59、実像
それでも、人は工夫するものだ。
紆余曲折あって、大海原に漕ぎ出すようになった。
もっともはじめは海岸から付かず離れず。
この国の東端にあたる海際には、同じような条件の湾がいくつも存在し、やはり同規模の村がぽつぽつとあったから、まずそことの交流がはじまった。
暗礁の位置を把握するまでは海の藻屑となることも少なくなかったし、海には海の魔物がいるので、陸を行くのとどちらが楽かは微妙なところだ。でも、彼らは海にこだわった。
おかげで操舵の技術、ついで造船の技術が進歩。
嵐にあった難破船の漂流者を助けたことで、海の遥か彼方に別の大陸があることを知る。
知ったら行きたい、海の男たち。
やはり是が非でも国に帰りたい漂流者の意見を取り入れ、新たに船を建造し、水や食料を積み込み一か八か漕ぎ出したって言うんだから、度胸があるというか無謀というか。
当然、各村ごとにそれぞれ組織だって動くから、ぶつかり合うことも少なくない。
魔物とも戦うけど、人とも戦う。
村を襲ったり、船を襲ったり、襲われたりする。
海賊の誕生だ。
そしてその流れの中に、いよいよ我らが当主マックスが登場する。
古老であるダットリーにすれば、いまだ鼻たれ小僧のようだけど、大した奴だと認めてはいるらしい。
まさか、十五歳になるかならずやで「全部お前にやる」って、いまよりずっと穴だらけだった家業を父親に押し付けられて、ここまでにしたとはね。
いや、万事アバウトな親父様と、ぽやぽや楽天的なお袋様だとは聞いてた。
でも、嫁いできて真っ先に夫の両親にあいさつしようとして、行方不明だって言われたら、ちょっとどんな顔していいかわからないよね……
しかも、夫は非常にさばさばしていて、「生きているならどこかで生きているし、死んだのならそれまでだ」って、お墓すらないんだもの。
ダッドリーも孫にあたるサイモンさえも、その点まったく気にしてる様子はないから、海の男ってそういうもんなのかなぁ。
マックスの先の奥さんも自然と話の中に登場してきて、当然サイモンは前のめりになって聞いてる。
ただ、ダットリーの話によれば、なかなかに活発な方だったようで、いまは亡き母の話を聞けてうれしいという表情の中にも微妙な色をにじませるサイモン。
休憩時間に彼が語ったところによれば、まだふつうに街に出て遊んでいた頃、母親について話してくれる人も少なくなかったけど、いまにして思えば皆、早くに母を亡くした少年を不憫に思ったのだろう。
あれこれ脚色して、理想的な母親像に仕上げていたようだ。
いや、個人的には好きですよ。
率先して船に乗って魔物をぶっ刺しに行ったり、子分を率いて敵対組織のところへいわゆるカチコミに行ったり。
みなし子だったこともあってか、似たような境遇の子供たちの面倒もよくみたけど、家庭的なことは苦手だったらしく、子分たちにもその点はあきれられていたらしい。
まあ一度、外航船に乗ってしまえばたいていのことは自分でやらなければならないから、海の男たちは自ら服をつくろうし、誰もが簡単な料理くらいできる。意外に器用なんだよね。
ちなみに、うちの裏庭にごろごろしてる巨大生物の骨も、彼女が集めはじめたそうで。
しかし、すぐにあきて「欲しい奴にやる」と言ったけど、誰も欲しがらなかったんだとか。




