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レベリングオート ~かつて最強だったプレイヤーが、Lv1からやり直すそうです~  作者: 行川 紅姫
1章:後半:最弱方程式 ※証明はされていません
22/50

真が偽へと変わるとき

前回の続きです。

 最初は信じたく無かった。

 後に待つ希望も捨てていた。

 救われる者なんていないと思っていた。

 しかし――、消えた。

 そんな『どうでも良い』物は、一瞬にして彼女の負の意思と共に消滅された。

「なんで……アナタは、あの時には既に……」

『うるせぇ』

 低いトーンの声がラルフの口から放たれた。

 するとラルフは目の前に敵がいるのにも関わらずレクティアのいる方向に体を向けた。武器を何一つ持たない無防備の状態で、だ。

 そんな事は普通であれば『死』を求める者では無い限りそんなことは絶対にやらない。

『お前はどうせ死んだとか言いてンだろ?』

「だって……そんな事、一番アナタが知っているじゃないの!!」

 レクティアはラルフの目を見るするとなんとそこには、なぜかこの時ラルフの左目の瞳には真っ赤に変色していた。それはまるで瞳だけ血によって染められてしまったかのようだった。

『だけど、(ボク)は今ここにいるぞ? 影もある、声も聞こえる、目も見える。そこまでして死んだとでも思ってンのか?』

 しかしレクティアは感じていた。それは彼の目を見ても、声をいくら聞いても、今のこの彼の姿を見てもよく分かる事だ。


 今の彼は、ラルフであってもその姿はラルフでは無いということだ。


 大剣を持った男はラルフを凝視し忌々しげに叫ぶ。

「テメェっ……誰だ!?」

 男は一歩下がり、両手で持っている大剣をラルフの前に構える。

『あ゛ぁ?』

 ラルフは声が聞こえると同時に男のいる方向に体を向き直す。

 男の持つ両手のグローブはシワ一つ無く張っていた。それはとてつもない力が手に入っている証拠であることが容易に分かる程だった。

 何せ、渾身の一撃が男の見る限りLv1の核石人種(プレイヤー)によって、たったの指2本で止められたのだ。ここまで来て警戒を強めない方が余程おかしい。

 しかし相手はLv270、正直Lv1の彼によっては勝つことは殆ど無理に等しかった。

 故にある者が説いた『あの法則』を無視することなんて普通出来るわけが無いのだ。

 だがしかし、それでいてもなぜか彼は嗤っていた。

 圧倒的レベルの差にも関わらずただただ。嘲るかのように嗤っていた。

 何か勝算でもあるのだろうか? レクティアの脳裏にはその様な言葉が次々と浮かんでいた。

「クソが、雑魚(Lv1)の分際で我々を舐めやがって!」

『勝手に言ってろ、三下(Lv270)が』

 圧倒的ステータスの差が離れているにも関わらずラルフは彼らを侮辱していた。

 男はラルフに対して怒りを覚えたのだろうか、男は額に太い青筋を浮かばせる。

「貴様……、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」

 剣先を向ける男の後ろにいる2人の核石人種(プレイヤー)は鷹を括ったかのような様子で顔をニヤつかせていた。

 普通に考えれ見れば勝ち目なんて物は無い、しかしラルフは顔の表情を一切変えること無く余裕な様子で決定的な事を言い放った。

 たった一言で――

『当然じゃん』

 返答の直後、男は持ってた大剣に何かしらの『付与(エンチャント)』を掛けた。

 一瞬だった。左手の人差し指を立て『魔法公式(プログラムルーン)』を書き示したのだった。

 月光によって反射していた剣の光が一瞬にして赤く染まる。

 あの時は、何も『付与(エンチャント)』を掛けられてはなかった。その為、手で容易に止められてしまった。しかし、『付与(エンチャント)』を一度掛けてしまえば一定の『属性』による力が剣を纏う事となる。

 よって今男が装備している大剣の刃は、一瞬にして魔変貌し見た目とは反比例するかのように、実際何百度に熱しられたの高温の刃と化していたのだった。

 これでもう、手で受け止められる事は完全に無くなった。

 ここまで先手を打てればもう負ける気がしない。男はそう思った。

 だがラルフはそれでいても顔色を変えることは……無い。

 しかしラルフは、武器に纏った炎を見てふと言葉を口ずさむ。

 Lv1では到底言えないような言葉を、

『……なんだ。たったの「火炎(フレア)属性」の「下級(ロウクラス=)属性付与(エンチャント)」じゃねぇか。ホントにLv270かよ、お前』

「なっ!?」

 予想外の一言に男は目を剥いた。

 しかし、男は一度よろめくもののその行動は止まること無くそのまま攻撃を続行する。

 男は剣を上空に掲げるように振り上げ、叫ぶ。

「ハハァ!! 地獄の底でもがき苦しむんだなぁ、我々を侮辱したことを後悔しろ!!」

「ラルフ――!!」

 咄嗟にレクティアもラルフの名を叫ぶ。

『…………』

 しかし、ラルフは一歩も動く様子は無い。

 そして――

「死ねえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――!!!!」

 剣が振り下ろされた。

 その時点で彼女の中で照らしかけていた光は完全に途絶える。


 ……

 …………と、思われた。

「……あれっ?」

 男の口から間抜けな声が発しられた。

(ば、バカな!?)

 なんと有り得ない事にそこにはラルフの姿が無かった。

 ――その時だった。

「ガハッ――!?」

 突如、男の背後から胸に掛けて激痛が走る。

 男は胸に目をやる。

 そこには、

「な……ぜ……だ? どうやって……背後に……回り込んだ!?」

 掠れた声だった。

 痛みの発生場所は左胸、後ろから一本の鋭い銀のナイフで貫かれていた。

 武器によって体を貫かれた事により、男のHPゲージの減少が始まる。

 あまりの痛みに呻きながらもラルフに問いかける。

 考えて見ればあの時、確かに男の方が圧倒的なステータスを兼ね備えていた筈だった。

 ならば、普通そのスピードを上回る事なんて有り得ない……いや正確にはあってはならない。

(嘘だ……Lv1がそんな力を持つなんて、聞いたことが無い……畜生……Lv1の分際で!?)

 男は信じたくなかった。実質『あの理論』が存在する以上、ラルフは『敵にもならないただのクズ』としか思っていなかった。

 しかし、――

 ラルフは大きく息を吐くと、面倒くさそうな様子で言葉を紡ぐ。


『あのさァ~、三下サン「固有特性パーソナル・アビリティ」くらいは知ってるよなぁ?』


 ――結果、その思想が自分で自分の首を絞める事になるなんて思ってもいなかった。

 男がその言葉を聞いた瞬間、何かを察したのか突如男の顔色が変わる。

「っ!? ……まさか……貴様ぁっ、」

 男はラルフの言葉に対して憎しみに満ちた声でただ呻く。

 『固有特性パーソナル・アビリティ』とは、全てのCWOプレイヤー約75万人が必ずしも一つは持つ特別な『力』である。主な内容としては、『即死無効』や『HP自動回復』等のメリット効果があるのだ。

 ラルフは左手でメニューウィンドゥを開くとステータス画面に移動し特性の部分をズームして男に見せる。

『俺の「固有特性パーソナル・アビリティ」教えてやるよ、俺の能力は「存在しない(、、、、、)固有特性パーソナル・アビリティ』や魔法を作り出す(、、、、)ことが出来る」。それが俺の能力、名は能力錬金(オリジナル)

「なっ、バカな!? 錬金系能力だと……!? そんな物聞いたことが……!?」

『――これでいい加減分かっただろう? 俺が何をしたかって事くらいは――』

「…………まさか、その力で……強引にステータスを上げた……というのか?」

 ラルフは男の回答に対してふと鼻で笑うと、

『ああ、そうさ……今、三下サンに使った力はその名は【ジャック・ナンバー】。正確には俺が敵と判断した核石人種(プレイヤー)に対して全ステータスを総合させ後は二つのステータスに好きなように割り振る事が出来る。故に核石人種(プレイヤー)がいればいるほど上がるステータスは多くなるのさ。つまり最初から勝負は決まっていた(、、、、、、)って事なンだよ』

 仮に彼の言葉が正しいとするのなら今のラルフのステータスは次に彼が放つ言葉の通りに変わる事となる。


『三下3名のステータスの値の総合は、約11万。よって俺の【ジャック・ナンバー】で、その数値の半々をそれぞれ「攻撃力」、「素早さ」に割り振る。つまり今の俺のステータスはその二つだけでも5万5千以上の数値に変わっていると言うことだ』


「ば、バカか……お前は!? 別に忘れた訳では無いだろうが、見たはずだろう!? あの人数を……!! 『HP』になぜ割り振らなかった……!?」

 それに関しては男の言う通りかもしれない、何故なら『HP』の存在は1と0の差で大きく変わる。1残れば生き残るが、0になれば『石』に、例えるのなら試験の合否を言ってるような物だ。

 しかしラルフはそれでいても割り振らなかった。

 それが一体何を意味するのか、


『なぁに、別に攻撃が当たらなければ「HP」なんて物はどうでも良いんだよ』


 つまり、それが答えだ。

 それこそラルフ(琴吹 景侍)しか知らない『圧倒的な力』という物なのだ。

「くっ、――このクズがああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 想像の範疇(はんちゅう)を遥かに超越したラルフの能力を突きつけられ男はただただ叫喚の雄叫びを挙げる事しか出来なかった。

 直後、ラルフは男に刺さっていた『ナイフ』を抜いた。

 傷口から血が異常に吹き上がる。暫くして、余韻を残すかのような鋭利な音の響きの後に男はようやく膝から地へと崩れ落ちたのだった。

 地に頭を付けた瞬間、男は完全に意識が刈り取られてしまい。次第に留めていた肢体の原型は光の粒子と共に消えて行き、やがて宝石のような色、形をした『石』へと変わる。

『……ホント、「強さ」って怖ェな、ホントに……それよりなんか体が重い、やっぱりこの体に介入(、、、、、、)するのには多少無理があったかなぁ?』

 その瞬間を見ていたラルフはふと哀れな目で、そんなことを呟くのであった。

 するとラルフは刃が血に染まったナイフを手に持ち、先程までラルフを見下すようにしていた二人の男に目を向けると。

『オイ……、どうするんだァ? アンタらも殺るのか? 殺さねェのかァ?』

 まるで凶器に満ちたかのような、冷酷な目と共に息を吐くような低いトーンの声で言う。

「あっ……ああぁぁ――」

 しかし、今の彼らにはラルフの言葉が耳に入る事なんて無かった。

 正直、それは仕方の無いことなのかもしれない。何せ、一瞬の間で絶望と思えたこの状況を見事にひっくり返したのだ。

 しかも、完璧に……。

 実際、それによってラルフの見方が変わるのは同然だ。

『なァ――、どうするンだァ?』

「……ヒッ、ヒイイぃぃぃぃ――!?」

 暗い路地裏が一筋の月光によって、うっすらとラルフの顔に光が差し込んだ。一瞬であったが狂気に満ちた表情が微かに現れる。

「やめろッ……来るな!! これ以上近づいたら……う、撃つぞ!!!!」

 内の男一人が徐々に近づくラルフを見て慌てながらも右手の人差し指を彼の額に向けていた。

 その男は左手に細い杖のような物が装備されていた。パッと見て瞬間に魔法主戦型の核石人種(プレイヤー)であることがよく分かる。

『……』

 ……が、それでいてもラルフは男の忠告を見事に無視し、口を閉じ、目を大きく見開いてただただゆっくりと歩き進めていた。

 最弱の装備に最弱のステータス、それなのに他を凌駕する驚異の『固有特性(パーソナルアビリティ)』。

 今の彼のその姿は、『狂気を超えた何か』としか言いようが無かった。

「――ッ、ちぃ、ふざけやがってえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 男の咆哮の直後、まるで氷が一瞬にして溶け、沸騰させたかのように……恐怖による物なのかは分からないが自棄になったのか、その時フリーだった左手を利用し魔法公式(プログラムルーン)を書き示す。

《「火の精霊よ、汝の体を爆散し――」Ⅰ=Ⅰ/LvⅢ/a――》

 こうして魔方陣が発生し、最後の『起動言語』を唱えようとする――が、

『遅ぇよ』

 ふとそんな声が聞こえた直後だった。

 突如、とてつもない痛覚が彼を襲う。

 刹那、魔法を唱えようとしていた男の左腕を中心に鮮血が吹き上がるように飛び散る。

「なっ、ぁぁぁぁぁぁ――!? あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 あまりの痛みに、男の叫びは悲鳴を通り越して最早、声が干上がってしまう。

 気が付けば、なんと男のすぐ側にラルフの姿がいた。

 彼の右手にはそこらで買えそうな簡単な木刀が握られており既に地へと振り下ろしていた。

 おまけにその右手の木刀の側には――

 人差し指と立てた男の右腕が無惨に転がっていた。

「……嘘、だ。木刀で、人を斬れるなんて……聞いたことがぁ!?」

 そう、男の脳裏には同時にある疑問が浮かんでいた。

 それは『武器特性』と呼ばれている物だ。

 武器には2つの特性が存在する。一つはナイフや細剣(レイピア)等の刃物系統の武器には『切断』の特性が施されている。二つは杖や棍棒のそれ以外の物の系統だ。その系統の武器には『打撃』の特性が施されており『切る』というアクションは出来ない。もちろん木刀もそれに含まれる。

 だから、疑問を持ってしまうのだ。

 しかし実際、結局の所答えは単純な物だった。

 ラルフはゆっくりと息を吐くとそのままその答えを紡ぐ。

『【状態変換・刃物化(ソードモード)】……と、でも名付けておこうか。言っただろう? 「自由に作れる」って?』

 すると男はふと、ラルフの持っている木刀に注目する。

「くっ!?」

 男はようやく気付いたのか、強く歯を噛み締めると、左手の杖を投げ捨て血が吹き出る右腕の断面を強く押さえその場へと崩れ落ちる。もちろん痛みは一方的に増幅するばかりだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 傷口が染みるような痛みが激しく起る。

 ラルフはゆっくりと立ち上がり体勢を整えるとうずくまる男の姿を見て呆れるように息を吐きやれやれと言わんばかりに下に俯く。

『はぁ~、ホント情けねェ、三下(Lv270)の分際でLv1に負けるとか屈辱的じゃねぇか、まあ仕方ねぇか実際その木刀はそこらで拾った定価1000Pecのヤツなんだからな』

「こ……のっ、化け物がぁっ!?」

 うずくまり共に声が掠れながらも男は微かな力を出し切りながらも訴える。

 しかし対してラルフは、そっと鼻で嗤うと愉快そうな声で話す。

『化け物? いいや、違うね――』

 ラルフがそう言いかけた直後、彼は男の首根っこを掴み壁に叩き付ける。するとラルフは二本の剣を両手でそれぞれ右手には木刀、左手にはナイフを持ち流れるようにして刃をクロスし、まるでハサミのような形で首を固定する。

『――笑わせんじゃねぇ、そんなモノ飛んだ負け犬の遠吠えじゃねぇか』

「なぁっ!?」

『人は圧倒的存在と相対した時、必ず何かと揶揄する。例えば今の俺とお前らのように、――あの女に絡んでいた時よりも俺と対峙してから化けの皮剥がれて、今のお前らは未熟な子犬にしか見えない』

「……ッ、クソッたれがぁ……」

『知るかよ、――三下』

 ラルフがそう言った直後、ハサミのようにクロスしている二本の武器は彼の意思によって力強く横に振り切るのであった。

 刹那、首が飛び――そして、消滅――

 やがてそれと比例するかのように、元々つながっていた胴体も頭と同様光の粒子と共に消滅する。唯一、残ったのは『死亡オブジェクト』として現れる核石(セミ=クリスタル)だけだった。

『はっ……あはははっ』

 双方の剣を振り切った後には、ラルフは目を瞑りほくそ笑むように上空に向けて力強く笑う。

『あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――――――!!!!!!!!!!!』

 なぜか彼の中で不思議と笑いが収まる事無く、笑い度に次第と重ねるようにして絶え間なく続き辺りを響き渡らせる。

 遂には目の瞳孔が大きく開き、あまりの狂気に辺りを凍てつかせるような圧が体へと一気に襲いかかる。

「ば、バカな……!? こんなことが起きて……良いはずが!?」

 気が付けばその場にいた最後の男は、ラルフのLv1とは到底思えないプレイスタイルに愕然としたのか、足が竦み尻餅を付いていた。

 ラルフは男が声を発せられると同時に一度笑いを抑えると、男のいる方向に体を向けると、

『――――ははぁ……あ~、そういえば一人残っていたな……』

「れ、Lv1の分際で……我々を当たり前のように蹴落としやがって!?」

『なぁに、そんなモノただ単におめぇらの経験が少ないだけだ』

 正論で即答された。

「……嘘だ。『この世はレベルで全て決まる』のならば負けるなんて、絶対に有り得な――」

『はぁ? 何が「レベルで全てが決まる」だぁ? そんなクソみたいな理論、誰が言った?』

 言いかけた男の言葉が、瞬間にまたもや正論で返された。

「な――!?」

 あまりにも当然の答えるラルフに男はただただ目を剥くことしか出来なかった。

『もういい、さっさとケリをつけるか……』

 ――ラルフがそっとそんなことを呟くと、突如ラルフは大きく地を踏み次の瞬間、猛烈な強さと共に前へ前へと閃光の如く突き抜ける。

「!?」

 その一瞬、男は腰に掛けられていた剣を反射的に引き抜き咄嗟の防御に入る。

 結局は、右手の木刀は男の剣によって遮られた。

「ぐぐっ――!?」

 男の剣は両手で支えられ特に右手には猛烈な力が入っていた。

 しかし、その攻撃は1回で終わる訳が無い。

 次に、ラルフはつば競り合いになっていた剣を一度横に弾き一瞬にして脇の懐に入る。

 寸前、ラルフは耳元で紡ぐように男に問いかける。

『「弱き者に人権は無い」? たしか、お前らそんなことを言ってたよなァ?』

「そ……それって――!?」

 その言葉を聞いた瞬間、彼は後悔する。

 皮肉だった。過去にそう言った自分をひたすら恨む。

『ならば、(ボク)から一つ三下共に教えてやるよ』

 ラルフは左手のナイフを逆手に持つように構えると、


 ――仮に自分がどんなに弱い人間だとしても――

 ――たとえ相手がどんなに強い人間だとしても――

 ――それは、決して『倒せない』という訳では無い――

 ――しかしどうしても、この言葉(、、、、)だけは言えた。


 ラルフは最後に彼の耳に遺すかのようにして、そっと囁く。

『雑魚でもケンカは売れるんだよ』


 刹那――痛みによる悲鳴が辺りを盛大に響き渡らせた。

 実際その悲鳴に何の思いがこもっていたのかなんては正直分からない。

 ラルフは持っていた武器を腰に掛けると大きく息を吐き、痛みに崩れ落ちる男に対して背を向いた。

詰み(チェックメイト)……だ』

「あ゛ぁぁぁっ…………」

 やがて男は苦しみながらも、その体は光の粒子と変わり拡散し消滅する。


 唯一最後に残ったのは3つの『石』だけであった。



「……終わった……の?」

 その光景を見ていたレクティアがふとそんな言葉をこぼした。

 両足に刃物で刺されたかのような深い傷を負いながらも、なぜか今は痛みを忘れて居座っていた。

「ホントに全員倒しちゃうなんて……」

 彼女はそう言うと右手をそっと口に添える。

 同時に涙も流れた。

 最初は救われないと思っていた。しかし救われた。その最も有り得ないと思われていたLv1の者によって。

『……レクティアって言ったなお前?』

 彼女に背を向けラルフは問いかける。

 両手の剣を持ったまま彼は流れるようにこちらを向き、近づく。

「……いっ、嫌来ないで――」

 同時にレクティアはラルフに対して何かしらの恐怖を感じた。

 初めて会ったときの彼の姿と今の彼の姿、まるで仮面を被ったかのような相反するその変貌ぶりに彼女は恐れていた。

 血の付いた双方の刃を剥き出しにしながらラルフは彼女の側へと近づいた。

 彼女は恐怖に彼から離れようと足を動かそうとするも足の傷が開き、今まで忘れかけていた痛みがまるで掘り返すかのように(ほとばし)る。

「い゛い゛っ――!!」

 しかし、暫くするとなぜか次第にその傷の痛みが消える。

「――…………あ、あれ……痛みが、感じない……?」

 いや、寧ろ消えるどころか癒えているように感じる。

『……お前は俺の味方だ』

「……えっ?」

 気が付けばラルフは双方の剣を鞘に仕舞いしゃがんだまま彼女を見つめていた。

 すると彼女の目にふと透明であったが、ほんのわずかであるものの魔法公式(プログラムルーン)が浮かび上がったのが確認できた。

『信用の意を込めて一応お前に【ヒール】掛けておいたけど、それでも疑う?』

「あっ、いやっ……」

 その時、彼女の中での恐怖はそっと薄れていき――なぜかこの時だけは彼を信用できた。


 すると数秒して――、突如ラルフの体に異変が起る。

 妙に意識が整わず歪むように視界が崩れていくのだ。

 おまけに体が重く、異常なまでに上手く手足が動かなかった。

 まるでお酒を飲んで酔っ払った人のように足がぶれる。

 瞬間ラルフは何かを察したのかふと意味深な言葉を呟いた。

『あははっ……なるほど……もうおしまい(、、、、、、)……か』

 その直後ラルフは頭を片手で押さえながら膝から崩れるように前から倒れ込み、同時に意識も視界も共に闇へと葬られた。




感想・意見お待ちしております。

《お知らせ》

 申し訳ありませんが次回の投稿(9月6日)は私事の都合上で以降、約2週間程投稿をお休みさせて頂きます。

次回は20日程として設定させていただきます。

今後とも『レベリングオート』をよろしくお願いします。

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