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赤眼の彼が、異世界支配してみた  作者: ひよこ丼
第一章 『死始と死別』
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第15話 『憤怒』




 ―――これはやばい。

 理屈より先に本能が悲鳴を上げる。


「ふざけないで、ふざけないで、ふざけないで………!」


「う……?」


「リラ、やめろ」


「リラ姉!」


 リラの周りの大気が揺らめき、魔法発動準備が整ったことを告げる。腕は伸ばされ、もちろん的(まと)はタツキに。あとは魔力を注ぎ込むだけでタツキの体が吹っ飛ぶ。最悪な未来だ。そして、それが決して空想上の話だけではないことを、憤怒に顔を染めた少女から悟った。完全に我を失っている。主人の言葉も聞こえていないぐらいなのだから。

 震える口を開き、なんとか思い止まらせようと喘ぐ。足腰から力が抜けている。


「お前如きが! ふざけないで! アタシが《忌み子》なんて、一番の侮辱だわ!」


「……ぁう」


「撤回しなさい!……いや、それも今更ね。何をされても、どんな言葉で取り繕っても、この屈辱は決して晴れない」


 怒り狂うリラの顔から笑顔が消えていた。初めて見る表情だ。

 彼女の笑顔自慢をしていたフレシアの顔を思い浮かべる。フレシアは本当にリラの笑顔以外を見たことがないのだろう。それほどのことをタツキはしてしまったのだ。何がいけなかったのか………そんなの、決まってる。

 疎まれている《赤眼》と同列に並べられたからだ。思ったより何十倍も、この世界で赤眼は嫌われているらしい。その事実を知った時、何故かタツキの中でも怒りが沸いてきて、慌てて平常心を心がける。


「リラ、君は賢い子だ。彼に悪気がないことぐらい分かって――」


「ええ、もちろん分かっています。だからこそ腹立たしいんです。話を聞いている間も、ずっとそうでした。無知を盾に考えもせず口に出して、クローク様の優しさにつけ込んで緊張感無くへらへら笑って……」


「……っ!」


 リラの言葉一つ一つが胸に刺さる。それが全て本音で、本当のことだからだ。タツキの怠惰と無神経さをよく分かっている。


「ルイも同感です。この方の態度は不愉快だと思っていました。クローク様がかばう価値があるのですか」


「………ぅ」


 更にルイからも棘が飛んできて、タツキの精神ダメージがカンストしそうになる。もしクロークにかばう価値無しと判断されたら、屋敷から放り出されてしまう……そうしたら、タツキは。


「あるよ」


「「ーーー!」」


「リラ、ルイ。だからここは堪えてくれないか。これから礼儀を教えてあげれば済む話だ」


 何を理由に「ある」と言い切ったのか分からないが、タツキは少し涙ぐんでクロークを見た。すると、主人が使用人に頭を下げているところだった。

 二人は困惑した様子でお互いの顔を見ると、臨戦態勢を解いた。


「……分かりました。クローク様がそこまで仰るのなら。アタシが正しい礼儀を教え込んであげますよ〜」


「ありがとう。宜しく頼んだよ」


 やっといつものリラに戻り、空気が和らいだ。そう思った矢先、ルイが主人に一歩近寄った。


「叱咤覚悟で申し上げます。ルイは、ルイの姉様を貶した輩にお咎め無しでは納得できません。ご命令頂ければ、すぐにでも始末する所存です。ですが何故、クローク様はこの者にそれほど情けをかけるのですか」


「ちがっ……!」


 貶したつもりは毛頭ないと、そう反論しようとして黙る。原因はリラの笑顔だ。やっと笑顔が戻ったというのに、全く安心できなかった。真っ直ぐに言えば、不気味だった。相変わらず百点満点の笑顔だったが、負のオーラが隠しきれていない。彼女もまた、主人の言葉に従っただけであって、納得していないのだろう。


「―――」


 メイドの妹。

 姉に対する愛がこもった残酷な言葉に顔を歪める。

 殺せると言い切れるほど、二人が憤っているのは明白だった。その中で、クローク一人だけが恐ろしいほどに冷静でいる。仮面越しでは何を考えているのかまったくわからない。


 敵か味方か。

 殺人鬼と化したリラを止めたあたり、タツキを生かすつもりではあるのだろうが油断できない。


「考えてみなよ。タツキ君は我等が驚くほど世間知らずだ。そんな彼の言葉に真意はあるかい? 否、感情に流されての戯言に過ぎないだろう。そもそも我が彼の傷口に深入りしすぎたことが間違いだったんだ。要因は我にある。重ね重ねすまない」


「………」


 頭を下げて謝るクロークに、全員が押し黙る。ルイからは殺意が消え、以前の無表情に戻っていた。

 とりあえず命が保障されたことに息をついた。散々貶された感はあったが、タツキを守るためだと信じたい。何より全て事実なのだから。


「でしたら、この者を特別視しているわけではないのですね」


 再確認のつもりでルイは言ったのだろう。

 だが、問いかけの答えは彼女の予想と真逆のものだった。


「いいや、彼は特別だよ」


「「……!」」


「トク……ベツ? 俺が?」


 口を開けて驚くルイリラに、ピンとこずに首をひねるタツキ。自分が特別という自覚はない。


「タツキ君も、自分に少しでも非があると思うのなら、彼女たちに謝ってくれないか」


「あ、あぁ。もちろんだ。失態晒してすまねぇ。ルイもリラも、本当に悪かった」


「いえ」「はい」


 短い返答が心にくる。どう見ても嫌々言っているようにしか見えない。間に大きな溝ができた気分だ。手を伸ばしても、届かない。


「よし、ひとまず一段落ついたってことかな。魔法の件はフレシアが戻ったら改めてするよ」


「ああ。ありがとう」


 礼を言うと、思い切り自分の頬を叩いた。

 今度は器の広い男でいなければならない。フレシアの前で、同じような失敗は絶対に繰り返さない。


「それに、君は何か重要なことを隠しているようだから―――」


「………え?」


「フレシア、入ります!」


 意味深なクロークの言葉にノックが被さり、可愛らしい声が響いた。







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