106話 賞金と受取証
私とニーナは、エリオット様とダレス様に別の部屋へと連れて行かれました。
その部屋の扉には「団長室」というプレートが取り付けられていました。
(騎士団長の専用のお部屋かしら)
その部屋の奥には窓があり、窓を背にして重厚な机が置かれています。
その重厚な机より手前の壁際には、書類の束が置かれている普通の事務机が二つ並んでいました。
(真ん中の大きい机がエリオット様の机で、普通の机はダレス様の机かな)
ダレス様は書類仕事で眠くなると言っていました。
書類が積まれている普通の机がダレス様の机だろうと思いました。
「座りたまえ」
部屋の中央には、来客用なのか、向かい合うようにソファが置かれていました。
私とニーナはソファに座り、低いテーブルを挟んだ向かい側のソファにエリオット様が座りました。
ダレス様はエリオット様のソファの傍らに立っています。
「本当のところを聞かせてもらおうか」
エリオット様はその碧眼で、私たちをじいっと見ました。
内心を見透かされるような気がして、私は目を伏せました。
ニーナも居心地が悪いのか目を泳がせています。
(エリオット様とダレス様には隠せないよね)
闇の神官の仕業と噂されている所業は、私の仕業だと、エリオット様とダレス様はご存知です。
「……ニーナがゴーレムに攫われたので、私はゴーレムを追いかけたんです。そしたら人攫いの馬車がいて、ニーナが馬車に乗せられたので、私は馬車の後を追いました」
「馬車の後を?」
「はい」
「馬で?」
「いえ、走って追いかけました」
「……?」
「あの、身体強化の術を使っていたので、足が速くなっていたんです」
「そうか……」
私は馬車を追いかけたこと、酒場から出て来た悪人たちを倒したこと、牢屋にいた人たちを逃がしたことなどを話しました。
私が話をするにつれて、エリオット様の眉間に刻まれた皺はどんどん深くなりました。
「それで、みんなと一緒に酒場の外に出たら、騎士団の人たちが来ました」
「なるほど……」
私が経緯を話し終えると、エリオット様は難しい顔をして頷きました。
そして私に質問をしました。
「地下の壁が壊れていたが、あれも君がやったと?」
「はい。身体強化の術を使いました」
「……」
エリオット様は難問に挑むような顔で低く唸り、いつも朗らかなダレス様まで何か悩んでいるような顔になりました。
(私は別に変なことは言っていないよね?)
微妙に居心地の悪い雰囲気に、私は少し不安になりました。
エリオット様は顔を上げて、再び私を真っ直ぐに見つめると質問を投げかけました。
「火炎のマッコイを倒したのも、君で間違いないか?」
「その人は、あの酒場にいた人ですか?」
「そうだ」
「どんな人ですか?」
「地下に倒れていた老人だ」
(ギルドマスターだっていうあのお爺さんか)
「はい」
「そうか……」
私が肯定の返事をすると、エリオット様とダレス様はまた唸りました。
「火炎のマッコイは賞金首だ」
エリオット様は生真面目な表情で私に言いました。
「彼を倒した君には、賞金の金貨五十枚が支払われる」
「え!」
急にお金の話になって、私の心臓は跳ねました。
「金貨五十枚、貰えるんですか!」
「火炎のマッコイは指名手配中の魔術師で賞金が掛けられていた。君の手柄だ」
(カフェハウスの窓が直せる!)
悪い魔法使いの風魔法で、カフェハウスの窓ガラスが割られてしまっています。
窓の修理代は、私の心配事の一つでした。
神殿で暮らしているときには意識していなかった窓ガラスですが。
市井では窓ガラスは高級品でした。
だから貧しい人の家にはガラス窓は無く、開閉できる板戸の窓があるだけです。
ローナさんの薬屋にもカフェハウスにも窓ガラスはありますが、控えめな大きさの窓でした。
神殿や貴族の屋敷にあるようなガラスの大窓は、下町の建物にはありません。
「ダレス、賞金を持って来てくれ」
エリオット様がダレス様に目配せをしました。
「はい」
ダレス様は得たりと返事をすると、部屋を出て行きました。
「すぐに用意するから、少し待ってくれ」
エリオット様が生真面目な顔でそう言いました。
そして一瞬、沈黙が流れましたが。
「あの、エリオット様……」
ニーナが口を開きました。
「ルネが人攫いを倒したことって公表されるんですか?」
「公表したくないなら伏せておいても良い。ここで話したことは、ここだけの秘密にしておくことは出来る」
エリオット様は真顔で言いました。
「何なら、アレキサンドライト・カルメンシータが倒したということにしても良い」
「……!」
「ふぉっ!」
ニーナが変な声を出しました。
そのとき、ドアを軽くノックする音が響きました。
――コンコン。
「おまたせ」
扉を開けて入って来たのは、銭袋と一枚の書類を持ったダレス様でした。
ダレス様は銭袋と一枚の書類とを私の前に置きました。
――ジャラリ。
「その受取証にサインを貰えるかな」
言いながらダレス様はインクと羽根ペンを持って来ると私の前に置きました。
ニーナが目を輝かせて、エリオット様とダレス様を交互に見て質問しました。
「受取証のサインは、アレキサンドライト様のサインで良いんですか?!」
「ああ、それでかまわない」
エリオット様がさらりと答えると、ニーナは高揚気味に私に言いました。
「ルネ、アレキサンドライト様のサインを!」
「うん」
私は羽根ペンを手に取り、インクをつけると、受取証にサインをしました。
――アレキサンドライト・カルメンシータ。
「お、お、おお!」
ニーナは祈りを捧げるように両手を胸のあたりで組んで、私がサインした受取証を覗き込んで変な声を出しました。




