第74話 そして王の間へ
ルファスが見つかるまでの間、同じ名前のルファスの件を探る事にした。
ボケッとしててもしょうがないからな。
商会が本物を見つけたら俺に連絡がくる手筈になっているけど、ルファスの奴、どこで何をしているんだか。
どこにいるのか知らんがキャスカを守ってやれよ、ルファス。
昼過ぎに起きた俺たちは、ホテルを出て、遠くにそびえる城を眺めた。
「さぁて、暇潰しに行ってみるとしますか!」
やる気はそこまで無いが、少しでもテンションを上げようと元気よく言ってみた。
俺の愛する嫁さん――レイラもプロムも、朝まで愛し合った余韻のせいか、どこかうっとりしている。
「……うう、そんな表情されたら、ホテルに戻りたくなるではないか」
いや、ダメだ。
両手で頬をパチンと叩き、気合を入れる。
俺は肉欲に負けない男。
気持ちを切り替え、軽キャンに乗り込んで出発する。
城の外観はレイラと見たことがあるが、プロムは初めてだ。
中に入ったこともないし、嫁さんとの思い出作りにはちょうどいい。
ブロロロローー……
「ゆっくり嫁さんと観光する時間が一番楽しいよな?」
「ベッドのでは、これが一番楽しいって言ってなかった?」
「健全な男、それが俺。
なのでレイラ。そういう話題、良くないよ」
「あら、ヒロシ様は、そういう行為が嫌いなんですか?」
「プロム。
本当にしょうがない奴だな。大好きに決まってるだろ!
夫婦仲良くて良いじゃないか。……って、プロムがそんな事を言うから、あの城がラブホに見えてきたな」
「ラブホ?」
レイラが知らないのも当然だ。
そうだ、商会でそういうホテルを広めたら儲かるんじゃ――イヒヒ。
「なんて顔してるのよ、ヒロシ」
「いえ、レイラ様。
ヒロシ様はいつもかっこいいです」
車内では昨夜のことを思い出して盛り上がったり、イチャイチャしたり、とにかく賑やかに城へ向かった。
――ヒロシ達は、完全に舐めきったテンションで行動していた。
だがその頃、城の地下に幽閉されているルファス達へ危険が迫っていることなど、観光気分のヒロシたちには知る由もなかった。
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【 地下牢 】
「キャ……キャスカ……」
ルファスは、城の地下。鉄格子の中の粗末なベッドで目を覚ました。
「っ……」
体を起こした瞬間、鋭い痛みが走る。
暴行の痕だ。
だが、痛みよりもキャスカの安否のほうが気がかりだった。
カツーン、カツーン。
靴音が近づいてくる。
誰だ……?
足音は牢の前で止まった。
見上げると、巡回の兵士が立っていた。
「キャスカは? キャスカは無事なのか?!」
ルファスは鉄格子へ駆け寄り、叫ぶ。
ドスッ!
槍の柄が腹に突き刺さり、ルファスは床に崩れた。
「知るか、裏切り者め。エサを持ってきてやっただけだ」
兵士はパンと薄いスープを置き、冷たく言い放って立ち去った。
「ごめん……キャスカ……俺のせいで……」
ルファスは両手で顔を覆い、涙を流す。
自分が捨てた国――ヴァルファに戻ろうなどと言い出さなければ。
ゆかりもない地を守ろう、侵略を止めようなどと考えなければ。
こんなことにはならなかった。
何度も繰り返し悔いた思考が、また胸を締めつける。
だが、もう遅い。
自分もキャスカも捕らえられた今では――。
ルファスは、ここに至る経緯を思い返す。
……あの日。
ヴァルファ帝国に到着し、父であるヴァルファ十四世へ侵略を止めるよう説得しに行った。
だが、話す間もなく不意を突かれ、二人は拘束された。
その後、ルファスは暴行を受け、地下牢へ。
キャスカの行方は分からない。
祈ることしかできなかった。
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【 城付近 】
軽キャンを城の近くに停めた俺たちは、歩いて城門へ向かった。
「デカい城だな……」
見上げていても仕方がない。
とっとと入ろう。
そう思って門番に声をかけた。
「どうも」
挨拶してそのまま入ろうとしたら――当然止められた。
俺たちは軽キャンへ戻る。
どうする?
やめる?
いや、やめるわけがない。
じゃあどうやって入る?
軽キャンで壁を突き破る?
騒ぎがデカすぎる。
そう考えていると、出入り業者らしき馬車が城へ入っていくのが見えた。
「はっ!」
世界最高峰の頭脳を持つ俺は、閃いた。
未だかつて誰も思いつけなかったであろう、奇抜にして天才的な侵入方法――。
「フフッ、流石俺だぜ」
あの馬車に忍び込めば、バレないんじゃね?!
自画自賛しながら走り出し、
「あーら、よっと!」
適当な馬車に飛び乗った。
「お前、人の馬車に勝手に何してるの?
しかも三人も。
本当に、何を考えてるんだ。早く降りて。ほら、早く」
即、持ち主に見つかった。
レイラとプロムが無言で馬車を降りる。
「おい、お前もだよ。早く降りなさいよ」
「……」
めんどくせぇな……。
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「おーい、レイラー、プロムー、行こー」
馬車に乗せてもらえることになった。
俺の話術と人徳が功を奏したらしい。
多少の賄賂は払ったが、多分俺の人徳が決め手だろう。
「エヘヘヘ、こんなにいただいたんじゃ断れませんよ旦那。
旦那様と奥様方、こちらの荷物に入っていただければ見つかる事もないと思います」
馬車の持ち主は揉み手でニコニコしている。
俺たちは荷物に紛れ込ませてもらった。
「待ってろよ、どこかのルファスさん。
お金使ってまでボランティアなんて、どんだけ人がいいんだよ俺」
まあ、城への入場料と思えば妥当だ。
ガラガラガラ……
ヒロシ達を乗せた馬車は、何事もなく城内へ侵入した。
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【 城内 】
出入り業者の馬車に潜り込み、城への侵入を成功させた俺たち。
だが、城に入ったはいいが……地図も何もないから、どこがどうなのかさっぱり分からない。
レイラとプロムも不安げに俺を見る。
二人は俺が何も考えずに城に入ったと思っているんだろか?
実際、俺は何も考えていないが――。
「心配するな」
頼りになる夫世界一の俺は、嫁さんに言って安心させた。
二人が、より不安そうな顔になった気がするが、大丈夫だ。
こういう時、素直な俺はちゃんと人に聞く。
この城の責任者に聞くのが一番だ。
ということで、物資の検品中の兵士に声をかけた。
「そこのあんた、王様の部屋どこ?」
あまりに普通に聞くので、レイラが慌てて小声で寄ってくる。
「ちょっとヒロシ、大丈夫なの?(頭が)」
「なんだよレイラ?
だって分かんないんだもん。聞かなきゃしょうがないだろ」
やれやれ。
俺がしっかりしないと先が思いやられるぜ。
「王様なら王の間にいるんじゃないかな? 場所は分かります?」
とても親切な兵士だった。
俺は道順を教えてもらい、お礼を言って別れた。
やっぱり、分からないことは素直に聞くに限る。
レイラとプロムは、なぜか納得いかない顔をしている。
「成功したんだから気にするな」
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しかし――。
せっかく教えてもらったのに、広すぎて迷った。
レイラとプロムが不安にならないよう、自信満々で歩いてはいるが、内心は不安でいっぱいだ。
「……まだ?」
ドキンッ!
レイラのボソッと言った一言。
気づかれた?
いや、そんなはずはない。
「ハハハ、もうすぐだよ」
適当に言って適当に進んでいると、ドアがあったので開けてみる。
すると、目の前に、いかにも偉そうな奴が高い椅子に座っていた。
助かった。
「結果オーライだな」
どうやら裏口から王の間に着いたらしい。
「どう見てもアレが王様だろ?」
俺は王様の横へ歩き、偉そうにふんぞり返っているその肩を軽く叩いた。
「あのさ、ルファスって知ってる? 探してんだけど」
俺の問いに、王様は驚いた顔のまま黙って俺を見ている。
なんだコイツ……。
「あの、聞いてる?」
俺は確認した。
王様がびっくりしてる。
裏口から入って後ろから近づいてたから、驚かさないように肩をトントンと叩いてから声をかけてやったのに、なんなの?
庶民と話す口など無いって事?
そうなら、失礼だよ。
常識が無いぜ!




