第90話 唐突! なんでいるの?!
よし、みんなから離れたな。
ここには俺たち夫婦だけだ。
さっきのグダグダな会議の中の……うらやましかったんだよ。
森の木陰――
俺は木陰に寝転がり、レイラとプロムに両側から抱きつかれていた。
ふたりとも柔らかくて温かい。
幸せとはこういう時間のことを言うのだろう。
「レイラ、もう一度言ってくれ」
俺はニヤニヤしながら頼む。
「チ・ン・コ・おうじ」
レイラが俺の耳の近くでイタズラっぽく言う。
その声の甘さに、俺は思わず身をよじった。
「次、プロムも」
プロムは照れ笑いしながら俺の肩にコテンと頭を乗せてきて、小声で真似した。
「ち、チンコおうじ……」
……最高だ。
ただの言葉遊びなのに、なんでこんなに楽しいんだろうな。
そんな感じで、俺たちは森の中でまったりと過ごした。
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気づけば夕方になっていた。
「レイラ、プロム、起きろ。もう夕方だぞ」
俺はふたりを優しく揺すって起こす。
眠たげな二人を連れて、フラフラとみんなのところへ向かうと――
バンとライカが歩いてくるのが見えた。
ライカは真っ赤。
バンは妙に爽やかな顔をしている。
「いやぁ~素晴らしい時間でした!」
バンが頭を掻きながら言う。
ライカは恥ずかしそうにバンの後ろに隠れている。
(お前らも『チンコ王子遊び』で盛り上がったのか……?)
俺はニッコリしつつも、心の中でツッコんだ。
さらに向こうからルファスとキャスカも歩いてくる。
キャスカは無表情だが、ルファスは妙に満足げだ。
(お前らもか……)
そして――
「……あれ? カイとフィリーも?」
全員そろって遅刻。
「なんだ、お前らも今来たとこ? 遅刻かと思って焦ったよ」
俺が言うと、バンが胸を張って答えた。
「いやぁ~素晴らしい時間でした!」
(二回言うな)
そんな俺たちの後ろで――
ウィズ、ミロース、ヘリウス、前川、チング王子、そして知らない男が正座して待っていた。
「すまーーん!
みんなが待ってるのに遅くなって悪い事しちゃったよ!」
「おう、ヒロシ。
ちょうど良かった、今着いたところだ!」
ウィズが笑顔で言った。
「……どんな状況なの?
誰、これ?」
理解が出来ない。
状況説明ゼロで正座してる知らない人いるって怖すぎるだろ。
知らない男を指さして俺がミロースに聞くと、ミロースが答えた。
「ギナだよ」
だって。
いや、なんでここにいるの?
頭の中が?でいっぱいだ。
「……なんで正座してんの?」
ギナは後ろ手に縛られ、ロープでぐるぐる巻き、猿ぐつわ、目隠しのフルセット。
完全に捕虜。
「お前らが遅いから、ミロースとウィズと勇者連れて王宮に行ってきた。
勇者に確認させたけど、知らねぇとかいうから、それっぽいこいつ拉致ってきた!
こいつでいいんだよな?」
ヘリウスが胸を張って言った。
違ってたらどうすんだよ、お前……
「間違いない、こいつがギナです!」
チング王子が剣を突きつけながら言った。
良かった。
関係ない人を巻き込んだわけじゃなかった。
「この、前川の活躍を――」
前川が何か言いかけたが、全員が無視した。
どうせ大したことはしていない。
……そもそもギナが余計な事をしなければ、ここに来ることも無かったよな?
そしたら今回の寝坊や遅刻で誰が悪かったのかと言ったら、ギナが悪いな。
俺たちは罪悪感をギナに責任転嫁することで誤魔化した。
それはそれ。
ギナの討伐の準備に取り掛かりますか。
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「そんじゃ、やりますかー!」
俺の号令で、前川がギナの猿ぐつわと目隠しを外す。
そして逃げるように走り去った。
あの野郎、走り去る前にギナの後頭部を蹴っていきやがった。
軽キャン・トレーラー・キャンピングカーは、ギナを中心に円形に配置済みだ。
その中心に俺とギナだけが立つ。
前川が余計なことをしてくれたおかげでギナが怒り心頭でこっちを見ている。
「おっす、ギ~ナ~。はじめまして」
俺は腕を組んで笑顔で挨拶した。
挨拶は大事だ。
コミュニケーションの基本だからな。
「貴様……ぶっ殺して――」
ガッ!
挨拶代わりに顔面を蹴っておいた。
焦るなよ、これからなんだから!
「これより第一回ギナ討伐を宣言します!」
まあ、一回しかないだろうけど。
俺は走って退避。
「なんだと?!
こんなことをしてタダで済むと――」
ギナが叫んだ瞬間――
ドスッ!
ギナの頭に矢が突き刺さった。
「グッ!」
ギナが呻く。
「死なないよな? 魔族なんだろ?」
俺は軽キャンの影から確認する。
「……ほらな」
ギナは怒り狂い、身体中から触手を出した。
ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!
だが触手はすべて矢で撃ち落とされ、針ネズミのように地面へ落ちる。
「よし、第二段階だ!」
矢の雨が止む。
俺はプロムに目配せした。
プロムが音もなくギナに近づいていく。
スパッ!
プロムのナイフがギナの目を切り裂いた。
「ぎゃぁぁぁーー!」
ギナが苦しんでいる。
その目で洗脳か何なのか知らねぇが操ってくるんだろ、そんな危険なもの放置できるか。
ギナの様子がおかしい……
なんだ?
アニメでありがちな変身か? 巨大化か?
ギナが大きくのけぞった。
なんかやるんだろうな、待つ義理もないし、
「そんじゃ、みんな戻れー!」
俺が叫ぶと、全員が一斉に退避。
「ハーハハハハ!
貴様ら、魔族の国の幹部である我を怒らせたな!」
空が曇り、雷鳴が轟く。
ビチビチビチビチーー!
ギナの筋肉が盛り上がり、ロープを引きちぎる。
顔はヤギ、背中にはコウモリの翼。
魔力が空間を歪ませる。
「おー、サイズもアップしたねぇ。
はいはい、変身、変身。お約束なんだよ」
俺は軽キャンの中で呟いた。
こっちは準備万端なんだよ。
ん?
もう少しで、変化が成るのか?
「ま、どうでもいいけど」
俺は、軽キャンの中から言った。
ゴゴゴッゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴ……
ゆっくりと落下を続けていた隕石が、ギナのすぐ上まできている。
「やっと気づいたか?
軽キャンクラブの最終兵器こと、キャスカの魔法攻撃だ。
堪能してくれ!」
「グォオオオオオオ!!」
ギナの凄まじい咆哮。
こっちの最大攻撃力なんだから大丈夫だよな?
ゴゴオゴゴゴゴゴゴゴ……… プチッ
ギナが隕石に潰された。
「ビビらせやがって、全然大丈夫じゃ――」
ドゴォォオオオォォーーン!!!!
大爆発。
軽キャン・トレーラー・キャンピングカーの輪の中だけが爆心地となり、外側は無傷。
俺の作戦が成功したな。
名付けて、
『女神の加護あり軽キャン、キャンピングトレーラー、キャンピングカーの中で爆発させたら、他に被害でないんじゃね?
キャスカのぶっ壊れ破壊力の魔法でドーン作戦』だ
「やはり女神の加護あり軽キャンは、最強だぜ。
だけど、流石に衝撃は軽減されると言ってもあるね」
かなりビビった。
爆炎が収まり、煙がひくとクレーターだけが残っていた。
軽キャンを降りて確認してみたが、ギナは……跡形もないな。
「……あれ? チングいなくね?」
俺が周囲を見回していると、ミロースが降りてきた。
「チンカスと前川なら城に置いてきた。
なんか王を説得するって言ってた」
「……そうか」
あいつらの戦いに行ったんだな。
この国が良い方向に行くように頑張れよ。
「さあて、腹いせも終わったし、帰っかー!」
俺の言葉に、みんなが笑顔になる。
行きと同じように、ミロースとヘリウスに運んでもらって帰ることにした。
前川……ムカつく奴だけど、素の能力の高さは本物なんだよな。
やっぱ、スゲー奴だよ。
日本で金持ちになったの、まぐれでもなんでもない。
アイツの能力なんだと思う。
日本にいた時のあいつを肯定はしないけど、異世界の前川は一緒に戦ったし……仲間だよ。
俺は空の上からチャングム王国を見下ろしながら思った。
「……さらば、チャングム王国」
俺はブレスレットを顔に近づけ、ゼノス王国へ通信を送った。
チャングム王国の今後の観察と、商売相手としての価値を判断するために。
いつかは国交を結べれたらいいと思う。
悪者も退治したし、俺が城に行く必要もなくなった。
ドラゴンの里が平穏になるし、ゼノス王国とノガミ商会の新しい商売先が増えるだろうし、今回も無駄じゃなかった。
世の中、無駄な事ってないな。
王子も前川も自分たちの国のために動き出してるみたいだし、頑張れよ。




