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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第419話「商人の帳簿」

ドラグナール帝国の賑やかな港町。その片隅にある居酒屋で、二人の老商人が、冷めた煮込み料理をつつきながら声を潜めていた。


「最近、レグナスの商人たちと商売をするのが、一番楽でいけねえや」


一人の商人が、安物のワインを口に含みながら言った。


「楽? あそこの連中は、値切り交渉が厳しいことで有名だろ」


「交渉自体は厳しいさ。だがな、向こうが用意してくる『取引の帳簿』が、あまりにも完璧なんだよ。運送の保険から、為替の計算、万が一の荷傷みの補償まで、全部あらかじめ書類に組み込まれてる」


商人は、自分の使い古した算盤を眺めた。


以前であれば、他国との取引には常に騙し合いや、現地の役人への賄賂、ルートの選定といった、商人としての勘と経験が必要だった。それが、レグナスとの取引においては、彼らの用意したルールに従うだけで、誰でも確実に利益が出せるようになっているのだ。


「まるで、俺たちが自分の頭で考える必要がないみたいだな」


向かいの商人が、苦笑いを浮かべた。


それこそが、レグナスが仕掛けた最大の罠だった。大陸の商人たちから「自分でリスクを冒して道を切り開く」という野心を奪い、レグナスが提供する安全なシステムの上でしか呼吸できないようにしている。


気づけば、彼らはレグナスの経済の歯車の一部として、喜んで自国平穏のための情報を運び、物資を動かしていた。

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