植物も競争の中で生きている、稲が水辺で育つのは他の草との生存競争が比較的ゆるめだから
さて、稲は基本的に熱帯の植物で多年草である種もあるし一年草である種もあるが、基本的に乾季に種をつけてそれを地面に落とし、芽が出た後に雨季が来たら茎を伸ばして窒息しないでも済むように成長する植物で、水辺に生える葦や荻もイネ科の多年草でイネの遠い親戚だ。
ちなみに稲というと東アジアや東南アジアというイメージだけどその栽培は昔から西アフリカでも行われてるし野生種はオーストラリアや南米等にも存在してる。
ただ大規模に栽培されているのは東アジアと東南アジアなのは事実だが。
そしてこういった湿地では稲科以外の植物はあまり生えない。
雨季に早い川の流れにさらされることはそのまま流されてしまう可能性も高いし水につかれば当然呼吸も困難になるからな。
そのために稲や葦などの茎は細くて非常に丈夫で流水に負けないように深く根を張り強い繁殖力を持つことで長い間生き延びてきたのだ。
俺たちは乾季の半ばに地面が見えてる場所の葦を焼き払ってそこに稲の種を蒔くことにした。
イネにはヤムイモやタロイモのような灰汁や毒がないし、籾のまま乾燥させておけば長い間の保存も容易だからな。
種まきのタイミングが遅れれば蒔いた種が川の流れに流されてしまうだろうからちょっと早めにやるが、あんまり火が広がりすぎても困るから稲を育てる場所の外側に生えてるある程度の葦を刈ってから火をつけることにする。
「よーし、じゃあ火をつけるぞ」
「いーよー」
「了解でーす」
ルーペを用いて太陽光を集めてココナッツファイバーに火ををつけると、やがて葦に火が燃え広がりやがて灰になり地面が見えるようになった。
こうして葦を焼くことで灰による酸の中和や害虫、病原菌のバクテリアなどを殺すことも出来るわけさ。
「んじゃ種をまくぞー」
「まくー」
「はーい」
種まきと言っても本当に焼いた場所に適当にばらまくだけだ。
効率は良くないかもしれないが鍬などの農具が十分ではない事も考えると、粘土が堆積している湿地を耕して種をそこに埋めるという労力はむしろ割に合わない。
米に食べ物を依存しているわけでもないからこれでもいいのさ。
それはそれとして野生の稲を刈って適当に土にさす事もやっておく。
人間の長い間のイネとの関わりによって稲の栽培種は栄養が種子に重点配分されるようになるので、収穫量が増えた代償に葉や茎などは細くて弱くなり一年草的な性質が強くなってしまった。
そして繁殖力も弱くなってしまったので同じ稲科の粟や他の雑草などの競争力が低下してしまったから、雑草取りなどをこまめにやらないとだめなのはそういう理由があるわけだ。
先に葉っぱをつけている稲のほうが光を得やすいのは言うまでもないからな。
だが実はイネは切り取って別の水がある所に刺すと枯死せずにそのまま育つ優れた性質を持っている。
これは雨期の洪水で茎が切れて流されてもどこかの土にひっかかればそこからまた育つことが出来るようにしているのだろう。
本来の田植はすでに成長している稲を刈っての挿し替える移植であり、種から生えてくるその他の稲科の雑草との成長競争に勝たせるための長年の経験によるものなわけだ。
また稲を刈り取った後でも温度などが十分に高ければひこばえと呼ばれる根株から生じる若芽もでてくる。
そしてひこばえは成長可能な条件が揃っていれば再びそこから成長することが出来る。
乾季でも水分が十分得られる条件であれば稲は通年で緑を保つことが出来る多年草になり、乾季は十分な水分が得られない場合はその間種は地面に埋まって環境の変化によって芽を出す一年草になる。
稲というのはそういう意味では本当にいろいろな環境に適応した生命力の強い植物なのだな。
「後は育って実が実るのを待つだけだな」
「まつー」
「まちどおしいですね」
21世紀の品種に比べれば種の量が少ないといっても十分な量でもあるし収穫が待ち遠しいな。




