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『再び森へ』

 空が朱く染まってゆく。


 日が沈み、月がゆっくりと昇りはじめる。


 そんな景色を見ながら、俺は自転車を飛ばし公園に向かっていた。

 

 公園に辿り着いた俺は、その静けさに驚く。


 いつもなら夏休みということもあり子ども達がはしゃぎまわっているはず。


 けれど公園の遊具周辺に貼られた黄色いテープと立ち入り禁止を示す赤のコーンに合点がいく。


「そういえば、ニュースにもなってたな」


 昨夜の戦いは、大きくニュースで報じられていた。


 公園が広いこともあり、公園内だけで被害は収まっていたものの、ひび割れたタイルや無残にも壊れた遊具、地面に開いた大穴など異常な光景がテレビで流れていた。


 周囲の住民は不穏に思ったものの、ちょうど夏だったからか迷惑な住民が花火大会でもやっていたのだろうと思ったらしい。けれど早朝にジョギングをする近隣住民が公園の惨状を見て警察に電話したところ、大騒ぎになり、ニュースで大きく取り上げられた。


 そんな公園には子供は一人もいないどころか、現場周辺を見回る警察官が二人いた。


『ふむ。あの者たちはなんなのじゃ? 』

ヒル子が不思議そうに俺に尋ねてくる。


「警察っていって……まあ悪い人を捕まえる仕事の人だよ」

『ほほう。そのような人間がいるのじゃな』

「まあな。まいったぜ。あれじゃ、近づけねえ」


 俺は近くに行くのを諦め、公園の外周を歩きつつエルピス、怪物の正体、そしてノーデンスの目的はなんなのか、と考える。



『ところで太陽。エルピスはいったいどんな娘なんじゃ? 』


「そうだな……」


 俺は昨日会った少女のことを思い出しながら答える。


「金色に輝く髪と白い服の女の子で」

『ほほう 』

「それで、ええと。何ていえばいいんだ」

 

 俺はエルピスとの出会いを頭に浮かべる。エルピスは見知らぬ俺を見た時も、驚くわけでもなく、ただじっと俺のことを見ていた。


 そして怪物に襲われた時は、微かに怯えが見えたが、悲鳴を上げることもなかった。


 怪物に吞み込まれるときも。


「感情が、あんまり見えてこない感じだな。無口なだけで、感情がないわけじゃねえかもしれねえが」


『なるほどのう』


 外周をどれくらい歩いたのか。時計を見ると時刻は午後九時を過ぎていた。日は完全に沈み、月が代わりに空に昇って、俺を見下ろしている。


 俺はもう一度公園に入り、遊具の辺りを見ると、警察官はいなくなっていた。


「よし」


 俺は遊具に近づきつつ、そういえば森に行くための方法がわからないことに気づく。


「ノーデンス、そしてエルピスに会うためにまず森に行きてえが、どうやって森に行くかわかるか?」

『そんなもの、我がわかるわけなかろう。最初はどうやって行ったのじゃ?』

「いや、それがこの辺りでなんか奇妙な渦が出てきてよお」

『それはわからぬが。あのノーデンスとやらが言っておっただろう。お主の左手の……名前を忘れたのじゃ……その腕輪が導くとかなんとか』


 ヒル子の言葉でノーデンスの言ってたことを思い出す。

 

 俺は周囲に誰もいないことを確認すると、左手首を顔の前まで持ってきて、ついている石を見るも、何も反応しない。


『何も起きんではないか』

「それよりヒル子の力で、何かできねえのかよ?」

『無理じゃ。さっぱりわからんもん 』

 とあっけらかんに言い放つ。


「ったくよお……」


『こういうのはあれじゃ。開けとかいえば開くのじゃ!! やってみるのじゃ! 』

 

 適当すぎるヒル子の言葉に俺は呆れるも、他に方法はないためやってみることにした。


「まあ、そうかもな……開け! 」

 

 俺の声だけが、静寂な公園に虚しく響く。


「開かねえじゃねえか!」

『そりゃそうじゃろう。開けと言われて開いたら苦労せんわい』


 ヒル子の言葉に切れそうになるも、俺は抑える。


 何か方法はないものかと悩んだ挙句、俺は試しに、エルピスと出会った黄金の森のことを想像する。


 すると、左手首の腕輪、イマジナイトの中心の炎の紋様が光りだし、内に仕舞われていた金色と赤色の外枠が展開すると同時に、目の前に人ひとり入れそうな渦が現れる。


『門とやらはこれか。一体どうやったのじゃ? 』

「いや、最初にエルピスと出会った森のことを想像したら出てきた」


『ほほう、我にもなんとなくわかったのじゃ。要は太陽。お主の想像が鍵になってるみたいじゃのう』

「想像?」

『そうじゃ。お主があの騎士に変身したのも、お主が想像したからじゃろう?』 


 理屈というより直観めいたヒル子の言葉を聞いて感心した俺は

「なるほど。賢いな」

 と返すと

『そうじゃろう。我は賢いのじゃ! 』

 

 褒められて嬉しいのか、ヒル子は叫ぶ。


 喋り方や態度から幼さが漂うヒル子を、俺は適当に褒めても喜ぶと考えたら、その通りだった。

 

 俺は渦の目の前で一瞬躊躇する。


 この渦をくぐらなければ、昨夜の出来事は夢だったと思えるのではないか。


 そんな躊躇も束の間だった。


『太陽! 』

 ヒル子の呼びかけに、俺は驚く。


「なんだよ急に」


『心配するでない! この我がついてる。じゃから大丈夫じゃ! 』

 ヒル子の励ましの言葉に、楽になると同時にそんな俺は気恥ずかしさを隠すようにキレる。


「うっせえ! 言われんでも行くぜ!」


 と叫び、俺は目の前の渦の中に飛び込んだ。

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