33話 お洒落なお店
「二名様ですね。こちらのお席へどうぞ」
私とニーナが店内に入ると、女性の給仕が席に案内してくれました。
店の給仕たちは皆女性で、お揃いの制服でした。
黒褐色のドレスに、ふりふりのフリル付きのエプロンです。
(可愛いエプロンだな)
私たちを席に案内した給仕の女性は、私の視線に気づくとにっこりと微笑みました。
「可愛いお客さんね」
彼女は私にそう言うと、ニーナを振り向いて言いました。
「妹さんですか?」
「はい」
ニーナは笑顔でしれっと答えました。
(良かった!)
私は心の中で快哉を叫んでいました。
(闇の神官って言われなかった! 可愛いって言われた! 目の下のクマさえ消えれば闇の神官なんて言われないのよ! やっぱりクマが悪かったんだわ!)
「素敵なお店ね」
席に付くと、店内を見回してニーナが感心するように言いました。
「うん。素敵なお店だね」
目の下のクマが消えたことを他人の評価で実感して、喜びを噛みしめながら、私はニーナに相槌を打ちました。
実際、本当に素敵なお店です。
店内は落ち着いた色で統一されていて、ところどころに置かれている鉢植えの植物の緑色がアクセントになっています。
木製の家具は簡素ですが、落ち着いた雰囲気の内装に合っていました。
私は神殿の巫女だったときには、公爵令嬢である聖女セラフィナ様に目を掛けられていたので、貴族令嬢の豪奢な部屋を知っています。
だからこの店は、内装も家具も簡素で、貴族の華麗な部屋にはまったく及ばないことが解ります。
でも何故か貴族の部屋より好ましく、居心地が良く思えました。
そしてお洒落な客たち。
客たちは一見して庶民ばかりのようで、大半が女性客でした。
女性たちは皆それぞれ工夫したお洒落をしていました。
もちろん彼女たちの装いは、公爵令嬢だったセラフィナ様に比べたら素朴な装いで、豪華な宝飾品を身に着けている人などいません。
でも明るい色のスカーフや、襟につけたレース飾りなどがとても可愛いです。
(可愛い服を着ている人がたくさんいる)
「アリー、注文を決めましょう」
ニーナは給仕が置いて行ったメニューを開いて、私に見せました。
メニューには香草や花の名前のお茶が並んでいました。
色々な果物のパイ菓子や焼き菓子も。
可愛いくて美味しそうなものの名前ばかりです。
「ぜんぶ美味しそうで、どれが良いか解らない。ニーナは何にするの?」
「私はラベンデュラ茶と……旬の無花果のタルトにしようかしら。木の実のタルトもちょっと興味あるけれど……」
「どれにしよう……」
私は散々悩んで、カモマイル茶と木苺のタルトに決めました。
◆
「お茶もお菓子も可愛い!」
フリルのエプロンを着けた女性の給仕が、注文した品をテーブルに運んで来てくれました。
可愛いフリルのエプロンの女性の給仕たち。
良い香りのお茶。
お皿の上には、見た目も美しい果実のタルト。
ここは、世界の良いものばかりを詰め込んだようなお店でした。
「私はこういうお洒落なお店がやりたいのよ」
お茶とタルトを堪能しながら、ニーナは熱弁しました。
「お洒落なお店、可愛い服、美味しい料理。どう? アリー。こういうお店って素敵だと思わない?」
「とっても素敵だよ。天国みたいなところだね」
「私は料理人になって、こういうお洒落なお店を経営したいの。薬屋じゃあフリルのエプロンなんて着けられないもの」
「薬屋はフリルのエプロンは駄目なの?」
「駄目ってことはないけど……。薬屋でフリルのエプロンを着けてたら、きっと笑われるわ……」
ニーナは夢のお店について熱く語りました。
「アンティークな雰囲気のお洒落なお店にしたいわ。可愛いお人形を飾って、それで自鳴琴の演奏があったら素敵だと思うの。オルゴールがいくらするのか知らないけど……」
「オルゴールはお値段がお高いの?」
「きっとね。すごくお高いと思うわ」
おしゃべりをすると喉が渇くので、すぐにお茶のカップは空になりました。
「アリー、お茶をもう一杯頼みましょう。どれが飲みたい?」
ニーナがそう言い、私にメニューを見せて来ました。
(飲みたいもの……)
飲みたいものについて考えたとき、ふと、思い出しました。
ジルさんの部屋で飲んだ、あの苦くてクセになる飲み物のことを。
「ねえ、ニーナ、カフェ水が飲めるお店ってあるかな?」
「カフェ水? それ何?」
「ニーナはカフェ水を知らないの?」
「この辺りの食事処や茶房のメニューは大体調べてるから知ってるつもりだけど……。カフェ水なんてメニューがある店は無いと思うわ」
私よりずっとずっと博識で、何でも知っていそうなニーナなのに、彼女はカフェ水を知りませんでした。
「カフェの実から作る飲み物だよ」
「そんな実、聞いたことがないよ。どこで飲んだの?」
「……お、王都で、飲んだよ」
私がカフェ水を飲んだのは中央神殿のジルさんの部屋でした。
しかし人が大勢いる場所で、神殿にいたことを話すのは良くないと思い、私は場所をぼかしました。
ニーナは考えるような顔をして唸りました。
「王都で飲んだなら……王都にカフェの実を売っている店があるってことだよね。聞いたことのない実だから珍しい品かな。大きい商会に行けばあるかも?」
「大きい商会ってどこにあるの?」
カフェ水のことを思い出してしまった私は、あの苦いカフェ水がもう一度飲みたくなってしまいました。




