夢の世界で
ここはアイーデの記憶の中だと気付く。
あの女は俺を記憶の中に閉じ込めた。
アイーデは孤児であった。
孤児自体はこの世界では珍しいものではないはずだが、一人森の中で遊んでいるのは少し異常だろ。
「うん、そうなんだ。うんうん、そうなんだね」
何もないところに話をかけている。
「お父さん~好き嫌いしちゃだめだよ。ママに言われているでしょ」
誰もいないところで会話をしている。
「はぁ……今日もいっぱい会話出来たー青い空と」
夜なのに青い空というのはおかしいだろ。
「そこにいる人はキリングさんですね。どうやら私の心は覗かれているみたいです」
後ろから今の姿のアイーデだ。
「勝手に心に不法侵入。訴えられても文句は言えないな」
「……あまり見ないでください、あの頃の私は恥ずかしいです」
「空気に話すことか、気にするな日常ならなおさら」
「日常だったんです! 昔の私は一人でしたから」
「……でも、アイーデは今ずっと眠ったままだから」
「そうですよね、私もまさか自分の記憶の中を歩くことになるとは思いませんでした」
「出られる方法、アイーデから聞こうと思ったけど……もしや知らないの?」
「キリングさんが助けに来てくれたのかと……」
「つまり、俺が助けて俺が救い出すしかない。クリア条件が分からないのか……考えるのは面倒だな」
「考えてくださいよ」
俺達は幼いアイーデを追った。
家に辿り着く。
「ここは私が引き取られた家です」
「一軒家か」
そこは魔女の家で性格の悪そうなおばさんが出てきた。毒リンゴ持ってそうだな。
「おばさまは私のことをよく思ってなかったみたいです」
「アイーデ、お前はこんな夜中に何をしていたのだい?」
「おばさま、私は暗い森には魂が宿ると思っています。色が見えるのです」
「いったい何の話をしているんだい、おかしな子だね!」
魔女オバはアイーデの言葉を聞いていなかった。
時空が少し歪み、アイーデは成長する。しかしアイーデの周りに人は集まってこなかった。
「確か私は……」
その時、隣にいたアイーデの顔が変わる。
「そうでした……」
街でもいつもアイーデは一人。
「懐かしく感じる自分は、こんなにも儚いものなのですね」
~~~
そして、今と変わらないくらいにアイーデは成長する。
あの金髪は街でアイーデに話を掛けていた。
「アイーデ、君は美しいがどこか儚くて味が出ている」
きもこいつ。
しかしアイーデはハイハイと受け答えしているだけ。
「ゲトラは、一人だった私に話をかけてくれましたが……その、ナルシストですから、本当は私のこと好きじゃないんです」
「え!」
こいつがナルシストなのは分かってたけど好意なかったのか……
「ゲトラは自分がかっこいいと思える行動をしたいだけです。ちなみに男色ですよ」
「え、え、え、でもアイーデを守るとか」
「貴方と決闘したかったからですよ」
もうこの際金髪の話は今はどうでもいい。
「君の記憶を見ても仲良い人が誰もいないのは」
「……」
言葉を濁す。
「呪いです。生まれ持った呪いが私にはあるのです」
するとアイーデは服を脱ぐ。まじめな話なので目をそらさずに背中を見る。
そこには大きな魔法陣が掛かれていた。
「ロンリネスと私は名付けました。そのままの意味なんです……生まれたころにはこれがどういうものか分かっていませんでしたけど」
ロンリネス、つまりは孤独だ。
「魔法の勉強をして、知りました。両親がこれを刻み、そのおかげで見えない心の色が分かるようにはなりました……でも、その対価に親しくなった人は不幸になります」
アイーデは友達を作ろうとしてもすぐに怪我をしたり、相手のほうから離れて行ったりを見てきた。
金髪もアイーデと絡んでからやはり怪我をしたらしい。
仲良くなった相手を不幸にしてしまう。
そんなことを知れば、誰からも距離を置いてしまうだろう。
「ずっと悩みました。どうしてこんなことを両親はしたのかと、だけど答えは返ってきません」
アイーデは下を向いた。
記憶のアイーデも辛そうな顔をしている。
「後悔、しそうになったんです」
アイーデは拳を握り締めている。
「後悔、してないのか?」
「後悔をしないって、私は私に約束していますから」
それでもアイーデは泣きそうだ。
「だから、その呪いを解く方法を探すために冒険者になって世界を見ようとした」
「……そしたら、誰かと仲良くできるのかなって、不安もありましたけど」
そして、俺が最初に見た草原が映し出される。
「懐かしいな、この場所は」
「キリングさんと出会った場所」
その時、俺の胸にアイーデは飛び込んでくる。
……呪い、ロンリネスがあっても俺は不幸という現象に遭遇することもなくアイーデの近くにいることができた。
だからアイーデと旅をしているのだ。
「旅をして最初に出会ったのがキリングさんでした」
「一人で旅するつもりだったのか?」
アイーデは頷く。
「心許ないですけど、でもキリングさんが一緒に来てくれました。強くて……それに初めてなんです、ロンリネスで拒絶反応が起きない人は」
絶賛名乗れない最悪の自体にはなっているが許容の範囲内だしな。いや、むしろロンリネスのせいなのか、それで済むならまあいいけど。
「救われました。キリングさんと出会ったあの時に私は」
だけど、だけど……俺は目をそらす。
「目的がなかっただけだ。そんなすごい人間じゃない、力なんだ。俺は強いからアイーデの前に立てているんだ」
「それでも私の孤独を殺したのはキリングさんだったんです……勝手に私が救われただけだから……」
そうか、きっと、これは俺がアイーデのどうしても縋り付きたいものになってしまった。そういうことだろう。
だから俺は手放さなくてはいけない、目の前にいて波名を流すアイーデを……
「俺は強いから、呪いで怪我とか死んだりすることはない。だけど、きっとそこで終わる。終わるんだ」
「……どうして」
それに俺はこの世界の人間ではない。きっといつかは帰ることになる。全く無責任だと思うが。
「カナディリアやユーディストと親しくなるべきだ。二人ぼっちなんて独り善がりさ」
「キリングさんがどこかへ行ってしまうからですか」
頷いた。
「そうだな。きっと……いずれは」
この世界の人間じゃない。だから俺は諦めるしかないんだ。
この世界で築いた関係だって、きっといつかは……
酷く心が締め付けられる。
「……悪い、だけどそうなるしかない。世の中のどうしようもないことなんだ」
あぁ、そうだ。なんで俺は世界の滅びを止めようとしているんだ。
この世界を救っても、この世界がどうなろうが、俺には関係ない。
そんな考えが俺を押しつぶそうとする。
「キリングさん急にどうして」
「……デスラドルガスに忠誠を誓うのもいいかもな。もう、だめだ。俺」
考えていないことを口走る。
「え」
「世界を……滅ぼしーー」
自分で自分の顔を殴る。
俺はそんなこと思っていない。
「キリングさん……一体どうして」
身体が勝手に動き出す。
『支配完了です』
誰かの声が直接聞こえた。
何とか踏ん張るが、明らかに身体の殺意はアイーデに向いている。
「俺から離れろ!」
『彼女を殺しなさい』
その言葉に背くことはできない。
「ステイ!」
何とか身体を持って行かれるわけにはいかない。
『随分抵抗していますね……ですがもう無駄です。コントロール』
ステイすら捻じ曲げられそうになる。
『私の能力は夢の空間で心を支配し、やがて体も全て支配する』
「なんだと!」
~~~
つまり、俺はコントロールというあの女の能力に見事はまってしまった。
ステイの力ですら抵抗不可能なこの精神支配は非常に厄介だ。
『……夢の世界の中で私は無敵です』
完全に支配されるのは時間の問題だ。
「……ニンジンキャリバーで俺を貫け」
「できません!」
「俺は死なない! だから一時的に動きを封じろ。最大火力でやるんだ!」
「ですが!」
ニンジンキャリバーぐらいなら死なない。
「俺にアイーデを殺させるな!」
そろそろ身体に自由が利かなくなる。
だがまだニンジンキャリバーを抜かない。
「アイーデには夢がある! 呪いを解くんだろ? ならば迷わず抜けよニンジンを!」
「……」
その言葉でアイーデは剣を抜く。
「本当に、死なないですよね。命は残りますよね!」
「あぁ」
頷く……今にもアイーデを拳で殴ってしまいそうだ。
「ニンジンキャリバー!」
身体にものすごい衝撃が走った。
「っく……」
だけど、だめだった。
「……嘘、全力で放ったはず」
ニンジンキャリバーでも俺を倒すことはできなかった。
「……悪い、アイーデ」
『やはり、あなたは最高の手駒になる……デスラドルガス様の忠実なしもべに』
一歩一歩アイーデに近付く。
そして拳をアイーデに届きそうだ。
結局俺はこの世界でも守れないで終わるのか……
そう、俺は前にーーー
「キリーーー」
拳がアイーデに届きかけた瞬間に、時空が歪み出す。
地震が起きたように総てが揺れる、そして目の前にいたアイーデもバグのようにずれる。
「アイーデ!」
「キリングさん!」
一瞬の暗転から視界は戻ていた。
長い長い廊下だ。隣にアイーデ目の前にはあの女がいた。
「え」
体の自由は元に戻ってる。女は目を丸くしていた。
「一体どうしてあの世界から脱出できたの……コントロールであなたの支配権は奪った!」
「俺もこの状況が全く理解できていない。だけどゲームは俺の勝ちだ」
「私が必ず勝つゲームのはずが……イレギュラーめ! デスラドルガス様の邪魔はさせません!」
魔法攻撃、しかし俺にはかすりもしない。
「どっちにしろアイーデの命はお前が握っていたんだ。運が良くて助かった。こういう番狂わせがあるほうがゲームとしては面白い……ステイ!」
攻撃を全て受けて、彼女に近付く。
「どうして……私のコントロールが、完全に勝ったと思ったのに!」
「そんなの、自分で考えろ」
肩に重たいチョップを浴びせる。
「……嘘」
女は倒れる。
ステイを解くと疲労が来る。主に精神面だ。
「化け物……怪物め……」
それだけ言うと瞬間移動なのか消える。
~~~
「終わったのか、しかしここは……」
もしかして、ウィルメシアスの拠点なのでは?
「貴様ら何者だ!」
見張りのウィザードが俺達のことを見つけがすぐに気絶させる。
「拠点まで行けた。というよりもあの女のいたとこに強制的に飛ばされたのか」
どういう理由かは分からないけど手間が省けた。
「そう、なりますね……キリングさん」
アイーデとは顔を合わせない。
「話は世界を救ってからだ。どっちにしろ」
俺達はウィルメシアスの拠点を隅々まで探し、そこにいた手下を全員戦闘不能にした。。
会話はなくどことなく距離ができている。それもそうだ。
俺はアイーデを拒絶した、言い訳はしない。
だけど、デスラドルガスというやつを倒せばもう全部解決だ。考えなくていい……
ようやく最後の部屋、大きな扉から異常なプレッシャーが放たれている。
「……キリングさん」
迷わずに扉を開けようとする時にアイーデは止める。
「あの頃のアイーデに伝えられるなら、君は誰かを救った
……きっと人は生きているだけで幸せだと思うことだってあるんだ」
「そういうことじゃなくて!」
「ありがとな、楽しかったぜ」
きっとこれが、最後だ。
「キリングさん!」
話を聞かずに扉の中に俺一人だけ入っていく。
次回で終わりです