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人の持つ牙  作者: 赤胴貫介
ディーセント帝国・騎士団編
79/105

魔馬捕獲作戦〜獣魔の巣〜

お待たせしました。

 魔馬を捕獲するため、朝からマリアクラスタ邸を出発したラスクとルイーネは、帝都の西門に向かった。

 朝早い今の時間帯に人通りはほとんど無く、ルイーネは緩やかに愛馬『ワイン・ビアード』を走らせながら街並みを進んでいく。


 「座り心地はどう? ラスク」


 ルイーネが後ろに乗るラスクに話しかける。

 訊かれたラスクは馬の歩行する足取りを見ながら答えた。


 「すごく良いよ。初めて馬に乗ったけど、この子は落ち着きがあって安心するなぁ」


 「『ワイン』は利口だし人懐っこいからね。目的地に到着したら、もし良かったらあなたが餌をあげてみれば?」


 「いいの? じゃあよろしくね、ワイン君!」


 ラスクが手を伸ばしてルイーネ越しにワインを撫でようとすると、ワインは急にそっぽを向いてしまった。


 「……あれ?」


 「ええっ、と……おかしいわね、ワインが人の手を嫌がることなんてあまりないのに」


 「相性が悪かったのかな、僕」


 「肝の座ったこの子と相性が合わないなんて、それこそ凶暴な猛獣や魔物くらいしか……でも、まあ、こういうこともあるかもね」


 ルイーネは笑って励ましたがラスクには心当たりがあった。


 『人狼エイドスの影響、か……』


 今のラスクの超人的な身体能力は、かつて人狼エイドス・セイルズの『指』の能力が副次的に作用したことが原因である。

 つまりは、ラスク自身からも人狼の臭いや気配が残っている可能性が高い。


 よく慣らされたルイーネの愛馬がラスクの手に反応して嫌がったのも、それが理由かもしれないとラスクは思い至った。


 『やっぱり、もう普通の女の子という様にはいかないか』


 ファルス王国でラスクは男装をしていたが、それはあくまで、冒険者として生きていく自分を奮い立たせるためだ。また男として欺くことで、女としての身の危険をなるべく減らすためだった。

 だから男装が根っから好きということではないし、ルイーネやオリヴィエのような気品のある女性に憧れることもある。


 しかし、それは憧れのまま終わるだろう。

 すでに起こってしまった自分の体の変貌は変えられない。手にしてしまった人狼の力は、自分から捨てることは出来ないのだ。

 しばらくラスクは、馬上に揺られながら密かに気を重くしていた。







 ルイーネとラスクは屋敷を出発して15分ほどで、帝都西門前の大広場に着いた。


 広場はどちらかといえば新市街寄りで露店や商館も多く、朝でも人はまばらに出てきて作業している。


 ラスクは初めて帝都を囲む城壁を間近で目にしたが、その高さと規模は圧倒的だった。

 壁の高さは約50m、重厚さもファルス王国の副都や都市ロメオとは比べ物にならない。

 壁一面の石垣にボロついた所はなく、仮にここが攻められ戦場になったとしても、この壁だけでも兵の士気を挫くだろう。


 西門の前にはレンガ造りの詰所と鉄のゲートがある。

 ゲートの前には2人の衛兵が直立して広場に気を配り、詰所の窓から中を見てもさらに2人の衛兵が常駐している。


 さすが帝都の警備は、ファルス王国の都市に比べて厳重だとラスクは思った。


 ルイーネが下馬して、ラスクもそれに倣った。

 ルイーネがワイン・ビアードの轡を引き、ラスクが右の衛兵に近づいて話しかけた。


 「あの、城下から出る許可をください」


 衛兵は黒鉄鎧を着た少女ラスクを見て訝しむような目つきになったが、見習い騎士だと判断すると特に詮索することはなかった。


 「随分と早い時間に出るんだな。帝都の通行許可証は持っているか?」


 「私が持っているわ、衛兵さん」


 轡を引くルイーネが、背中に提げていた荷袋から薄く小さな鉄板を取り出して、ラスクに投げ渡した。


 許可証をキャッチしたラスクは、そのまま衛兵に手渡す。


 衛兵は許可証の内容やサインを見て、ルイーネの身分などを確認してふむふむと頷いた。


 「マリアクラスタ家のご長女でしたか。分かりました、では側門を開けるのでどうぞお通りください」


 「この茶髪の子も構わないでしょう?」


 ルイーネがラスクの肩に手を置いて確認する。

 衛兵は隣にいるもう1人の衛兵に目配せしてからゲートを開けた。


 「構いません。見た所お2人とも騎士見習いのようですし、引き止める理由はありません。どうぞお通りください」


 「ええ、どうもありがとう」


 ルイーネはワイン・ビアードを引き連れながら、衛兵に礼を言ってゲートを通った。

 ラスクも衛兵に目礼してからルイーネの後についていく。


 詰所から違う衛兵が1人出てきて、側門の鍵を開けてルイーネとラスクを誘導してくれた。

 側門は本門の4分の1くらいの規模だったが、ルイーネがワイン・ビアードに乗ったままでも、楽々通過できる高さだった。


 ルイーネとラスクが西門を出ると、迎えたのは長大な石橋だった。


 橋の幅は馬車が3台横並びしても余裕がある広さで、真っ直ぐ伸びるその距離も100m以上あるだろう。

 ラスクが橋の横からチラッと顔を出して下を見ると、下はかなり深い堀が出来ていた。

 朝のひんやりとした風が堀に吸い込まれてヒュウヒュウとした唸りを上げ、その風音は橋を渡るラスクとルイーネの耳に届いた。


 橋の半ばまで来て、ラスクは元来た帝都の方に振り向いた。

 城壁に囲まれた帝都は、外から眺めればその広大さが嫌でも理解できる。

 円を描く城壁はずっと遠くまで続き、その端は目を凝らしても見えない。

 山合いから昇った朝日に照らされ、白く巨大な城壁が燦々と輝く様は、まさに不滅の都に感じられる。


 「ほら、そろそろ後ろに乗って」


 ワイン・ビアードに乗ったルイーネが、ラスクを乗るように促す。

 ラスクはルイーネの手に掴まって乗ると、ルイーネに荷袋を手渡された。


 「荷物はあなたが持っていて。その中に食糧や狩猟道具とか入ってるから、落とさないように気をつけてね?」


 「分かった、任しといて」


 ルイーネはラスクが荷袋を背負い終わったのを確認してから、前を向いて手綱と鞭を握り直し、鐙を踏む足に力を込めた。


 「じゃあ飛ばすわよ、ラスク! しっかり私に掴まってなさいっ!」


 鋭い声でルイーネが掛け声を上げ、ラスクがルイーネの腰に手を回して掴まる。


 「はぁッ!」


 ルイーネは左手で手綱を把持し、右手に持った鞭を的確に振るう。

 愛馬ワイン・ビアードは忠実にルイーネの指示に従い、その鮮やかな赤紫のたてがみを靡かせて疾駆する。


 人狼の残り香が漂うラスクを乗せていても、ワイン・ビアードの駆ける足取りに乱れは無く、ラスクはその美しさに新鮮な感動すら覚えた。

 ラスク自身、これまで馬に馴染みがなかったというのもあるが、それでも御するルイーネと駆けるワイン・ビアードの淀みない動きは素晴らしい。


 ルイーネとラスクは橋を渡り切って真っ直ぐ進んでいく。

 西へと続く広い街道の周辺に魔物の影は全くない。定期的に帝都の軍が魔物を征伐するため、毎日通る商隊や旅人が襲われることなく、安心して帝都を目指すのだ。


 平原を突っ切る街道が続く先には、帝都周辺を取り囲む山々がある。


 山々を西へ抜ける道に差し掛かり、ルイーネはワイン・ビアードの歩調を緩めた。

 歩調を緩めた理由としては、馬の足に山道を走る負担を掛けさせないためだが、稀に現れる魔物に警戒するためでもある。

 山の中ともなれば、弱いながらも魔物が隠れ棲んでいることが考えられ、軍隊の征伐を行なった後でも小さな集団を形成するケースがある。


 「ここら辺だと、どんな魔物が見かけられるの?」


 ラスクが辺りを見回しながらルイーネに質問する。


 「そうね……大体は群れからはぐれた、もしくは仲間ハズレにされた魔物かしら。だから、そんなに危険な魔物はいないと思うわ」


 「ふ〜ん……この山を抜けたら?」


 「このまま西に抜ければ、また平原と丘陵が広がっているわ。私たちはその丘陵地帯に出たら北西に直進して、またその先の山岳地帯……魔馬のいる『獣魔の巣』に入るのよ」


 「じゃあ、そっちの山岳地帯には危険な魔物がいるのかい?」


 「もちろんよ。冒険者ギルドが設定している危険度ランクで言えば平均でもCランクだし、たまに危険度Bのウィングタイガーも出たって耳にするわ」


 危険度Bと聞いて、ラスクは以前戦った人狼エイドスを思い出していた。

 あの人狼も、元々は黒狼ラプターウルフという危険度Bの魔獣だと、ジャックから聞いていた。それからもエイドスは、様々な力を手に入れてジャックと争ったわけだが、やはり危険度Bに違わぬ『地力』を持っていたのは確かだ。


 『危険度CもしくはBか……もし遭遇したとしたら正面から戦うのは酷だな。僕とルイーネの2人がかりで、強い魔物にどれだけいけるか……』


 ラスクは馬を御するルイーネの背を見て、この同世代の少女の実力と自分の実力を鑑みていた。

 ルイーネには5属性の魔術を巧みに操り、状況判断も素早く何より聡明だ。そして自分は人狼エイドスから手に入れた、人の身にはありあまる『パワー』がある。

よってひどい不安や恐怖は沸き起こらないが、それでもやはり、気を抜いたりすれば大怪我もしくは死が待っているだろう。


 程なくして、ルイーネとラスクは山を西側に越えて起伏のある丘陵地帯へ出た。


 一気に視界は開け、朝の爽やかな空気が包む。

 帝都を囲む山を西に抜けた時も、魔物に遭遇することなく通過できたが、さらにここは視界が良好で静かだ。

 丘に登れば点在する家屋や家畜も目に入る。

 よって、この牧歌的な丘陵の一帯にあまり強い魔物は出現せず、比較的安全な場所だと一目で分かる。


 「いい景色だね。それに魔物も全然いなくて穏やかだ」


 「そうでしょう、ここにはピクニックに来る人だっているのよ。たまに現れる魔物だって、一般人が力を合わせれば追い払えるくらいだしね」


 馬に乗っている2人だが、リラックスした様子で会話に興じている。


 ワイン・ビアードも、大した障害物もないので軽やかな足取りで駆ける。気持ち良さそうにご機嫌で走るワイン・ビアードに吊られて、ルイーネとラスクも楽しげな気分で丘陵を通って行く。


 ふと、ラスクは背負っている荷袋を体の横まで持ってきて中の荷物を探り出した。


 「どうしたの?」


 ルイーネがワイン・ビアードの歩調を若干緩めて、荷物を漁るラスクに訊いてきた。


 「さっきアルタールさんから渡された本を、今のうちに読んでおこうかなってね。獣魔の巣に到着してから読んでも遅いし」


 「それは良いわね、私にも後で読んだ内容を教えてちょうだい」


 「了解だ。しっかり勉強しとくよ」


 ラスクは本を開いた。

 目次を見て、獣類に近い魔物のページをまずチェックする。どうやら目的地の手強い魔物はどれも獣系統の魔物のようなので、重点的にそれについての生態や特徴を把握しておくつもりだ。


 『出来れば遭遇しないのがベストだけど、万が一の時の対策は必要だ。特にウィングタイガーみたいな強敵に対して、無策なのかそうでないのかで生死に関わるだろうし』


 本を読むラスクを気遣って、ルイーネもワイン・ビアードの速度を落としてくれている。

 そのためラスクは1ページずつ慎重にめくって、獣系統の魔物のページになるとじっくり読み込んでいく。


 しばらくしてラスクは本の後半に差し掛かる、あるページで指を止めた。


 『あった……魔馬のページだ』


 そこには魔馬の挿し絵が載ったページがあり、魔馬の生態、魔馬の歴史が細かく記されていた。


 『どれどれ……帝国の山奥や高地に生息する凶暴な馬であり、通常の馬とは別種の存在』


 『非常に攻撃的、かつ知能が高いので生け捕りは困難。雑食なので、下手をすれば人間が喰い殺されることもある。より強力な個体になれば前頭部に一本角が生え、その角を媒体として魔法を使いこなす』


 『体格も大抵の馬よりも一回り大きく、魔馬が多く生息する帝国では、人の手によって軍馬として飼い慣らして繁殖させる試みが行われたが、今でもそれは実現していない。魔馬は総じてプライドが高く、自分が認めた人間のみにしか背を預けないのだ』


 『現状、魔馬を従えるのは帝国でも名の知れた騎士や高クラス冒険者など、高い実力者のみに限られる』


 『気性が荒いので、捕食対象でない魔物が相手でも容赦せず襲いかかるので、そういう面では限りなく魔物に近いだろう』


 『好物は羊肉とラズベリーで、高地では群れずに孤独に狩りをする………か』


 ラスクは一通り重要な文章を黙読して、一旦本を閉じた。

 今回の魔馬捕獲は何が何でも成功させねばならない、というわけではない。もちろんやるからには全力で魔馬と対峙するつもりだが、魔馬のような厄介な生物を一度で捕まえて手懐けることは、はっきりいってかなり難しいだろう。


 本を読んで魔馬の情報に詳しくなったラスクは、捕獲の成功と失敗……いずれにしても厳しい戦いになると腹をくくった。


 丘陵地帯の端にたどり着くと、ルイーネとラスクの行く手に幅の広い川が流れていた。

 その川を越えたところに山が広がり、その奥地こそが2人の目的地『獣魔の巣』なのだ。


 よって2人はこの広い川を抜けねばならない。

 舟は無いので歩いて渡るしかないが、さすがに乗馬したまま川に踏み入るのは危険だろう。


 当然、前でワイン・ビアードの手綱を握るルイーネも、ラスクに下馬するように呼びかけてきた。


 「ラスク、川に入るからここで下りるわよ」


 「分かったよ。ちょっと待ってて」


 ラスクは荷袋に本を戻してから下馬した。

 ルイーネも下りて、ワイン・ビアードの背中に自分の長剣をくくりつける。


 「多分、私たちくらいの背丈ならこの川に入っても大丈夫よ。ワインも川には慣れてるし、さっさと行きましょう」


 ルイーネの言葉にラスクは頷き、荷袋と剣を頭の上まで持ち上げた状態で川に入った。

 丁寧にワイン・ビアードを落ち着かせながらルイーネは川を渡り、ラスクは荷袋と剣を濡らさないようにして、どんどん進んでいく。


 先にラスクが岸まで到達して、その次にルイーネとワイン・ビアードが岸に上がった。


 ルイーネはワイン・ビアードの背に乗せた長剣を取って腰に差してから、ブーツを脱いで中に入った水を出した。

 同じくラスクも自分が履いている冒険靴を脱いで、溜まった水をその場に捨てた。


 こうして、一通り水の後始末をつけた2人は前方にそびえる山々を望んだ。


 「気を引き締めていきましょう」


 ルイーネのその一言で充分だった。


 この先から行く山地帯は魔物もわんさかいる場所で、そしてその強さや危険度は軒並み高い。

 慎重かつ大胆に挑まねば、恐怖に飲まれ、力に蹂躙され、きっと無残な結果になるに違いない。


 2人の少女と1頭の馬が山道に入った。


 馬上のルイーネは常に辺りに視線を配り、ラスクは剣を抜いて警戒しながら山道を歩いていく。


 道は次第に荒れていって、やがて無くなった。

 ラスクとルイーネが通っていくルートも、水の流れる沢や切り立った崖と崖の間など、人と馬で進んで行けそうな所を、手当たり次第に進んでいくしかなくなる。


 それでも魔物に遭遇しなかったのは幸運だった。

 ラスクとルイーネは呆気ないほどスムーズに進み、1つ目の山頂が見えてきた。


 「小屋と柵が見えたわ。あそこで一度休憩するわよ」


 山頂には太い丸太で造られた柵と丸太小屋があり、その場所こそが獣魔の巣に挑む冒険者の拠点なのだ。

 ラスクはその拠点を一目見て、果たしてこのような設備で危険な魔物から安全を確保できるのか、と疑問を持った。


 「こんな所で休憩して大丈夫なの?」


 ラスクが馬上のルイーネに目の前の拠点の安全を問うと、ルイーネは自信を持って頷いた。


 「心配ないわ。この山頂辺りの木を見てみなさい」


 「木を……?」


 言われた通りラスクは山頂地点で(まば)らに生えている木を見ると、どういうわけか広葉樹でなく針葉樹がほとんどだった。


 ここは大陸でも南寄りの地方はずなのに、山上とはいえ針葉樹が生えている。

 ラスクは植物の知識に詳しいというわけではないが、その不可解さになんとなく気づいた。


 「木の形がなんか違う……のかな?」


 「気づいたようね。これらの針葉樹はバニッシュ・フレグランスと呼ばれる芳香成分を分泌させているわ」


 「……バニッシュ・フレグランス?」


 「そう。帝国は特殊な資源を国ぐるみで生産して、様々な用途で活用していることはもう知ってるよね。この木だって、魔物や猛獣にとって嫌な成分を分泌する特殊な木なのよ」


 「へぇ! これは初めて知ったかも」


 「うふふ、よって大抵の魔物は近寄らないから安心してね。魔馬やウィングタイガーだろうと、よっぽどのことがない限り入ってこないわ。むしろ……強い魔物の方がお利口だから、嫌な匂いのする場所を無理に襲わない……といった方が正しいかしら」


 そうしてラスクとルイーネは柵をジグザグにかいくぐって、小屋に着いて一息つくことが出来た。


 小屋の横の柱にワイン・ビアードの手綱を引っ掛け、ラスクとルイーネは小屋に入った。


 小屋の中は机と椅子、そしてハンモックがあり、どれも使い古しているようで傷や汚れが多い。北西側に小さな窓が1つあるだけなので、日の光が入っても暗い。


 ラスクは荷袋を机の上に置き、ルイーネは小屋の扉を石で固定して開け放しにした。


 「やっぱりちょっと暗いわね。まあ、ただ休憩するだけならこれで充分でしょう」


 「ここは『獣魔の巣』のどの辺り?」


 「まだ入り口を少し過ぎた所よ。『獣魔の巣』の全貌が見たければ、その窓を覗いてみなさい」


 そう言ってルイーネが窓を指差した。


 ラスクが北西の窓を覗き込むと、外に広がっていたのは深緑の森と渓流が織りなす絶景だった。


 すぐにラスクは扉から外に出て、小屋の北西側を見渡せる場所に立った。

 ラスクが見下ろした風景は絵画に出てくるような、風光明媚を体現した森林と渓谷だ。昇る朝日を浴びて緑は深まり、渓流の流れがキラキラと輝いている。


 ラスクたちが到達した山頂は、この美しき『獣魔の巣』を囲む山々の一部に過ぎなかったのだ。


 「驚いたかしら? それとも拍子抜けした? 人々はここに棲息する魔物を恐れて『獣魔の巣』と呼ぶけれど、実際は豊かな自然と生態系が織り成す場所なのよ」


 「す、素直に驚いたよ……もっと荒廃して殺伐とした所だと思っていたけど、こんなに綺麗な所だったんだね!」


 「そうよ。つまり強い魔物が増えるのも、こういう恵まれた環境だからこそ集まる……と言ったところね」


 ルイーネの言葉でラスクはようやく合点がいった。

 これほどまで美しく豊かな場所ならば、おそらく餌場も寝床も豊富なのだろう。

 そもそも、荒廃した土地に好き好んで集まる生物はいないだろうし、肥沃な土地に住めるのは選ばれた強く逞しい生物に違いないのだ。


 すーっとラスクは静かに深呼吸した。

 この眼下に広がる絶景のどこかに、ラスクの相棒となるかもしれない魔馬がいる。

 そう思うと、感慨深いような引き締まるような気持ちが湧いてくる。


 「そろそろ巣に向かって下りるわよ、ラスク」


 「うん、分かったよ」


 ルイーネが下山を開始することを伝え、ラスクは小屋の中に置いておいた荷袋を背負った。

 ラスクが小屋から出てくると、ルイーネはワイン・ビアードの手綱を取って乗馬した。


 2人は凶暴な魔物も棲息する獣魔の巣へ、ようやくもって進入するのだった。


質問、意見、感想等があればよろしくお願いします。

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