表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4. 契約書の解読 3 と、雛形に無い契約内容

 最後は契約そのものの基本的なところ。と言いたいのですが、物凄く大きな罠があったり。


 第20条 秘密保持

 これは守秘義務条項。但し、通常守秘義務は「生涯」です。出版契約が終了したとしても、或いは出版社の社員がその会社を退職したとしても、その義務を免れることはありません。


 第21条 個人情報の取扱い

 これも普通の内容。これも、マイナンバーの所為でかなり厳しくなっているのですが、出版業界の人たちは、それをどれだけ理解しているのでしょうか?


 第22条 契約内容の変更

 これは、一方的な契約変更は効力を有しません、という内容。どうしたって、著作者側は素人なのですから、専門家を要するプロ集団に良いように言いくるめられてしまうおそれはあります。この条項が無かったら、変更箇所が自分にとって有利なのか不利なのかさえ判別不能、という事になるのです。


 第23条 契約の尊重

 約束は守りましょう。契約書に書かれていないことについてはお互い納得のいくまで話し合って合意しましょう。


 第24条 著作権等の侵害に対する対応

 第三者が著作権侵害した時は、お互い力を合わせて夷狄(いてき)と戦いましょう。


 第25条 特約条項

 これは、この契約書に記載しない約束事は、別に定めるという内容なのですが、実は裏の意味もあります。

 契約書の条項の変更は第22条に拘束されますが、特約条項の変更は第22条に拘束されません。つまり、第4条で条件条項について述べましたが、逆に契約本文に条件条項を附すのなら、まだ誠実です。ひどい場合は、第4条の印税を「別途定める」と書いておき、すると著作権者は「印税10%と言っていたから10%なんだな」と思っていたら、「別途印税額算定書」などに、「印税は実売部数によって以下の通りとする。3,000部以下の部分:印税無し、3,000部を超え5,000部までの部分:5%、5,000部を超え8,000部までの部分:8%、8,000部を超えた部分:10%」などとなっているかもしれないのです。しかも、この場合売価1,000円の書籍が実売10,000部だった場合、印税は幾らになると思いますか? 1,000×10,000×10%=100万円、と考えがちですが、違います。

 3,000部以下の「部分」は印税率0%ですので、1,000×3,000×0%=0円。

 3,001部から5,000部の「部分」は5%ですので、1,000×2,000×5%=10万円。

 5,001部から8,000部の「部分」は8%ですので、1,000×3,000×8%=24万円。

 8,001部から10,000部の「部分」は10%ですので、1,000×2,000×10%=20万円。

 合計、0+10万+24万+20万=54万円。


 流石にここまで阿漕なことをする出版社はないでしょうが、こんな計算式も、あるという事だけ覚えておいてください。


 ☆ 雛形に無い、独自契約条項


 冒頭で語った通り、全ての契約書が雛形の通りに作られる訳ではありません。そして、その出版社独自の条項を、そこに織り込む場合もあります。それは、それゆえ雛形の契約書より精錬されたものになることもあれば、逆に地雷になることもあります。

 では、どのような独自条項があるのでしょうか?


 ○ 責任の所在

 著作の内容の責任、出版・書籍製造に係る責任、流通に係る責任、販売に係る責任等を契約に謳う場合もあります。また、編集・校正の責任が著作権者にあると契約に明記する場合もあります。そもそも作品の内容については、契約に謳われるまでも無く著作権者の責任なのですから、例え指示した校正内容が修正されていなかったとしても、それは著作権者の責任です。それを敢えて契約条項として明記することで、著作者に自覚を促しているという部分もあるのです。


 ○ 免責条項

 著作権使用料計算に際し、その基準から除外されるものを契約に織り込む場合があります。在りえる例として、「雛形第9条の献本分」や「不良品」などがあります。

 献本分を印税の対象から除外するとなると、著作権者が自爆営業をして自主買取を行えば、その分著作権者に対して支払われる印税が減るのです。実際に著作権者がその部数を必要としているというのならそれでも良いのかもしれませんが、ただ実売部数を支える為だけに自爆営業をした結果、受け取れる印税が減少するというのでは、著作者側にはメリットは何もありません。

 また、不良品。これは相談事例として挙がっているものなのですが、ある契約書に、以下の通り記載されていたそうです。

 「本業務に関わる印刷及び製本上の瑕疵については、乙が責任を負うものとする。ただし、

印刷・製本業界における通年範囲の瑕疵についてはこの限りではない」

 この「乙」は、出版権者です。問題は但書。「印刷・製本業界における通年範囲の瑕疵」とは一体何か。

 字義通り考えれば、「通常印刷・製本の過程で落丁・乱丁は0.2%程度混入する。だからこれは出版権者の責任ではなく、だからこの分の印税は支払わない」となるおそれがあります。

 似たような文面で、「流通過程での破損、汚損などやむを得ない事由により廃棄処分した部数」という表記もあるかもしれません。ではどのような破損は「やむを得ない事由」で、どのような破損は「流通業者の責とする事由」なのでしょうか?

 印刷過程のずれ、製本過程の落丁・乱丁、流通・販売過程の破損・汚損。これらが誰の責任となり、印税計算にどのように影響するのか。これは、契約書に記載されているかどうかを問わず、確認しておく必要があります。


 ○ 自動更新

 これは雛形第12条・第19条関係なのですが、一般に出版契約は、自動更新とされます。その根拠は第12条の項で説明しましたが、本来、出版契約が延長されるという事は、「著作権者にとって有利」なのです。が、打ち切りとなった作品に関する出版契約が解除されないという事は、「著作権者にとって不利」です。なら、自動更新つまり何もしなければ自動的に契約期間が延長されるという契約は、場合によっては著作権者にとって「作家生命」を凍結されることに繋がるのです。そもそも、打ち切りになった後「自作の出版契約を自主的に解除するように出版社に働きかける」ことの出来る著作権者は、どの程度いるでしょう?


 ○ 合意管轄条項

 この条項が雛形に無いのは、明らかに出版業界が契約文化に無い証左ですね。

 訴訟を起こす際、基本的な所轄裁判所は被告側の所在地にある地方裁判所という事になります。つまり、東京の出版社に対し、北海道の作家が訴えを起こす場合、わざわざ東京まで出向いてこなければならないのです。

 が、所轄裁判所として「札幌地方裁判所を第一審の所轄裁判所とする」としておけば、東京の出版社を訴える時も、札幌まで出向けばいいという事になります。勿論、出版社側がそれに合意しなければ意味はありませんが。或いは、逆に出版社側が作家側を訴えることを想定していないだけなのかもしれませんが。


 ☆ 最後に


 契約を交わす時。作家(著作権者)の多くは、法律にも契約行為にも、そして業界の監修にも疎い人ばかりだと思われます。その為、「専門家が作った契約書に物言いをつけるのは失礼」「どうせわからないことだらけなんだし」みたいに考えてしまう人が多いと聞きます。

 けど、これは間違い。契約とは、当事者間の合意事項を書面に記したものに過ぎません。なら、合意する、それ以前に理解する事が出来ていないのなら、契約書に捺印すること自体本来は間違いなのです。

 契約書はよく読み、必要なら専門家に訊ね(各地の弁護士会館に「法テラス」という、無料相談をしてくれる場所があります)、或いは相手に疑問を投げかけ、納得のいくまで話し合い、ちゃんと理解した上で捺印をするように、老婆心ながら忠告させていただきます。

(3,172文字:2,017/08/06初稿)

「一般社団法人 日本書籍出版協会」〔出版権設定契約書ヒナ形1(紙媒体・電子出版一括設定用)2017年版『出版契約書』〕(http://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ