第二話「ニート、猫を買う」
「私、サーディン村に帰りますね」
家の購入手続きを無事終えた俺に、ソファーから立ち上がってスシネさんが告げた。
首都教会まで送り届けるのがスシネさんの役目(というよりお金稼ぎ)だったわけだし、用事が終われば帰るのも当然だろう。
あまり世話になった気がしないのだが、お礼を言っておくべきなのだろうか。
地図に次の目的地やルートが表示されるのだから特に助けが無くとも普通に辿り着けた気がする。
でもそうだな、一人寂しくというよりはマシだったかもしれない。
「スシネさん、ここまで案内ありがとうございました。スシネさんがいてくれたおかげで、寂しさを感じずに済みました」
「あら、そうですか?なんだか照れちゃいますね」
スシネさんが照れたような演技をする。
うん、演技だ。チラリとこちらを見た気がしたからだ。
スシネさんがちょっと居住まいを正して続ける。これは何か企んでいる気がする。
「ヒロさんが立派な使徒様としてご活躍されることを期待しております。こんなに素敵な方なのですもの、きっと一月もしないうちに大陸中で有名になりますわ」
「いやいや、それほどでも」
「私もヒロさんの担当が出来たことを誇らしく思っています。ヒロさんの物語がいずれ作られる時には、最初からとてもかっこよくて素晴らしい人だったということを喧伝しておきますわ」
「ほうほう、それで?」
適当に流してみた。物語?そんなの作られるのか。でも嘘かもしれないしな、適当に流すに限る。
スシネさんがこちらの顔色を伺いながら続ける。
「それでその…一生懸命頑張りますので、帰りの馬車賃と、ついでにほんの少しでいいのでお小遣いを頂けませんか、にゃん?」
額にチョップしといた。別れ際にまで評価を下げてくるアホの子も想定内だよ!
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まぁそれでも帰りの馬車賃ぐらいは渡しておいた。物語云々というのが多少ひっかかったのもある。
「使徒様はー、私が可愛らしく甘えてみたのに帰りの馬車賃すら払ってくれなかったのです」
などと後世の歴史書に書かれるのはちょっとイヤだ。そんなものが今後作られるかどうかは知らないが。
チョップの際気づいたが、この世界ではPKこそ不可能であるものの軽い衝撃ぐらいまでなら伝わるらしい。
割とズバッと入れてみたつもりだがまったく痛くはなかったらしく、ケロリとしていた。
痛がる素振りはしていたのだが非常に演技臭かったのですぐに気付いた。
スシネさんは笑顔で帰っていった。受付に首都教会不動産部のシスター、リリーさんはいるものの、距離も離れているし仕事中だ。なんだかんだで一人に戻ったと言えなくもない。ちょっとは寂しいかもしれない。
などと黄昏ていたらリリーさんに呼ばれた。
「使徒様、先ほども説明致しましたが、ご購入して頂いた家に明日には入居出来るように既に手続きが進行中です。明日の朝10時頃いらして頂ければ、新居までご案内可能になっています」
「うん、それはさっきも聞いたかな」
スシネさんと別れる前に、そのあたりのことは聞いていた。
「それでその、それまでの時間の過ごし方なのですが、もし宜しければこちらより案内係をお付けしても宜しいでしょうか?」
「ふむ?」
つまりあれか。スシネさんの言ってた初期導線関連の報酬というのはまだ続いているのだろうか。
おそらくはスシネさんが担当出来る範囲は既に終わっているのだろう。
そうでなければあんなにさっさと帰っていくわけがない。
ふと、そのタイミングでUIに動きがある。
ログウィンドウに新たにシステムメッセージの黄文字が躍った。
Smes:新しいクエストが発行されました。クエストリストよりご確認ください。
UIの右側中央に新たにクエストが出現している。早速確認してみる。
クエスト:奴隷について学ぼう
目的地:奴隷市場
ついにきたか。ファンタジー世界で奴隷市場はお約束って感じだな。
なんだかわくわくしてきた。
クエスト:奴隷について学ぼう
奴隷市場を実際に視察し、この世界の奴隷について学んでください。
TIPSを読んだだけではこのクエストは達成されません。
TIPSを読まずに進めることをオススメします。
安い奴隷を買うとまず間違いなく後悔することになります。必ず最高の一品を選びましょう。
購入せずともクリアは可能です。
おぉ?なんだろうこの説明は。
何か裏があるように思えて仕方が無い。
どうしようかな、TIPS確認するべきか、しないべきか。
と、誰かの視線を感じる。
受付のリリーさんがじっとこちらを見つめている。
そういえば会話の途中だったな。
リリーさんに視線を戻すと、再び話し始める。
「使徒様、案内係の件なのですが、このタイミングでは奴隷市場に関するクエストが発行されるということがマニュアルに載っています。奴隷市場には女性は入場出来ませんし、また教会直属の関係者も信仰の関係で入ることが出来ません。ですので呼び出すまでに少しお時間を頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」
なんと、マニュアルとかあるのか。
確かにそのマニュアルは正しかったようだ。俺は了承する旨をリリーさんに伝え、この首都教会4階不動産部のソファに座って待つことにした。
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「奴隷商人のザンギだァ。お客様ァ、よろしくゥ」
やってきたのは筋肉ムキムキのデカイ男だった。
下はズボンをしっかりと履いているものの、上はほぼ裸だ。お約束っぽいトゲトゲつきのバンドとかつけてる。
お前その格好でよくこの教会に入って来られたなとある意味関心する。
ついでにモヒカンである。大体わかっていただけるであろうか。
それにしても奴隷商人か、売り手が直接尋ねてきたらしい。
ある意味すごく丁寧なのかもしれない。
リリーさんは既に他の客の応対をしていた。
どうやらコイツについていくしかないようだ。
まぁココはちょっとだけ我慢しよう。
可愛い奴隷さえ買ってしまえば後はどうにでもなる、それまでの我慢だ。
ザンギ氏と一緒に首都教会を出る。
二頭立ての馬車が外で待機していた。
中はそこそこ広い。
ザンギ氏の隣に座ると狭そうなので、対面に座ることにする。
御者は至って普通のおじさんだった。
この人を見ただけでは、奴隷商人のお抱えの御者だとは誰も思わないだろう。
目的地につくまでは暇なのでザンギ氏と話してみることにする。
この大男、見かけこそあれだが座り方は実に慎ましやかだ。
両足を揃えてお行儀良く座っている。
意外と良い奴なのかもしれない。
「ザンギさん、今日はよろしくお願いします。色々と質問しても宜しいでしょうか?」
「お客様ァ、是非ともォ、なんなりとォ、聞いてくださいませえェ」
ザンギ氏の口調がアレだが、とりあえず聞いた内容はこのような感じだった。
ザンギ氏は奴隷商人としては極めて一般的で(ただし口調や見た目以外)、
この世界の南方にある獣大陸から仕入れた奴隷を販売しているらしい。
獣大陸にはウサギ、犬、猫の3種類の獣人がいるらしいが、犬族はかなり獣に近い者が多いのでほぼ出回らないそうだ。
今日は特にオススメの猫族の娘が入荷したそうで、それを是非紹介したいと言っていた。
そういえば前日のホテルのフロントに狼さんがいたが、あれは犬族の男性だったということになる。
なるほど確かに獣だった。
別に俺はケモナーというわけじゃないんだ。猫耳と尻尾だけあれば良い。
手足がケモなのは、うーん、いずれ一人ぐらいはいても良いと思うが今はいいや。
他に聞いたこととして、奴隷には愛玩奴隷と労働奴隷の二種類があるという話を聞いた。
てっきり労働奴隷が主流なのかと思ったが、そうではなく愛玩奴隷ほぼ一色なのだそうだ。
このユーロ国内で流通する奴隷は猫族が8割にウサギ族が2割、ほぼ全て♀とのこと。
売れ残りの愛玩奴隷はどんどん値段を下げていくそうだ。
買い手がつくまでどんどん値下げして、そのうちお金の無い独身男性が買っていくらしい。
なんとも不思議な話だ。何故そのようなことになっているのだろうか。
馬車が止まった。ザンギの店についたようだ。
「気をつけてくださいィ」などと言いながらザンギ氏が降りるのを手伝ってくれる。
うん、まぁいい奴っぽいのはよくわかったから、別にそこまでしなくていいんだけどな。
中に入って応接間に通される。
ザンギ氏が部下に指示して下がらせた。
ザンギ氏とは既に馬車内で結構話していたわけだが、全部見て選ぶのはやめた方が良いと言われた。
なんでも、一気に買うととても大変なことになるらしい。
売れ残りの子はとても安くなっているが、それでも絶対にオススメ出来ないそうだ。
何故なのだろうか。
段々と不安になってきた。
これはきっととんでもない罠があるに違いない。
そうだ、今待っている間にTIPSを確認してみるのはどうだろうか。
確認しないことがオススメとあったが絶対に確認してはいけないとは書いてはいなかった。
そうだそうだ、そうしよう。
しかしTIPSを確認する前に扉が開かれた。
執事さんを先頭に、猫娘達が入室してくる。
その数3人。何故か全員水着である。
俺の前に扇状に3人が並んだ。
TIPSを確認しようという気が完全に吹っ飛んでしまった。猫娘達の水着姿に大興奮してしまったからだ。
「うちのォ、今一番オススメのコ達ですゥ、中央の子から順に右、左と値段順に並んでいますゥ」
ザンギ氏がそう説明した。
なるほど、ではまず中央の子から見てみるか。
中央の子は、結構背が低かった。150センチぐらいだろうか。
髪は黒髪ストレート、瞳も黒。
髪の一部分が黒い猫耳になっている。猫耳の中はキレイなピンク色。
胸は…胸はスゴイことになっている、デカイ。背は小さいのに胸がデカイ。
腰はキュっとしまっているが、ヒップは一気に膨らんでいる。
なんということだろう!
しっぽはなめらかで太くも細くもない丁度良い太さだろうか。
顔はとても可愛い。黒い瞳に吸い込まれてしまいそう。
気を取り直して右の子を見てみる。
右の子は、やや背が高めだった。165センチぐらいだろうか。
髪は鮮やかな赤、瞳は深い緑。
髪はなんだかカニっぽく広がっている。とても不思議な髪型だ。
胸は大分大きめ。しかし中央の子が規格外過ぎて見劣りしてしまう。
腰はキュッとしまっている。ヒップも結構引き締まっているようだ。
しっぽは付け根から先っぽまで大分太い。あれはあれで握り心地の良さそうなしっぽに見える。
顔は可愛いけど力強い。緑の瞳の目力がスゴイ。
次に左の子を見てみる。
左の子は、右の子よりも背が低かった。160センチぐらいだろうか。
髪はそこそこの濃さの金髪、瞳はそこそこの濃さの青。
髪には可愛いカチューシャをしている。
この子も胸がデカイ。右の子よりもデカイし、中央とも良い勝負だろう。
腰はきゅっとしまっているし、ヒップも結構大きめ。
しっぽはやや残念かもしれない。細くて長いしっぽだった。
顔は可愛いけど随分と気弱に見える。青い瞳は怯えているように見える。脅したら泣きそうだ。
なるほどコレは素晴らしい。
どのコもとても可愛いので3人まとめて購入してしまいたい。
しかしアレだ。まだTIPSを確認していないではないか。
とんでもない罠が待ち受けているかもしれない。
ここは早まらない方が良いのではないだろうか。
クエスト案内を思い出してみる。
必ず最高の一品を選びましょうとあったはずだ。
悩むが、一番高い中央の子を買っておけば良いのではないだろうか。
高いから最高の一品とは限らないが、しかしここは敢えてそうしておこう。
…何よりそのとんでもないプロポーションの体に、今すぐ襲い掛かりたい気分だった。
「ザンギさん、この中央の子を買います」
「おおォ、お目が高いィ。その子はァ、ややロリィ過ぎてすぐに売れるかどうかァ、少々不安でしたのでェ」
「このコの名前、なんていうんでしょう?」
「そのコはァ、クロっていうのですがあまりにもあんまりな名前なのでェ、購入後好きな時に名前を変更する権利がありますゥ」
「ふーむ?」
名前を変える権利?そういうのもあるのか。
買うと言ったからか、黒髪の子がこちらをじっと見つめている。
うん、可愛い。ロリコンの血が騒ぐ。
いやいや、ロリコンじゃない、ロリコンじゃないぞ。
この子はきっと15歳ぐらいはいってるはずだからな。そうじゃなければこんなワガママボディには育たないだろう。
15歳ならロリコンじゃない。誰がなんと言おうがロリコンなはずがない。
だから俺がこの子の購入後すぐに食ってしまっても何も問題が無いはずだ。
ザンギ氏がこちらを見ながら続けた。
「それではァ、個人カードを出していただけますでしょうかァ?この子の値段は1億円になっておりますゥ。お金の方は大丈夫だと伺っておりますがァ、本当によろしいですかァ?」
「大丈夫です」
UIのログウィンドウに突然黄文字が出てくる。
Smes:そんな返事で大丈夫か?そんな決断で大丈夫か?
>>Smes:大丈夫だ、問題ない。
Smesさんそのフレーズ好きなのか。それにしても今回は結構しつこいね。
ザンギ氏に個人カードを渡す。
支払いの為に個人カードを使うのだと思うが、ザンギさんの手には二枚のカードが見える。
なんだろう、カードに写っている写真から見て取るに、この黒猫ちゃんのカードに見えるのだが。
「本当によろしいですかァ?最終確認ですうゥ!」
「大丈夫だ、問題ない」
問題ない、よな?なんだろう、少し不安になってきたのだが。
ザンギ氏が二枚のカードを重ね合わせて呪文を唱え始める。この世界呪文とかあったのか。
よくわからないフレーズの後、聞き取れるフレーズが出てきた。
「病める時もォ、健やかなる時もォ、死が二人を分かつまでェ、でえェいィ」
ちょっと待て、なんだその呪文おかしいだろ色々と。
ザンギ氏の魔法が発動した。重ねられた二枚の個人カードが光っている。
と、UIに何か変化があったようだ。
なんだろう、パーティーメンバー表示だろうか。
クロちゃんが突然抱きついてきた。いきなり随分と積極的だな、今すぐにでも食ってしまうぞ?
それよりもまずUIの確認だ。一体何が起こった?
UIの左上に、メンバーリスト表示のようなものが出ている。
HPとMP表示だろうか、名前も表示されていた。
一番上は俺の名前、ヒロ=アーゼスと書かれている。
ふむふむ、次は?
その下の名前は、クロ=アーゼスになっていた。
ん?どういうことだ?
抱きついてきたクロちゃんに視線を戻す。クロちゃんはこちらを見上げながらこう言った。
「これからよろしくお願いしますね!ア・ナ・タ!」
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TIPS:奴隷制度
この世界の奴隷制度とは、家族を買う行為にあたります。
愛玩奴隷とはお嫁さん(あるいはお婿さん)を買うことを指します。
労働奴隷とは養子を取ることを指します。
一見メリットが無いように見えますが、お嫁さんを購入した場合は離婚される恐れがありません。
離婚することも出来ませんが、大体どのような扱いをしても大丈夫です。
せっかく高いお金を払ってまで購入するのですから、たっぷりと愛してあげてくださいね。
クロちゃんを購入…もといクロちゃんと結婚後に、TIPSを確認してみた。
なるほどこういうことだったのか。
これは本当に果たして奴隷と言えるのか?
奴隷じゃなくてお嫁さんならしっかり大事にしてあげないとダメじゃないか。
ちょっと考えてみた。
そういえばこの世界はPKが不可能だったわけだがそれはどのように影響するだろうか。
PKが出来ない、暴力も奮えない。
この世界は随分と裕福に見える。一般的な奴隷の必要性はどこらへんにあるだろうか?
無いといえば無いのかもしれない。
つまり結局どういうことだろう。奴隷制度は、奴隷側の婚活にあたるとも言える。
獣大陸の本土の事情は良くわからないが、女の子が余っているのだろうか。
だから別の国にまで結婚相手を探しにくるということなのかもしれない。
となるとまた別の面も見えてくる。
奴隷商人とは、奴隷を仕入れて売るというのは確かに事実ではあるのだろうが、奴隷の子達の結婚相手を探してくる役でもあるということだ。
ザンギ氏が売れない子をどんどん値下げするという理由もわかった。そして独身男性が買っていくという話も納得した。
不人気な子はお金のない独身男性に貰われていくということだ。最初から婚活なので、嫁の貰い手が無いよりはマシということになるのだろう。
クロちゃんと結婚後、衝撃の事実に落ち込んでいる間に他二人、赤髪の子と金髪の子は去っていった。
他の二人も非常に可愛かったが、奴隷ならまだしもお嫁さんが増えるのは時期尚早だろう。
ちなみに返品は不可らしい。最終確認とか言ってたしな、なるほど納得。
クロちゃんは最初水着姿だったが、別室に着替えに行った。残ったザンギ氏に話を聞いてみる。
安いコがオススメ出来ない理由、それは値段が下がるにつれてやさぐれるからだそうだ。
それもそうかもしれない。高く買って貰えるということは自分の女の価値を高く評価されるということだ。
値段が下がるにつれてやさぐれるのも仕方ないと言えよう。
さすがにこれ以上ヒドイことは言えない、大体の事情はわかった。
クロちゃんが戻ってきた、白のワンピースを着ている。
腰の辺りを赤いリボンできゅっと締めて胸を強調している。
黒い瞳に黒髪ストレート、白ワンピ。アリといえばアリなんだろうか。
部屋に戻ってすぐにこちらに抱きついてくる。左腕を取られた。胸を押し付けられる。
むむむ、やはりデカイ。これはたまらん。今すぐ押し倒してやりたい気分だ。
その様子を見ていたザンギ氏が収納から何やら薬を取り出した。なんだろう、何か必要なものなのだろうか。
そこそこの大きさの小ビンだった。
「この薬ィ、是非お使いくださいィ、サービスですゥ」
「なんですか?この薬」
「賢者になれますゥ、是非お試しくださいィ。ちょっとずつお飲みくださいィ」
賢者?賢者ってなんだ。とりあえず貰って早速少し飲んでみる。
飲んですぐに変化に気付いた。股間の特大テントが治まっていた。
なるほどそういう配慮だったのか。確かにあのままでは外を歩けなかったかもしれん。
というか俺は選んでる最中からずっとこうなっていたのだろうか。金髪の子が怯えていたのもそれが理由だったのか。
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クロちゃんは全く荷物を持っていなかった。身の回りのものはほぼ全て奴隷商人側から借りていたらしい。
着の身着のままで婚活が出来るということか。
となれば当然この日の予定は自動的に決まった。クロちゃんの為に買い物日和である。
俺もまったく手荷物を持っていないので、色々と買い揃えなければいけないのだが。
クロちゃん先導で買い物をして回る。話を聞いたところ、この首都のお店の位置や概要をしっかりと覚えておいたそうだ。
それにしても助かったことは、インベントリの仕様だ。
腰に茶色の小袋と黄色の小袋がこの世界に来たときからついているわけだが、黄色の小袋はだいじなものと金銭入れだとして、茶色の小袋もどこぞの不思議ポケットのように色々出し入れ可能だった。
おかげで色々と持ち歩かずに済んだ。もし手荷物にしていたら重量で押しつぶされていたかもしれん。
クロちゃんも同じ効果を持つ収納道具を購入していた。
俺の付けている様な小袋ではなく腹巻ポーチみたいなものだった、そこそこ可愛い。
いやしかしね、おなかのところから色々取り出すのは、結構まずいんじゃなかろうか。
「夫婦だとインベントリが共有出来るんですよ!素敵だと思いませんか?」
なんかどこかで聞いたことのある設定なんだが大丈夫か?色々と。
他にも色々と店を回る。武器や防具の店があったので入ろうとしたのだが止められた。
クロちゃんいわく、お金があるのなら一般店よりもオークションで購入した方が良いらしい。
最後に案内されたのは宝石店っぽかった。
「アナタ、結婚指輪を買いませんか?お揃いが良いです」
「指輪かー、いい物があるかな?」
「えっとその、シンプルな物しか無いかもしれません。シンプルな物でいいですから、行きましょう?」
ふむ?何かひっかかるな。とりあえず中に入ってみる。そしてその意味がすぐにわかった。
そこは宝石がない宝石店だったのだ。
なんというか、金属リングしかないのである。シルバーリング、ゴールドリング、プラチナリング等並んではいる。しかし肝心の宝石が無い。全く見当たらない。
一体これはどういうことなのだろうか。
俺の左腕に相変わらずくっついているクロちゃんがこちらを見ている。俺が相当驚いた表情をしていることを確認していたらしい。
「やはり知りませんでしたか。この世界の人族は宝石が嫌いなのです」
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この世界には5つの大陸がある。
中央の魔大陸には人が住んでいない(そもそも封印されているので中の様子がわからないのだが)
その他の大陸にはそれぞれ大別して別の種族が住んでいる。
東大陸には人族が住んでいる。
このユーロ国には地球でいう西洋風の人が住んでいるらしい。
他にも2地域があり、こことは異なった人族が住んでいるそうだ。
一大陸三地域三部族、という構成らしい。
北の大陸にはエルフ系、南の大陸には獣系、西の大陸には小人系、ドワーフ等が住んでいるのだそうだ。
そして各大陸の人々は接する二文明と比較的仲が良く、接しない一文明との仲が悪いとのこと。
つまり、人族はドワーフなどとは仲が悪いということになる。
宝石類はドワーフが産出する素材なのだそうだ。
よって人族はドワーフを嫌う関係で宝石まで嫌うらしい。
正直よくわからん。キレイなものは皆で愛でれば良いと思うのだが。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはいうが、宝石は別腹ではなかろうか。
「猫族は宝石大好きなんですよ。内海貿易でドワーフ産の宝石が獣大陸にまで来ますから。でも人族には不評なので猫族の領地までで全ての宝石を売り切らないといけないのです。その関係でキレイな宝石が安く手に入るので、猫族は宝石が大好きです」
少し内海貿易について振り返る。
内海貿易については昨日のお昼にスシネさんと食事してる時に語っていたな。
外海がお魚いっぱいで内海がイカしか釣れないのだとか。
内海には強い流れがあるが、一方通行。
前回は潮の流れの向きまでは聞かなかったが、どうにも世界全体だと半時計回りに流れているようだ。
ドワーフの宝石にあたる輸出品が、猫族の愛玩奴隷なのだそうだ。
ユーロ国を過ぎれば次はエルフの住む北大陸に行ってしまう。
そしてエルフは獣族全般が嫌いなうえに愛玩奴隷もキライなのだとか。
なので内海貿易ではユーロ国で猫族を売り切った後、次の地域に向かうらしい。
「ですからユーロ国では宝石付きのリングは手に入りません。それにもし宝石付きリングを身に付けていたら色々と目をつけられるかもしれません。ですから金属リングで良いのです、お願いします」
宝石大好きなのに宝石のない金属リングで我慢するということらしい。
色々と回って買い物させられたが、クロちゃんは割と良い子なのかもしれない。
もちろんその後は奮発してプラチナリングを購入しておいた。
宝石店のあとは当然お楽しみタイムということになる。クロちゃんは相変わらず先導してくれている。
一体どこに辿り着くのだろう。微妙に見覚えのある景色な気がするのは気のせいだろうか。
気のせいじゃなかった。着いた先は昨日宿泊したホテルだったのだ。フロントには昨日と同じく例の狼さんがいた。
こちらに気付いた瞬間、耳がピンと立つのが見えた。
「いらっしゃいませ。お客様、本日はご宿泊でしょうか」
「はい!」
昨日スシネさんが言ったセリフを今度は俺が言うことになった。
うん、なんだろう、そういうフラグだったってことなんだろうな。
「お二人様でしょうか?お部屋はいかがなさいますか?」
うん、一応学習はしたんだ。このホテルのロイヤルスイートにダブルなんてない。キングが1つとツインが1つの4人分固定。
しかしここは敢えてこういうべきだろう。
「ロイヤルスイートのダブルで!」
その夜はクロちゃんとしっぽり楽しみました。




