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赤眼の彼が、異世界支配してみた  作者: ひよこ丼
第一章 『死始と死別』
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第6話 『新キャラ登場!』


 


「んぁ……」

 

 二度目の眠りから覚め、のっそりと体を起こす。

 目をこすって辺りを見渡すと、そこは相変わらず無味乾燥な造りの一室だった。

 眠るつもりはなかったのに、布団に入れば即睡眠スイッチが入る己の体質が忌まわしい。


 どれくらいの間寝ていたのだろうか。

 やっぱりあの時、疑われるのを覚悟で《時間》について聞いておけばよかった。


「考えるのも動くのもめんどくせぇな。まぁそのうち誰かしら呼びに来るだろ」


 再び思考中断。

 人任せな考えで自身を納得させ、三度目の温もりに体を馴染ませた。目を閉じればすぐにでも………


「おいおい客人よォ。知らねェ布団でよくグースカ寝られるな」


 乱暴な言い草と、それに合わないキーの高い声である一人目。


「リク、だめじゃない。一度起きたくせに勝手に人を頼りにして、また寝ようなんて考えるお客様の頭はどうかと思うけど。そんな言い方よくないって」


 一見口の悪さを咎めているようにみえて、実はその何倍もの棘を含んだ散々な言い様の、凛とした声の二人目。


 【強制】謎の住人出現イベントにより、毛布から勢い任せに半身を出して猛抗戦を開始する。


「うるせぇええ! 俺は狼との交戦でクタクタで! 疲れてて! 眠いんだよ! 悪いか!」


「交戦しただァ? フレシアに助けてもらっただけじゃねェか」


「きっとお客様の頭の中ではそうなってるのよ。可哀想だから、そっとしといてあげよ?」


「う、うるせぇ! それよか、お前らベットの下に隠れてただろ!? 一歩間違えば犯罪だからな!? あと、二人目のほうがディスり方エグいから!」


 言いたい事を全て言い切り、落ちかけていた毛布を自然な動作で手元に寄せて背筋を正す。まるで何も無かったかのように。


 声の主は、ルイでもフレシアでもなかった。

 また第三、第四の住人が出てきたわけだ。しっかりとその面を拝んでやらねば、という変な使命感を持って、改めて二人の顔に視線をやる。


「わたしの名前はカルト。この屋敷に住む一人………って感じの紹介でいいのかな」 


「俺様の名前はリクだ! カルトになんかしたらただじゃおかねーからなァ!」


 そんなことするか!と口にしようとして噤む。

 ……カルトと言っただろうか。


 本日何度目かの衝撃かわからないが、タツキの脳内では天使のラッパが吹き鳴らされていた。


 背丈はタツキと同じぐらい。

 茶髪に近いオレンジ色をした髪は、可愛らしい形のゴムで一つにまとめ、横で流している。

 少し青みがかっている目は垂れ下がり、勝ち気そうな彼女の性格と真逆なのがまたいい。彫りが浅い顔は人の良さそうな笑顔が輝いており、年齢より少女を幼くみせていた。もちろん出会い頭に歳は聞けないので想像だ。


 ところどころはねた前髪は目が隠れるほど伸びてしまっているが、なぜか手入れ不足だとは感じず、逆にオシャレの一環に思えた。


 俺でなければ………いや、フレシアに会う前の俺だったら、即座に抱きしめていたかもしれない。そう思わせるほど彼女は魅力的だった。


「あ、あのぅ。キミ……じゃなくて、お客様。だいじょうぶ?」


 タツキの鼻息の荒さに怯えている(……引いている?)様子は小動物を想起させ、思わず囲って守ってやりたくなるほど可愛らしい。怯えさせている本人が言うのも何だが。


「お、おい、お前! カルトをそんな目で見んじゃねェ!」


 小さな体でぴょんぴょんと跳ね、牙にもみえる八重歯を覗かして唸る小童。


 リクという名の低身長少年。

 小さな体を前に出して、オレンジ髪の少女を背に隠している。まるで、俺がカルトを守るんだと言わんばかりの睨みようだ。威嚇しているつもりなのだろうが、一切恐怖の類は感じなかった。彼の態度にも問題があるのだろうが、一番の要因は性別を違うほどのその童顔だろう。


 線が細いのが印象的で、背はタツキと比べても低く華奢な体つきだ。ぱっちりとした金の吊り目がコロコロ変わる表情とリンクして大きくなったり細くなったりする様は、小さな子供のようで微笑ましい。


「大丈夫だよリクちゃん。君も十分可愛いから。ほれよしよーし」


 その愛くるしさにいたずら心が刺激され、ついからかいたくなるのが本音である。可愛いというのも半分本音で半分挑発だ。


 睨みを崩さないリクの、明るいオレンジ髪をぐしゃぐしゃと撫でてやる。怒られても怒鳴られてもよかった。だが、リクは予想に反して気持ちよさそうに金瞳を細めたかと思うと、予想通り慌てて手をばたばたするアクションをして誤魔化した。その動作に不覚にもキュンとする。フレシアに対するような感情ではなく、ペットに対する愛情に似たものだ。


 カルトとお揃いなのであろう、二つの球体がついたゴムは、短い髪を横で結い上げ、幼さを醸しだす役割をしていた。前髪のはねポイントをピンで止めているあたり、わざとやっているのかもしれない。中性さが増している。

 小さく整った眉を不快げに歪めて恥辱に顔を染めているあたり、その線は薄いと思うけれど。


「うっせェ! オレを子供(ガキ)扱いすんな! フレシアに頼まれたからしかたなく、わざわざ俺様がお前の様子を見に来てやったのによォ!」


「あれー。傷跡が残ったら大変だから見に行きたい、って言ったのは誰だっけ? それに、フレちゃんは大丈夫だって言ってたのに」  


「んぐ……」


 とろんとした目に加え、本当にとぼけた言い方だったので、真偽の判断に迷う。 

 だが、リクの顔が赤く染色されていき、ついには腕を振り回し始めたところをみるとどうやら本当らしい。

 なかなか素直じゃない少年で憎めないタイプだ。うん、嫌いじゃない。


「あれあれ、リクちゃん? 顔が真っ赤だけどホントなんだー?」


 ニヤニヤする口元を手で抑え、眠気に打ち勝った体をベッドから乗り出させる。もう片方の手はリクの頬をつつくのに忙しい。


「ちょ、調子にのんじゃねェぞ! 弱っちいお前なんか食いつくしちまうぐらいウルフの群れは凶暴だし、えーと、なんつーか、負け犬の顔を拝みに来てやっただけだ! ただの暇つぶしだしっ!」


 リクの言葉に引っかかりを覚えたが、今は掘り下げる場面ではないと判断して流す。素直に心配だったと言えばいいものを。


「はいはい、ありがとな」


 わざとリクが怒るようなポイントを選んで突く。

 想像通りの反応を返してくれるのが妙に楽しい。


「なっ……! 信じてねーだろ!? いっとくけど、オレは――」


「はーい、そこまでね。リク、仮にもお客様の前なんだよ? 失礼のないようにしなきゃ」


 相変わらず毒気のある言い方でカルトが仲裁に入る。仮にもとは何だ。

 ダルそうな顔をした彼女は、タツキたちの言い合いをさっさと終わらせたいらしい。

 確かにリクとの会話は売り言葉に買い言葉で終わりが見えない。


「カ、カルトまでオレを子供扱いするのかよっ」


「………リクは大人。だから黙ろ?」


 気だるげそうにリクをあしらうと、その冷たい視線がタツキに向けられる。

 少女に対して身構えてしまったのは、条件反射というやつだ。………たぶん。


 かわいそうに。

 カルトの雑対応に心を痛めたのか、リクは石像と化して動かなくなっていた。

 ……マゾ属性はもっていないので、可愛い女子に罵倒されたらタツキも同じ末路を辿るだろう。それか新たな性感改革が起きるか。


 どんな精神攻撃が飛び出すのか、タツキはツバを飲んで待ち構えた。感情を読み取れない瞳と視線が交じる。


「お客様の傷、わたしが癒やしたんだけど……。痛くない、ですか?」


「痛くないですむしろグッジョブですはい、すっきりすっかり治っちゃってるから、ほらこのとーり!」


 一体どれだけの暴言が吐かれるのかと心にシ

ールドを張りまくっていたタツキは、思わぬところからの先制パンチによって、言葉は震えるわ、言っていることは支離滅裂だわのぼろぼろだった。


 一般的男子の心は、ちょこんと傾げられた首に、憂いに満ちた瞳で見つめられればもうたまらない。

 ………ツンデレ属性万歳!!!

 初めて食らったデレの威力は絶大で、タツキの心に大ダメージを食らわせた

 最初の印象から、可愛い→隠れ毒舌→怖い(ツン)→優C!!!!(デレ)と、カルトの人物像はかなり変わっている。


「ならよかった……。傷が残らなくて安心しました」


「何だただの天使か」


「へ?」


 思わず本音が漏れてしまった。

 追加で、冷たいと思ってごめんなさいと心で謝罪。

 タツキの心配をしてくれる彼女は慈愛に溢れており、棘は感じない。

 おそらく《癒やした》というのはこの世界の治癒魔術的なものだろう。そういえば、タツキの中にも魔力なるものが存在するのだろうか………?


「カルトが……」


 この世界の《魔法》について聞いてみようと思ったタツキを、震える声が引き止めた。

 ちらりと視線をやると、ようやく硬直が解けたリクの肩がぷるぷると震えている。


「まぁ泣くなって! 他にもいい人が見つか――」


「カルトがオレを認めてくれた! オレを! やったぜ! はっはっは、どうだァ! えーと、タツキだっけか」


「何だただの馬鹿か………」


 もう、可哀想を通り越して痛々しかった。

 慰めてやるのも現実を教えてやるのもあほらしくなり、そっとため息。


 カルトがどんな意味で「大人」と言ったのか、リクは全く分かっていないらしい。その嫌味をすっかり鵜呑みにし、馬鹿騒ぎしている有様なのだから。………素直すぎる。将来詐欺に引っかかる未来が簡単に想像できる。

 タツキの名前を覚えていたのがせめてものプラスポイントだ。


「オレが馬鹿だと? いくら羨ましいからってなァ」


「さぁお客様、フレちゃんが待ってるよ。ついてきてください」


 そう言ってにっこりと笑ったカルトは、リクの言葉に耳も貸さなくなっていた。



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