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『異形』

 いつの間にか、目の前に現れたその異形の存在を見て、俺の頭は真っ白になる。

 

 生物と呼ぶにはあまりにも冒涜的なその存在は、不気味にこちらを見ている。


 その姿は一見、蜘蛛と蟹を巨大化して、無理やりくっつけたような、歪な姿かたちをしている。

 

 鈍く光る硬い殻で覆われた縦長の胴体からは、1m以上ほどもある蜘蛛に似た足が八本、頭には角とも触覚ともとれる突起物が生えており、口には何十本もの鋭い牙のようなものが見える。


 そして何よりおぞましいのは、頭から胴体に至るまで隙間なく蠢き、瞬きをする不気味な赤い目玉だ。


 目玉は見たところ、何十個も付いており、そのすべての目は太陽と少女を捉えていた。


 その怪物は、俺と少女がいる黄金の大樹に向かって、脚を軋ませながらゆっくりと近づいてくる。


 人知を超えた恐怖をまき散らすその怪物は、俺の中にあった勇気を、根こそぎ剝ぎとる。


「かっ……」


 声にならない声が、漏れ出る。


 突如として俺は、息苦しさを感じると同時に、極寒の地にでもいるかのような寒気に襲われる。


 歯が砕けそうなくらい震え、上手く呼吸ができない。視界がぼやけたと思ったら、俺はいつの間にか地面に吐いていた。


 目が回り、意識が混濁する。俺は、今のこの状況が現実なのか、それとも夢の中なのかもわからなくなる。


 意識と無意識の狭間で、絶望という名の巨大な影が、俺を飲み込もうとする。


 正気と狂気が混ざり合い、意識が彷徨いだした俺は、しゃがみこんだまま地面に倒れそうになる。

 

 その時だった。 


 俺の背中に、そっと何かが触れた。

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