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影に残る約束  作者: 静かな影


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4/6

痛みを伴う物語、しかし光を放つ

東京に来るずっと前……

ステージやライト、自分の名を呼ぶ声に包まれるずっと前のこと。

星奈ほしなは、数千人の中のただ一人に過ぎなかった。

誰も彼女に期待せず、誰も彼女に賭けようとはしなかった。

そして、長い間……

世界もまた、何かが変わると信じられる理由を与えてはくれなかった。

夢を選ぶことが優先されない場所で、彼女は育った。

生き延びることが、すべてだった。

日々はあまりに単純で、あまりに限られていた。

そして未来は……

容易に想像できるものではなかった。

しかし、その真っ只中にあっても……

変わらないものが一つだけあった。

「音楽」だ。

それは綺麗な夢ではなく、一つの「逃避」だった。

すべてがうまくいかない時でも、それだけは裏切らず、意味を持ち続けてくれた。

そこからすべてが始まった。

支えもなく、計画もなく、誰も見ていない場所で。

彼女と、古いスマホと、自分の声だけ。

小さな部屋の静寂の中で、拙い録音を繰り返した。

間違え、すべてを消し、始める前に諦めようと思ったことも一度や二度ではない。

それでも、彼女は必ず戻ってきた。

立ち止まることは、今の生活を「運命」として受け入れることだと知っていたから。

彼女は、決して受け入れなかった。

時が流れ、少しずつ……

誰かが耳を傾け始めた。

最初は数人。それから、また数人。

コメントやメッセージ。

なぜか、彼女の歌に足を止める人々が現れた。

多くはなかったが、続けるには十分だった。

けれど、続けることには代償があった。

一歩進むごとに、より高い質、制作、機材……そして「金」が必要になった。

彼女には何一つなかった。

それでも、彼女は道を見つけた。いつだって、見つけてきた。

生活を切り詰め、最低限のものすら手放した。

必要なものと、待てるものの間で選択を繰り返した。

なぜなら、もっと大きな「理由」があったから。

遠く離れた場所に、家族がいた。

彼女が望んだのは、ただ彼らの人生を変えること。

たとえ、自分の人生を犠牲にしても。

歳月が過ぎ、ただの試行は「道」へと変わった。

重く、遅く、孤独な道。

チャンスが訪れた時、彼女は喜ばなかった。

疑ったのだ。

あまりに簡単で、速すぎて、現実味がなかった。

無視しようとも思った。

けれど、内なる何かが、それを許さなかった。

そして、彼女は行った。

そこで見つけたのは夢ではなく、重圧、訓練、叱責、そして限界だった。

間違えれば代償を払わされる世界。

微笑むことが仕事の一部である世界。

「選ぶ」ことが、必ずしも選択肢にはない世界。

それでも、彼女は留まった。

もう、自分だけの問題ではなかったから。

彼女が続けることに懸けている人々がいたから。

今日。

外から見る人々にとって、星奈は輝いている。

満員のステージ。国境を越える楽曲。

数千人に届く声と、決して絶やさない笑顔。

けれど、誰もそれ以外は見ようとしない。

眠れぬ夜、消えない疲労、自分では下せない決断。

完全に自分のものではない人生。

世界は沈黙の中で、代償を求め続けてくる。

あの日……

彼女はただ、数分間の平穏を求めていた。

ステージもカメラも期待もない、静かな時間。

誰でもない自分でいられる、渋谷の落ち着いた通りにあるカフェ。

けれど、それすら簡単ではなかった。

仕事のための外出。新しい曲のプロモーションのための軽い撮影。

また一つの「納品物」。世界が彼女に期待する役割の一部。

窓際の席に座り、星奈は通りの動きを眺めていた。

心はここにあらず、遠くを見つめて。

目の前の皿は、すでに冷めきっていた。

彼女はそれに気づくことさえなかった。

焦点の合わない視線が彷徨い……そして、止まった。

「何か」を見たのではない。一つの「感覚」に捉えられたのだ。

何かがおかしい。

心臓が一瞬だけ、跳ねた。

たった一秒。けれど、それで十分だった。

彼女は胸に手を当てた。

息を吸おうとしたが、空気が入ってこない。

身体が強張る。

周囲の空気が変わり始めた。視覚的な変化ではない。

重く、濃く、歪んだ「感覚」。

周囲の人々が反応し始めた。

困惑し、咳き込み、わけもわからず辺りを見回す。

場所の音が遠のいていく。

何かがすべてを押し潰したかのように。

テーブルの上のコップが震え、窓ガラスが振動した。

低い、ほとんど聞こえない地鳴りのような音が通り抜けていく。

目に見えない「何か」がそこにいた。

胸の締め付けがさらに強まる。

再び空気を求めようとしたが、足りない。

彼女の目は、本能的に窓の外を向いた。

何かを探すように。あるいは、誰かを。

けれど、そこには何もなかった。

ただの通り。ただの普通の人々。

明らかに正常ではなくなった、ただの世界。

それでも……彼女は感じていた。

それが「何か」に、あるいは「誰か」に繋がっていることを。

筋の通らない、けれど初めてではない感覚。

そして……始まった時と同じように唐突に、それは止まった。

空気が戻ってきた。重苦しさは残っているが、呼吸はできる。

人々が一斉に話し始めた。怯え、困惑し、説明を探している。

誰かが「地震だ」と言い、別の誰かが力なく笑った。

けれど、誰も本当には信じていなかった。

彼女も、信じてはいなかった。

数分後……音が届いた。

サイレン。怒号。走る人々。

何かが起きたのだ。それも、とてつもなく大きなことが。

その後……

離れた場所で、映像が溢れかえっていた。

テレビ、スマホ、ニュース。

渋谷。

破壊されていた。

飛び散ったガラス。歪んだ構造物。

まるで何かが内側から爆発したかのように。

原因も、説明も、意味も、何一つない。

星奈は沈黙の中でそれを見つめていた。

座ったまま、動かずに。

手はまだ胸の上に置かれたまま。

けれど今は、息苦しさのせいではなかった。

別の何かのせいだ。

消えない、去ってくれない、何かの感覚。

彼女の指先が、わずかに服の生地を掴んだ。

その感覚を繋ぎ止めようとするかのように。

彼女の瞳は、もう彷徨ってはいなかった。

真っ直ぐに、何かを見据えていた。

考えていた。

まだ理解できない何かを結びつけようとしていた。

何が起きたのか、彼女にはわからない。

説明することもできない。

けれど、一つだけ確信していることがあった。

あの日、あの瞬間……

「それ」は間違いなく、彼女の傍を通り過ぎていったのだ。

ご一読いただきありがとうございます。

まずは、2週間ほど更新が空いてしまったことを深くお詫び申し上げます。少し体調を崩しておりましたが、ようやく戻ってまいraれました。お待たせしてしまい、本当にすみませんでした。

今回のエピソードでは、星奈の視点から彼女の過去と現在の葛藤を描きました。多くの人にとって、彼女の今の姿は華やかに見えるかもしれません。しかし、その輝きの裏にある痛みや、彼女が乗り越えてきた道のりを感じていただけたら嬉しいです。

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