019 一抹の懸念
クラブハウスへ戻ると、リンチェ、ユルナ、マヤもいた。
三人とも、ちょうどギルドへの用事を終えて帰ってきたところらしい。
「おっ、先輩だ。おかえり~」
「ああ、戻った」
真っ先に気付いたユルナが手を振る。
すると、ユルナの視線が俺の隣へ移った。
「サーティさん! おかえりなさい!」
一週間ぶりに姿を見せた仲間に、ぱっと顔を明るくした。
「ただいまですわ、ユルナ、それにマヤも。留守の間、みなさん変わりありませんでしたか?」
「はいっ、ありました。ライノ先輩が仲間になったよ!」
ユルナは俺を見てぴしっと指差す。
「ふふ、ええ知ってますわ。ちょうど今、ライノさんと町から帰ってきたところですので」
「えっ、先輩と二人で?」
ユルナの笑顔がぴたりと固まった。
「あ、そうでしたわ、二人にもお土産がありますの」
サーティはぱんっと手を叩くと、小さな箱を二つ持ってきた。
「スノードーム地方名物、『ユキネズミ饅頭』ですわ」
小さな箱が開かれる。
「わっ、かわいい」
「……ねずみ」
いつの間にかマヤも本から顔を上げていた。
「中はカスタードクリームです。美味しかったですよ」
「あ、リンチェ先輩は先に食べたんだ。それじゃあ、いただきます……って、マヤ、もう食べてるの?」
「……うん。もちもちで、美味しい」
「はいはい。味の感想はいいけど、夕飯の前だから食べすぎないでね?」
「はむはむ。承知した」
そう言いながら、マヤは二つ目の饅頭へ手を伸ばしていた。
「マヤの食いしん坊にも困ったものですね、ライノさん」
「全くだ」
どうやら食い物のことになると、マヤの記憶は5秒で消えるらしい。
それはそうとして、だ。
俺は咳払いを一つした。
「話がある」
すると、饅頭を食べていた三人の視線がこちらへ向く。
「実はさっき、サーティと一緒に町医者のところへ行ってきた」
「羊の件、ですね?」
「ああ。それで色々あったんだが――」
俺はホルティに会ったこと。
そして、その娘のマリーンが王都の下水道で消息を絶ったことを手短に説明した。
「――というわけだ」
一呼吸置く。
「それで、これから王都へ行って、その娘を探すことになった」
「もきゅ」
「はむ」
「……」
三人とも饅頭を食べたまま止まった。
「……王都の下水道は危険な場所。行かない方がいい」
最初に口を開いたのはマヤだった。
「あの場所は、迂闊に入っていい場所じゃない」
「ああ。なんとなく危ないってことは、サーティから聞いたよ。でも、せいぜい魔物が出るぐらいだろ?」
「ライノは最近この国に来たばかりだから知らない。たしかに昔は普通の下水道だった。……でも今は違う」
「どう違うのですか?」
サーティが首を捻る。
「生態系」
マヤは短く答えた。
「なぜかこの国にいるはずがない、新大陸原産の変わり種の魔物が目撃されてる」
「新大陸の……? どうしてそんなものが」
「分からない。だから気味が悪い」
「ですが、王都の近郊でそのような異変が起きているのなら、騎士団が調査しているのではありませんか?」
「……調査記録はあるにはある。でも、新しい報告が出るたびに別の魔物が見つかる。A級以上の強力な魔物が多くて調査が進展しない。だから分かっていないことも多い」
マヤはそう言って肩をすくめた。
さすが、普段から本をたらふく読んでるだけあって、その辺の事情には精通しているらしい。
「だから危険」
最後に俺を見て、そう結論付けた。
王都の地下にやばい魔物がうろついていることは、よく分かった。
だが、それだけで話を終わらせる訳にもいかない。
「リンチェ、どう思う?」
俺は視線を向けた。
このクラブのリーダー。
そして、ホワイトキャッツの羅針盤とも言える少女へ。
「行きましょう」
「「 !! 」」
全員が目を見開く。
「サーティも戻りましたし、ライノさんもいます。今なら戦力は十分です。この五人であれば、三大魔境の一つである王都下水道も攻略可能だと判断します」
リンチェはそう言い切った。
「それにしても、王都かぁ。初めて行くし、なんだかワクワクするかも」
「ユルナ、ピクニックへ行くのではありませんのよ?」
「そうです。目標はホルティおじさんの娘の救出です。王都観光はその次ですよ」
サーティとリンチェが釘を刺した。
その隣では、マヤが読んでいた本をぱたんと閉じる。やれやれといった表情だが、反対はしないらしい。
いざ王都へ。
俺たちホワイトキャットは、大きく舵を切った。




