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第十九話 隣にいる理由

【日曜日 14:26/倉庫裏】


 倉庫裏には、古い木材が積まれていた。


 使われなくなった棚板。


 折れた支柱。


 半分腐りかけた板。


 その中で。


「うわっ、重っ!」


 ミナが板を抱えてふらついた。


「だから端持てって言っただろ」


「言うの遅い!」


 板が傾く。


 相沢は慌てて反対側を支えた。


「落とすな!」


「そっちが急に離すから!」


「離してない!」


 二人で板を抱えたまま止まる。


 距離が近い。


 ミナが少し睨んでくる。


「……回し屋のくせに段取り悪い」


「今のはお前が突っ込んできた」


「む」


 数秒。


 それからミナが吹き出した。


「あははっ!」


 相沢も少し笑ってしまう。


 何をやってるんだろうと思った。


 ゴブリン。


 デルグ。


 倉庫改善。


 共同体。


 色々ある。


 なのに今は、


 ただ板を運んで騒いでいる。


 でも。


 悪くなかった。


     ◇


【日曜日 14:41/倉庫裏】


 簡易棚作りは難航していた。


「曲がってる!」


「気のせいだ」


「いや曲がってるって!」


 ミナが笑う。


 ガンツは横で大笑いしていた。


「ハハハッ! 回し屋、不器用じゃねぇか!」


「うるさい」


「倉庫は回せても棚は回せねぇか!」


「その煽り腹立つな」


 相沢は額を押さえる。


 図面なら分かる。


 導線も分かる。


 でもDIY経験はほぼ無い。


 すると。


「貸してください」


 リリアだった。


「え」


 リリアは自然な動きで木材を固定する。


「こちらを先に支えると安定します」


 相沢は少し驚く。


「慣れてますね」


「薬棚を作ったことがあります」


 手際がいい。


 釘位置も正確。


 無駄がない。


 ガンツが感心したように言う。


「リリア器用だな」


「必要でしたから」


 ミナが少し頬を膨らませた。


「……ずるい」


「何がだ」


「リリア何でもできる」


「何でもではありませんよ」


 リリアは少し困ったように笑う。


 だが。


 ミナはどこか面白くなさそうだった。


 相沢は少し気づく。


 最近。


 ミナはこういう顔を時々する。


 特に。


 自分とリリアが話している時。


     ◇


【日曜日 15:08/倉庫内】


 棚は何とか形になった。


「おおー……」


 村人たちが感心した声を漏らす。


 壁際。


 薄型の追加棚。


 収納量はそこまで多くない。


 だが。


 今まで床置きしていた物が片付くだけでかなり違う。


「通れる……」


「広くなったぞ」


「これだけで全然違うな」


 相沢は棚を軽く押す。


 少し軋む。


「あとで補強必要だな」


「十分すげぇよ」


 ガンツが言う。


「回し屋、本当に変な知識多いな」


「向こうだと普通だ」


「絶対普通じゃねぇ」


 ミナが棚を見上げる。


「……何か悔しい」


「何でだ」


「私は何もできてない感じする」


 その言葉。


 少し空気が止まった。


 ミナ自身も、口にしてから少し驚いた顔になる。


「あ……いや、その」


 相沢は少し考える。


 それから。


「そんなことないだろ」


「でもリリアみたいに薬分かんないし」


「ガンツみたいに強くないし」


「村長みたいに皆まとめられないし」


 ミナは棚を見たまま続けた。


「私は走り回ってるだけっていうか……」


 声が小さい。


 いつもの勢いが少し無かった。


 相沢は少し黙る。


 その時。


 視界の端に文字。



【対象:ミナ】


【精神状態:不安定】


【推奨:役割承認】



 相沢は眉をしかめた。


(だからそういう表示やめろって……)


 便利だ。


 だが。


 人の感情まで分析されると、本当に落ち着かない。


 相沢は表示を無視するように、ミナを見る。


「ミナ」


「……何」


「お前、一番動いてるぞ」


「え?」


「倉庫も畑も井戸も、お前が先に走ってる」


「でもそれだけじゃん」


「それが一番大変なんだよ」


 ミナが少し止まる。


 相沢は続けた。


「ガンツは力仕事ができる」


「リリアさんは整理ができる」


「村長は決められる」


「でも、皆を繋いで動かしてるのはお前だ」


 静かになる。


 ガンツが腕を組みながら頷いた。


「それはあるな」


「ミナいねぇと伝わんねぇ」


 リリアも柔らかく頷く。


「皆、ミナに話しかけていますから」


 ミナは目を丸くしていた。


 多分。


 言われたことが無かったのだ。


 自分の役割を。


 ちゃんと。


 相沢は少しだけ笑う。


「向いてるんだよ」


「……何に?」


「人の間を回すの」


 ミナの顔が少し赤くなる。


「そ、そういう言い方ずるくない?」


「何でだ」


「何か……その……」


 言葉に詰まる。


 ガンツがニヤニヤしていた。


「おー」


「うるさい」


 相沢は即答した。


 だが。


 ミナはさっきより少しだけ元気そうだった。


     ◇


【日曜日 16:02/広場】


 広場では、子供たちが遊んでいた。


「回し屋ー!」


「棚できたー!」


「すげー!」


 完全に定着している。


 相沢は頭を抱えた。


「だからその名前……」


「いいじゃん!」


 ミナが笑う。


 さっきまでの沈んだ顔は少し消えていた。


 相沢は小さく息を吐く。


 その時。


 視界の端に文字。



【住民士気:上昇】



 また出た。


 最近、本当に増えている。


 でも。


 今は少しだけ分かる。


 これは。


 棚を作ったからじゃない。


 人が、


「自分にも役割がある」


と思えたからだ。


 その感覚は。


 数字より、ずっと大事な気がした。

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