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レベリングオート ~かつて最強だったプレイヤーが、Lv1からやり直すそうです~  作者: 行川 紅姫
1章:後半:最弱方程式 ※証明はされていません
24/50

真実を明かすとき

「ラ――フ……!! ラル――!!」

 不思議と自分の名前が聞こえる。


 何だろうと思いラルフはそっと目を開く。

「うっ……う~ん?」

 ずっと目を閉じていたからだろうか、異常なまでに目線がぼやけ物体の焦点が一致せずまるでゼリーの空間のように見えていた。

「……こ、ここは?」

 暫くして段々ぼやけていた視界が戻す為に2回まばたきをした。すると最初にある者の顔が彼の目に映った。

「ラルフ…………」

 それは、レクティアだった。

 寝転がるラルフを覆い被し、まるで光を照らすかのように見つめていた。

 いつもとは違う天井の色に少し違和感を抱きながらもラルフはゆっくりと体を起こすと眠い目を擦りながら辺りを見渡す。

 そこは倉庫らしき、とある建物の一室だった。

 窓一つ無く、4畳半ほどしか無い小さなこの部屋はとにかく狭かった。レンガの壁をほじくって作ったであろう棚は、ビン詰めした野菜等でいっぱいだった。その瓶の蓋には埃が薄い膜のように発生していた。

「ここは……一体?」

 彼がそんな言葉をふと漏らす。すると突然ラルフの右手に水滴のような何かが滴るような感覚が伝ってゆくのが感じられた。

「……レクティア?」

 ラルフは、そっと顔を上げるとそのままレクティアのいる方向に首だけを傾ける。

「……お前、どうしてここに?」

 その水滴の正体は一粒の涙だった。

「う゛っ……う゛っ、……あ、ありがとう……っ」

「えっ……?」

 彼女の涙は目を浸すかのようにあふれ出し、瞼から頬に掛けてまるで雫のように流れ落ちていた。

 そう、今の彼女には、『感謝』という想いでしかなかったのだ。

 するとレクティアは突然、起き上がったラルフへ向けて飛び込むかのようラルフの胸に抱きついた。

「……怖かった……っ。もう、駄目かと思った。……殺されるか、と思った……」

 涙目のまま、彼女は震えた声で自身の想いをラルフに告白した。

「お、おい……一体どうしたんだよ……」

 しかしラルフ何故かこの状況を飲み込むことが出来なかった。

 ましては、この数分間の記憶も飛んでいた。なので思い出そうとしてもそれは無理だった。

「……でも、助けてくれた(、、、、、、)……」

「……」

「……思ってもいなかった。Lv1の核石人種(プレイヤー)が圧倒的な差があるはずの相手を一度も攻撃を受けずに倒したもの……おまけに3人も……」

 レクティアはラルフの服で涙を拭いた。

「……そうか」

 するとラルフは次の瞬間思いにもよらない言葉を口にする。

「……俺って、お前を助けていた(、、、、、)んだな」

「え? それって……」

 彼自身で自覚が無いのだろうか、それとも覚えていないのだろうか……今の彼女には彼の気持ちなんて分からなかった。

「……そうか……なら、お前……もしかして見たんだな(、、、、、)?」

「見たって……それは……」

 レクティアはラルフの問いに対して俯くように顔を下に向ける。

 そなままラルフは彼女の行動を見て察したのか一度大きく息を吐くと、忌々しげな声で、

「ならば、悪い。お前に嫌な姿見せてしまっただろうな」

「い、いやっ……あなたは別に――」

「良いんだ……もう……」

 気が付けば、あの時赤く変色していたはずの左の瞳は元の色に戻っていた。

「ラルフ……」

「見られたのなら仕方ない、俺も流石にいい加減本当の事(、、、、)を言わなきゃ……な」

「本当……の事?」

 ラルフは今この空間にて居るのはラルフとレクティアの二人しか居ない事を確認すると落ち着いた声の調子で語り出した。

「実は俺、このゲームはやるのは初めてじゃ無いんだ」

「えっ?」

 いきなりのぶっ飛んだ彼の話に困惑するレクティア。

 想定内の彼女の反応にラルフは一切動揺する事無く再度話を進めてゆく

「『クリスタル・レイロード』って知ってるか?」

「え……ええ、多少は……このワールド上で最強を決める最高峰の大会……確か優勝が過去に2人しかいないとかで――」

 レクティアがそう言いかけた次の瞬間ラルフはとんでもない事を口にした。

「そう、その2人の内の1人が俺なんだ」

 ラルフの一言を聞いてぎょっと一瞬目を剥くレクティア。

 一瞬最初は疑った。しかし数分前のあの出来事を思い返すと次第にその思いは薄れて行った。

 ラルフはそのまま話を進める。

「そして、もう一人の方なんだが……」

 ラルフは数秒、開いていた口を閉じ躊躇う様子で、

「そいつはもう、この世には存在していない」

「それって……亡くなったってこと?」

「ああ、十階建ての建物の屋上から自ら飛び降りて自殺したんだ……ましては、俺はその時あの場所に遭遇していたんだ」

「そんな事件が……」

「本名は『柊稔』……プレイヤーネームだと『エダ』という名前でプレイしていたんだ」

「ちょっと待って、『エダ』ってあのルイスとタッグを組んでいたって人?」

「そう、しかもそいつとは初めての友人だったからな、とてもショックだった」

「……そうだった……のね」

「しかし、死ぬ直前……俺に『ある物』を遺していたんだ……」

 するとラルフは左手でメニューウィンドゥを展開し写真や画像を保存するフォルダーを表示させる。

「これなんだが……」

「……何、記録端子?」

 表示させられたのは一枚のSDカードだった。それにかなり古い物だったのだろうか、会社名や容量が表示されているシールは掠れてしまい所々白く変わっていた。

「その通り、見ての通り128GBの大容量VR機器専用のメモリーだよ。実際中身は2つしか無かったのにも関わらず残り容量は1桁くらいしか無かった。具体的に言うのであれば文書ファイル1つに何かしらのソフトウェアだった」

 ラルフは表示されているウィンドウを左手で閉じるとまた落ち着いた口調で、

「最初に、俺は文書ファイルを見たんだ。中身は遺書だった。……本当はそれに関しては思い出したくは無いんだが……まあ、簡単に言おうか」

「……」

「基本的に最初の書き出しは一般的な遺書と同じテンプレ内容だったんだが、後半の文章が意味不明だったんだ」

 レクティアは何も言い出せず、只ラルフの言葉を聞く事しか出来なかった。

「内容は覚えている限りの事を言うと『ボクは全てを奪われた。だから今度はボクが奪う番。だから一緒に遊ぼう。琴吹君』だったような……とにかく訳が分からなかった。そして最後にはこう書かれていたんだ『ソフトを開けろ』って」

「そ、そのソフトの中身って?」

「ああ、まず開いてみたら最初にウィルス感知ソフトが作動して展開すること自体がまず大変だったな、その時まではまだ俺は知らなかった。もしも俺がそこで止めておけば、あんなこと(、、、、、)にはならなかったんだが……」

「『あんなこと』? …………って、まさか!?」

 最初はピンとこなかったレクティアであったが少し考えて見ると何かを思い出したのかはっとした表情でラルフを見る。

「そのまさかだよ。あの時やっとの思いでソフトを展開した瞬間、何故か俺は気を失ったんだ。最後に意識が戻ったのは最後に意識を失って1週間後だった」

 ラルフの言う『一週間』という言葉、それは人間が水、食料なしでぶっ通しでVRゲームをやっていたという話になる。よく考えて見ればそれは恐ろしい程危ない物だと言える事だった。

「まさか、あの時から……だったのね」

「そうなんだけどな……実は気を失う寸前、俺の目に1つの人影が見えたんだ」

「人影……?」

「四方八方、真っ白に広がった不思議な世界でな、俺の前に白い布に包まれた1人の少年の姿だった。するとその少年はな、俺の方へ体を向けたんだ。そしたらな、驚くべき事にそいつの顔が尋常じゃない程に顔立ちが『エダ』にそっくりだったんだよ」

「嘘……エダって亡くなったんじゃ無かったの?」

「違うんだ。そいつはな、自分のことを『神様』と名乗ったんだ」

「『神様』? それって……」

「正確には『人格変動特殊プログラム』つー名前なんだがな……俺のアカウントに介入して一時的に『中身』を変えていたんだ。おまけに俺は『あいつ』に介入される度に俺の意識は暗闇に墜とされるんだ」

「……だから、あなたは覚えていないというのね?」

「そういうことだ。正直『あいつ』がこの一週間の間で何をしたかなんて事は殆ど分からない……唯一分かっているのは3つ、Lv999のカンスト値になっているということ、神の結晶(クリスタル)の獲得、そして最後は大規模非道ギルドの壊滅の3つだけだった。それ以来、俺がそのアカウントでログインして戦闘が発生した場合『あの時』のような現象が発生してその時の記憶が飛んでしまうんだ」

 そこまで言うとラルフは話を区切るようにした一度咳払いをする。

「もしかして、……ラルフのその体は、あなたの言う『神様』の支配から逃れようとしてワザとやったって事?」

 レクティアの解答に対してラルフは『そういうことだ』と返答すると少し首をそっぽの方向に向けると彼はそっと縦に頷いた。


 すると、ラルフは大きくため息をつくと絞りきるかのような声でこんなことを言い出した。

「……ホント最低なクソ野郎だよな、俺って……」

「ラルフ……」

 今度は、ラルフがポツポツを瞼から大粒の涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。

「俺の行動次第で本当だったら救えたはずの大切な友を救えず、見殺しにしてよぉ……『あいつ』の支配からは自分から逃げて、ましては今こうして出会った仲間とも俺の本当の姿隠してやってたんだぞ……そんな物、只の裏切り者じゃないか!」

 ……本来であればそんな事はいつでも言えるはずだった。しかし、彼の中ではそれが出来なかった。 ……まるで何かに縛られるような一種の呪縛(、、、、、)から抜け出せずずっと言うのを躊躇っていたのだ。

「俺は……ただ、遊びたかっただけなんだ。また、昔みたいにまだ『エダ』が生きていたときのように、また仲間と共にクエストを選んで一緒にクリアをしたい、それだけなんだ! ただ俺はそれが……それが、したかっただけなんだよ!! なのに……なのに……ッ!!」

 嫌だ。悔しい。辛い。今のラルフの心には、この3つの感情の『縄』が(から)まるように(まと)わり付いていた。強く目を瞑り涙を堪え、両手を強く握りながら必死に自分の思いを語る。

 彼の中で同時に『終わった』と、その4文字の言葉が脳裏をよぎった。

 しかし彼の言葉を聞いたレクティアは、

「……違う……」

 そっとラルフの側で、レクティアは息を溜め込むような声で言い始めた。

「あなたは何も悪く無い……」

「……えっ?」

 彼女の一言にラルフはゆっくりと顔を上げる。

「さっきあなたは、自分の事を『裏切り者』って言った。……だけど、あの時あなたがしてくれたことは本物だった!! 私たちみたいな『力の無い者』……いや、それ以上の『力の無い者(Lv1)』が、死の直前に立たされた私を救ってくれたのよ!!」

「違う。俺は確かに、あの時『稔』を見殺しにしたんだ!! だから、俺は……ただの人殺しとかしか言えないんだよ!!」

 自棄になるようにラルフは、言い切るように叫ぶ。

「だったら、何であの時私を救ってくれたのよ!!」

「それは、『アイツ』が決めたことだ。俺は何も知らない!!」

「嘘よ!! もしあなたがそう言うのであれば私はとっくの前に殺されていたはずよ!! ならなんで私を助けたのよ!!」

「そ、それは……」

 レクティアの的確な言葉に声が詰まるラルフ。レクティアは一度呼吸を整えると落ち着いた声の調子で、

「……きっと、あなたの意思も引き継がれていたんじゃないのかな?」

「俺の……意思(、、)が……?」

「そう、……もしかしたらそのあなたの言う『アイツ』のプログラムが、ラルフの意思が一時的に強く干渉されたんじゃ無いの?」

「嘘だ。……『アイツ』が?」

 信じようとしないラルフをレクティアは心中察しすると、仕方ないと言わんばかりに彼女はあの時、敵から付けられた足の傷を見せた。

 その傷は赤い痕が残っているものの、皮膚に塞がるようにして生々しい傷自体は既に消えていた。

「この傷は、元々は敵に付けられた。だけどあなたの中に眠る『アイツ』によって私のこの傷を癒やしてくれた。……ここまでやっておいて、あなたはそれでも自分の事を『裏切り者』って言えるの!?」

「お……俺は……」

「あなたは私を救ってくれた。ただそれで良いじゃない!! なんで、あなたが私の前で泣いて謝らなければならないのよ!! なんで、あなたは過去の過ちを一々思い返さなければならないよ!! もう、意味が分からない……後ろ(過去)を見たって何も始まらないじゃない!! そんな『どうでもいい』物、嫌なこと(、、、、)だったらさっさと忘れて(、、、)しまいなさいよ!! 覚えてるよりよっぽどマシよ!!」

 レクティアは涙ながらに自分の想いを叫んだ。

 同時に沈黙も起った。レクティアは叫んだ後に歯を噛み締めるように軋ませていた。

「……そうか……」

 首を下に向けながらラルフは呟くように小声で言う。

「ありがとう……レクティア」

 彼の口から漏れたのはたった5文字のお礼の言葉だった。

 ラルフの目からは溢れんばかりの大粒の涙が更に更にと、こぼれ落ちていた。

「俺は……自分から逃げていた……だけど俺は今までそれを自分で認めようとはしなかった。だけど今お前は俺に分からせてくれた。……本当に、申し訳ない……」

「だから、あなたに謝られる事なんて無いってさっき言ったじゃん」

 彼女の一言に対して、まあね、と返答するとともに次第にラルフの表情には笑顔が戻りかけていた。


 話に一段落つき、2人はしばらくその場でずっと居座っていた。するとラルフが何かを思い出したのか少し深刻な顔つきでは話かける。

「……なあ、レクティア……ふと思い出したんだが、お前に1つ聞きたいことがある」

「何?」

「まずは一つ目ずっと思っていたんだが、お前さっき俺にあの傷口見せてくれたよな……なんでお前の傷口に()残ってんだ?」

「痕?」

 ラルフに言われると、レクティアは片方の足の傷を見つめた。

 一見特に変わった所は見当たらなかった。実際、彼女の体に烙印や入れ墨が入れられている訳でも無い。

 しかしなぜラルフは疑問を持ってしまうのか……それには一つ訳があった。

「お前の傷、普通だったら今の段階で既に痕を残さず綺麗さっぱり消えてる筈なんだ。なのに、なんでお前の傷痕消えてねぇんだ?」

「!?」

 今彼が思っていたこと、それは『セミ=ブラッド』の存在だ。

 その液体の特徴として紫色をした物で原人種(NPC)の100倍の再生能力があるのだが、基本核石人種(プレイヤー)にしか持っていないはずなのだ。

 故に過去に何度も核石人種(プレイヤー)を見てきた彼として、それは違和感しかなかったのだ。

 更にラルフはレクティアに追求を重ねていく、

「なんか、おかしいってずっと俺思っていたんだ。以前にもオリンピックを知らなかった件に関して疑問に思っていたんだ……正直、俺の予想が間違っていることを信じたいんだ」

「……」

「教えてくれるか?」

「……まさか、もう大体の目星が付いているの?」

「ああ、8割程はな……」


 ラルフは落ち着いた様子で話すとレクティアは静かに顔を上げそっと口を開き――言う。


「……そう、私は原人種(NPC)よ。本当だったら、この事だけはあなたと同じく一番言えない事だったのにね……私も騙してたわ……」

 彼女の声色は、なんと表現すれば良いだろうか……似て言うのであればラルフと同じように感じられた。同時になんか吹っ切れたかのような感じでもあった。

 やはりな、とラルフは確信した様子で彼女の言葉を聞いていた。

「道理で……お前が俺らの世界の常識について疎い理由が理解できたよ」

「でも……私もあなた達を騙して……」

「良いじゃねえか。これでおあいこだ。互いに秘密を語り合ったんだ。これ以上隠す必要な無いだろう?」

 ラルフは、さてとと言いながら手をつきながらその場に立ち上がると重い足取りで扉の前に進んでゆく。

「ちょっと、ラルフ!? 何処に行こうとしてるのよ!!」

 彼が起き上がったとはいえ、ラルフの足取りは妙なくらいに重かった。一瞬何度か頭を押さえよろめくも一歩一歩前へと進んでいく。

「ちぃ、頭痛ぇ……仕方ねぇだろ、時間が無いんだからよぉ」

「だからって、あなたはさっきの戦闘で体力が消耗しているのは確かなのよ!! その状態じゃ……」

「俺と『アイツ』は全くの別だ!! そう言ってる間にも核石人種(プレイヤー)だけじゃ無く原人種(NPC)何人かの命は消えてるんだぞ!! しかもお前、俺の代わりをこなせられるのか!?」

「そ……それは、」

「俺は、もう行く……お前は危険だからここに居ろ、最低限スピカ達の安否確認を頼む」

「……分かったわ、『石』にだけにはならないようにね」

「ああ、分かってるよ」

 ラルフがそう言い残し、フッと笑い扉のドアを閉めるとタッタッタッと走る音が段々と遠くなってゆく。


 あれから数秒後には2人の声が入り交じったかのような声と同時に阿鼻叫喚の叫びが木霊するかのように彼女の耳元に入ってきた――。




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