↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
?  作者: 暮葉畏啓
PR
3/3

社

僕は鉄と灰の街を通り過ぎて、森と水の地に向かった。鳥の宴と境界の隙間で一度、心と足を止めた。


「生命の残滓はここならあるのかな。黒葉は求めないだろうけれど。」


鳥居にとまっている死に絶えた小鳥を尻目にして、僕は綿のような森の道を進み始めた。鳥居を超えて数里。僕の黒い目はそれを映した。女性と本殿。


「ヤァヤァ。そこのお嬢さん、どうしたんだい?こんな人気のないところでさ。」


その女性はゆっくりとこちらを振り向いた。顔は黄色く、頭に2本の白い角。目は泣いていた。


「どうしたんだい?なんで泣いているんだい?何かあったのかい?」


僕は軽やかに近づいた。至る所に生えた木々。宇宙で生命の断末魔が何十にも響いて届いた。その女性の手には血と鉄が溶けた五寸の釘が刺さっている。僕は笑顔でその手を掴んだ。


その時。


鬼は僕の手を噛みちぎった。そして軽やかに僕の足をも引きちぎった。そして長く太い釘で、僕の柔らかな腹を、嬉々として打ち付けた。


「痛いよ。」


僕は顔に囁いた。顔にへばりつくようにこの口を近づけて。この真っ白な目を見開いて。彼女の目が裏に逃げた。僕は微笑んで、それからその目を捕まえた。


「大丈夫?痛いの?」


僕は鬼の目を握って抜き取った。赤い鮮血があたりに飛び散った。呻く女性の声が聞こえた。宇宙で生命の歓喜の声が何重にもこもって聞こえた。


「痛い。」


あたりの土が僕に語りかけた。


「ごめんね。」


だから僕は謝った。それから手に握っていた鬼の目を指で押しつぶした。そのまま残骸を群れた蟻に渡した。女性は泣いていた。


「ごめんね。」


僕は本殿に腰を下ろし、隣をすすめた。けれど鬼は座らなかった。ただ、空いた目を押さえながら僕の前に立っていた。僕の顔を舐めるような近さで立ちすくんでいた。


だから僕は、


「傾げても畏め 黒羽の大神。」


宇宙が光を失った。衣が世を包み、昼が死んだ。気づけば鬼の女性は涙の滴を残して消えていた。僕は本殿の足場に寝転がった。隙間だらけの屋根。それを澄んだこの目に映して、一呼吸の睡眠を図った。


「おやすみ。」


今宵も社は静かに眠る。命の残滓もこの地に宿る。愛と呪いは紙一重。神の遊びは終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。