第62話 八つ当たりと戦争
旅に出たヒロシ達一行。
どうなる事やら……
軽キャンピングカーが草原を走る。
ボーッと運転していた俺は、ふと思った。
――リーダーとして、そろそろパーティー名でもつけてやるか。
魔導通信を個別から同時多数通信に切り替え、ブレスレットを口に近づける。
「あー、みんな。
俺達のパーティー名なんだけど――
軽キャンクラブに決めたから。以上」
我ながら素敵な名前だと思いながら通信を切った。
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キャンピングトレーラー3の中。
「おいおいおい! 本当に大丈夫なのか!?
ダセぇ名前になったけど、本当に大丈夫なのか!?」
バンがウィズの腕を掴んで揺さぶる。
「安心しろ、大丈夫だ。
……たぶん」
ウィズは力なく答えた。
後ろのトレーラーの方から叫び声が聞こえた気がしたが、喜んでいるんだろう。
本当に我ながら良い名前を付けたと俺は自画自賛した。
さて、次の目的地はラガス王国。
冒険者ギルドも大きく、都会の地域だ。
ノガーミ商会の製品も売れているし、ナビにも登録済み。
近道のグラナス高原を越えれば、五日もあれば着くだろう。
――ま、ゆっくり行こう。
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セガル王国を出発して二日目。
満月の夜。
木々の間を走り抜ける人影。
荒い息づかいが静かな森に響く。
月明かりが照らし出したその人影は――ノガミ ヒロシ、その人だった。
目の前には、月光を受けて輝く湖。
一歩、また一歩。
体を屈め、慎重に湖へ近づく。
大きな岩の前で片膝をつき、呼吸を整えた。
岩の向こうから、水浴び中の女性陣の声が聞こえている。
覗きは、いけない。
だが、その「いけない行為」が男を興奮させる。
最低の考えであるが、今のヒロシにそんな余裕などあろうはずがなかった。
彼の姿を闇に溶かすかのように、月は雲に隠された。
唾を飲み込む。
「よし、月が雲に隠れたおかげで見つかりにくいだろう……」
俺は、曇りなき眼で岩の横からそっと頭を出した。
「……少し遠かったか? てか、暗いよね」
目の前には――
ロリ少女キャスカ。
貧乳スレンダーのレイラ。
超乳プロム。
合法ロリのフィリー。
キャッキャと声が聞こえてるし、うっすらとシルエットが見えてるからいるんだろう。
くそっ、月がもっと出てくれたらいいのに!
危険がなく安全に水浴び出来ているか見守ろうという、大義名分をもって覗きに来たのにコレでは意味がないではないか、
近くに行くか?
隠れる遮蔽物が無いのに?
殺されるぞ。
いや、でも。
葛藤しながらも、普段見られないものを見たいって気持ちが。
「すまん、ルファス」
綺麗だからだ。
人は綺麗なものに惹かれるのだ。
そうだ、きっとそうだ――と、自分を正当化した。
木の枝をもって腹ばいになる。
「いざ、匍匐前進!」
カチャッ。
首に冷たいものが触れた。
「……」
これは……プロムのナイフ?
冷や汗を流しながら振り返る。
「ヒロシ様、何をしてるのかしら?」
小声で言ったプロムに首根っこを掴まれ林の奥へ引きずられていく。
終わった……制裁ですか、そうですか。
人の気配がないことを確認すると、プロムが耳元で囁いた。
「ヒロシ様はいけない人ですね。お仕置きです」
そう言って抱きついてきた。
そういう事!? ウヒョッ!
その夜、俺は朝まで愛し合い、寝かせてもらえなかった。
だが、こういう制裁なら大歓迎だ。
翌朝、戻るとレイラが「ズルい!」と拗ねて大変だった。
なだめるのに苦労したぜ。
「今日はレイラと二人になるから」
最終的にそう言ったら機嫌を直してもらえた。
そのせいで一晩中寝かせてもらえない事になるのだが……
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そんなわけで二日徹夜の俺は、フラフラになりながらグラナス高原の近くまで来ていた。
ここを越えればラガス王国。
……とにかく眠りたい。
「祭りでもあるのか?」
グラナス高原に大量の人が集まっている。
軽キャンを走らせていると、鎧を着た連中が「停まれ! 停まれ!」と叫んでいる。
しかし眠い。
早く目的地に着きたい俺は、制止を無視して突っ込んだ。
向こうが避けるだろう。
人垣は左右に割れていく。
「ヒロシ、なんなのこれ?」
助手席のレイラが言う。
今日の朝まで俺を寝かせてくれなかった張本人だ。
「俺にわかるわけないだろ! ここまで来たら突っ切るしかない!」
アクセルを緩めず突き進む。
サイドミラーを見ると、騎馬が追いかけてきていた。
面倒な予感しかしない。無視だ。
さらにアクセルを踏み込む。
前方にも人垣が見えてきた。
「ヒロシ、こっち来た!」
レイラの言う通り、前の騎馬隊が突撃してくる。
「なんなんだよ!?」
右にハンドルを切り、軽キャンとトレーラーをドリフト気味に滑らせて回避。
後ろと前の騎馬が衝突し、戦闘が始まった。
巻き込まれないようにスピードを上げて離脱する。
「なんなんだ、戦争してたぞ! とにかく離脱だ!」
だが――
眠いし、忙しいし……さらに戦争だと?
だんだん腹立ってきた。
俺がこんなに苦労してつらい状態なのに、非常識な!
誠実でよい人間の俺を苦しめるなど、言語道断!
離れた場所に軽キャンを停め、トレーラーとの連結を外す。
「ヒロシ、ちょっと何してるの?!」
「ちょっと、行ってくる!」
仲間に言い残し、軽キャンを戦場へ向けて走らせる俺。
「どけ、どけ、どけー!」
寝不足テンションで人を吹き飛ばしながら突き進む。
「指揮官はどこだー!」
縦横無尽に戦場を駆け回る。
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ヴァルファ帝国軍、ラガス王国討伐軍 指揮官――アデロン将軍。
そのアデロンが、今、俺の目の前で裸で正座している。
轢いて弱ったところを捕まえてみんなのとこまで連れてきた。
指揮官がいなくなって混乱しているだろうが知った事か。
「戦争は、愚かな事ぜよ」
俺はアデロンの肩に手を置いて言うとニコリと笑顔を見せた。
後日、レイラとプロムは
「その時のヒロシの笑顔は悪魔のようだった」
と語る。
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十字架のような丸太を軽キャンのサイクルキャリアに括りつける。
そこには裸のアデロンが大の字で縛り付けられていた。
うん、良い仕事をした。
「フリチン大行進じゃーー!」
俺は叫び、戦場へ戻った。
フリチンのおっさんが戦場を駆け抜ける。
戦闘の手が止まる。
皆がアデロンを見る。
敵方の兵士も笑っている。
俺はゆっくりと円を描くように走り、全員にフリチンを見せて回った。
俺を怒らせた罰だ。
完全に八つ当たりだが、気にしてはいけない。
戦場中央にフリチン丸太を突き刺す。
向こうでも丸太が持ち上がり、敵方の指揮官が同じ状態で晒されていた。
レイラとプロムが作ってくれたらしい。
俺はそいつも回収し、仲良く並べてあげた。
軽キャンの上によじ登り、戦場を見渡す。
……静かだ。
「あー、貴様らの指揮官はフリチンの刑に処した!
無駄な戦闘はやめて武装解除して解散しなさい!
しない場合は……」
俺の言葉を聞いたレイラとプロムが、フリチンのおっさんの尻に棒をあてがう。
「や、やめろ!」
「そんなの、入らないぃ!」
フリチン達が泣きわめく。
……戦争とは、かくも虚しいものだ。
「さて、フリチン達からも武装解除命令した方がいいんじゃないのか?」
「貴様、こんなことをして無事に済むと思うなよ!」
「アデロン!今は、そのような事を言うな!」
「とにかく、その棒を早くどかせ!」
「アデロン!武装解除を……俺が武装解除をさせるから、その棒を」
「情けない事を言うな!」
優しい俺は言ってあげたのに、フリチン達は煮えきらない。
「この野郎……」
しかもこの生意気な態度。
まったくもって常識がない奴らだ。
俺のように理性的で常識的な人間に何故なれない。
「じゅ~う」
俺は辺りを見る。
「きゅ~う」
フリチン達が目を見開く。
「は~ち」
「やめろ! カウントをやめろ!」
言葉が違うだろ?
なので、やめない。
「な~な」
「やめ、やめてください! みんな、武器を捨てろ!」
そうだ、それでいい。
「ろ~く」
急いだ方がいいよ?
その時、兵士が叫んだ。
「我ら誇り高きヴァルファ帝国の兵士は、そのような脅しには屈しない!
アデロン将軍もそう思っているはず!」
アデロンは泣きそうな顔をしている。
最初は威勢が良かったけど、カウントが進んで気が変わったのかな?
「はい、勇敢な君!」
誇りがどうとか言った兵士を指さした。
「なんだ!」
その兵士が俺を睨んでいる。
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フリチン丸太が増えた。
カウント再開。
「ご~」
「あー! 早く武装解除しろぉ!」
自分たちの指揮官の悲痛な叫びに兵士達が武器を捨て始める。
「よ~ん!」
「早く、早く離れろ!!」
武装解除した兵士が離れていく。
「さ~ん」
ずいぶん離れたな。よし。
「にぃ~い」
「離れたじゃん! 兵士離れたじゃん! やめてよ、カウント止めて!」
フリチンが泣き叫ぶ。
俺はニッコリ笑って軽キャンに乗り込み、エンジンをかけた。
「イチ、ゼロ」
ドスッ!
ドスッ!
「ぅぎゃぁあああー!」
「あーーー!」
ケツに棒を刺されたフリチン達の叫び声が高原に響き渡った。
大変そうだ。
どうでもいいけど。
「撤収!」
俺はレイラとプロムを回収し、戦線を離脱した。
両軍が追いかけてきたが――追いつかれるかよ、バカが!
待機していたトレーラーを連結し、逃走。
さぁ、早く眠りたいし、ラガス王国に急ごう。
俺は爽やかに笑った。
読んでいただきありがとうございます!
今回は、ヒロシの寝不足が原因でした。
みんなも沢山ねないと危険だよ。
次回、ヒロシ達はラガス王国に到着するが……
また読みに来てくれると嬉しいです。
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