65話 ホバートの昼食
「騎士団には全部バレてるってことなのかな……?」
カフェを飲み終わったダレス様が去った後、私はニーナに問い掛けました。
「貴族たちが探してる『ルネ』が私だっていうことだけじゃなくて、闇の神官まで知っていた。もしかしてアレキサンドライト・カルメンシータのことも……?」
「そういうことになるよねぇ」
ニーナは腕組みをして思案気な顔をしました。
「まあ、そりゃあそうだよ。王都で起こった事件の情報は、王都を守護している第二騎士団に集まるんだから。団長のエリオット様は当然全ての情報を握っていて、ダレス様はエリオット様の側近だから情報を共有している感じ?」
ニーナは推理を語りました。
「貴族がルネを探していることと王都の事件を繋ぎ合わせたのかな。でも黙っていてくれるみたいだから気にしなくて良いのかも」
「大丈夫かな……」
「犯罪者を倒した闇の神官は、王都に害を成す存在じゃないから、第二騎士団は特に何もしないってことじゃないかな?」
自問自答するようにそう言うと、ニーナは顔を上げました。
「気にしてもどうしようもないよ。悪いことしてなければ騎士団に捕らえられたりしないんだから大丈夫だよ」
「そっか。悪いことしてなければ騎士団を怖がる必要ないんだ」
「そうだよ。さあ、そろそろ昼食の用意をしよう。ホバート様がいらっしゃるよ」
ホバート様は昼食の予約をしているので、お昼に来店する予定です。
「そうだね」
◆
「ごきげんよう、妹たち」
お昼になるとホバート様がいらっしゃいました。
従者さんも一緒です。
「昼食を頼むよ」
「はい!」
私とニーナは、ホバート様と従者さんにいそいそと料理を運びました。
昼食のメニューは、パンとスープと主菜とデザートです。
スープは鶏がらと鶏肉で出汁をとり、豆と野菜を煮込んだものです。
野菜はカブや人参などの根菜、それから玉ねぎとキャベツで、野菜の甘味がスープに溶け込んでいます。
主菜は、未熟葡萄ソースや香草で味付けされた鶏肉のロースト。
焼きキノコが添えられています。
デザートは、甘味のあるニワトコの木の花の粉を混ぜ込んだ焼きチーズケーキ。
薔薇水で香り付けがされているので一口食べると微かな薔薇の香りが広がる逸品です。
(美味しすぎて、ホバート様も従者さんもきっと吃驚するよね?)
私はニーナのこの料理を食べたことがあるので、極上の味であることを知っています。
勝利を確信しながら、ホバート様たちの反応を見守りました。
「……!」
スープを口に運んだホバート様の瞳孔が開きました。
ホバート様は一心不乱に食べ始めました。
「これは美味ですなあ」
従者さんがにこにこの笑顔で料理の感想を漏らしました。
何かに取り憑かれたような勢いで料理を口に運んでいるホバート様に比べて、従者さんは余裕がある様子で食事を楽しんでいます。
「どうぞ、カフェです」
あっという間に食事を終えてしまったホバート様たちに、私は食後のカフェを出しました。
「素晴らしい料理だった!」
ずっと無言で食事に集中していたホバート様は、ようやく言葉を発しました。
「誠に美味しゅうございました」
従者さんが笑顔で相槌を打ちましたが、ホバート様はそれに食ってかかりました。
「それだけか?!」
「大変美味でございました」
「君は余裕がありすぎる。解っていないのではないか?! この至高の味が!」
「下町の料理とは思えないほど繊細な味付けでございました」
「そんなものではない!」
ホバート様は従者さんの感想を否定すると、「ふーむ」と考え込みました。
「やはりこれは魔術回路の状態によって味が変わるのか……?」
「そうだと思います」
私はホバート様に言いました。
「私もニーナのお料理は天国みたいな味に感じます。今まで食べたどんなお料理よりも美味しいです。でもローナさんは、ニーナのお料理は美味しいけれど大騒ぎするほどじゃないって言うんです」
「いやいや、これは大騒ぎだろう!」
「私もそう思います」
私はホバート様に力いっぱい頷きました。
ホバート様は私に頷き返すと、カフェを口に運びながらまた思案気な顔をしました。
「魔力回路に問題があると美味に感じるという考察も面白いが……。私と君の共通点は魔力量が多いことだ。魔力量も関係しているのではないだろうか」
「え?」
ホバート様がさらりと意外なことを言ったので、私は質問しました。
「ホバート様も魔力量が多いのですか?」
「当然だ。私を誰だと思っている。スタイン公爵家のホバート・スタインだぞ」
「それは知っていますが……」
「魔力量が多く魔術に優れているからこそスタイン家は公爵の地位にいるのだ」
「!」
この国の貴族は、魔法の才能を血で繋いでいます。
魔力量が多いことが貴族のステイタスです。
「何人かに食べさせて、魔力量との関係を調査してみるか……?」
ホバート様はそう呟くと、顔を上げて私に言いました。
「この間のクッキーは、今日もあるか?」
「はい」
「十枚ほど持ち帰り用に包んでくれ。代金は金貨だ」
「あ、いえ、クッキーは銀貨で結構です」
「妹よ、私に恥をかかせるな」
「でもクッキーなので……」
私とホバート様が押し問答をしていると……。
――チリン。
入口の扉の鈴が鳴りました。
「……!」
反射的に私は振り向きました。
扉を開けて、長身の若い男性が店に入って来たのが見えました。
知っている人です。
(リロイ様?!)




