第64話 男三人の沈黙と誘惑
何だ?
朝っぱらからルファスとウィズが揉めてるな。
どうしたんだろう?
面倒な事でなければ良いのだが……
朝からウィズとルファスが言い合いをしていた。
「ほら行くぞ!」
「嫌ですって、他の人と行ったらいいじゃないですか」
「お前な、みんなの大事な問題なのに、協力的じゃないのってどうなんだ?
新規加入組と親睦を図る意味でもそういう態度良くないぞ!」
「新規加入で、そこまで堂々としてたら大丈夫でしょうが」
「一人で行って不動産屋に舐められて、とんでもないのを掴まされたらどうすんだよ」
「今、借りる人なんていないって不動産屋も言ってたじゃないですか。
物件は、また今度で」
「いいから」
「良くないですよ、話聞いてます?」
「安いんだぞ!」
「安い理由あるじゃないですか」
「男のくせにごちゃごちゃと、いいんだよ!」
朝、俺が顔を洗っていると、ウィズが嫌がるルファスを連れてどこかに行くのが見えた。
「凄いな。とても新入りの態度とは思えん」
巻き込まれるのも嫌なので、俺は気づかないフリをしておいた。
朝食を済ませた時、レイラ、プロム、キャスカ、フィリーの女性陣が買い物に行きたいと言ってきた。
いいね!
女性同士、親睦を深める良い機会だ。
「たまには同性同士で楽しんできなさい。
家事とかこっちの事は気にしないで良いから沢山楽しんでくるんだぞ。
レイラ、これ遊ぶのに使いな」
「え? こんなに?!
絶対使いきれないわよ」
「いいから」
「ヒロシが珍しく良いことをしたのですわ!」
「キャスカさん、ヒロシ様はいつも良いことをなされています」
流石、プロム。
俺の事をよくわかってる。
「沢山買い食いするですぅ」
「おう、フィリー店ごと食ってこい」
「ありがたく使わせてもらいますわよ。
皆さん行きましょう」
キャスカが珍しくお礼を言った。
小遣いを多めに渡してあげたら、みんなすごく喜んでくれて良かった。
キャッキャ言いながら街へと行っちゃった。
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取り残された三人で、コーヒーを飲んでいる。
俺、カイ、バンの三人か……
このメンツだけでいた事など、ほとんど無いな。
何か、話をしないと……なんだか、気まずい。
黙々とコーヒーを飲んでいるが、気持ち悪くなってきた。
「ノガミさんは、何色が好きですか?」
カイが話しかけてくれたが、話題の無い時のどうでもいい奴じゃないのか?
そこからどれだけ話を広げられる?
不安しかないが、一応答えるか。
「…赤かな? バンは?」
「緑」
「………」
ほら。
ほら、ほら、ほら、会話が終わったじゃん!
俺は恨めしそうにカイを見たが、それに気づいたカイが目線をそらした。
自覚があるんだな。
……そして、また沈黙が流れる。
俺はタバコを取り出し、吸った。
スウゥゥゥ……
「ふうぅ」
しょうがねぇな……
今すぐしなきゃならないことも無いし。
「驕るけど、風俗でも行くか?」
唐突な俺の一言に、カイとバンの表情が変わった。
まずい、こいつら真面目か?
レイラとプロムに告げ口でもされたら……
俺は焦った!
「な、なーんて――」
「兄貴について行きます!」
凄い勢いでカイが俺の手を握ってきた。
いや、兄貴って?!
「準備、すぐしますんで、待ってて下さい!」
バンが自分達のキャンピングトレーラーに走った。
鬼気迫るものがあるな。
うん、全然心配しなくて良かった。
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ルファスは、不本意ながら、ウィズと不動産屋の手配した馬車に乗っていた。
ウィズは、不動産屋の話を「うむ、うむ」と頷きながら聞いているが、ルファスは違う。
戦争中、しかも王都の近くまで攻め込まれてきているこの状況下で物件を借りるなんて馬鹿げていると思いながら、ぼんやり外を眺めている。
やがて、馬車が停まった。
「どうです! 歴史を感じさせるこちらの物件」
ビターン!
自信満々に言った不動産屋をウィズがビンタした。
確かに、コレは無いなとルファスは、目の前の崩れかけの空き屋を見て思った。
「次!」
ウィズがそう言うと、また馬車に乗りこみ別の物件に向かった。
ビターン!
「次」
ビターン!
「次」
ビターン!
「次」
ウィズと不動産屋のやり取りが繰り返される。
元々乗り気じゃないルファスにしたら良い迷惑なのだが……奇跡的に良い物件に巡り合った!
「店主!」
「すいませんでした」
ウィズの言葉に、殴られ続けた不動産屋がビクッとしながら答える。
「いいじゃないか! コレだよ、コレ!」
満足そうにウィズが頷いていたが、乗り気じゃなかったルファスも確かに良いなと思った。
街の中心から少し離れているが、建物は丈夫そうな作りだし、広さも申し分ない。
なにより、敷地内に軽キャンピングカーとキャンピングトレーラーを入れれそうな倉庫があるのが良い。
……だが。
自分の祖国、ヴァルファ帝国が攻めて来ているこの状態で不動産を買ったり借りたりなんて、馬鹿げている。
「だから、この国の人たちが家を手放して――」
ルファスがそう思って横を見ると、ウィズが売買誓約書にサインをしていた。
「ぅおおーい! 勝手に何してんのアンタ!」
「安いから買うんだよー」
「いや、あなた一人の金じゃないでしょ!
……買う?」
「借りるくらいなら、安いから買った方が得じゃん」
「永住でもする気ですか?
その前に、一回筆を止めてくださいよ」
「ありがとうございました!またの御贔屓を」
ルファスがウィズを止めに入る前に、不動産屋がウィズからひったくるようにサインの入った契約書を持って、高速のプロボックス並みの速さで走り去ってしまった。
売買契約の完了である。
「買っちゃった」
ウィズがてへっみたいな顔をしたが、ルファスは頭を抱えた。
祖国の危機より、ウィズの暴走の方が今は脅威かもしれない。
人間良い事をすると、清々しい気持ちになれるものだな。
バンとカイが喜んでいる姿を見てるとほっこりするよ。




