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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第426話「使節の報告」

グランヴェルド王国の宮廷にある一室。外交官であるルシアンは、レグナスから届いたばかりの「親善通商協定の改定案」を前にして、眉間を深く揉みほぐしていた。


「どうだ、レグナス側の要求は」


背後から声をかけてきた高級貴族に対し、ルシアンは首を振って書類を差し出した。


「要求など、どこにもありません。むしろ、我が国が望んでいた関税の引き下げを、あちらから全面的に受け入れてきています。我が国の商人たちは皆、諸手を挙げて喜んでいますよ」


「ならば良いことではないか。何が不満なのだ」


貴族が笑うと、ルシアンは冷ややかな目で書類の隅を指さした。


「この協定が結ばれれば、我が国の国境沿いの宿場町は、すべてレグナス製の安価な穀物で満たされることになります。我が国の農民たちは価格競争に敗れ、畑を捨てて都市へと流れ込むでしょう。気づけば、我が軍の兵糧の半分を、レグナスの市場から買い付けなければならなくなる」


それは、兵を一兵も動かされることなく、自国の食の自給能力を内側から完全に破壊されることを意味していた。


断れば、国内の商人や民衆から「なぜ利益を拒むのか」と激しい突き上げを食らう。受け入れれば、数年後には隣国のシステムなしでは一日も立ち行かなくなる。


「あの国の若き王が、これほど老獪な罠を仕掛けたとは思えん」


ルシアンは白髪をかきむしった。


レグナスは牙を見せない。ただ親切な提案という名の見えない鎖を、大国の首に静かに巻き付けていた。その鎖の端を握る影の正体を、帝国の英知をもってしても、未だ誰も掴めずにいた。

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