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いちゃいちゃするな吟地兄妹
「あ、だけどさ、なんでお兄ちゃんはあんな森の中にいたの?」
思った以上に無駄に広かった小屋の中を各自に振り分け、全員で大掃除をしながら暖香は一緒に窓ふきをしていた紋太に尋ねた。
「んー?俺はさ、養子が来たことを手紙で知って、家に帰ったんだよ。そしたら萊兎を追い出してやったていうからさ。びっくりして。暖香もいなかったけど、暖香のことだからきっと萊兎を探しに行ったんだな、と思って」
「・・・それで森来たんだ」
「ああ」
なんでもない顔で答える紋太。
昔からそうだ。紋太は正直、鬱陶しいくらいに暖香の気持ちや考え、行動を悟ってしまっていた。だけど今はそれが、
―たまらなくうれしい。
「・・・来てくれてありがとう」
紋太の動きが一瞬止まった。そして、黒い髪を揺らして子リスのように少しだけ首を傾げてはにかむように微笑む。
「どういたしまして」
―あ
暖香はなんとなく、幼いころのある出来事を思い出した。
友達と、かくれんぼをして遊んでいた。だけど自分はなかなか見つけてもらえず、大人数だったこともあって多分忘れられてしまったんだと思う。誰も、探しには来なかった。
暗い物置の中で怖くなり、縮こまって泣いていたとき。
―「暖香、やっぱりここにいた」
突然聞こえた声と差し込んだ光に顔を上げると、そこには腰に民族衣装の上着をまいて、かっこうつけのタテューをつけて、細い金環のイヤリングをつけた少年が立っていた。
―「やっぱりここに隠れてたの。父さんも母さんも心配してるよ、帰ろ」
その日、紋太は一緒にはかくれんぼをしていなかったと思う。なのに、まるで紋太はかくれんぼをしていたことを知っているかのように言う。そして、この物置に隠れるところを目撃したかのように。
―あのときも、こんなふうに笑ってたな
窓を拭く紋太の横顔を見つめる。
―でもあの後、お兄ちゃんの友達が死んじゃって・・・、お兄ちゃん、しばらく笑ってくれなかった
そして、笑えないまま家を出て行った。だから、十年ぶりくらいに見た兄の姿と、その笑顔がたまらなくうれしい―
―・・・ん?
・・・・・・・・・
「ええぇぇえ、じゅ、十年ぶり!?」
「うわぁぁあああ!?」
突然出てきたでかい数字に、思わず叫ぶ。紋太が驚いて雑巾を床に落とした。
びちゃっと、辺りに水滴が飛ぶ。
「び・・・っくりした・・・急に叫ぶなよ、まあ昔と相変わらずでちょっとよかったけど」
「え、ちょっと待って今私の頭の中それどころじゃなくてええええ」
「何が。落ち着いて」
「え、だって十年ぶり!?めちゃくちゃお久しぶりじゃん!」
騒がしい声に、なんだなんだと二人と一匹が集まってくる。
「え、うそ何暖香今頃気づいたの?」
「だってお兄ちゃん全ッ然変わってないんだもん!あ、でも背のびてる!」
「ちょっとは変わってるよ・・・」
暖香の叫びに、紋太はかなりショックを受けたようだ。
後ろで首を傾げていた星喇たちも目を見合わせ、苦笑した。