気がする。

 ソトウミとウチウミ?

 外海、内海で良いのだろうか。

 なんとなく予想はつく気がする


 UIの右上を見てみる。

 例の周辺地図と世界地図っぽいものの2つが並んでいる。

 世界地図の方の外周付近に星マークが表示されていた。

 予想はついているものの、確認はしておいた方が良いだろう。


「一応、ソトウミとウチウミについて聞いても良いですか?」

「はい、もちろんです!外海というのは大陸よりも外側にある海のことです。潮の流れはあまり無いのですが、おいしいお魚さんがいっぱい取れます。貿易にはほぼ使われないので漁船ばかりです」

「ほうほう」

「逆に内海というのは大陸と魔大陸の間に流れている狭くて細い海です。常に強い流れがあり大型の船でも楽に高速で動けます。ただし潮の流れの関係で一方通行なのですが。内海は主に貿易に使われ、漁はほとんど行われていません。そもそもイカばかり釣れます」

「なるほど」


 とりあえず納得しておくことにする。

 潮の流れが無いのに魚がいっぱいとかそれはありえるのだろうかと疑問には思った。

 暖流と寒流が合わさるところが良い漁場になるとかそういうことを習ったような記憶もあるのだが。


 また重要ワードが増えてしまった。

 先ほどさらりと「マタイリク」などというワードが出てきた。大陸と対応するものだから魔大陸、だろうか。

 これもまた確認しておくべきなのだろうか。


「魔大陸、というのはなんですか?」

「魔大陸というのは通称です。中央大陸と呼ばれることもあります。各大陸の中央部と天の橋で繋がっていて、橋の上を魔物が往来しています。橋を渡ることは出来るのですが橋の中央あたりに結界が張られていて、人間には行き来することが出来ません。魔大陸の周囲は高い崖で囲まれていて、橋を渡る以外には到達出来ないだろうと言われています」

「へぇ」


 更にまた重要ワードが増えてしまった。

 この世界には魔物がいるのか。

 どうしよう、これもまたスシネさんに聞くべきなんだろうか。


 少し悩んでいたら、UIの左下のログウィンドウに黄色い文字が流れる。


 Smes:わからないことがあればTIPSで確認してください。

 Smes:わからないことがあればTIPSで確認してください。

 Smes:わからないことがあればTIPSで確認してください。


 大事なことなので3回言いました?

 さすがシステムメッセージさんだ。まじぱねぇっす。


 Smes:わからないことがあれば好きな時にTIPSで確認してください。


 ダメ押しで更に1回流れた。少しだけ文章が変わっている。

 あまり一度に色々情報を仕入れるのはオススメ出来ないらしい。


 食事に戻る。

 もくもくと食べる。うまい。


 スシネさんはちらちらとこちらを見ている。

 時折目が合うとニッコリする。

 でもやはりどこかこう、狙われている気がする。

 うん、果たしてこのままで良いのだろうか。


 すると、頭の中に「ピロリン」と音が鳴った、

 なんだ?

 先ほどのUIのシステムメッセージの下に、新たに文字が出ている。


 Kami Sama >>:ワシじゃ、神様じゃ。お主元気にやっとるかの?今割と困ってるんじゃないのかの?


 文字はやや紫な感じだった。

 コレはアレか。Tell機能か、

 どうやって返信するんだろう。


 >> Kami Sama :ええそうです。今割と困っています。


 む?返信内容を意識しただけで返信出来たらしい。


 Kami Sama >> :そうじゃろう、そうじゃろう。そこのスシネという娘もそう悪くは無いのじゃがな。特段美人というわけでもないしやめておいた方が無難じゃ。お主は猫娘が好きなのじゃろう?では可愛い猫娘でも買って楽しんだら良いのじゃ。

 >> Kami Sama :何故それを。


 この神様には色々と筒抜けらしい。そもそも現地の状況までわかってるぐらいだから、なんでもお見通しということなんだろう。

 というか「猫娘を買って楽しむ」とな?おぉ、ちょっとわくわくしてきたぞ。


 Kami Sama >> :色々あるが全てTIPSで確認することじゃ。ワシも相変わらず忙しいしお主の相手をしとるヒマはほとんど無い。クエストを新たに発行しておくからそれに従うが良い。


 神様からのそのメッセージに続けて、黄文字で色々と表示される。


 Smes:神様がログアウトしました。

 Smes:新たなクエストが発行されました。クエストリストよりご確認ください。


 UIの右側中央に早速新たなクエストが並んでいた。



 クエスト:首都で家を買おう

 目的地:首都の教会


 表示されているクエストのところを、意識上のマウスカーソルを動かしてクリック。


 クエスト:首都で家を買おう

 首都の教会で家の購入手続きを行ってください。

 この世界の教会は教会と役所と銀行と不動産屋とハローワークを兼ねています。

 手続きは「個人カード」で行えます。

 どの国の首都でも構いませんが開始国の首都が良いでしょう。



 なんか前に比べて説明が増えていますね。

 というか教会の役割が多すぎるだろう。なんだその機能集中。


 UIの右上の地図を確認してみる。

 再び黄色の点線が地図に出現していた。

 しかし小さく警告文が表示されている。

 ”距離が遠い為何らかの交通手段の利用をオススメします”だそうだ。


 よし、これからの方針は定まったようだ。

 では首都への行き方をスシネさんに聞いてみることにしようか。


「スシネさん、私は首都に向かうことにしました。首都への行き方はわかりますか?」


 二人とも食べ終わってからそう告げる。スシネさんは少し驚いた様子だったがすぐに気を取り直して話し始めた。


「早速首都に行くのですね。首都への連絡馬車は今からですと13時、15時、17時の3回ほど出ています。今からならまだ13時の便に間に合うと思います。一緒に行きましょう」


 そういってスマイル。

 なるほど、なるほど。


 テーブルの上の伝票を持ってレジへ向かう。

 スシネさんは後ろで待機していた。お金を払う気は無さそうだ。

 元からこちらで払うつもりではいたけどね。完全に払う素振りも見せないのは少し複雑だ。


 現金で払おうか迷ったが、少し迷って個人カードを出してみる。

 クレジットカードの役割があるらしいが、実際試してみないと自信は持てない。

 レジのところにはカード払いOKの張り紙がされていた。だから大丈夫だろうという確信はある。


 コンビニのバーコード読み取り機のようなもので個人カードを読み取り、支払いは完了した。

 早速外に出る。スシネさんに案内して貰い馬車乗り場を目指す。



 馬車乗り場につくと、既に馬車がスタンバイ状態だった。

 6頭建ての4輪馬車である。デカイ。


 駅員さんっぽい担当者がスシネさんに話しかけてくる。


「おやスシネさん、珍しいね。首都行きの連絡馬車はもうすぐ出発だ。乗るのかい?お1人かい?」

「こんにちは駅員さん、今日は2人です。そちらのヒロさんと一緒に」


 スシネさんがこちらを指してくる。何か聞き捨てならないセリフが出てた気がする。

 2人で乗るのか。そういう流れなのか。世話する決まりらしいがどこまでついてくる気なのだろうか。


 駅員さんがこちらに話しかけてくる。黒ヒゲモジャモジャだ。割と優しそうな目をしている。背はやや高めぐらい。


「こんにちはヒロさん。初めまして、でよろしいのかな?私が駅員です。このサーディン村を担当しています」

「はい、初めまして」

「首都までの馬車料金は1人10000円になっています。カード払いは受け付けておりません。2人分で20000円、お願い出来ますか?」


 今度はカード払い出来ないらしい。

 それにしても特に何も聞かずいきなり金の話になったな。馬車の出発時間が近い為だろうか。

 あれこれ詮索されるよりはマシなのかもしれない。


 腰の黄色い袋に手を入れて、金額を思い浮かべる。

 20000円、二万円。

 手に感触があり、取り出すとそこにはカードが2枚握られていた。


 1万金札、というらしい。

 教会で金を下ろした際、コレを100枚で受け取ったのだ。

 模様入りの薄い金のカードで、割と硬い。


 2枚の金のカードを駅員さんに渡すと、1つお辞儀をしてからキップを1枚渡された。

 続けてスシネさんにも1枚渡している。


「連絡馬車はまもなく出発致します。どうぞお乗りください」


 そういって馬車のドアが開けられる。

 乗る前に何か色々した方が良い気もするのだが、

 まぁいいか、ここは勢いで乗ってしまおう。


 俺たちが乗り込んで席に座ると、すぐに馬車は出発した。



 ---



 馬車は随分とスムーズに進んでいる。

 馬車というのはガタンゴトン揺れるものだとばかり考えていたのだが。

 何故だ。いくらなんでもおかしい、

 ちょっと確認してみるか。


 俺は窓側の席で、通路側の席にはスシネさんが座っている。

 中央通路挟んで一列四席の構図だ。席は比較的広いので詰めれば三人いけるかもしれない。

 なのに最初からずっとスシネさんがこちらに随分とくっついている気がする。

 いくらなんでもアピールしすぎなのではないだろうか。


 外の景色を眺めると結構な勢いで景色が流れていく。

 外は広い草原だったり、牧羊地だったり畑だったりする。

 長いこと外を眺めていたら、ふと全然揺れないことに気づいたのだ。


 視点を思い切り下に移して、馬車の走っている地面を見る。

 地面というか道だ。道といえば通常は土の色、黄色というか黄土色だろう。

 しかしどうにも色がおかしい。なんだこれは?


「道が、銀色?」

「はい、そうですよ。ココは国道ですからねー。神様の加護があるのです」

「ふぅむ?」


 何か色々納得がいかないな。

 しかしコレをまたスシネさんに聞くのも憚られる。

 またシステムメッセージさんに怒られそうだし。


 UIからTIPSを開く、

 色々と項目が出てくるが、キーワード検索という入力窓がある。

「国道」と打ち込み、情報を見る。



 TIPS:国道

 国道は神様が引いた道です。

 神が引いたのなら神道で良いのではという意見もありますが諸事情により国道と表現しています。

 国道には神の加護があり、国道近くには魔物が出ません。

 大陸の中央を横切るように走る横道と、内海、外海間を繋ぐ縦道に大別されます。

 国道は地下まで含めて破壊することは出来ません。

 幅はどこでも百メートルで、左側通行です。



 説明にはまだ続きのページがあるようだが、今はまだ続きのページは開けないようだ。

 何故銀色なのかまではよくわからないが、神様ならば仕方がない。

 幅百メートルってすごいな。百メートル道路って現代日本でもそうそう無いのだが。


 せっかくTIPSを開いたのだから、他の項目も見てみるか。

 通貨について調べてみよう。



 TIPS:通貨

 この世界の通貨は全世界共通になっていてその価値は教会が保証しています。

 通貨の種類は以下の通り。


 1銅貨、5銅貨、10銅貨、

 50鉄貨、100銀貨、500銀貨、

 千銀札、五千銀札、

 一万金札、五万金札、

 十万白金札。


 日常生活で使われるのはほぼ一万金札までです。

 金銭価値は日本を参考にしています。



 なんかさりげなく暴露したな。

 そうかー、日本がそのまま参考にされて作られてる世界なのかー。

 現地人にはそこらへんわかるはずがないから説明出来ないしさせるなってことなのね。


 さて次は何を調べておこうか、と考えた時、ふと横にくっついたままのスシネさんのことが気になった。

 神様はスシネさんに手を出すのは「やめておいた方が無難」と言っていた。

 何故なんだ。

 俺は別にホモというわけでもないし、特に問題がなければシスターの1人や2人は食ってしまうのだが。


 TIPSに男女交際、と打ち込んで確認してみる。



 TIPS:男女交際

 この世界の男性はすべからく処女厨です。

 男女交際の記録は全て各自の個人カードに残ります。

 男性から女性に手を出した場合、そのまま娶れば別ですが遊びならば大火傷をします。

 ご注意ください。


 1:処女の扱いについて

 処女に手を出した場合、その後娶らなければ1000万円の罰金を男性から女性に支払わなければなりません。

 相手が特別な職業についている場合、罰金は倍増します。

 例→シスターは3倍、など。


 2:妊娠させた場合について

 相手を妊娠させた場合、その後娶らなければ5000万円の罰金を男性から女性に支払わなければなりません。

 相手が特別な職業についている場合、罰金は倍増します。

 例→シスターは3倍、など。



 うわぁ、なんかスゴイな。

 つまりアレか、スシネさんに手を出して孕ませた挙句捨てた場合倍率ドンで罰金が1億8000万円になるのか。

 それは確かに神様がやめとけって止めるわけだよ。


 スシネさんは相変わらずくっついてきてるが、我慢することにした。

 うん、さすがにコレはムリだ。そこそこ可愛いけどムリムリ。勘弁して欲しい。



 ---



 幾度かの休憩を挟みながら、19時頃に馬車は首都に到着した。


 途中の休憩所で気づいたことだが、この世界のトイレは水洗トイレらしい。

 洋式便所はウォシュレット付きだった。

 いやまぁ、助かるんですけどね。すごく助かるんですけどね。

 でもさすがにちょっと便利過ぎて異世界なのかと疑いたくなる。

 トイレットペーパーまで普通についていたし、無料で。


 降りる前に馬車の中で、スシネさんから軽く説明を受けた。


「教会の礼拝以外の業務の受付時間は、6時前までなんです。朝は9時から開いています。ですから今日は宿を取って、明日首都の教会に向かいましょう」


 宿、というあたりで目が光ってたように見えたのは気のせいじゃないだろう。


 スシネさんの案内で宿屋に向かって歩く。人が多いし暗いということで手を繋ぐことになった。

 他にもたくさん宿屋がある気がするのだが、華麗にスルーしていく。

 コレはアレだな。完全に高いところに泊まる気だな。


 歩きながら周囲を眺める。暗いことは暗いのだが、街灯が点いているので十分明るい方だろう。

 町の住人はほとんど人間のようだが、確かに人間以外のものも混じっているように見える。

 時間があればじっくり確認するのだが。


 予想通りというかなんというか、大分大きな建物に入っていく。

 もうはぐれることも無いと思うのだが手は繋がれたままだ、

 なんという肉食系女子。


 ホテルのフロントに連れていかれる。

 うん、これはフロントだと思う。雰囲気はまさにそんな感じだし。


 でもホテルのフロントが犬だった。


「いらっしゃいませ。お客様、本日はご宿泊でしょうか」

「はい!」


 犬が普通に喋って、スシネさんが元気に答えた。

 それにしてもデカイ。2メートルあるんじゃないのか。

 犬というか狼っぽい。スゴイ迫力だな。


「お二人様でしょうか?お部屋はいかがなさいますか?」

「ロイヤルスイートのダブルで!」

「ちょ、ちょっとタンマ」


 ヤバイ。スシネさんが完全にノリノリだった。

 ダブルってあれだろ、ベッドが1つのヤツだろ?

 そんなの連れ込まれたら絶対に襲われる。

 ペナルティさえなければいくらでもこちらから襲うのだが、あのペナルティは重過ぎる。

 例えペナルティがあろうが襲える場所にいたら容赦なく俺の方から彼女を食ってしまいそうだから、部屋に入る前に阻止しなければ。


 フロントの狼さんが戸惑っているように見える。

 表情こそわからないが耳が元気無さそうに下がってる。

 スシネさんは、なんか複雑な表情をしている。

 このまま押し切れると思っていたのかもしれない。

 逆ギレするわけにもいかないからなんとか笑顔を取り繕っているのかもしれん。


「お客様、お部屋はいかがなさいますか?」


 今度はこちらに顔を向けて尋ねてくる。

 うん、そうしてくれると助かる。そうだな、どうしようか。


「そうですね、そこそこ良い部屋で、部屋は別々でお願いします」

「難しいですね。当ホテルは基本的にどの部屋もお二人様用でして」


 そうきたか。まぁそうだよな、高級ホテルで一人寝する奴は少ないだろう。

 いやしかしそういうわけにもいかない。


「ベッドが1つの部屋を2つ、でお願いします」

「わかりました、それではエグゼクティブスイートのキングを2部屋でよろしいでしょうか?」

「はい、ではそれで」


 なんだろう、よくわからない部屋名が出てきたぞ。

 エグゼクティブスイート?なんぞそれ。

 たぶんロイヤルより格が下がることは下がるのだろう。よくわからん。


 ちなみに後で調べてわかったことだが、ロイヤルスイートにダブルなんてなかった。

 キングが1つとツインが1つの4人分固定だったらしい。

 スシネさんもかなりいい加減な知識で発言していたということだ。


「それではお客様、こちらのお盆に身分証明と支払い用に個人カードをお願い致します。支払いは男性の方でよろしかったでしょうか?」

「はい!」


 スシネさんが元気に答えながら個人カードを出している。

 まぁいいんですけども。


 お盆に載せるのか、とお盆を見てすぐに気づく。

 狼さんの手がデカイ。スゴイ肉球。

 カードを握れる手では無さそうだ。


 狼さんがお盆を持って横の他の係の人に渡すと、係の人が受け取ってカード処理を始めていた。

 なんだろう。狼さんがいる意味は何なのか。

 見た目的に何か人気なのかもしれない。


 カードの処理の間、スシネさんが狼さんの肉球をいじっていた、

「わー、ぷにぷにー」とか喜んでる。

 狼さんもさほど嫌がっていない。

 どうにも最初からそういう役目として雇われているらしい。



 ホテルの受付後はスシネさんと一緒にホテルのレストランで食事をして、それから客室に入った。

 食事の最中スシネさんは「ヒロさんのいけずー」などと少し愚痴ってた。

 しかしさすがにそれ以上は追及してこなかった。さすがにもう諦めたらしい。


 ホテルにエレベーターがあった時点で、このホテルについてそれ以上つっこむのはやめた。

 便利なことは良いことだ。うんうん。



 ---



 スシネさんと一緒に朝食を取ってからチェックアウトする。

 ちなみにスゴイ金額かかっていた。18万弱ぐらい。

 朝夕の食事料金は部屋代に含めて貰ったのだが、2部屋にしたことでほぼ2倍取られたらしい。

 ロイヤルスイートは35万弱かかるらしいので、ロイヤルスイートよりはマシだったと考えるべきなのか。


 金はたくさんあるとはいえ、あまりムダ使いはしたくない。

 俺は庶民だったのだ。

 多少は浪費癖がある方だったとは自覚しているが、宿泊費ぐらい1万程度に収めるべきだと考えている。


 とはいえ今から家を買いに行くのだったか。

 家はスゴイ家が欲しいな、などと考えてしまう。

 うむむ、イカンイカン。


 スシネさんに連れられて、首都教会を目指した。



 首都教会は人でごった返していた。


 それはそうだろう。教会1つに、教会と役所と銀行と不動産屋とハローワークの機能が全部ついているんだから。

 とはいってもそこはそれ。首都教会のサイズが非常に大きいうえに、役割ごとに階層が分かれているらしかった。

 1階はハローワークらしい。2階が銀行、3階が役所、4階が不動産屋とのこと。

 3階と4階は逆なんじゃないかとも思ったが、利用が少ないので4階らしい。


 やはりここにもあったエレベーターで4階に上がる。

 便利は正義だから良いんじゃないでしょうか。


 一緒にエレベーターに乗った人々は確かに皆2,3階で降りていった。

 スシネさんと一緒に受付まで行く。


 受付の別のシスターさんが最初怪訝そうな顔をした後、ハッとしたように驚愕の表情になった。

 これはつまり、まぁそういうことなんだろう。


 スシネさんが受付のシスターさんに俺を紹介するように言う。


「おはようございます、サーディン村教会担当のスシネです。神の使徒様をお連れしました」

「お、おはようございます!首都教会不動産部担当のリリーです!・・・スシネさん、個人カードの確認は、既に?」

「はい、バッチリです。サーディン村で私名義で処理させていただきました」

「そ、そうですか」


 む、ちょっとガックリしたねあの子。

 なんだろう。何かあるんだろうか。

 おっと、すぐに気を取り直してこちらを見ている。随分と気合が入っているようだが。


「初めまして、神の使徒様。本日担当させていただきます、不動産部のリリーです。個人カードをお借りしても宜しいでしょうか?」

「はい、どうぞ」


 大体予測出来ていたので既に用意していた個人カードを渡す。

 それにしてもすごいなこのカード。

 TIPS見る限りでは男女の交際関係まで記録しているらしいが(性的な意味で)。


 リリーさんに個人カードを渡すと、早速例のカードリーダーに通していた。

 胸の名札を読み取ってからカードリーダーを中へ投入、

 そういえばスシネさんもそういう処理してたな。


「はい、確かに確認いたしました。ヒロ=アーゼス様ですね。本日は家を買うということでよろしいですか?」

「そうです」

「どのような家がよろしいでしょうか?個人カードの残高は一兆弱あります。使徒様には大金を使う義務と権利があり、加えてかなり良い家を買う権利があります。こちらである程度良さそうなものをピックアップいたしましょうか?」

「んん?」


 なんだかよくわからないな。家って買う権利とかあるのか。

 金さえあれば何でも出来る!っていうわけでもないのか。

 よくわからん。しかしここに来る前から一度言ってみたかったセリフがある、

 これをまず言ってみよう。


「一番いいのを頼む」



 ---



 何故かその場の空気が固まった。


 リリーさんの顔が完全に固まっている、

 スシネさんも苦笑しているようだ。

 なんだ。何がそんなにいけないのだろう。


 突然ログウィンドウに黄文字が出た。


 Smes:そんな台詞で大丈夫か?


 とっさに返してやる、


 >>Smes:大丈夫だ、問題ない。


 システムメッセージ宛にTellって出来ちゃうのかよ。

 まぁいいか。おかげで満足した。

 セリフ順が逆だろうとは思ったが。


 実際には全然大丈夫じゃないのかもしれん。

 リリー氏を再度見ると、一応気を取り直したらしい。

 改めて解説してくれた。


「使徒様、それはムリです」


 な、なんだってー?


「一番いいの、となりますと、それは即ちこの首都にある王城そのものを指すことになります。まず使徒様は、王城を買う資格が現在ございません。ある程度使徒としての徳を積めば、不可能ではないそうですが」

「そ、そうか」

「次に、使徒様は現在一兆弱の資金を持っていますが、それでは王城を買うことは出来ません。王城を買う場合、既にそこに済んでいる王族の方々を退去させるか王族の方々を全て買い上げてしまう必要があります。更に加えて王城に住む人々を全て再雇用しなくてはなりません。これら諸々全て含みますと、一兆円では足りなくなってしまいます」

「な、なるほど」


 一兆とかすげー、なんでも出来る!と思っていたのだがどうも国レベルの話になるとムリらしい。うん、まぁ確かに。俺の考えが甘かったのかもしれない。


 リリーさんは少しほっとした様子で、続きを語り始めた。


「ですが、使徒様がなるべく良いものが欲しいという意向は良くわかりました。王城とまではいきませんが、現在購入可能な家の中から”一番いいの”を選ばせていただきます。少し時間がかかりますので、お席にかけてお待ちください」


 そういってリリーさんは作業に集中しはじめた。

 まぁそれもそうか、ある程度時間はかかるのだろう。

 受付から離れて、ふかふかの客用ソファーに座ることにする。


 スシネさんも遅れて隣に座る。

 こちらをじっと見ている。

 目を合わせると、両手を前で合わせて語りだした。

 祈りのポーズなのに腰をやや振りながら。


「ヒロさんー、ダメ元で聞いてみますけれど、私を奥さんにするのはやっぱりイヤですか?」


 随分直球だな。まぁそれぐらいストレートな方が助かるが。


「イヤです」

「うぅ、わかってました。昨日のロイヤルスイートが拒否された時点でわかっていましたよぅ、グスン」


 ヨヨヨ、とハンカチなど取り出しているが泣いてないことは明白だ。

 全然落ち込んでいないな。ちょっと理由を聞いてみようか。


「気になっていたんだけれど、俺の案内をすることで何か報酬とかあったの?」

「えーっと?はい、そうです。もはや隠す必要も無いので暴露しちゃいます。特別報酬が出るのですよー」


 スシネさんは色々解説してくれた。

 神の使徒はどこに現れるかわからない。

 なので色々と初期導線についての報酬があるらしい。

 使徒を最初の教会まで送り届けると100万円、使徒登録手続きを担当すると500万円、

 食事の案内をすると100万円、移動の案内をすると100万円、宿泊の案内をすると100万円、

 使徒を首都教会まで送り届けると1000万円、などの巨額の報酬が支払われるらしい。


「更に更に、使徒様のお手つきになれば1000万円、お嫁さんになれば5000万円が上乗せされるのです!」


 なるほど。とんでもないことだというのはよくわかった。

 ちなみに、ついていく決まりだとかは大嘘だったらしい。全部の報酬を丸々いただく為についてきたわけだ。


 つまり今回、スシネさんが俺をここまで連れてきたことによる報酬は1800万円以上になるわけだ。

 それだけ貰えるなら悲観する必要もないわけだな。よーくわかった。


 と同時に、スシネさんをやはり嫁にしなくて正解だったなと思った次第。

 うん、ここまで金にガメツイ子はお嫁さんにするのは絶対にアカン。


 話を聞き終わったあたりで、リリーさんの作業が終わったようだ。

 名前を呼ばれたので受付に戻る。


「お待たせしました。使徒様にオススメの物件はこちらになります。一番いいの、です!自信を持ってオススメできますよー」

「ふむふむ」


 同時に用紙を渡される。

 ちょっと読んでみようか。



 物件情報出力情報 受付日 900年 4月2日 9:32

 担当所 ユーロ国 首都パパリ 担当者リリー


 物件No.Xxxxxxx

 アーゼス教会直轄領

 広さ xxx Km2

 建物数 xxx

 従業員数目安 25-30名


(中略)


 価格 500億円

 維持費 1-2億円/年



 なんぞこれー、

 ちょっと意味がわからないですね。


「えーっと、ちょっとよくわからないのですが」

「はい、どこが問題でしょうか?」

「値段はまぁ置いといて、維持費が年間1-2億円という、これは?」

「はい、それは従業員さん皆のお給料と、色々な諸費用の合計になっています。少し考えて頂きたいのですが、平均年収300万円の方を25名雇い入れた場合7500万円の費用がかかってしまいます。そこに他の諸費用を入れますと、大体この程度にはなってしまうのです」

「ふーむ?」


 なるほど、そういうことなのか。

 わかったようなわからないような。騙されているわけではない、と思う。

 不動産屋とはいえ、他の仕事も兼ねてるわけだしある意味お役所仕事なんだろう。


 とはいえもう少し色々聞いてみようか。


「従業員って25人も必要なのかな?」

「必要だと思いますよ」

「何故?」

「えーと、それはですね…」


 おや、何故か説明が止まってしまった、

 リリーさんは少し顔を赤らめているように見える。


「従業員の方々は、使徒様以外の世話もする必要があるからです」

「俺以外?」

「はい。使徒様がその、家庭を持たれますと、そちらの方の世話もしなければなりませんので」

「家庭とな」


 ちょっと想像してみた。


 嫁を取ったとしよう、子供も出来たとする。

 しかし仮に嫁と一緒に住んでいたとしても、一家庭ならばメイドさんは1,2人いれば十分なのではないだろうか。

 執事とか御者とか色々入れても5人程度で済む気がする。


 しかし今回は25人だ。

 多すぎる。

 御者とか執事を共通として5人程度用意するとして残り20人だ。

 各家庭に2人ずつついたとしても10家庭ぐらいいけるのではないだろうか。

 つまりこれは、


 受付のリリーさんが顔を赤らめつつ続ける。


「はい、この人数設定はハーレムを前提としています。使徒様はその目的の達成の為にハーレムの形成は必須とされているそうです。ですから、その、この物件をご購入して頂き、頑張ってください」


 神様公認のハーレムだったのか。

 それにしても何を頑張るんでしょうね。



 こうして、俺のハーレム計画が始まるのだった。

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