第35話:最後の国
残りは、一つだった。
地図の端。
小さな印。
――ローディア小国。
面積は小さい。
兵も少ない。
だが。
「……雰囲気が違うな」
バルガスが呟く。
城は古い。
だが、整っている。
兵の配置も、無駄がない。
「理解している」
静かに言う。
「何をだ」
「終わりを」
短く答える。
この国は、知っている。
もう逃げ場がないことを。
「……だからこそか」
バルガスが頷く。
「覚悟決まってるな」
「ああ」
その時だった。
城門が開く。
兵ではない。
一人の男が出てくる。
「……王か」
小さく呟く。
「レグナスの宰相」
男が言う。
「話は聞いている」
「戦わずにすべてを奪う男」
否定しない。
「その通りだ」
「……なるほどな」
男は、小さく笑う。
「だから来たのか」
「最後に」
「違う」
遮る。
「これからだ」
沈黙。
「……そうか」
一歩、前に出る。
「なら、聞こう」
「なぜ戦わない」
同じ問い。
だが。
これは。
理解した上での問いだ。
「無駄だからだ」
短く答える。
「戦えば、壊れる」
「だが」
「残せるなら、残す」
静かな声。
「……綺麗事だな」
「そうだな」
否定しない。
「だが」
「できている」
それが、すべてだ。
沈黙。
長い。
「……なら」
男は、剣を抜く。
「最後に、一つだけ」
「戦え」
空気が張り詰める。
「……何?」
「一度だけでいい」
「その力を見せろ」
沈黙。
「……必要ない」
即答。
「それで終わる」
「なら」
男は、剣を下ろす。
「降る」
静かな言葉。
「この国は」
「お前のものだ」
それで終わりだった。
「……いいのか」
バルガスが問う。
「いい」
王は答える。
「すでに負けている」
「戦わずとも」
それが理解できている。
「……そうか」
短く返す。
これで。
終わった。
「……終わったな」
バルガスが呟く。
「ああ」
小国は、すべて統一された。
戦わずに。
完全に。
「……次だ」
視線を上げる。
その先。
中規模国家。
そして。
大国。
戦は、終わらない。
むしろ。
ここからが、本番だった。




