社
僕は鉄と灰の街を通り過ぎて、森と水の地に向かった。鳥の宴と境界の隙間で一度、心と足を止めた。
「生命の残滓はここならあるのかな。黒葉は求めないだろうけれど。」
鳥居にとまっている死に絶えた小鳥を尻目にして、僕は綿のような森の道を進み始めた。鳥居を超えて数里。僕の黒い目はそれを映した。女性と本殿。
「ヤァヤァ。そこのお嬢さん、どうしたんだい?こんな人気のないところでさ。」
その女性はゆっくりとこちらを振り向いた。顔は黄色く、頭に2本の白い角。目は泣いていた。
「どうしたんだい?なんで泣いているんだい?何かあったのかい?」
僕は軽やかに近づいた。至る所に生えた木々。宇宙で生命の断末魔が何十にも響いて届いた。その女性の手には血と鉄が溶けた五寸の釘が刺さっている。僕は笑顔でその手を掴んだ。
その時。
鬼は僕の手を噛みちぎった。そして軽やかに僕の足をも引きちぎった。そして長く太い釘で、僕の柔らかな腹を、嬉々として打ち付けた。
「痛いよ。」
僕は顔に囁いた。顔にへばりつくようにこの口を近づけて。この真っ白な目を見開いて。彼女の目が裏に逃げた。僕は微笑んで、それからその目を捕まえた。
「大丈夫?痛いの?」
僕は鬼の目を握って抜き取った。赤い鮮血があたりに飛び散った。呻く女性の声が聞こえた。宇宙で生命の歓喜の声が何重にもこもって聞こえた。
「痛い。」
あたりの土が僕に語りかけた。
「ごめんね。」
だから僕は謝った。それから手に握っていた鬼の目を指で押しつぶした。そのまま残骸を群れた蟻に渡した。女性は泣いていた。
「ごめんね。」
僕は本殿に腰を下ろし、隣をすすめた。けれど鬼は座らなかった。ただ、空いた目を押さえながら僕の前に立っていた。僕の顔を舐めるような近さで立ちすくんでいた。
だから僕は、
「傾げても畏め 黒羽の大神。」
宇宙が光を失った。衣が世を包み、昼が死んだ。気づけば鬼の女性は涙の滴を残して消えていた。僕は本殿の足場に寝転がった。隙間だらけの屋根。それを澄んだこの目に映して、一呼吸の睡眠を図った。
「おやすみ。」
今宵も社は静かに眠る。命の残滓もこの地に宿る。愛と呪いは紙一重。神の遊びは終わらない。




