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卒業【3】

 

『キューピッドが恋をした』

 衝撃の内容は瞬く間に生徒から生徒へと伝わり、たった一日で今期注目度ナンバーワンの話題に輝いた。

 ――否、キューピッドはいつだって恋をしていた。ただ、今回の『恋』が、相手が誰かと既に結ばれていたとしても諦められない程のものだったというだけだ。

 その相手こそが生徒会の冷徹なる高嶺の華、花京院織色副会長その人。焔蓮哉会長と想いを遂げたばかりの、またまた注目の話題を拐っていた人達だ。

 ――生徒会内で起きる副会長争奪戦の幕は、どう上がっていくのか。


「――て、好き勝手書いてくれるよなあ。新聞部の奴等も」

「なーんにも間違ってないけどねえ」


 天使と名高い黒葛原みづきの自室で寛ぎながら、号外とでかでかと書かれたチラシ状のそれを眺める。――まあ、確かに何も間違ってはないけどさ。


「ぼくだってあんまりにも突然でびっくりしたんだからあ。あはは、今思い出しても笑っちゃうなあ。――あの宣戦布告発言」

「うっ」


 ――『宣戦布告』

 俺の一方的な想い、どころか生徒会内の内情すらも暴露するきっかけとなった事件のこと。別名、食堂事件。


「――っまっさか、殆どの生徒が集まる寮の食堂で思いっきりかいちょおに『やっぱり諦めきれないんで奪いに行きます』発言するなんて。かいちょおまで面白がって『受けて立つ』とか言うしさー! どこの学園ドラマだよひぃーっ!」

「うっ、うるせぇなッ!! 必死だったんだよ!」


 バタバタとベッドの上で腹を抱えて笑う天使様に、羞恥のまま手元にあった枕を投げ付けた。


 そう、必死だったのだから仕方ないのだ。あの時の俺はアドレナリンがおかしかった。分泌しまくってたんだ。

 おかげで会長の隣で焼き魚をほぐしていた花京院先輩の「事件は食堂で起きるって本当だったんだ……。恐るべし、王道」とかわけわかんないことを呟いてる顔がかわいいって思ったことしか俺も覚えてねぇよ!


「あーもうだめ。お腹いたい。うぷぷぷぷっ」

「笑いすぎだろみづきさん!」


 笑いすぎて変な笑い方になってんぞ!


 ――ああ、そうだ。変わったことと言えば俺とみづきさん――黒葛原みづきとの関係も随分と砕けたものに変わった。

 元々仲自体は良かったが、わざわざプライベートの時間を潰してまで遊ぶなんてことはなくて、けれど今では、何もなくてもお互いの部屋を行き来し自由に泊まり出す始末だ。

 正直、初めてだった。ここまで無遠慮に接して、そして接してくれる『友達』ができたのは。

 伴って、呼び方も変わった。まあ外では未だチャラ男のままだから書記ちゃん呼び続行だが、こうして二人でいる時はみづきさんと名前で呼び掛けるようになった。――この呼び方に関しても、みづきさんの妙なツボを刺激してしまったようだが。


『唐突に名前呼んでいいかとか小学生みたいなこと聞いてくるからなんだと思ったら、さん、て! さん、て! チャラ男のくせにそんなところで実は純情ポイント見せ付けられても……! あっははははは!!』


 もう黒葛原みづきは笑い上戸なのだと思っておくしかない。どう考えてもバカにされてるだけだけど。


「あー、疲れた。寝よ寝よ。明日も早いんだよお、バかいけーい」

「勝手に笑って勝手に疲れたのみづきさんじゃん……」

「うるさーい。もんくがあるならでてけー。ここはぼくの城ぞー」


 ふにゃふにゃと天使が真っ白のシーツにくるまって欠伸をする。こんな姿だけを見ればまさに純粋無垢な天使そのものだというのに、案外中身は大雑把で、意地悪で、からかい癖があって、そして驚く程人を簡単に受け入れる。天使というよりも、母のような人だと思った。――ま、母も何も男なんだけど。


「んー、電気は勝手に消してねー」

「はいはい、おやすみ。みづきさん」

「おやすみぃ。かいけい」


 すう、と金糸のまつ毛が重なったのを見て、俺はゆっくり息を吐いた。


 明日はどう、副会長に攻めていこうか。『明日』を考えるのがこんなにも楽しいと思ったのは初めてだ。毎日が充実している気がする。生きている、気持ちがする。

 それもこれも、すべて。


「――ありがとな。天使様」


 隣で無防備に眠る天使の頬をゆるりと撫でて、俺も夢の中へと落ちていった。




「それ、咲いたんだ。はなちゃん」

「……会計」


 花京院先輩が懇切丁寧に世話している裏庭の畑にて、彼が撫でていた花を見遣りながらゆるりと笑った。


「カイチョーはいないのん? なら、オレのチャンスタイムかなー」


 ヘラヘラと頬を上げて、けれど本当は喉なんてとっくにカラカラで。そんな緊張が心地好い。


「あのね、はなちゃん」

「――会計」


 少し俯いていた角度から、スッと青の光が灯る。ただひたすら真っ直ぐな、綺麗な目だ。

 みんな、綺麗な目をしている。会長も、副会長も、みづきさんも。だから、――俺にはそれが眩しくてたまらない。


「もう止めましょう。こんな不毛なこと。貴方がどれだけ心を込めた言葉をくれても、私はそれを返せない」


 いつだって真っ直ぐな人達は、言葉も飾ることなく真っ直ぐだ。


「返せない好意を受け取り続けることは、苦しい」


 だから、泣きたくなるくらい、愛しくなる。


「――迷惑だった?」

「え?」

「オレの気持ちは、あなたには迷惑だった? 押し付けでしかなかった?」


 それは、恐れていた小さな弱音。たとえこれが自身の為の戦いだとしても、それで好きな人が苦しむというのなら、俺の行為は罪以外のなにものでもない。もしそうなのだとしたら、――潔く諦めるしかない。


 けれど。


「――いいえ」


 花京院先輩は、優しく首を振った。揺れる黒と青が綺麗だった。


「いいえ。浅ましい私は、貴方の好意が嬉しかった。好きだと告げられて、嬉しかった。けれど、だからこそ、同等の気持ちを返すこともできず受け取り続けるのは、私の傲慢でしかないと思ったのです。希望のない私を追いかけるよりも、新しい人を見てほしい。どうか、時間を無駄にしないで、」


「――無駄じゃない!」


 思わず絞り出すように叫んだ。

 好きな人自身から『無駄』という言葉を聞くのは、今の俺にとって最大の屈辱だ。

 ずっとずっと、――自分自身に突き付け続けてきた言葉なのだから。


「これは、無駄なことなんかじゃないんだよ。先輩。抗いたいんだ。最後まで。あなたを好きな自分を信じたい。先輩が迷惑だったのなら諦めるつもりでいた。でも、先輩が苦しいと思う理由が俺の為なのだとしたら、――俺の為に、あなたを追いかけさせて」


 花京院先輩の目が開かれる。綺麗だ。キラキラした青は、やっぱりただただ綺麗なんだ。


「あの日の宣戦布告は、会長に対してだけじゃないんだよ。――花京院先輩、あなたの心も奪ってみせる。そう、俺は『二人』に喧嘩を売ったんだ」


 既に絆の出来上がっている二人の元に、無理矢理割り込んで勝負を仕掛けているのだ。

 花京院先輩は勝者にキスを送る女神じゃない。先輩もまた、俺の運命を決める相手なのだから。


「……なるほど。これは、喧嘩ですか」


 スラリと、乱れも迷いもまるでない背が真っ直ぐ太陽に向かって立つ。

 神秘的で、少し浮世離れしていて、けれどいつだって優しい手を分けてくれていた美しい人は、


「それならば、――買ってさし上げる他ありませんね」


 それはそれは艶っぽく、挑戦的に、笑っていた。


「追い掛けられるものなら追い掛けてみなさい。私の気持ちを変えられるというのなら、――やってみせなさい。受けて立ちましょう」


「――はいっ!」



 それからは、ひたすらがむしゃらだった。仕事だって手を抜かない。花京院先輩にも焔会長にも、遠慮なんてものは皆無に彼等の逢瀬を邪魔し続けた。

 いつしかそれは名物になって、初めは邪険に対応していた会長も、戸惑っていた副会長も、見守っていたみづきさんも、名も知らない通りすがりの生徒だって、みんな不思議なくらい毎日を笑うようになっていた。それが日常だった。


「はなちゃん! 今日も最高に好き! カイチョーなんか捨ててオレと付き合おう!」

「はいはい。ごめんなさい」

「サラッと俺を捨てさせようとしてんじゃねぇぞバ会計が」

「あはははは! あーもーっ、おっかし!」


 生徒会室に笑いは絶えなくて、文化祭間近の激務だって楽しくて、毎日のひとつひとつが眩しいくらいに輝いていて、


 ――そして、文化祭は終わる。



「ああ、なんだ。お前ら揃ってるなら丁度いいな。次の会長、お前だからな。二条」

「…………へ」


 無事トラブル一つなく乗り越えた学祭の先、達成感に満ちた生徒会室内で、それは唐突に告げられた。


「……え、オレ? 書記ちゃんじゃなくて?」


 俺がここまで驚くのには理由がある。中等部での生徒会会長は黒葛原みづきだったからだ。当然、今回も俺は副会長の座に収まるものだと思っていた。


「おー、ギリギリの僅差でな。なんだ。嫌なのか? 別にここだけの話にするなら役割交換してもいいぞ?」


 そんな適当なことを言ってみせる生徒会顧問は、チラリと横目で『彼』を伺った。


「えー。ぼくやだー。かいちょーとかもうやりたくなーい。めんどーい」

「そうだな。折角選ばれたんだからお前がやってみろよ。『会長』」

「ええ。いいじゃないですか。期待してますよ、『新会長』」


「――と、お前のお仲間さん等は仰ってるけど?」


 じわじわと、むず痒いような温かいような、名前の知らない何かが胸に広がっていく。


 会長。――俺が、『会長』。本当に?


「――認められた、てことなんじゃないの」

「え……」


 天使が、優しい瞳で俺を見ていた。


「みんなのキューピッド様じゃなくてさ、たった一人を追いかけて無様に玉砕してる情けない『二条友紀』を、どうしようもない二条友紀を、みんな、好きだと思ってくれたんじゃない?」


 それは、答えようのない、感情だった。


「みとめ、られた」

「うん」

「……俺が?」

「そ。ドへたれでなっさけない二条友紀くんを」

「みんな、が」

「ここにいるぼくたちも、せんせいも、みーんな」

「……そっか」


 溢れる何かがわけもわからずこぼれてしまいそうで、溺れてしまいそうで、それがぶるりと体を震わせて、とても顔なんてあげられなくて。


「――!」


 そっと頭に乗った小さな手は、『彼』のもの。会長は大きくて力強くて、副会長は細くて、でも指が長いからしっかりと男の形をしていて。

 だから、小さくて柔らかいこれは、――優しい天使様の手。


「よかったねえ」


 ふわふわと落ちる甘い声に、俺の条件反射はすっかり懐柔されていたらしい。


「みづきさん……!」


 皆が見ているのなんか気にも留めず、懐に飛び込んだ。

 たぶん、もう俺みづきさんがいないと生きていけないかもしれない。こんな温かさを知ったら、とても独りで立ち続けるなんて無理だ。


「……なんだ。こっちはこっちでデキてんのか。カーッ、若いってのはあれだな。それだけで得だな」

「先生もまだまだ十分お若いじゃないですか」

「おー、ありがとよ。若人(ワコウド)め。そんじゃ二条が会長ってことでいいな? 老いぼれお邪魔虫はさっさと退散させてもらうぞ。目に毒だ」


 何やらぶつくさぼやいていた顧問が生徒会室を出る。続いて、会長……いや、『元』会長、『元』副会長も立ち上がり、


「では、私達もさっさと御役御免と参りましょうか。蓮哉」

「そうだな。あとは、頼れる『会長』と『副会長』に任せるか」


 クスクスと、からかいを含んだ声で先輩達が笑う。


「……会長、副会長」

「はい」

「なんだ」


 振り返るその人達は、いつだって前を歩いていた偉大な人達。これから、俺達が後輩に見せていかねばならない在るべき姿勢を持った、『先輩』達だ。


「―― 一年間、お疲れ様でした」


 深く深く、頭を下げた。隣で同様に、金髪が揺れているのが見えた。


「はい、お疲れ様でした。新会長」

「頑張れよ。新会長」


「――はい!」


 最後の最後までからかう声色を隠さないで返されたそれは、信頼と未来に溢れていた。


 こうして、焔蓮哉会長と花京院織色副会長が率いる『生徒会』は、終わりを迎えたのだ。




 ――卒業式、当日。


 誰もいない生徒会室内の給湯室に並ぶ四つのカップを眺めて、そっと指で表面に触れてみた。

 白い、縁だけに黒の装飾がされたそれは会長の物。透明のティーカップは副会長。寝惚けた顔した猫がプリントされているそれは書記の物で、オレンジのマグカップは俺――会計のものだった。

 このカップの『二つ』がこの場で使われることは、もうない。『元』会長と『元』副会長のカップには、こぢんまりとした花とメッセージカードが入れられている。代々生徒会内に残る、妙に乙女じみた伝統なのだ。卒業していく先輩とそのカップに、花とメッセージを。俺も中学時代に後輩から貰った覚えがある。


 飾られた二つを眺めて、走馬灯のようにこれまでの『思い出』を想った。

 このカップ達を並べて、何度談笑しただろう。時には決まらない会議内容に大喧嘩にまで発展して、怒鳴り合って。そんな時でも俺達を表すみたいなこのカップ達は、変わらずそこに並んでいた。

 沢山甘えて、沢山迷惑をかけて。仕事をサボっては花京院副会長を怒らせ、トラブルを起こしては焔会長を走らせて。そんな日々が、たまらなく楽しかった。楽しいと思えた。

 ――そう、思わせてくれたのは『みづきさん』だ。

 素直になっていいのだと。自分を騙さなくていいのだと、彼が、教えてくれたから。

 だから俺は、この日を迎える最後まで、全力で不器用な一年を生きられた。


 さあ、最後の勝負にいこう。最後の最後まで、俺が俺を納得させられる形で、運命に抗おう。

 式は終わった。在校生代表の送辞も済んだ。あとは、卒業生を送る花道だけ。


 二つのカップを持って、扉を大きく開く。

 ――見てろよ。キューピッド。これが、俺の本気だ。






「――花京院先輩!」


 相変わらず数多もの生徒に慕われ、囲まれていた美しいその人に、大声を張り上げ叫んだ。


「はい」


 自然と彼への道が開いていく。ブートニアを付け、花束を抱えたその人は、一層綺麗に見えた。


「ご卒業、おめでとうございます」


 周囲がざわざわと戸惑いざわめいているのがわかる。

 それもそうだ。俺はいつだって、『外』では上級生に敬語を使いもしない、礼儀の成っていない男で通っていたのだから。

 あの『二条友紀』が花京院織色を『はなちゃん』ではなく『花京院先輩』と呼んだ。その事実は、大きく生徒達の動揺を呼んだ。


「一年間、お疲れ様でした。カップをお返しします」


 先輩に似合うよう白くて清楚な、長い時間をかけて選んだそれを手渡す。花京院先輩は、心得ているとばかりに確かな手で受け取った。

 もうひとつのカップは、今頃慈愛の天使様が微笑みと共にその人に手渡している所だろう。

 だから、もう少しだけ、彼との時間を。最後の、勝負を。


「先輩。――好きです。俺と、付き合ってください」


 周囲の息を呑む声が聞こえた。ざわめきは止んでいた。あるのは、――『彼』の声だけ。


 返事は。



「――ごめんなさい。私は、――焔蓮哉を愛していますから」


 それは、誰もが呼吸を止める程の美しい笑みだった。世界で一番幸福なのだと、『恋人』と共にあれる今が幸せで仕方ないのだと、彼の笑顔のすべてが語っていた。


「……わかりました。お幸せに」


 スルリと自然にこぼれた言葉は、噛み締めるような安堵に満ちていて、きっと今の俺は、馬鹿みたいにちぐはぐな顔をしているだろう。

 フラれているのに、それが嬉しくて仕方ないみたいな。この結果に誰よりも満足している、そんな顔を。


「勿論です。――ああ、けれど、ひとつだけ。ここまで本気でぶつかってきてくれた貴方ですから、その誠実さに応えて、私も、本当の話をしましょう」


 カツリカツリと汚れ一つない革靴が俺へと向かって音を立てる。好きだったその人が、近付いてくる。

 そして、零になった距離でその人は、耳元で囁くのだ。


「僕が好きになったのは焔蓮哉だけれど、後輩として誰よりも可愛がっていたのは君なんだよ。友紀」


「――……っ」


 俺の一年もの時間をかけた長い長い『恋』は、この日漸く、終わりを迎えたのだった。




「フラれた」

「そっか」


 たった二人の生徒会室。大きくて偉大だった先輩達の残り香がまだふわりと漂うそこで、天使はゆるりと微笑んだ。


「また負けたんだ。俺は」

「そうだね」

「でも、ちっとも嫌じゃない」

「そっか」


 ゆるゆると日が落ちる。金髪が濃厚に色を増していく。――まるで、『あの日』の再現みたいだ。


「全然、悔しくなくてさ。拍子抜けなくらい、すっきりしてる。生まれて初めて、――キューピッドに勝てた気がする。恋が実ったわけじゃないのにな」

「ふふ、あれだけ全力出したらねえ」

「うん。……全部、みづきさんのおかげだ」


 残った二つのマグカップが並んでいる。『会長』と、『副会長』の席に。


「僕は何もしてないよ。ただ、話しただけ。僕だって、もう駄目かもしれないって諦めてたんだから」

「それでも、あの日みづきさんが本気で俺を叱ってくれたから、拗ねてた俺は目が覚めたんだ」


 小さな肩を、押さえてしまった。細い首を、絞め上げようとした。あの時の歪みきった『俺』が逆上する危険性くらい、賢いみづきさんにはわかっていた筈だ。

 それでも、――みづきさんは俺を助けようとしてくれた。


「楽しかった?」

「え?」

「全力の『恋』は、楽しかった?」


 今もなお、天使は慈愛だけを込めた瞳で俺に訴える。自分の心に素直であれと。


「――ああ! 楽しかった!」


 弱さを見抜く天使様に、嘘は通じないのだから。


「それはよかった。――そういう涙の方が、僕も好きだなあ」

「あ……」


 ――『涙』

 俺は知らず知らずのうちに泣いていた。やっぱり、あの日の再現みたいだ。ただあの時と違うのは、


「……みづきさん。俺、みづきさんと友達でよかった。みづきさんに、出会えてよかった」


 翡翠が茜を取り込んで、キラキラと輝く。

 眩しい人達は、けれども、どれだけ俺がその輝きに眩んだとしても、そこに立ち、手を差し伸べ続けてくれる。


 だから俺は、そんな人達に、――何度も『恋』をする。



「どうかこれからも、――『親友』でいてください」


 そんな子供みたいな願いに、天使様は。


「……当たり前でしょ。バ会長!」


 困ったように眉を下げて、心から笑い声をあげるのだ。






 ――キューピッドには最強の天使が付いている。そう言い出したのは誰だろうか。


 これは、そんなどこかの、天使達のお話。



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