∮ 秘書 共通プロローグ
『普通の家庭に生まれ、成金の従兄を持ち、良い大学を卒業した私は将来安泰!』
内定を貰って無事に大学を卒業し、さあ就職と思っていたら―――
『倒産?』
まさか自分が漫画みたいな話と遭遇するなんて予想もしていなかった。
『どどどうしよ!?』
『バイトしながら仕事探したらたらいいんじゃない?』
『お母さん、なにを楽観的なこと言ってるの!この不況の世の中そう簡単には就職できないんだよ!』
それに私は何かをやりながらっていうのが苦手。たとえば仕事しながら結婚生活なんて私には向いてない。
でも就職しないとなれば親戚が持ってきた40代のオッサンとお見合いするしかない。
『オッサンとの子育てに私の人生は終わる。そんなのいやだああ!!』
叫ぶ私の声に自宅電話の音がかかる。
■■
「はじめまして、おはようございます」
会社倒産を聞き付けた従兄から救いの電話を貰い私は私立学園の理事長の世話掛、つまり秘書を任されたのだ。
「私は今日から秘書をつとめさせていただく車東朱音ともうします!」
窓を見て後ろを向いている理事長へ頭を下げた。
こちらを振り向く彼は、ベールで顔を隠して外套をしている。
《ああ、よろしく》
彼がキーボードを叩くと機械の音声が代わりに話す。
彼は従兄の父の義弟で、私の義理の叔父にあたるらしい。
心因性のもので声を発することができないという。
《秘書といっても、特に頼みたい事はないんだ。主に話し相手をしてほしい》
――まあ、私のような実績がない素人に機密の経営資料とかの管理はさせられないものね。
「はい頑張ります」
特にバリバリ働ききたいとかはないので職務に不満はない。